TURNS vol.40より|職人たちを訪ね歩いて、 郷土玩具文化のハブになる。

山響屋 瀬川信太郎さん

地域性を写す土産物であり、縁起物であり、子供の玩具としても愛されてきた「郷土玩具」。

その魅力に心奪われた男が開いたのは、「職人に会って品物を買う」真っ当な専門店だった。

誰よりも現場を見てきた店主の、郷土玩具への思いを聞いた。


売るのは、会った職人さんの作品だけ

ハマった、郷土玩具の世界

ダルマにも種類がある。選挙速報などのニュースでよく見かける、片目が白く、願いが叶った後から目の点を描き入れるダルマの多くは、そもそも関東だけのものだと知っている人はどれくらいいるだろうか。関西のダルマにはもともと目が描き入れられていて、九州・福岡のダルマには、頭に気合の入ったねじりハチマキが巻かれている。一口にダルマと言っても、これほどの多様性を示すもの。そんな郷土玩具の世界に魅せられた男がいる。

「もともとは大阪で、ダルマの体にグラフィティを描いてたんです。その時は、自分の絵を手に取ってもらうために、ダルマをキャンバスにしている感覚でした」。

そう話すのは、ダルマ絵師として活動しながら、郷土玩具の専門店「山響屋(やまびこや)」を営む店主・瀬川信太郎さん。六坪ほどの店内には、瀬川さん自身が収集してきた品物の数々が並ぶ。ダルマや赤べこなどの張り子や、土人形、福助人形……といった各地の縁起物が肩を寄せ合っているが、その風景はなぜか土産物店というよりもレコードショップや雑貨店のよう。

ストリートブランドのTシャツに袖を通し、客とフランクに会話を交わす店主のスタイルも、店の空気を形作る。「お店にあるものは全部、会いに行った職人さんが作ったものですね」。自ら全国の地方を渡り歩き、職人と出会いながら郷土玩具の魅力を発信する瀬川さん。彼の店は今、失われゆく郷土玩具の文化発信地として注目を集めている。

出会いは「変な縁起物」から

そもそも郷土玩具とは、日本各地に伝わる伝統工芸品の一つだ。現在のようなプラスチック製の安価な玩具などなかった時代に生まれ、子どもが遊ぶものとして、地域のお土産物として、各地の寺社仏閣へと納められる奉納品・縁起物として、さまざまな用途で親しまれてきた。明確な定義はないが、和紙や土といった古くからある素材でつくられた玩具は、各地域ごとの特色をよく表している。店主の瀬川さんも、そんな郷土玩具の「多様性」に魅力を感じた一人だ。

「六年くらい前にお店で見かけた『福助人形』が衝撃的で。普通の福助人形は三つ指をついて正座しているだけなんですが、その人形は招き猫みたいにこちらを手招きしていて。『福助と招き、ダブルで縁起がいいやない!』と嬉しくなって買ってしまったんです」。

当時の瀬川さんはというと、大阪・アメ村の雑貨店で働きながら、ダルマ絵師として活動していた。「ダルマを作ってる自分が縁起良くなれば、そのダルマの縁起も良くなるんじゃないかと思いました。でもそれ以上に、『自分が知ってるものと少しだけ違う。変だ!』っていう驚きに、好奇心をくすぐられたんだと思います」。そんな縁から、縁起物への興味が深まっていった。

(続きはTURNS vol.40本誌で)

文・編集:乾 隼人 写真:戸高 慶一郎

 

                   

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