“スマート農業”の最前線を語る会
『スマート農業DXサミット2021』第2弾
開催レポート

\企業・行政・研究者・経営者・スマート農業推進協会、多岐にわたるトークゲストが集合/
多様な立場で「スマート農業」に取り組むプレイヤーたちから見た、農業の可能性と課題とは?

宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構。以下こゆ財団)が設立したスマート農業推進協会とTURNSのコラボレーションによるオンライントークイベント『スマート農業DXサミット2021』の第2弾が、2021年12月5日(日)に開催されました。

今回も、農業の現場に深く携わっている生産者、流通業者、投資家、IoT技術者、研究者など多様な立場のプレイヤーが登壇。4つのテーマに沿って、現在の活動状況と課題、そして市場規模と共に潜在的に大きく広がっている農業の可能性について熱いトークを繰り広げました。

個人的な就農はもちろん、農業ビジネスで起業したい方、新規参入を考えている企業、まちの基幹産業として農業に注力したい自治体の方などは、ぜひ記事をチェックしてみてください!

 

【トークテーマ】

■スマート農業推進協議会ご紹介 ※詳細はこちら https://smart-agri.co/

■パネルディスカッション①
サスティナビリティ、SDGs、環境負荷・持続可能性…様々な課題を「農業」はどのように解決できるのか!?

・三浦 綾佳 さん(株式会社ドロップ 代表取締役)

■パネルディスカッション②
「農業」はビジネスチャンス!ベンチャー企業の参入から、新しい農業ビジネス・新規事業のつくり方を考える。

・上原 郁磨 さん(SBテクノロジー株式会社 公共本部 副本部長/リデン株式会社 代表取締役)
・高橋 慶彦 さん(AGRIST(アグリスト)株式会社 取締役 兼 最高執行責任者)
・有馬 暁澄 さん(Beyond Next Ventures 株式会社)

■パネルディスカッション③
届け、現場の声!!農家、消費者、行政、企業、メディア…それぞれの立場を超えた意見交換会。

・堀口 大輔 さん(鹿児島堀口製茶/和香園/ハチドリ電力 広報拡散部長)
・猪俣 太一 さん(就農11年目/施設園芸 きゅうり 28a)
・上村 聖季 さん(株式会社kikitori 代表取締役社長)

■パネルディスカッション④
メカ最前線!農業技術はどこまで発達しているのか? IT・テクノロジーがもたらす“儲かる”農業を徹底解剖!

・生駒 祐一 さん(テラスマイル株式会社 代表取締役)
・安藤 光広 さん(株式会社 安藤商事(セキド宮崎中央) 代表取締役)
・松井 加奈絵 さん(東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 准教授)

 

【モデレーター】

高橋邦男さん(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事/最高執行責任者)
堀口 正裕(㈱第一プログレス 代表取締役社長/TURNSプロデューサー)

 

※以上、登壇者プロフィール詳細はこちら( https://turns.jp/52235 )から

 

【トーク①】
サスティナビリティ、SDGs、環境負荷・持続可能性…様々な課題を「農業」はどのように解決できるのか!?

●登壇者:三浦 綾佳 さん(株式会社ドロップ 代表取締役)
●モデレーター:高橋邦男さん(こゆ財団)

第一部の登壇者は、宝石のような「美容トマト」を看板書品に、新規就農からからわずか7年で自社を年商1億円規模の企業へと成長させた三浦さんです。農作物を売っていくために必要な「マーケティング」の視座と、生産の経験不足を補うスマート農業の有用性および取り入れ方について伺いました。


主なキャリアは広告代理店業と販売業。「最初から農業をビジネス視点で見ていた」と三浦さん

「最初から恵比寿の高級スーパーで売ることをイメージして、トマトをつくる前に商標とパッケージができ上がっていました」という三浦さんの発言に、「これこそ農業ビジネスの本質。マーケットインの発想ですね」と深く頷くモデレーターの高橋さん。

販売には勝算があった一方で、三浦さんが自信がなかったのは栽培。そこをアイメック®️農法で補いました。特殊なシートを活用した土を使わない農法で、経験がなくても高糖度・高栄養価のトマトを大量生産することに成功し、「7年でここまで成長できたのは、スマート農業ありきだったから」とのこと。

