コロンビア人シェフが常陸太田ひたちおおたで叶えた夢
自然豊かな里山で至高の料理と子育てを実現

茨城県の県北地域に位置する常陸太田市。その中心部から、里山を巡る道を車で走ること30分。緑に囲まれた交差点の角地に見えるのが、イタリア料理店「楽生流(ラウル)」です。かつて農家の精米所だった木造の倉庫を改装した店舗には、イタリアやコロンビアの国旗が掲げられ、素朴な田園風景にエキゾチックな彩りを添えています。

このお店を経営するのは、コロンビア人シェフのラウル・ピネダさん。2019年に妻の奈巳さんと子どもたちと一緒に、東京から常陸太田市に移住してきました。


明るくエネルギッシュなラウルさんと、おおらかに支える奈巳さん。

この地域は奈巳さんにとってはお母さまの故郷でもあります。環境をよく知っていたこともあり、「こんな田舎にお客さん来るの?」と当初は不安だったといいます。

しかし、下見に訪れたラウルさんの目に映った風景は、まさに理想そのものでした。

「この倉庫を店舗に改装して、納屋は食材の貯蔵庫に。敷地には2階建ての家もついていて、広々とした駐車場も確保できる。お客さまをたくさんお迎えできるうえ、子どもたちも自然の中でのびのびと育てられる。そんな未来のイメージがぱっと頭の中に描けたんですよね」

ラウルさんは流暢な日本語で当時を振り返ります。


里山の田園風景の中に立つ、イタリア料理店「楽生流」。精米所を改装した店舗は、木造の趣をそのまま生かして、この土地の風景に馴染む佇まいに。

東京を離れ、家族のために選んだ常陸太田市での新たな暮らし

ラウルさんはコロンビアの首都、ボゴタ出身。台所でお母さまのお手伝いをするうちに料理に興味を持ち、21歳でイタリアへ渡り修業を開始。5年間各地のレストランで腕を磨いた後、スペインでも経験を積み、料理人として成長しました。


オープンキッチンで調理の様子を見せることで、お客さまに料理の楽しさや臨場感を味わっていただくことを大切にしています。

その後、日本で働く兄のもとを訪れたラウルさんは奈巳さんと出会い、2011年に結婚。東京でフードサービスの大手企業に就職し、飲食店のマネジメントスキルを習得すると、外食産業の会社に転職し、一等地の店舗運営も任されるまでになりました。

来日当初は言葉もわからず、「まるで赤ちゃんみたいだった」と笑うラウルさん。子どもが生まれてからは一緒に日本語を覚えていき、今ではペラペラに。母語のスペイン語に加え、イタリア語、英語、ポルトガル語、日本語と、5か国語を自在に使いこなすマルチリンガルです。

その頃は休みは週に1日だけで、朝から晩まで店で働く生活が続きました。仕事をしていた奈巳さんとも顔を合わせる時間がほとんど取れなかったそうです。

「息子たちが成長するにつれて、東京よりもっと環境のいいところで育児したいと思うようになったんです」とラウルさん。そうして移住先を検討していた際、偶然出会ったのがこの常陸太田市の物件でした。


木造の小屋組みを現した広々とした店内。温かみのある木の空間を、ナポリのイタリアンレストランをイメージしたインテリアが彩ります。

ここには理想の料理店を追求できる環境がある

半年かけて1階部分をレストランに改装し、オープンしたのは2020年3月20日のこと。初めの1年は金曜日と土曜日のみ営業し、それ以外の日は東京での勤務を続けて資金を貯めていきました。「常陸太田なら東京まで通うことも可能です。でも、365日働くことになったので、とても大変でした」と苦笑しながら振り返るラウルさん。


建物の外にはテラス席も。冬場はビニールカーテンで防寒。

集客の課題については、ラウルさんが東京で培った広告・宣伝のノウハウを生かして近隣にぬかりなく周知。なによりも「こんなところに飲食店ができるの?」という地元の方々の期待感が口コミで広がり、予約はすぐにいっぱいになりました。

2年目からは営業日を週4日に増やし、現在は週6日営業しています。

多くのお客さまを惹きつけているのは、コロンビア、イタリア、スペイン、日本でラウルさんが習得してきたオリジナルのメニュー。茨城県産の新鮮な食材と海外や県外から取り寄せた高級食材を融合させるのがラウル流イタリアンです。「特に常陸太田市はおいしい野菜が豊富なので、地元の新鮮な食材を生かすよう心がけています」(ラウルさん)

