北海道鷹栖町地域おこし協力隊現役隊員(2020年10月〜)
鹿毛謙作さん
活動内容:空き家利活用および移住定住促進、空き家のリノベーション、DIY教室企画・運営など
ブラジルのパラナ州のコーヒー農園で働いた後、大分県でコーヒー豆などを扱う大手メーカーに就職した鹿毛謙作さん。営業職として活躍していたが、学生時代にタイやミャンマーのコーヒー農園を見て、生産者に接する機会を得た経験からコーヒーをより深く知りたいという気持ちが募る。その後会社を退職し、2018年10月に青年海外協力隊としてアフリカ中央部のルワンダへ渡った。現地ではコーヒー栽培の手法を学び、農家を指導する日々を送っていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から緊急帰国を余儀なくされる。
「2020年の春に帰国して、コーヒーに関わる起業をしたいと考えていたときに、空き家を活用して起業も可能だという鷹栖町の地域おこし協力隊の募集が目に留まりました。空き家改修という作業も手作りの作業が好きなので魅力的だったし、自分の拠点を定めてコーヒー事業を起こすこともできそうだと。また、町役場の担当者の方の薦めで、8月に『ふるさとワーキングホリデー』に参加し、鷹栖町の農家で1カ月ほど働かせてもらいました。その間に町民の方の優しさに触れ、役場の方も色々な場所に連れて行ってくれたので町の様子なども詳しく知ることができました。この町で生活できそうだという感触も得られたことと、役場の協力隊への支援体制もしっかりしていたので決意も固まり、2020年10月に地域おこし協力隊として着任しました。」
移住を決める前に、「ふるさとワーキングホリデー」に参加することで、鷹栖町の様子を肌で感じられたことがよかったという鹿毛さん。そのときに知り合った人たちとは着任後も交流が続き、ずっと支えになっているそうだ。
鹿毛さんがリノベーションを手がけている空き家。かつては教員住宅として使われていた
DIY講座を開催し、町民参加型リノベーションが進行中
鹿毛さんの協力隊としての活動は、町内の空き家のリノベーションが中心だ。旭川都市圏のベッドタウンとして住宅整備を進めてきた鷹栖町だが、近年では人口減少が続いている。それに伴い少子高齢化も進んで、空き家の数も増加している。
「町内でも最も高齢化が進んでいる地区に、元は教員住宅だった空き家があり、その住宅の改修作業を行っています。将来は町内に不足している宿泊施設として、また地域のコミュニティの場としても活用できるように計画していて、地道に作業を進めているところです。また、この場所を活用して町民の方を対象としたDIY講座も開いています。企画・立案には苦労しましたが、床張りや押入れの解体といった作業を講師の方に手ほどきしてもらいながら体験することができ、参加者にも大変好評でした。私自身、DIYに関してはまったくの素人ですし、どんな内容にするのかは、講師の方に相談しながら企画・立案するのですが、事故のないように安全面の配慮も必要であったりなど、本当に大変なことだと実感しました。」
町役場の担当者に相談しながら綿密に計画を練り、企画を実現させているという。困ったときに相談できる相手がいることが大いに心強かったそうだ。
「参加してくれた方が『タメになったよ』とか『また参加したい』などと喜んでくれることが嬉しいです。リノベーションという過程を町民の方にも参加してもらって、一緒に作り上げることが重要だと思うので、講座を開講することで地域交流の輪の広がりを感じられています。」
左)コンクリートで壁作りをする作業の説明を受けている様子 右)鹿毛さんの企画で実現した「DIY講座」の1コマ。床張り作業を行っている
隊員同士で情報を共有し、お互いの活動をサポート
鷹栖町で活動している地域おこし協力隊のメンバーは、現在鹿毛さん含めて7名。月に1回はメンバー全員が集まって情報共有を行う場を設けている。
