高崎市は、古くは中山道の宿場町として賑わい、現在も約37万⼈の人口を抱える群馬県最大の都市だ。上越・北陸の2つの新幹線が乗り入れ、関越・上信越・北関東の3つの高速自動車道が交差する交通の要衝でありながら、市内からは上毛三山を望み、中心部を一級河川の烏川が流れるなど、自然を身近に感じることができる。
旧中山道沿いに、地域と旅人をつなぐ2つの宿がある。「高崎ゲストハウス&カフェ さんぽ屋」(以下、さんぽ屋)と「KARASUYA GuestHouse」(以下、KARASUYA)。高崎というフィールドを舞台に、オーナーの二人はどのような思いでこの場所をつくり、このまちとの“関わりしろ”を広げようとしているのか。その胸の内に迫った。

群馬県高崎市出身。大学卒業後、高崎市役所に入庁。移住担当部署での実務を通じて、地域と旅人・移住者をつなぐ交流の場をつくることを決意。2022年、倉賀野町にカフェバー「さんぽ屋」を開業し、翌年にゲストハウスもスタート。カレーやビール、ランニングを絡めたイベントを次々と企画。さまざまな切り口でまちに新しい賑わいを生み出している。

群馬県高崎市出身。高崎経済大学在学中にドイツに留学し、世界30カ国を巡るバックパッカーの旅を経験する。大学卒業後は旅行会社やIT企業などで営業職に従事。2024年、高崎駅西口から徒歩8分のあら町に宿泊施設「KARASUYA GuestHouse」を開業。旅の知見を活かし、地域に根差した交流の場づくりに取り組んでいる。
高崎に新風を吹かせる宿主、それぞれの活動の原点
「さんぽ屋」を営む永田和也さんと、「KARASUYA」を営む野村敬祐さん。同じ高崎市出身の二人だが、歩んできた道は対照的だ。永田さんは元高崎市役所職員という公務員の経歴を持ち、野村さんは学生時代の海外放浪を経て、IT企業や旅行会社などでキャリアを重ねてきた。しかし、「自分の手で、人が交わる場所をつくりたい」という思いは前々から共通していた。
永田さん「高崎市役所では移住・定住支援などに携わりました。起業を考えたきっかけは経済産業省に1年間出向した際の経験です。そこでまちづくりに関わる人たちに出会い刺激を受けました。行政職員として支える立場から、『自分もプレイヤーになりたい』という思いが芽生え、カフェを併設したゲストハウスを開こうと決意しました」
実家近くにあった元薬局の建物を改装して、2022年12月にカレーとクラフトビールをメインで提供するカフェバーを開業。翌年には2階でゲストハウスもオープンした。地域の魅力発信をコンセプトに、地元の人と宿泊客が自然に交わる場を目指して活動を続けている。

「地元ではゲストハウスというよりも、カレー屋だと思われているかも(笑)」と永田さん。
一方の野村さんは、大学在学中にドイツに留学。その時にゲストハウスを渡り歩きながら、ヨーロッパをはじめ世界各地を旅した。
野村さん「約30カ国を巡る中で、自分の価値観が大きく揺さぶられる出会いがたくさんありました。自分もいつか、そんな場所をつくりたいと思ったんです」
帰国後は会社員として約10年間働き、30歳で独立。元酒屋の建物を仲間たちと改修し、2024年12月にゲストハウスをオープンした。
野村さん「屋号の『KARASUYA』は、『カラスのように自由に過ごせる場所にしたい』という思いを込めたものです。ここでの体験が、ゲストの世界を少しでも広げるきっかけになればうれしいですね」

大学在学中は、まちづくりについて学んでいたという野村さん。
ゲストハウスでの出会いが、人生を見つめ直すきっかけに
同じ高崎のまちにありながら、二つの宿に集まる人の顔ぶれには、少し違いがあるらしい。
永田さん「『さんぽ屋』の宿泊客は首都圏だけじゃなくて、関西や東海方面から来るお客さんも。中には、中山道めぐりの途中で宿に立ち寄る方もいます。日本人が多くて、年齢層は幅広いです」
野村さん「うちは逆に、僕と同世代のお客さんが大半ですね。日本人と外国人はだいたい半々くらいです。バックパッカーばかりじゃなくて、高崎アリーナのイベントが目的で泊まるお客さんも。ゲストハウスに泊まるのが初めてという人も少なくありません。あるいは、高崎にお気に入りの店があって、度々うちの宿に泊まりに来てくれるお客さんもいます」

