群馬とつながる。わがまちのキーパーソン
【VOL.1 前橋市|田中隆太さん】
前橋の中心市街地再生に
「マチスタント」の活躍あり
店舗開業の夢と遊休不動産をつなぐ
行政発マッチング

商いにチャレンジしたい人と空き物件をつなぐ、まちのアシスタント「マチスタント」。そんな公務員っぽくない肩書で、中心市街地の再生に挑む公務員がいる。前橋市役所職員の田中隆太さんがその人だ。実際にまちを一緒に歩いて田中さんの普段の活動に触れながら、まちづくりに関わる一人として関係人口創出に対する思いを聞いた。

お話を伺いました。

田中隆太さ

新潟県生まれ。前橋工科大学建築学科を卒業後、商業空間や展示施設などの企画・空間設計を行う東京の企業に勤めた後、2015年に前橋市役所に入庁。市街地整備課で「前橋市アーバンデザインの策定」や「前橋版リノベーションまちづくり」など官民連携のまちづくりに取り組む。現在の課に異動後も「前橋版リノベーションまちづくり」に関わり続け、2022年に「マチスタント」と名称を改めて中心市街地の再生に尽力。前橋で何かを始めたいという人と遊休不動産のマッチングを支援している。

 

アートなまち・前橋はリノベ店舗も面白い⁉︎

いま、前橋市の中心市街地が大きく変わりつつある。古くから画家や詩人、作家などを多く輩出してきた文化的背景を基盤とし、2013年の「アーツ前橋」開館を皮切りにアートなまちづくりを推進。2020年には創業300年の老舗旅館をアートホテルに改装した「白井屋ホテル」が開業し、さらに2023年には、まちのにぎわい創出拠点としても機能するアートレジデンス「まえばしガレリア」が誕生した。

一方で、そうした新たなランドマークを“城”だとすると、城下町となる商店街の再生も面白い。シャッターが閉まり遊休不動産となっていた場所に、新たな個人商店が続々と生まれているのだ。その空き店舗と前橋で新たな挑戦がしたいというチャレンジャーとのつなぎ役を担っているのが、今回の主役である田中隆太さんだ。


大学卒業後、一旦は県外へ離れた田中さんだが、子育て環境を考える中で、奥さまの出身地である前橋への移住を選んだ。

「前橋の中心街は昭和40〜50年代に最も栄え、かつて6つの百貨店と9つの商店街が競い合って大変な賑わいを見せていたと聞いています。ところが、その後は一気に衰退が進み、平成20年代には最盛期に比べて通行量が9割減という状態に。中心街の衰退はどこの地方都市にも似たようなことが言えますが、前橋は落差が激しく、低迷した状態のまま20年近くが経過し、相当な危機感を抱えながらも、どこから手をつけていいか分からないような状態にありました」

新潟で生まれ育ち、進学を機に前橋との縁が生まれた田中さんは、このまちの歴史をそう語る。

「そこから官民連携の動きが始まって『めぶく。』というまちづくりのビジョンが掲げられ、2019年には中心市街地の新たな指針となる『前橋市アーバンデザイン』が策定されました。『マチスタント』は、アーバンデザインの先に起こることを行政としてどう伴走していくかという議論の中で生まれたリーディングプロジェクトのひとつなんです」

 

行政だからできた“シャッター街”の遊休不動産の掘り起こし

全国の自治体でも珍しい事業。前例がないゆえに始めは手探り状態のスタートだったというが、進めていく中で、公務員だからこそ掘り起こせる物件があることに気付いたという。

「自治会や商店会の会長とコミュニケーションを取ると、行政だから割と何でも教えてくれて。僕たちが作ったリストを持っていくと、その2倍3倍の物件情報が降りてくることもあるんです。その場で物件のオーナーの方に電話で問い合わせてくれたりして、だんだんと空き物件を発掘するのに適したポジションだと思えるようになりました」