「協力隊のメンバーがお互いに何をやっているのかを報告し合うので、何事も共有できることが有難いと感じています。何かイベントが開催されるときに、『誰か手伝ってほしい』と声を掛ければ、サポートするという体制が整っています。例えば、スノーシュー(※雪上を歩行する用具)の雪遊びイベントを協力隊のメンバーが開催した際は、私が会場で参加者にコーヒーを振舞うという形でコラボレーションが実現しました。雪の上で体が冷えたところに淹れたての熱いコーヒーを提供したので、とても喜んでいただけました。」
ほかにも町内の他地区で活動する協力隊メンバーが公民館でビーズアクセサリーや星空観望会などのイベントを開催した際に手伝いに行き、そこでもコーヒーを提供して好評だったという。
「そのようなイベントは定期的に開催しているものも含め、月に1回ペースで行っています。町役場の方も何かと相談に乗ってくれるので心強いです。私の場合は、将来的には起業してコーヒー専門店の開業を目指していることもあり、そのことでも相談に乗ってもらっています。その意味でも、協力隊の活動を通して地域の方との交流が深められることが非常にありがたいと感じます。当初は起業に向けてすぐに動き出す予定だったのですが、地域住民からの要望もあって、空き家を活用した交流の場づくりを優先しました。結果的には、それが起業に向けての足がかりにもなると感じます。」
左)冬の雪遊びイベントの支援で、コーヒーを提供する鹿毛さん 右)DIY講座に参加し、ペンキ塗り作業を体験する学生たち
コーヒー店を開業し、海外の生産者の思いを届けたい
今後は、現在進めている空き家リノベーションを進めて2022年の完成を目指すことが目標だが、並行して起業の準備も進めていくという。任期終了後は、青年海外協力隊時代に培ったルワンダのコーヒー生産者とのつながりも活かし、コーヒー専門店の開業を実現させたいと抱負を語る。
「建物が完成したら、コーヒー講座やワークショップを開きたいです。町内には優れた特技を持っている方も多いので、フラワーアレンジメント教室なども開催できると思います。任期終了後の開業を目指していますが、空き家物件を見つけられるかがネックになりそうです。資金面も含めて、協力隊の活動をしながら準備を進めていきたいです。鷹栖町での経験や町民の方々との関係を大切にすることはもちろん、海外のコーヒー生産者のストーリーを届けたいという思いが自分の軸となっていますから。」
鹿毛さんは自身の経験を踏まえて、これから地域おこし協力隊になろうという人へのアドバイスもしてくれた。
「移住して自分が日常生活を送ることをしっかりイメージして、日常の買い物や交通アクセス面などを含めて本当にその土地で生活できるか確認したほうがいいでしょう。あとは、私の場合は起業を考えていたので、開業した際の市場規模なども考慮して決めました。起業に限らず、任期終了後に仕事をしていくことも踏まえて、将来のプランまで現実的に考えておくといいと思います。やりたいことが明確であるほど、協力隊のメリットも大きくなります。私も役場の方のサポートを得て、地域の方々と交流を深めることができました。地域おこし協力隊という立場でなかったら難しかったはずです。」
地域おこし協力隊という制度の利点を活かして、自身の夢に向かって着実に踏み出している鹿毛さん。開業した際には、鹿毛さんが淹れるルワンダの生産者が育てた豆を使ったコーヒーが多くの人を魅了することだろう。
北海道 鷹栖町 地域おこし協力隊 現役隊員
鹿毛謙作さん1991年生まれ。福岡県出身。大学卒業後にコーヒーメーカーに就職し、営業職として活躍後、2018年に退社。国際協力機構(JICA)青年海外協力隊としてルワンダに赴任し、コーヒー栽培の手法を学んでいたがコロナ禍で2020年に帰国。同年10月に地域おこし協力隊として北海道鷹栖町に着任。空き家活用作業等に従事する。
鷹栖町地域おこし協力隊:https://www.facebook.com/town.takasu.kyoryokutai/
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省