TURNS

故郷のために何ができるか。大館市の地域マネージャーが伝えたい「価値の見つけ方」
秋田県大館市

“意思のあるところに道あり” ———アルベルト・アインシュタイン(独)

そんな言葉を信条に、秋田県大館市の商工会議所で働く男性を訪ねました。
趣味は登山と大館市。仕事場は町の中。肉体と精神が続く限り、大館のために走りまわる「町の起爆人」とも呼ばれる塚田 悠紘 (ゆうこう)さん。

「このまちの『人、衣食住に関わるコト、仕事』の全てを活かしても解決できない課題が大館市にはある。そこに自分の全てをぶつけてみたい。」

塚田 悠紘 (ゆうこう)さん。

塚田さんは大学卒業後、北海道の離島・礼文島のプロデュースに携わり、5年間、体当たりで島のヒト・モノ・コトを動かしてきました。そこで積み上げた経験と能力を故郷の大館に活かしたいと戻ってきて6年目を迎えます。

趣味は登山。地域プロジェクトと繋がる部分があるという。

塚田さんは決して表に立つ「プレイヤー」ではありません。動き出そうとする地域と人に寄り添い「想いを実現させること」が仕事です。地方の人財が足りない中、この仕事を生業とする人を地方は今もっとも必要としています。

今回は、この肩書きのない役職に「地域マネージャー」と名付け、塚田語録と共に「地域と人を動かすために必要なこと」を聞いていきましょう。

 

信頼関係を生み出すのは、日々の何気ない仕事の積み重ね

地元、大館市のために働ける仕事は何か。28歳の時にUターンをした塚田さんは、商工会議所の職員として働き始めます。

「前職はベンチャー企業で、入社してすぐに『事業の責任者』として人の3倍くらい挑戦するチャンスをいただきました。全力で5年近く働いて、自分の中に経験や能力の貯蓄が出来てきたんです。次のステップアップとして、この経験を活かして何をしようか考えていた時、頭にあったのが故郷・大館市でした。ただ、地元とは言っても今の状況を知らなかったので、まずは地域の状況を知る事ができる仕事、地域との関係を築くことができる仕事を探しました。」

塚田さんの前職は北海道の離島・礼文島で加工工場、販売所、宿泊施設のディレクター。商品開発から店舗開発や販路開拓までを手がけ、5年間で新千歳空港に直営店を出すところまで事業は成長しました。

まずは職場、地域との信頼づくりが大事

地域の活かし方の知識があり、裏打ちするだけの経験を積んできた塚田さんでしたが、その能力を発揮する立場に立つまでに地道な積み重ねがあったと話します。

「Uターンをして商工会議所の職員になった当時は『ここから進んでいくぞ』と意気込んでいた時期で、大館市を良くしたいという想いと自信に溢れていました。ただ、私は期間にして1年半ほど地域や職場との『信頼関係』を築くために時間を使いました。商工会議所の職員としての仕事を実直に行い、地域の声を聞くことから始めたんです。」

仕事で成果を出して一区切りついた28歳。配属された業務推進部での仕事は、商工会議所青年部の事務局。求められている仕事をキッチリと仕上げながら、地域の集まりにも顔を出して地域や職場との信頼を積み重ねていったことが、一つのプロジェクトに参画する機会へ繋がります。

 

待ち望んでいた機会を掴み、「えだまめのまち大館」のプロジェクトに参画

「商工会議所青年部での仕事を通して、地域資源の掘り起こしと磨き上げをする余地があるなと感じていました。そんな折に秋田県庁とJAが連携して『秋田のえだまめを盛り上げていこう』というプロジェクトが立ち上がったんです。その話が商工会議所にきた時に、是非ともやらせて欲しいと手を挙げました。」

前職の経験を活かせるチャンスを得た塚田さん。プロモーション活動から始まり、「えだまめのまち」としての機運を高めながら、商品開発を始めることになります。

地域に眠る種を探す日々

「大館市には『ものづくり』が出来る企業が少ないという現状がありました。そして商品開発をしていくにも、私の手元には与えられている加工場所もなければ、販路もありません。

そのため、地域と人を巻き込みながらプロジェクトを組み立てなくてはなりませんでした。地域と人を動かして形にしていかなければならない。商工会議所の事務所を飛び出して、地域の集まりに顔を出し、繋がりを広げていく中で出会ったのが大館市内のお菓子屋さん達だったのです。」

 