田中さんと一緒に前橋の商店街を歩いていると「これ新しく作ってみたんだけど」「前に話したアイデア、どうかな?」など、声をかけてくる人たちの姿があった。

しかし、一見すると、行政がそこまで手を出すのは民業にとって好ましくない部分もあるのではないかという見方もしてしまうのだが……。

「僕らも最初はその不安があったのですが、今は良い形で連携ができています。まちが衰退する中で、不動産屋さんも商圏を郊外にシフトして中心街の物件を掘らなくなって、そこに我々が登場したという面も大きいのかなと。まちを良くするという目的ではつながっているので、批判の声はなかったですね。マチスタントがやっていることは、あくまで物件と人のマッチング。仲介が必要な時は不動産屋さんの力をお借りしていますし、逆に物件情報をいただくことも多いですよ」

店主の個性が活きた独立系書店が増えている前橋中心街。「本屋水紋」は、出版関係の企業に勤めた経験を持つ前橋市中心市街地地域おこし協力隊OBの小澤亮太さんが2025年夏にオープンした書店だ。カフェも併設する店内には群馬ローカルの出版物やZINE(小冊子)などを集めたコーナーも。

 

まちを熟知し、魅力を伝えるマチスタントの活動

マチスタントのメインの仕事は、「自分で歩いてまちの知識を蓄えること」と「出店に興味を持つ人と一緒に歩いて、地元のまちと人を知ってもらうこと」。とにかくまちの中を歩くことが基本だ。

「小さなアクションを増やしていくために、地域の人とたくさん絡むことを心がけています。これは僕だけでなく、にぎわい商業課の中で共通している考え方です。だから、お昼休みも外に出て、ただ食事だけで終わらせず、その後にお店の人と喋る時間まで含めて日々の仕事だと捉えています」

田中さんの案内で「taco&music KING KONG」へ。長年飲食業界で活躍してきた店主の神村純さんが「いつか自分の店を持ちたい」という夢を果たした一店。メキシコのストリートを感じさせる本格タコスもさることながら、店舗奥に設けられたDJブースを備えたユニークな空間も魅力。市内外の音楽好きの交流の場としても人気に。

仕事と生活がシームレスにつながっていて、そういうところもどこか公務員らしくない。では、出店希望者を案内する際に特に意識していることとは?

「基本的に一日中まちを歩きながら、希望に合いそうな物件を見て回ったり、話が合いそうな人を紹介したりしています。そのうえで細かなことを決めずにご自身で考えていただく時間を取るようにしています。やはり、すべての方が『前橋いいね!』となるわけではありません。人通りを見て不安を抱く方もいれば、『店の前に専用駐車場が欲しい』という希望から、建物がひしめき合う商店街ではどうしてもミスマッチになってしまうケースもあります。実際、ご案内した半数くらいの方が、一度きりの関係で途切れてしまうのが現実です。一方で、このまちの回遊性に魅力を感じてくれた方のほうがマッチングが成立しやすいというのはありますね。いずれにせよ、こちらからは地元の方と話す機会をなるべく多く作り、誇張はせずにリアルなことをお伝えして、あとはご自身のジャッジに委ねることを大切にしています」

2025年にオープンしたクラフトジン製造所「双子蒸留所」。共同経営者の二口圭介さんは東京にも住まいを持ち、蒸留家の前田慶亮さんは新潟県出身の前橋市地域おこし協力隊OBだ。これまでマチスタントを通じて出店した人のうち、およそ2割が県外からの移住者、もしくは二拠点居住者だという。

マッチングを進めていく中では、借り手と貸し手の間で建物の使い方をめぐり意見が食い違うこともあるという。しかし田中さんは、民間時代に飲食店や大型施設の建設で現場監督をしてきた空間づくりのプロ。蓄積してきたアイデアの数は膨大で、そうした場面における調整力はお墨付きだ。

 