農業をビジネスとして成立させるためのポイントについて三浦さんは、「生産以外の仕事(経営やマーケティングなど)を、生産と同等の力でやる必要がある。そのためには生産の現場から離れる時間をいかにつくるかが重要」と語りました。

そこにIoTが大きく寄与したようです。「スマート農業を行なっていても人が関わる度合いはかなり大きく、コンピューターも使いますが、加えて人の感覚も欠かせません。全て機械任せだと働きがいもなくなります。テクノロジーが人に取って代わるということではなく、人ができないところを補うという考え方でやっています」とスマート農業の取り入れ方について述べました。

また、三浦さんはアイメック®️農法について、初期投資はかかるが適正な価格設定ができれば問題なく、土を汚さない、水を無駄に使わないなど、環境的側面からも持続可能性があると紹介。

視聴者から寄せられた「競争が激しいトマトの価格設定は難しくないですか?」との質問には、「トマトに限らず高価格に設定したいなら “強みの明確化” が大事。うちの場合は糖度を1粒ずつ計測し訴求に生かしています。農作物のアピールは生産者本人が『おいしいです』と言うだけでは難しい。客観的な数値の裏付けや、農水省など第三者からの評価が必要」と答えました。


スマート農業推進協会の事務局長も兼務する、新富町の地域商社「こゆ財団」責任者の高橋さん

「農家がマーケットインの発想を持つのに大事なことは?」との高橋さんの問いかけに三浦さんは、「日頃、買い物に行った際に売り場やお客様を観察し、『この売り場で自分のトマトを売るならいくらにする? パッケージのオシャレ度はどうする?』と常に考えること。うちの商品は全てそこから生まれています」と回答。お客様の志向や市場が変化する兆しも、お客様との距離が近ければ早く気づくことができ、大きな転換を迫られる前に小さく改善していくことができるそうです。

農業をビジネスにするためにはマーケットを見て生産していくことが重要という、非常にシンプルかつビジネスの本質を突いた三浦さんのお話でした。今後はトマト農場の観光地化や、従業員の個性を生かした和菓子の開発にもチャレンジしたいそうです。

モデレーターの高橋さんからは、「農業はネットワークが何より大事な分野。スマート農業DXの輪に私も入れていただければ」と締め括りました。

 

【トーク②】
「農業」はビジネスチャンス! ベンチャー企業の参入から、新しい農業ビジネス・新規事業のつくり方を考える。

●登壇者
・上原 郁磨 さん(SBテクノロジー株式会社 公共本部 副本部長/リデン株式会社 代表取締役)
・高橋 慶彦 さん(AGRIST株式会社 取締役 兼 最高執行責任者)
・有馬 暁澄 さん(Beyond Next Ventures 株式会社)

●モデレーター:堀口 正裕(TURNSプロデューサー)

第二部は3名の登壇者とTURNSの堀口が、農業におけるビジネスチャンスの鍵について語り合いました。

自動収穫ロボットの開発・運用を行なっている高橋さんは、ピーマンの収穫ロボットを開発し、現在農業法人2社と契約。次世代農業の世界展開も視野に入れながら、人とロボットが共存共栄する社会を目指し、日々改良と圃場での実績づくりに励んでいます。

上原さんは、前職のソフトバンクで農地情報の収集に携わる過程で、農家の手元に情報が行き届いていない状況に気づき、多様な農家が生産情報を共有しながら日本の農業全体が発展していくことを目指して、農業サポートアプリ「アグリミル」の開発・普及に取り組んでいます。

有馬さんはベンチャーキャピタルファンドを運用し、創業時および創業前のスタートアップ出資を行う投資家です。現在は日本とインドで12社の農業ベンチャーに投資。アグリテック、フードテックの分野はここ4~5年で盛り上がってきており、この先約5年でさらに発展すると見ています。

モデレーターの堀口から高橋さんへ、収穫ロボットの需要と導入の障壁について尋ねると、「需要の背景は、農業法人の場合は人手不足。パートさんの大部分が70代以上で、あと数年で辞めてしまうことへの危機感が強い。障壁となっているのは、ロボットが自分の圃場に入ってくることを、現場が現実感を持ってイメージできていないこと。まだまだ遠い話という認識です」と高橋さんは答えました。