市内に数十店舗あるお菓子屋さんの若手経営者・継業者の集まりに飛び込み、プロジェクトを進めるために「倶楽部スイーツ」という団体を立ち上げて商品開発を開始します。

「商品開発の時に大事にしたのは、『何が求められているか』ではなくて『何を作りたいか』ということでした。マーケティングの観点からいえば良くないのかもしれませんが、当事者のモチベーションが上がってくれることが一番だと思ったんです。」

こうして1年半の歳月をかけて完成したのが「おおだてえだまめモナカ」。可愛らしく秋田らしいパッケージとえだまめの甘さが活かされた大館銘菓として、1年間で15万個を売り上げました。他にも倶楽部スイーツに参加したお菓子屋さん独自のえだまめ製菓が次々と誕生しています。

秋田犬、曲げわっぱ、きりたんぽのイラストが可愛らしい

このプロジェクトを皮切りに、塚田さんは大館市内でのプロジェクトに次々と携わります。

大館市のご当地アイドルをプロデュース

秋田県一位の寄附額、大館市ふるさと納税のプロモーション

「私はプレイヤーでもリーダーでもなくて、地域の中に漂う想いを実現させるマネージャーなんです。」

塚田さんは、プロジェクトを通じて実感した自分自身の役割をそう話します。「大館市の役に立ちたい」という漠然とした志が一つの輪郭を持ち始めたのでした。

 

自分の価値と存在意義を見出すこと

大館市の地域マネージャーとして多くの企業や人と関わっていく道を選んだ塚田さん。
地域の中で自分の役割を見つけ、自分自身に価値を見出すということは難しいことだと思います。

自分自身がやりたいことと、置かれている立場のギャップに苦しむこともあるでしょう。しかし、地域の声に耳を傾けてみると「自分が必要とされる役割」が見えてくるのかもしれません。

「えだまめのまち大館」のプロジェクトで立ち上がった「倶楽部スイーツ」の代表を務める有限会社 大鳳堂の大塚勇喜さんは、秋田らしい喋り口調で語ってくれました。

倶楽部スイーツの代表 大塚勇喜さん

大塚さん「若手の経営者・継業者で集まる機会は何度もあったんです。商品開発の話も大館銘菓を作りたいって気持ちも十年くらい前からありました。だけども、本業が忙しくてアイデアは出るけど、やりたい想いはあるけども、進まない。そんな中で塚田くんが大館に戻ってきてから、私達の集まりに何度も顔を出してくれたんです。えだまめの栽培に大館市が力を入れていくという話、具体的な商品開発までの段取り、ほかの地域の事例、そんな話を聞く中で、段々とみんなのやる気が上がっていって『形に出来るんじゃないか』っていう所まできたんです。本業で手の回らないところを塚田くんが進めていってくれました。」

何か変化を起こしたい。という気持ちは地域の中にも眠っています。しかし本業がある中で、新しいものを生み出すことへ一歩踏み出せないという現状があります。そのために使う時間・労力・お金が捻出できないことが大半です。

こういった人達に必要とされるのが、塚田さんのような地域マネージャーの存在なのでしょう。

プロジェクトをきっかけに独自の商品開発も始まっている。

塚田さん「これまでの経験や能力、積み上げてきた繋がりを全て活かす。その上で大館市の中に空いた穴(マネージャー的なポジション)にぶつけました。大館市のため、大館市で暮らし営む人たちの役に立つということに自分の生き甲斐を見出したんです。それはありがたいことに地域の人たちに価値として認めてもらえて、私の存在意義となりました。」

人材が不足している地方には、ポッカリ空いた穴があります。必要とされているけど、誰も埋められていない穴。大館市に空いていた穴は「地域マネージャー」という、人と地域に寄り添い、巻き込みながら形をつくっていける塚田さんのような人材によって埋められたのではないでしょうか。

 

掘り起こし、磨きあげた後は、未来の担い手へ引き継ぐ。

プロジェクトが始まり、形になって、区切りを迎える。そういった繰り返しを経験してきた塚田さん。関わってきたプロジェクトは年月を経て、どのように変わっていったのでしょうか。

町全体が塚田さんの仕事場だ

「今も私が関わり続けているプロジェクトはありますが、基本的に『引き継ぐ』ということを意識しています。えだまめプロジェクトはお菓子屋さんへ。ローカルアイドルグループは大館のダンス教室の講師の方へ。地域の中で継続させていくには、経験やノウハウ、繋がりや想いも含めて地域の中のプレイヤーに引き継いでもらう必要があります。」

