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尾道のまちと暮らしに新たなあかりを灯す。
尾道LOG滞在レポート

広島県の南東部に位置し、瀬戸内海に面した歴史情緒あふれるまち、尾道。造船の町として栄えた海沿いと、古い家屋や寺社、細い路地が広がる山の手が箱庭のように収まる風景は、尾道らしい見どころの一つ。

中心部は海、山、まちがコンパクトにまとまり、ゆったり歩いて散策するのにはぴったり。まち全体がノスタルジックな空気に包まれ、どこか懐かしく、ほっとさせられるような魅力に満ちあふれています。

昔から坂の町、文学や映画の町としてさまざまな魅力を放つ尾道には、ここ近年で観光や暮らしの拠点となる新しいスポットが登場し、古民家をリノベーションしてお店などを始める若い人も増えています。昔ながらのよさを残しつつ、新しいものを受け入れる懐の深さ、新旧が共存し合うバランスのよさがこのまちの心地よいところ。

そんな尾道の新しいランドマークとして注目を集めているのが、2018年12月7日にオープンした山の手のマルチパーパススポット「LOG(ログ)」。ここは、尾道の特性を生かした事業と雇用を生み出す目的で2012年に設立された「ディスカバーリンクせとうち」によるプロジェクト。創業以来、古民家再生事業や「尾道デニム」、サイクリストに人気を集め、尾道のランドマーク的存在となっている複合施設「ONOMICHI U2」など、数多くの事業を手掛けている会社です。

LOGの名前は「Lantern Onomichi Garden(ランタン・オノミチ・ガーデン)」の略称。ランタンのように尾道の灯りとなり、人が集う開かれた場所にしたいという想いが込められています。今回は、尾道に新たな魅力をともすLOGに滞在し、LOGで働く人の取り組みや想いに触れながら、その魅力に迫ります。

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山の手に建つ、貴重な空き物件をリノベーション

LOGがあるのは、尾道を代表する観光地、千光寺に上がる千光寺新道のほぼ中腹。千光寺新道とは尾道のキービジュアルとして映画やCMなどによく使われている、細い石段の坂道です。

この周辺の参道ルートには「暗夜行路」を代表作とする志賀直哉の旧居があり、入り組んだ路地の途中で猫がゆっくりとくつろぐ様子を楽しめることも。迷路のような細道を散策してみるだけでも存分に楽しめますよ。

そうして息を切らしつつ坂を上がること数分。立派な石垣の上に建つ淡いオレンジ色をしたLOGの外観が見えてきました。山の手ではめずらしい鉄筋コンクリートの建物です。

LOGの舞台となるこの建築物は、昭和30年代に建てられた山の手唯一の鉄筋の集合住宅「新道アパート」。当時は憧れのモダン住宅として新婚夫婦が多く入居していたそうです。

重機も車も入れない坂がひしめくこの場所で、ひとの力だけで鉄筋の建物を造るのは至難の業。もちろん壊すこともままならず、使われなくなったあとも空き家としてそのまま残されていました。「その貴重な建物をリノベーションし、山の手の魅力を伝えて新たなにぎわいを生む拠点にしたい」。そんな想いからLOGはスタートしました。

 

日常に溶け込む、自由なオアシス

LOGはメインとなる宿泊施設のほかに、カフェ&バーやショップ、ダイニングやギャラリーなどがあり、観光客やまちに住む人など、誰もが気軽に訪れることができます。

地上3階、緑豊かな庭に囲まれたL字型の建物。空間全体はシンプルなデザインに統一され、それぞれが緩やかにつながり合うような造りに。どの場所にいても外の光や庭の自然を感じられ、開放感のある心地よい空気に包まれています。

訪れたのは天気のよい昼下がり。まずは2階のカフェでおいしいチャイを味わいながらひと休み。窓の外には尾道の美しい海とまちの風景が広がります。

LOGの敷地内には共用スペースが多く、訪れる人が思い思いにくつろげるのはもちろん、イベントやワークショップ、コミュニティの拠点としても幅広く活用されています。旅人が散策の疲れを癒したり、近所のひとがふらりと来てお茶を飲んだり、集まるひとびとが交流してイベントを楽しんだり。尾道の日常に溶け込みながら何気ない面白さや感動、驚きを経験させてくれる、枠にはまらない自由な空間であることがLOGの大きな魅力となっています。

 

手漉き和紙が生み出すぬくもり。
プライベート感あふれる宿泊スペース

3階フロアは、宿泊客だけが利用できるプライベート空間。6つの客室と、共有ラウンジとして過ごせるライブラリーを備えています。

客室はダブルベットを備えた2人部屋と、2つの小上がりがある4人部屋の2タイプあり、どの部屋にも縁側が設けられた和室的な造り。加えて床や壁、天井など、部屋一面に手漉きの和紙が貼られ、漆喰や土などの自然素材が使われています。

ふんわりとした優しさを感じる客室。昼間は窓からの木洩れ日、夜は抑えめの照明が、アイボリーの空間を柔らかく照らします。和紙や土の肌触りがあまりにも心地よくて、部屋にいる間はずっと裸足になって過ごしました。縁側にある竹製の家具もすべてオリジナルです。

泊まって感じたのは、和紙というデリケートな素材に向き合うことで丁寧な動作とゆとりが生まれたこと。たとえば物を置くときや襖を開け閉めするとき、決しておろそかにできない大事なものを扱うことで、人は立ち振る舞いに自然とていねいさが増すのだと実感。くつろぎの中にある心地よい緊張感が、暮らしの豊かさや物を大切にする精神を思い出させてくれました。