市外に広がりを見せる「ストリートファニチャーエキシビジョン」

マチスタントの話題から少し話は逸れるが、前橋と継続的につながりを持つきっかけになりそうなイベントとして田中さんが挙げるのが、彼自身の企画で2021年から開催されている「ストリートファニチャーエキシビジョン」だ。

毎年9月末から10月初旬にかけて開催される「ストリートファニチャーエキシビジョン」では、椅子や机など、創造力あふれる家具を全国から募り、広瀬川沿いの遊歩道に展示している。アーティストに限らず、誰でも出展者になれるのが面白いところ。

「地元の面白いアーティストや若者たちと始めたイベントですが、フタを開けてみると市外にも評判が広がり、東京、横浜、栃木、遠いところでは大阪からも出展の応募がありました。作品は自己搬入のため、遠方の出展者も前橋まで来てくれます。毎年の出展は難しくても、継続的に前橋を訪れるきっかけになっているようです。最近では東京にある武蔵野大学の学生たちが積極的に参加してくれていて、昨年は4つのチームが作品を出展しました」


普段は「アーツ前橋」向かいの「前橋プラザ元気21」内にあるオフィスを拠点としている田中さん。前橋には有名建築家が設計した建物も多いため、まちづくりだけでなく、建築に興味を持つ学生の来訪も多いという。

これまでに57件(2025年12月時点)の物件とチャレンジャーのマッチングを実現してきた田中さん。それでもなお、前橋中心街にはシャッターを下ろしたままの店舗が少なくない。それは再生の火がまだ種火であることを示す反面、外部の人が前橋と関わる余地が残されているとも言えるだろう。そこで最後に、前橋のまちと関わりを持ちたいと考える人に向けて、田中さんが寄せる期待を聞いた。

「県外の方からすると『前橋ってどんなところなの?』と、まだ強い印象はないかもしれません。でも今、前橋は本当に面白いまちへと変わりつつあります。一度足を運んでもらえたら、きっと『来てよかった』って思ってもらえるはずです。群馬県というと、温泉や登山など自然のイメージがどうしても強いのですが、実は『まちで過ごす』楽しみ方があるんです。二度、三度と継続して訪れてくださる方は、その魅力に気付いてくれた人たち。そうした方が、『前橋いいよ!』って周りに伝えてくれるだけで、十分嬉しいですね」


2025年11月にオープンした「hengeni」は、教員免許を持つ金山さんご夫婦が営む書店と“現代の寺子屋”、そしてオリジナルジュエリーのアトリエが同居した唯一無二の施設だ。定額制のサブスク感覚で通える学び場では二人が講師を担い、小中学生の学習を支援している。

前橋市に興味を持つ方へのメッセージ

田中さん カフェやカレー屋さん、独立系書店など、街なかには個人で営むローカルショップが少しずつ増えてきました。実際に店主たちと話していただくと、まちの勢いが実感できて、きっとまた前橋に来たいと思っていただけるはずです。また、前橋の中心街で「何かやってみたい」と思った時は、その一歩を後押しするお手伝いもしています。ぜひ、前橋市のにぎわい商業課まで気軽にお問い合わせください!


マチスタント

「マチスタント」は、前橋市産業経済部にぎわい商業課に属し、前橋市中心市街地にある複合施設「前橋プラザ元気21」を拠点に活動。中心市街地の空き家や遊休不動産の実態調査を行いながら、「まちなかで何かをやってみたい」と考える人の相談に寄り添い、物件とのマッチングや必要なサポートを行う。開業に関する各種補助制度の案内や相談にも対応。現場を走り回りながら人と場所をつなぎ、前橋のまちに新しい動きを生み出している。

群馬県前橋市本町2-12-1 前橋プラザ元気21 1階
電話:027-210-2188(前橋市役所産業経済部 にぎわい商業課 商業振興係)
営業時間:平日9時〜17時
インスタグラム:@machistant


群馬とつながる情報はこちらから

人気記事

新着記事