高橋さんの会社は、スマート農業推進協会がハブとなり、エネオスとの資本業務提携をして創設した

この障壁を打破するには2つのアプローチがあり、一つはまず人の半分くらいは収穫ができるレベルにロボットの性能を高めること。もう一つはリアルな農場で稼働させて収穫の実績を積むことだと高橋さん。そのために先駆的な考えの農家さんと提携し、今春から試運転を開始する予定です。

上原さんには、視聴者から「データを収集する中で見えてきた農家共通の課題はありますか?」との質問が寄せられました。これに対して上原さんは、「第1の課題は農家が農作業だけでなく、“経営にかける時間” をつくること。生産や経営を方向付けるためのデータとなる日報を記入するのが面倒という声が、アプリ開発の発端でした」と答えました。


「現場でPDCAを回すことが重要だが、ツテがないと現場にたどり着くのに時間がかかる。その環境をスマート農業推進協会が整えてくれることがありがたい」と上原さん

「第2の課題は、現場でアプリに入力するパートさんは高齢者が多いということです。そもそも農業アプリを開きたくない、という声に驚愕しました。そこで高齢者にも馴染みのあるLINEを使うことに。孫の写真のやり取りをしているサービスなら使いやすいですよね。現在も入力をとにかく少なく、言葉遣いを分かりやすくする改良を重ねています」と上原さん。地域に出向いて地道に勉強会を重ね、すでにユーザーは8,700人に達しています。

モデレーターの堀口から、有馬さんに対して「どんなところに着目して出資を決めているのですか?」と質問しました。「その分野の仕事に情熱を持っている方であることが大前提。農業がものすごく好きで、業界を変えたいという思いがあり、短期ではなく10〜20年後のビジョンを持ち、農業に自分の人生を賭けるという想いがあるかをまず見ます。次に、そのテクノロジーがユーザーにとって本当に良いのか、市場がどのくらいあるのかを見ます」と有馬さん。やはり根幹は「情熱」のようです。


有馬さんは協会の意義について「農家に対してさまざまなソリューションを提供しているメンバーが連携して、みんなで農家のためにやっていくことが重要。協会がハブになって食や農業にイノベーションを起こしていけるといい」とコメント

また、有馬さんは年度ごとにテーマ決めて投資先を検討するとのこと。2021年はバイオ肥料やバイオ農法、有機農業など。2022年は発酵や微生物を扱う企業に投資を考えているそうです。「日本は昔から発酵食の文化もあり、微生物分野は強みの一つ。発酵・微生物のテクノロジーによる農業や食で世界をリードできる可能性がある」と語りました。

セッションのまとめとして堀口から「これからの農業にとって大切なことは何だと思うか?」と3人に尋ねたところ、「再現性」と「収益性」という2つのキーワードが挙がりました。

再現性とは、個人的な「匠の技」ではなく、経験値がなくても誰もが上手にできる農業の仕組みを確立することを意味します。現在は人間の手作業や経験と勘に頼っている部分を、ロボットが数値化・可視化し、将来的には必要な作業のアドバイスまでAIが提案できると良い、と高橋さんは述べました。上原さんはこれに加え、その情報をオープンソース化し、例えば病気の情報をリアルタイムで共有するなど、多様な人々がシェアできるようにしたいと発言しました。

収益性という観点では、堀口から有馬さんに「有機農業はビジネスになり得るのか?」と質問。

有馬さんは「現在、日本の有機農業の生産高(売上?)は農業全体の1%に過ぎない。栽培技術が難しく、かけたコストに対して収益が出にくいので、続けるためには懐の余裕と忍耐力が必要。出資のポイントで大事なのはまさに再現性で、誰もが有機農業ができるようテクノロジーが進化することを期待している」と答えました。

こゆ財団の高橋さんも言うように「農業は全員が4番じゃなくていい」、多様な知見を持った多様なジャンルの人が集まり、連携して農家のためにソリューションを提供・改善し続けていくことが、日本の農業の未来の課題解決につながるのだと改めて実感できた第2部でした。

 