そうしていく中で、大館市の活気に変化が起き始めたといいます。

「プロジェクトを続けてきた副産物として「想いを形に変えたい」と考える人や「自分の地域のために何かしたい」という人、自分を表現するために大館市を舞台にしようとしてくれる人がポツポツと出てきました。世代は関係なく、自分の生き甲斐を見つけて表現しようとする人が大館を活気づけているんです。」

そう言って塚田さんが紹介してくれたのは、19歳の少年でした。

 

伝統芸能を伝えたい『大館のヒーロー』の想い

佐藤龍一夢(りゅういちむ)さんは、大館市生まれ大館市育ち、生粋の大館っ子。小学校5年生の頃から大館市白沢地域の伝統芸能「白沢獅子踊り」に参加していました。

芯の強さは塚田さんと似た部分を感じる

「高校に入学したあたりから、踊り手が減っていくのを感じていました。人口が減っている中で、地域の伝統を繋いでいく人も少なくなって強い危機感があったんです。それで、どうしようかなと考えて思いついたのが『ヒーローになること』でした。」

ヒーローになれば、子供が興味を持ってくれる。子供が来たら、きっと親も来てくれるので、多くの人に白沢獅子踊りを知ってもらい仲間を増やせるんじゃないかと考えたそうです。

佐藤さん「大館市の町中に貼ってあるアイドルのポスターを見て、下の方に『大館市商工会議所』って書いてあったんです。だから、ここに相談すればいいんじゃないかと思って連絡したら、塚田さんに話を聞いてもらえたんです。」

塚田さん「突然、『ヒーローになって白沢獅子踊りを伝えたい』ってメールが来て驚きました。事業計画、実現方法をどう考えているかをメールでやり取りしまして。今思えば、結構厳しく言及していたと思います。それでもしっかりとした返信がきたので、それなら会って話しましょうということになったんですよね。それで現れたのが佐藤くん。高校生ということは会って初めて知りました。」

新たなプロジェクトとして始まったのが「大館のご当地ヒーロープロジェクト」。実現への道は塚田さんのサポートもあり、着実に進んでいきました。

高校を卒業後、地元で働き始めた佐藤さんは塚田さんとの相談を重ね、資金を貯めてヒーロースーツを制作。「光(コウ)ある未来(ライ)」への想いを込めて「コウライザー」と名付けます。

猟師(マタギ)をモチーフにしたデザイン

佐藤さん「塚田さんは、自分が『こうやりたい』と話したことに肉付けをしてくれたり、アドバイスをくれたりしました。自分1人だったら、絶対に実現はできていません。コウライザーを始める時は『本当に出来るんか。』と言われていたんですけど、塚田さんと一緒に、実際に動き始めると応援してくれる人も増えて、地元の友達も『何か手伝えることはないか』って声をかけてくれるようになったんです。」

塚田さん「コウライザーのプロジェクトが始まったのは、大館市でやってきた5年間の集大成とも言えます。地元から『これがやりたい』という声が上がって、それを実現するサポートができる。この連携が生まれることが理想の一つでした。」

大館市内のイベント飛び回り、獅子踊りを伝えている

 

故郷のために出来ることを一歩ずつ

最後に塚田さんにこれから地元のために何かしたいと考えている人へ伝えたいことを伺いました。

「地域のプロジェクトは趣味の登山と通じるものがあります。頂上を目指して登るのですが、頂上に到着すると、また次の山が見えてくるんです。だから、大館のために何かしたいと考えてもらえたら、何でも良いので相談に来てもらいたい。大館市なら山の登り方や必要な道具を伝えることができるはずです。」

故郷のために行動を起こしたいけど、何からしたら良いのか分からないという人は多いのではないでしょうか。明確にやりたいことがあって故郷に戻る人もいれば、自分の能力や経験を活かす人もいます。漠然と「何かしたい」という気持ちさえあれば、その気持ちを必要としてくれる人がきっといるでしょう。

地域と人が動き始めた大館市。これからどんな人達が大館をフィールドに活躍していくのか楽しみです。

(文:大塚 眞 写真:本間 小百合/写真提供:塚田 悠紘)

 

 


秋田県移住・定住総合ポータルサイト【“秋田暮らし”はじめの一歩】
http://www.a-iju.jp/
大館市 移住・交流特設サイト【おおだて暮らし】
http://www.city.odate.akita.jp/iju-kouryu/