イタリアと茨城県産の小麦粉をブレンドしたピザは、もちもちとした食感が魅力。チーズは日本人好みの風味のものを厳選し、市内の「ひたちおおたチーズ工房」で手作りされているモッツァレラチーズも使用しています。近隣の農家とも提携して、有機野菜をふんだんに取り入れることで、より一層おいしさを追求しています。


本格的な石窯で焼くピザは「楽生流」の名物料理。


新鮮な地元の野菜を使ったサラダも人気。

さらに、1~2週間に1回は新メニューを開発し、リピーターを飽きさせない工夫を続けています。

「定休日に東京に足を運んで料理のトレンドの情報収集や、仕入れ先との打ち合わせをしています。日帰りで行き来できる距離なので助かります」(ラウルさん)

開業当初は、ラウルさん、奈巳さん、奈巳さんのお母さまの3人でお店を切り盛りしていましたが、現在では従業員が10人に増え、昨年にはアルバイトから正社員への登用も実現しました。

「料理がおいしいのは当たり前。当店はお客さまへのホスピタリティを大事にしています。慌ただしい雰囲気の東京と違って、ここではゆったりとした気持ちで料理を楽しんでほしいですね。料理は心を込めることが大事。お客さまは家族のようにもてなす。スタッフ全員がその姿勢を大切にしています」

マイペースだけれども、着実に。常陸太田という土地ならではの料理、接客、店舗のスタイルを磨き続け、理想のレストランを追求するラウルさんの挑戦は、これからも続いていきます。


和気あいあいとした雰囲気のスタッフの皆さん。

地元のみなさんとは顔なじみ。地域全体で子どもを見守ってもらえる

ラウルさんと奈巳さんの子どもたちは、中学生、小学生、幼児の3人兄弟。「みんな男の子で暴れん坊。毎日賑やかです(笑)」とラウルさん。「周りは自然がいっぱいなので、その辺で遊び回っています。長男はまだ虫が苦手ですが、下の2人はすっかり慣れたようです」と奈巳さんも笑顔で話します。

都内で暮らしていた頃は、子どもが大声を出すたびに周囲に気を遣い、窮屈な思いをしていましたが、常陸太田市に移住してからは親も子ものびのびと過ごせるようになりました。さらに、地域の方々とのつながりも深まり、家族にとって大きな支えになっているといいます。

「学区の皆さんはほとんど顔なじみで、地域全体で子どもたちを見守っていただいているような感覚があり、とても心強いです」と奈巳さん。

「移住してきたころは、『シャイな人が多いのかな』と思っていましたが、仲良くなると一気に距離が近づきました。玄関の呼び鈴を押さずに『野菜持ってきたよ』とそのまま入ってくるなんてことも(笑)。ちょっとびっくりしたけれど、すぐに慣れました」とラウルさんも地域の人たちとの交流を楽しんでいるようです。


飾らないふたりの人柄がお店の雰囲気を暖かいものにしています。

店舗と一緒に購入した2階建ての住宅は完全分離型の2世帯住宅の間取りだったため、空いている2階を活用して民泊も始めました。

「昨年は都内の中学生を受け入れて、農業や調理を体験してもらいました。収穫した野菜をそのまま料理に使うというのは、都会ではなかなかできない貴重な経験ですよね」(ラウルさん)


お店を通して地域が盛り上がることを目指すラウルさんの頭の中には、まだまだやりたいことがいっぱい。

家族と穏やかに暮らす喜び、心身を癒やしてくれる豊かな自然、そして理想の料理を追求できる仕事場。常陸太田市に移住したことで、ラウルさんと奈巳さんは得がたい環境を手に入れ、充実した日々を送っています。

「こんなに素晴らしい場所があるんだということを、もっと多くの人に知ってほしい。たくさんの方に訪れてもらいたいですね」(ラウルさん)

生まれた国から遠く離れた地球の裏側で、もうひとつの故郷をつくろう。ラウルさんは奈巳さんと子どもたちとともに、そんな奮闘を続けています。

取材・文:渡辺圭彦 写真:内田麻美


常陸太田市へ移住するなら!【移住のススメ】

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