【トーク③】
届け、現場の声!!農家、消費者、行政、企業、メディア…それぞれの立場を超えた意見交換会。

●登壇者
・堀口 大輔 さん(鹿児島堀口製茶/和香園/ハチドリ電力 広報拡散部長)
・猪俣 太一 さん(就農11年目/施設園芸 きゅうり 28a)
・上村 聖季 さん(株式会社kikitori 代表取締役社長)

●モデレーター:高橋邦男さん(こゆ財団)

第三部は生産者、経営者、流通の立場からの登壇者3名と、こゆ財団の高橋さんが、スマート農業が今後解決していくべき現場のさまざまな課題について語り合いました。

上村さんは大学時代から農業分野での起業を志し、商社 での経験を生かして、いまだにファックスや電話が主流の青果流通現場のDXを進めるべく、新たなデジタルインフラ「nimaru」の開発・導入を行っています。また都内で4つの直営野菜販売店も運営し、お客様接点から青果の付加価値を模索しています。

堀口さんは、鹿児島県志布志市にある堀口製茶の3代目。お茶の栽培・加工・販売まで行ない、国内最大級の生産能力を誇ります。生産効率を高めるための現場のデジタル化や統合、茶葉のブランド化、茶の食文化振興を目指したレストラン経営など、スマート農業・6次化に多角的に取り組んでいます。

猪俣さんは、新富町で小中規模のきゅうり農家を営んで11年目。スマート農業推進協会の連絡会会長を務め、アグリテック各社の開発やデータ収集にも協力。最近発足した新富町の脱炭素社会へ向けた協議会にも加わり、農家の立場からカーボンニュートラルへの取り組みにも参画しています。

モデレーターの高橋さんからは、現在JAや既存市場への「nimaru」導入を進めている上村さんへ現場の温度感を尋ねると、「JAも本領の農業分野でさらに収益性を高めていく必要があり、今まで通りのやり方ではいけない認識はあるものの、組合員の多くが高齢でもあるため配慮しつつデジタル化を進める必要がある」と答えました。


「農業はファーストペンギンがなかなかいない業界。だからこそ既存流通の8割を占めるJAや市場が変われば、農業は大きく変わる」と上村さん

「テクノロジーの恩恵は、そこが得意な方だけが受けるのではなく、広く行き渡らせることが大事。アグリテックというとデータ解析をしてどう使うかという話になりがちですが、『今まで手で計算していたのが自動になるんですよ』『紙でやり取りしていたのがスマホに来るんですよ』などと、簡単なところから入っていくことが重要だと感じています」と上村さんは語りました。

また、テラスマイル社に協力して、すでに5年間データ提供を続けているきゅうり農家の猪俣さんに、高橋さんから「データを蓄積することのメリットは?」と質問したところ、「自分の栽培の弱点やクセが見えてくること」と回答。例えば、毎年決まった月に生産量がふるわない傾向があれば、その月の前に苗をリフレッシュしたり、肥料の与え方を変えてみたりして改善し、年間で収穫量を増やしていくことができるそうです。ビジネスとして農業に取り組む上で、見える化できる要素を増やして課題と成長のポイントを見定めることは有効だと言えます。


猪俣さんは「最近の若い子たちは、教科書にも載っているスマート農業を当たり前に考えており、それを地域で実践している農家に新規就農者が集まる。そこがコミュニティになると後輩ができるので喜ばしい」とコメント

堀口製茶の堀口さんは、自社のデジタル化の今後について「次の段階として、自分だけではなく従業員や共同経営者みんなで当たり前にできるようになると時間の使い方が変わり、農作業と経営の時間が分かれていくので、これまでと違った農業ビジネスが見えてくる気がします」と述べました。「人手不足も見える化し、地域産業の中で繁忙期・閑散期とスキルに応じて人を循環させることができたら、人手不足も解消できるのではないか」と、データ収集およびオープンソース化に期待を示しています。


堀口さんの茶畑は300haにも及ぶ。海外からの化学肥料を減らし、アジアGAPや有機JAS、レインフォレスト認証など各種認証等も取得。灌漑装置やロボットによる茶畑管理などサステナブルな農業とDXに取り組んでいる

情報のオープンソース化については猪俣さんも、「農業に関する情報の流通はまだまだ不足していて、各企業が独占的に商売をしているケースも多い。競争がないので肥料や農薬の価格が下がらないとか、隣の町では全く違う農業をしているなどということがある。また、ある一つの作物が『儲かる』と聞くと、多くの農家が一斉にそれを生産し、結果的に市場崩壊が起きている。病害虫のリアルタイム情報をはじめ、もっと情報交換できる場があると良い」と発言。