(さんぽ屋)こだわりの内装に心地良いBGMが流れるカフェバー。

(さんぽ屋)カレーと一緒に豊富な種類のクラフトビールが楽しめる。

(さんぽ屋)必要な設備が揃った明るい雰囲気の2階の共有リビング。

(さんぽ屋)プライバシーにも配慮した女性専用ドミトリー。
住んでいる場所も年齢もバラバラな人々が同じ屋根の下で過ごすからこそ、印象的な場面が生まれることも少なくない。二人の心にも、そうした瞬間がいくつも刻まれているという。
野村さん「ある女性は、『いままでやりたい気持ちを抑えていたけれど、私は絵の道に進みます』と、宿泊日記に思いを記してくれました。そんなきっかけをつくれていると思うと、ゲストハウスをやっていて良かったなと感じます」

「KARASUYA」の宿泊日記。
永田さん「同感です。誰かの背中をそっと押せるような場所でありたいですよね。今、うちのカフェで提供しているコーヒーは、初めはお客さんとして来ていた若者が焙煎している豆なんです。いつか自分のお店を開きたいという夢があって、応援したいという気持ちで仕入れています。
もう一人印象深かったのは、仕事の転勤で高崎に住んでいた大阪出身のお客さん。毎日のように食べに来てくれて、イベント出店の時は手伝ってくれたりもして。転職して故郷に帰ってしまったのですが、その時に感謝の手紙をもらって、『永田さんとの出会いが人生を見つめ直すきっかけになった』と。彼とはいまでも交流があって、こちらから大阪に遊びに行ったり、向こうが年に1回泊まりに来てくれたりしています」
野村さん「ゲストハウスが他のお店やホテルと根本的に違うのは、一夜を一緒に過ごせることだと思うんですよね。うちの宿では、ゲストがお酒を持ち寄って夢を語り合うこともあります。その中でいろいろな刺激や気づきがあって、来た時とは違う心境で旅立っていかれます。その後も連絡を取り合ったり、また宿に戻ってきてくれることもある。そこがゲストハウスの面白さだと思います」

(KARASUYA)旅人同士や地域の人との出会いが生まれるラウンジ。
(KARASUYA)宿泊客が描いたカラスのイラスト。

(KARASUYA)旧中山道に面する広々とした2階の洋室。

(KARASUYA)マットレスの寝心地にもこだわった定員4名のドミトリー。
都会と自然、そのあいだにある高崎の心地よさ
二人に高崎の魅力を尋ねると、そろって返ってきたのが「バランスがいい」という言葉。中心市街地の賑わいと、そこから少し離れれば広がる豊かな自然。都市と田舎、便利さと落ち着き。その両方を併せ持つ幅の広さこそが、高崎の持ち味だという。実際にどんな楽しみ方ができるのか、二人に教えてもらった。
永田さん「まちなかのカフェでマスターと話したり、一人で川べりを散歩したり。いろいろな過ごし方ができるのが高崎の良さです。住むにも落ち着いた環境で、アクセスの良さも抜群ですね」
野村さん「そうそう、高崎ってちょうどいいんですよ。うちの宿は駅まで徒歩8分、烏川までも8分で行ける。同じ距離で、都会と自然の両方を味わえるのは魅力です。東京駅から高崎駅までは新幹線を使えば50分で行けますが、ここはあえて在来線をすすめたいです。約2時間かかりますが、車窓を眺めていると高層ビル群からだんだんと街並みが変わっていって、ちょっとした旅情を味わえますよ」
永田さん「高崎は観光地というわけではないから、なかなか来る機会が少ないかもしれない。それに、このまちの本当の良さは、しばらく滞在してみないと分からないものです。いま、この建物の3階を自分で改装していて、お試し住宅として長期滞在ができる空間にする予定です。ここで長期間過ごしてもらえば、暮らしやすさとか地域の人の温かさとか、高崎の魅力を感じてもらえるはずです」

「さんぽ屋」の屋上から望む倉賀野の街並み。
未完成だからこそ、関われる余白がある
ゲストハウスやカフェという場を通して、訪れる人と地域を結びつけてきた二人。「高崎には、新しい人を受け入れる開かれた風土がある」と口を揃える一方で、このまちは地域の担い手不足という課題も抱えている。けれどもそれは、見方を変えれば外から来た人が地域に関わる余地があるということでもある。最後に二人が語ってくれたのは、高崎のこれからについてだ。