 

滞在した日は、LOGで初となるワークショップが開かれていました。この日のテーマは、お正月用の祝箸包みなどのお正月飾りをつくる、折形のワークショップ。LOGの客室にも使われている、京都の和紙作家・ハタノワタルさんの手漉き和紙を用います。

講師を務めるのは、折形デザイン研究所の山口信博さんと山口美登利さん。伝統の折りかたをモダンなデザインと捉え、いまの暮らしにあう折形を研究されています。

この日、会場のプライベートダイニングに集まったのは8名。木漏れ日が差し込む空間で、円卓を囲みながら正月飾りの習わしや折形の作法、折りかたのコツなどを山口ご夫妻から教わります。手漉き和紙の手触りの心地よさを感じながら、器用に折り進めていく参加者の皆さん。約2時間のワークショップで、皆さんの美しい正月飾りが完成しました。

LOGでは、四季の風情を感じるものや日々の暮らしが豊かで楽しくなるもの、尾道やLOGにちなんだものをテーマにしたワークショップを随時開催していく予定です。

 

スタジオ・ムンバイとの共創。尾道に物語のある空間を

深いグリーンの壁が印象的なこの部屋は、宿泊者だけが利用できるライブラリー。LOGのプロジェクトを共創したインドの建築スタジオ「スタジオ・ムンバイ」の代表を務めるビジョイ・ジェイン氏の書斎をイメージして造られました。

LOGは、スタジオ・ムンバイがインド国外で初めて取り組む建築プロジェクトとして、世界的に高く注目されています。スタジオ・ムンバイの建築は、手仕事による伝統的な技術と自然素材を生かすものづくりが特徴。LOGの建築にもそのポリシーが存分に生かされています。そのスタジオ・ムンバイに建築を依頼したのが、LOGの事業責任者である吉田挙誠さん(38歳)。2014年にプロジェクトを発足以来、LOGのオープンに尽力してきた立役者です。

「建築からまちづくりをしようという古民家再生事業への取り組みは、『ディスカバーリンクせとうち』が設立時から目指していたところです。山の手のにぎわいを創る中でも、何十年と続く風景と歴史、人の想いが紡がれてきたこの土地になじみ、この先ずっと残る建物であることが大前提でした」

「斜面地に建つRC構造の建物をリノベーションする難しさはもちろん、建築とまちをどうつなげて表現していくのか。ビジョイさんの建築は、今ある環境の中で合うものを見極めながらみんなで手を加え、深い検証と実践を繰り返すスタイル。ギャラリーの展示資料にその足跡が残っています。その哲学はディスカバーリンクせとうちの取り組みに通じるものがありましたし、準備の4年間でLOGの在りかたの素地もできたと感じています」

 

建築以外にも根ざす、試行錯誤の哲学

人の手をかけて、検証を繰り返しながらものづくりをすること。その精神は、料理やグッズ、サービスなどのソフト面にも根づいています。受付・ショップ・商品開発を担当する真鍋美紀さん(28歳)が、LOGでの仕事について語ってくれました。

「LOGで扱うものはすべてスタッフ間で話し合って選んでいます。オリジナル商品のいちじくジャムやお酢、チャイは、生産者との密なやりとりからパッケージに至るまで試行錯誤を重ねて作りました」

LOGの商品の基準となるのは、LOGや尾道にゆかりのあるもの、素材がよくておいしいもの、生産者の顔が見えるもの。

「みんなのアイデアを持ち寄り、LOGらしさとして形に落とし込んでいけるのが楽しいです。ここで働いているとやりたいことがどんどん出てきます」

お客さんとの距離の近さもLOGらしさのひとつ、と真鍋さん。

「目指しているのは、『いらっしゃいませ』というかしこまった雰囲気ではなく、ご近所さんと『こんにちは』と挨拶し合う時の和やかさ。誰もが気軽に立ち寄れて、ほっとできる空間にしたいです」

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プロジェクト開始から4年の時を経て、ついにオープンを迎えたLOG。「人の目に触れた今、やっとスタートラインに立てた」と語る吉田さん。建築や空間づくりもまだまだ継続中。最初から完成形を目指すのではなく、ひとつひとつのフェーズを検証しながら現在進行形で魅力を伝える、そんな場所づくりを実践しています。

本格的な稼働は、尾道が観光シーズンを迎える春以降とのこと。この空間が今後どう生かされ、どう進化していくのが楽しみです。

(文:溝口仁美 写真:冨岡誠)

▽LOGに携わるまちの人びとのインタビューはこちら
「たくさんの人の想いが紡ぎ出す。尾道「LOG」がもたらす新たな未来とは」
https://turns.jp/27063

昭和38年・千光寺山の中腹、先進的な山の手のアパートメントとして、「新道アパート」は誕生しました。歴史や文化の面影が色濃く残るこの場所で、人々の営みをあたたかく見つめてきたアパートメントは、その温もりを残しつつ 「LOG (ログ)– Lantern Onomichi Garden- 」として生まれ変わり、尾道 山の手にあかりを灯します。
LOGは、この土地で暮らす人々とまちを散策する人々が交差する場所。千光寺へ続く坂の途中、尾道のまちを見渡す旅の宿として、カフェや庭を自由に楽しめる公園として、朝から日暮れまで思い思いにお過ごしください。(LOGサイトより)