これに対して上村さんは、「全国レベルで他の生産者さんの情報が見られる場が現状無い。生産者同士、産地同士がつぶし合うのではなく全体で発展していけるプラットフォームづくりが必要ですね」とコメントしました。

最後に猪俣さんと堀口さんは、最近の石油価格の高騰で生産現場が打撃を受けている事実に言及。高橋さんは「近い将来、新富町の農家はみんなEVで農業をしているような先進地を目指し、多様なつながりを生かしていきたい。農業にテクノロジーを導入するのは手段でしかなく、それを課題解決に結びつけていくことが大事。スマート農業が普及することで、農家が環境問題や脱炭素にもしっかりと向き合えるようになるのではないか」とまとめました。

 

【トーク④】
メカ最前線! 農業技術はどこまで発達しているのか? IT・テクノロジーがもたらす“儲かる”農業を徹底解剖!

●登壇者
・生駒 祐一 さん(テラスマイル株式会社 代表取締役)
・安藤 光広 さん(株式会社 安藤商事(セキド宮崎中央) 代表取締役)
・松井 加奈絵 さん(東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 准教授)

●モデレーター:堀口 正裕(TURNSプロデューサー)

スマート農業サミットの最後を飾る第四部は、農業データ活用のパイオニア、農業ドローン開発者、そして研究者の3名が登壇。テクノロジーを活用した最先端の農業の実態について、TURNSの堀口とエキサイティングなトークを繰り広げました。

生駒さんは、すでに約10年に渡って農業におけるデータ収集と活用を行ってきたスマート農業の先駆者的存在。農業現場のデータを分析・予測し、大小さまざまな規模の農業従事者に伴走しながら支援しています。近年の需要増加に伴い、農業の分かるエンジニアの育成にも取り組んでいます。

安藤さんは、農家に生まれ育ち、幼少期に農作業を手伝った経験から、ラジコン好きを生かして農業ドローンの開発・運用を行っています。ドローンによる農薬散布や、圃場のエリアごとの育成状況の調査、収穫物の運搬などを試験的に行っており、導入に向けて費用対効果の検証を始めています。

東京電機大学の准教授である松井さんは、研究室の学生と共に、農業現場に役立つ端末機器の開発やそのデータを共有するプラットフォームづくりに取り組んでいます。圃場の水位計測や病気の検出機器などで、最近は端末のつくり方をオンラインで教え、現地の農業従事者が制作・設置する試みも行いました。

まずは農業データ活用の先駆者である生駒さんへ、モデレーターの堀口が「農業従事者への伴走の仕方」について質問。生駒さんによると、人によっては農業の経営目標を立て切れていない場合もあるので、データ活用の前に目標設定のワークショップをオンラインまたは現地で徹底的に行うこともあるそう。目標は、収穫量の向上、労働力の最適化、物流の効率化、栽培工程の見える化と全社員との共有など事業者によってさまざまで、逆に考えると、スマート農業で改善できる余地は多いと言えそうです。


「データは基本的にそのシーズンが終わってから改善のために見るもの。組織としての弱点や作型が変わったことでの影響など、何年か経験すると分かることをなるべく早く分かるように支援できます」と生駒さん

堀口がさらに「データ活用がなかなか進まない場合はどんなアプローチをしますか?」と尋ねると、「農業従事者が経営課題に真摯に向き合わざるを得ないタイミングが2つあります。一つは経営が父親の代から自分に移った時。それまではより良い栽培が課題でしたが、自分の所得に関わる課題へ変わります。もう一つは、家族経営から人を雇うフェーズへ変わる時。キャッシュが明らかに減っていくのでデータ活用しないとまずいと気づく」と生駒さん。代替わりと規模の拡大が、スマート農業を取り入れる好機のようです。


視聴者から寄せられた「ドローンによる農薬散布で周辺環境へドリフト(飛散)は生じないのか?」との質問に安藤さんは「風向きを考慮したり、手前で止めるなど調整。操縦に不慣れな方には自動操縦も進化している」と回答。スマートフォンで東京から宮崎の圃場の世話ができる技術も現実化しているそう。