互いの店を行き来して情報交換をしているという二人。
永田さん「自分は倉賀野の山車太鼓保存会に参加しているのですが、僕らの代が継承しないと伝統が途絶えてしまうという危機感があります。以前、日本の伝統文化に興味がある海外からの宿泊客がいて、一緒にお祭りに参加してもらったことがありました。本人だけでなく、地元の人たちも倉賀野の文化に興味をもってもらえたことに、とても喜んでいました。この辺りは宿場町だったこともあってか、外から来た人にもオープンな雰囲気がある。うちの店がハブになって、地域との架け橋になれるといいです」
野村さん「僕も高崎のオープンな雰囲気を感じています。ゲストハウスを始める前は、きっと地域の人からの反発もあるだろうなと予想していたんです。でも実際は、すんなりと受け入れてくれて拍子抜けしました(笑)。内装の改修の際には地元の人が手伝ってくれたり、差し入れを持って来てくれたりもして、懐の深いまちだなと。高崎駅の周辺にはこだわりをもった個人店も多いので、うちに泊まったお客さんの興味や趣味に合わせて、おすすめのお店を紹介しています。お気に入りのお店を見つけて、何度か足を運んでもらえれば、まちに溶け込みやすいと思います」

「さんぽ屋」の店内の棚には、他の個人店の名刺がたくさん置かれている。
永田さん「高崎は個人店同士の仲が良く、お互いの店を紹介し合っています。倉賀野の通りにもっと個人店が増えて、この地域に住んでいる人が楽しめて、外からも人が集まるようになるといいなって。そのために、ここでお店を開きたいという人をサポートするための組織づくりを進めているところです。地元の不動産屋や建築士と協力して、空き家活用や開業などの相談にワンストップで応えられるような仕組みを構想しています。住みたいまちは自分でつくらないとね」
野村さん「めっちゃいい話ですね。僕の宿では次の旅の入り口となるようにきっかけを提供していますが、もう一歩進んで、ゲストには次の行動につなげてほしいと思っています。宿では1階部分で場所貸しをしていて、これまでに古着を売ったり、ワークショップを開いたりする人も。店の一角には弟のコーヒー豆の焙煎コーナーもあります。何かを始めてみたい人に、『好き』を形にする場所として使ってほしいです。そうした挑戦をすることで、まちの当事者になっていくのだと思います」

「KARASUYA」のラウンジの一角をレンタルスペースとして開放。「こんなことをやってみたい」という人が気軽に作品などを展示したり、販売できるようにした。
高崎市に興味を持つ方へのメッセージ
永田さん 首都圏から気軽に訪れることができ、高崎ならではのカルチャーと自然の両方を味わえるのが、このまちの魅力。そして何より、この地域を面白くしているのは、思いを持って活動する人たちの存在です。高崎に惹かれて移住し、お店を始める人も少しずつ増えています。そこには新しい風が吹いていて、何かを始めたい人の背中をそっと押してくれるはずです。
野村さん 都会すぎず、かといって田舎すぎもしない高崎は、外から来る人を迎え入れる間口がとても広いと感じています。まずはゲストハウスに泊まり、ゆっくりまちを歩いてみてください。きっと思いがけない出会いや気づきが待っています。
高崎ゲストハウス&カフェ さんぽ屋
中山道の宿場町として栄えた倉賀野の街並みに溶け込むゲストハウス&カフェ。宿泊はドミトリー形式で、男女混合と女性専用の部屋があり、個室での利用も可能。同じフロアにシャワー室やトイレ、キッチンを備え、居心地の良い共用リビングでは旅人同士の交流が生まれる。1階のカフェバーでは、こだわりのスパイスカレーや種類が豊富なクラフトビールを提供。周辺には倉賀野神社や大鶴巻古墳、倉賀野緑地公園など、歴史や自然に触れられるスポットが点在し、歩いてめぐれば旅の楽しみが広がる。
群馬県高崎市倉賀野町1214
ホームページ:https://www.sunpoya-takasaki.com/
E-mail:gh.sunpoya2022@gmail.com
インスタグラム:@sunpoya_takasaki

KARASUYA GuestHouse
高崎駅西口から徒歩8分のあら町に建つ2階建てのゲストハウス。築51年の酒屋だった空き家を仲間と共に改修し、新たな旅の拠点としてリニューアル。1階のラウンジは旅行者と地域の人が気軽に集える場で、オーナーが旅先で訪れたゲストハウスから得たインスピレーションを活かし、非日常的な空間を演出している。館内にはかわいらしい「カラス」のオブジェが点在し、遊び心が満載。また、本棚には多彩なジャンルの書籍が並び、滞在中にゆっくり読書を楽しむこともできる。2階は宿泊フロアで、ドミトリー、洋室、和室の3つの客室を備え、個人旅行からグループ利用まで幅広く対応。
群馬県高崎市あら町5-2
ホームページ:https://www.karasuyagh.com/
E-mail:karasuya023@gmail.com
インスタグラム:@karasuya_gh