安藤さんには「幼い頃から感じていた農業の課題に対してドローンができることは?」とさらに堀口が質問。それに対して「例えば農薬散布で言うと、今まで家族総出でホースを引っ張って撒いていたのが、ドローンだと田んぼ一反を3分で散布できる。これから農業人口が減っていく中、省力化には適した機械です」と答えました。

また、ドローン導入の障壁について安藤さんは、「実際にドローンでの作業を依頼してくるのは高齢のおじいちゃん、おばあちゃんで、体が動かなくなってきたから手伝ってほしいというのが動機。しかし実施にあたっては『息子に聞いてみないと』となる。家族でやれば費用がかからないですから。ドローンを使うことで生まれたゆとりの時間を他のことに使っていただく発想になるといいのではと思います」と述べました。


松井さんが小栗町の地域おこし協力隊の支援をすることになったきっかけは、スマート農業推進協会に寄せられた自治体からの相談。協会がハブとなって松井さんをつないだ

研究者の立場でスマート農業に携わり、コロナ禍において東京から遠隔で、愛媛県小栗町の地域おこし協力隊ナタリーさんに計測端末の制作・設置指導を行なった松井さんは、「現場で一緒に、というやり方から離れて、互いの知見をデジタル技術で補填しながら進めるという方法には、難しさもありますがスケールのしやすさは感じます。収集したデータをボットが随時通知する仕組みにして、何か異常があればナタリーさんが現場を見に行く。今までは一人が情報を知って、それから関係者に共有していたのを、関わる全員が同時に情報共有できることで対応スピードが上がるなどのメリットがあると思います」と、農業を遠隔地からでも支援できる可能性を語りました。


「今後も年に1回はTURNS本誌丸ごと1冊農業特集を行う他、個人だけでなく企業やビジネスの視点も取り入れた情報提供をしていきたい」と堀口

最後に、スマート農業の先駆者である生駒さんは、今後の展望について「これからは農産物も品質管理が当たり前の世の中になるし、環境負荷低減も農業の大きな課題。コロナで宅配ミールキットの利便性に慣れてしまった生活者に対して中間流通も含めてどのように対応していくか、輸出など課題はたくさん。政策も含め、日本の農業や農作物の最適化に貢献していきたい。異なる立場のプレイヤーの方々みんなでバリューチェーン全体を考えていくことが大事なんだと改めて感じました」と語りました。

堀口は「農業には可能性しかない。農業の経験がなくてもデジタルテクノロジーを使って勘と経験を補いながら新たな道を開拓していける仕組みをつくることが、今後の農業の発展を決める」とコメント。

スマート農業推進協会の高橋さんは「農業は、農家さん以外は当事者じゃない感覚があるかもしれないが、ごはんを食べている人は全て農業につながっていて全員が当事者。今日のような農業の未来の話を聞ける機会を今後もつくっていきたい」と述べ、会を締め括りました。

 

今回も非常に充実したセッションとなったスマート農業DXサミット。イベント中に寄せられた視聴者コメントの具体性からも、スマート農業に対する関心の高まりが感じられました。スマート農業推進協会では、今年はオンラインのスマート農業スクールの開講も企画しています。

現地視察や協会への参画など、興味が湧いた方は下記の窓口より気軽にお問い合わせください!

 

\INFORMATION/

「スマート農業推進協会」入会のご案内
https://smart-agri.co/

ご入会いただいた会員様向けに、様々な特典をご用意しております。宮崎県新富町や全国の自治体と連携した共同企画の実施、プレスリリースやオウンドメディアによる情報発信の支援、主催のイベントや勉強会でのネットワーキングやマッチングの強化などを行いながら、会員の皆様とスマート農業を推進します。

【会費:月額50,000円(税抜)】
●スマート農業サミット(年2回/東京・宮崎県新富町)登壇
●スマート農業推進協会ウェブサイトへの記事掲載
●スマート農業推進協会会員限定オンラインセッションへの参加
●コワーキングスペース「新富アグリバレー」(宮崎県)新富町ドロップイン利用
●採用及びビジネスマッチング支援
●共同企画の実施(プレスリリースや勉強会の企画など)

                   

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