山梨県の北西部。甲府盆地の左上に位置する人口約3万人弱のコンパクトシティ・韮崎(にらさき)。2018年に町のシンボル的存在として親しまれた名物ビル「アメリカヤ」がリノベーションによって復活を遂げると、周囲にも空き店舗を活用したショップやカフェのオープンが相次ぎ、リノベーションタウンとして知られるようになりました。
その火付け役となったのが、「空き店舗ツアー」の発起人・イロハクラフト。彼らが展開するリノベーションの活動は、行政を巻き込んで町全体に広がり、現在では「空き店舗ツアー」も韮崎市商工会が主体となってイロハクラフトと韮崎市の3者が連携をとって行うイベントに成長。毎年、募集開始すぐに募集定員に達する人気ぶりを見せています。
今年も、韮崎駅前商店街の空き店舗やテナント、そして実際に空き店舗をリノベーションして起業した先輩移住者のお店を丸一日かけてめぐる人気ツアー「空き店舗ツアー」に密着!その様子をさっそくお届けします。
駅前商店街、18軒の店舗・テナントをめぐる
9月7日。残暑厳しい甲府盆地に集まったのは、韮崎市への移住や起業を検討している方はもちろん、リノベーション建築を学ぶ学生やリノベーションによるまちづくりに興味を示す市役所職員の方など、総勢38名。今回も、前回同様イロハクラフトのナビゲートでA班・B班の2班に分かれて街歩きを開始します。
編集部が密着したA班がまず訪れたのは、長野県出身の店主が2022年に空き店舗をリノベーションして開業したクラフトビールと自家製燻製料理のお店「TAP8」。東京・虎ノ門でクラフトビアバーの店長として働いていたという店主の柳沢さんがIターンで開業した人気店です。開業予算をなるべく抑えるべくDIYを積極的に取り入れたリノベーションを行ったそう。
「韮崎市を選んだ理由は、町の雰囲気が気に入ったことと、知らない町でゼロから挑戦することを面白そうだと思ったこと。店舗づくりは経費削減と自分のこだわりを突き詰めるために、プロの大工さんに教わりながらではありますが、半分以上DIYを行いました。やっていくうちに、最後は自分で天井の板張りまでできるようになっていましたね。開業から2年、リピーターさんや常連さんも少しずつ増えて、軌道に乗ってきたと感じています」(柳沢さん)
その後、取材当日にちょうど5周年を迎えた「アメリカヤ横丁」に移動します。「アメリカヤ横丁」は今にも取り壊されそうだった築70年の長屋をリノベーションした“古きよき昭和”が残る店舗群です。「昭和をそのまま残したかった」と、リノベーションは衛生面や構造面を中心に。工期中4ヶ月で店舗をすべて埋めて華々しく再始動させました。
「昭和を知らない若い世代が古い建物を生かした姿に興味を持ってくれていると感じます。うちはラーメン居酒屋ですが、ほとんど回転しません(笑)。建物の面白さのおかげで、お客さんに長居をしてもらえる店になっています」(藤桜店主)
続いて商店街に出ると、かつては宝くじ売り場だった駅前の角地「チャンスセンター」へ。3年前に入居した女性オーナーが雑貨店・イベント&ワークショップを運営するスペースとなっています。
「3年前、韮崎商店街活性化の取り組みを聞いて『自分にも何か貢献できることはないか』とショップをオープンしました。ここは駅前から商店街につながる角地ですから、ここが常に明るい状態であることが大切だと思いました」(チャンスセンター・オーナー)
チャンスセンターと同様に、町のためにとスペースの貸し出しを検討しているのが「アトリエボンジュール」という名のアパレルのお店。昭和レトロが香る特徴的な外観の綺麗な状態の3階建てのビルを、フロアごとに貸し出しを予定しているそう。「ショップや事務所としての利用はもちろん、居住用としての利用も考えることができそう」と参加者たちは見学を楽しんでいました。
ツアー隊は、第一回目の「空き店舗ツアー」で町を見学し、移住を決めたという先輩オーナーが営む店「PEI COFFEE」へ。オープンから4年、店舗改装時の話や現在の客足について赤裸々に話を聞かせてくれるオーナーの話に、参加者たちは真剣に耳を傾けていました。
続いては、鉄筋コンクリート造3階建ての「恵比寿屋」を見学。空きビルとなったこの建物を買い取ったのが、地元で設計事務所を営む小泉さん。小泉さんは畳50帖の大宴会場があったという3階部分を住まい空間にリノベーションし、ご夫婦で入居されています。
午前のラストは洋服の仕立て屋だった店舗をリノベーションした「parfait tokidoki」と昨年のツアーでも見学を行った木造2階建ての文具店「五味文具店」を見学。その後、こちらも「空き店舗ツアー」からの縁で移住&起業を果たしたオーナーの店「SEI OTTO」で昼食です。B班は2022年に空き店舗をリノベーションして起業した「koti」にて昼食をとりました。
それぞれに目的を持って韮崎市に集まった仲間同士で交流を楽しみながら昼食を済ました後は午後の部。埼玉から移住してきたご夫婦が築100年以上の空き店舗を自分たちでリノベーションして営むカフェ「Daughter」や、地元食材を中心とした料理店「koti」、今年2月にオープンした洋菓子店「石田西洋菓子店」では先輩移住者に話を聞かせていただきました。
「ガラス張りの外観を気に入って店舗を決定しました。内装はほとんど自分たちでDIYをして仕上げています。オープンしてからは徐々に顔馴染みになれるお客さんが増え、町に馴染んできたことを感じられるのが嬉しかったです」(Daughter 店主)
「韮崎市に移住をしたのは27年前。お店をオープンするきっかけは、東京のイタリアンでシェフをしていた息子のUターンでした。開業は手持ちの資金でできるように、可能な限り自分たちでDIYもしています」(koti 店主)
「韮崎市を選んだ背景は、検討していた他のどの町よりも、町の人たちが協力的だったこと。店舗も内装もあれよあれよと決まって、迅速にお店を始めることができました」(石田西洋菓子店 店主)
石田西洋菓子店は、昨年のツアーでも参加者たちを驚かせた不思議な空間「サスヨ」のもっとも通り側に位置するお店。オーナーの話を聞いた後は、建物の奥へと進んでいきます。中には古くて雰囲気のあるお蔵、一番奥に木造の古い家屋が建ち並び、ともに空き店舗。「想像力を刺激する」という参加者の声も聞こえました。
ツアーは残り2つ。昨年の「空き店舗ツアー」で紹介した空間に誕生した新店舗「清水金七商店」と、昨年の参加者が移住してオープンを叶えたリラクゼーションサロン「KOHOLA HOLISTIC」を見学します。
「韮崎市内でガソリンスタンドを経営するシミズヤの新規事業を検討している中で出会ったのが空き店舗になっていたこちらの空間でした。『清水金七商店』はコストコの再販店。本業であるガソリンスタンドもすぐそばにありますので、相互に経済効果が働けばいいな、と考えています」(清水金七商店 オーナー)
「昨年のツアー参加時に店舗を決定することはできませんでしたが、町に対して強い好印象を持ち帰りました。もう一度、ここで探してみたいと商工会の方にコンタクトをして、紹介していただいたのがこちら。念願の路面店を叶えることができました」(KOHOLA HOLISTIC オーナー)
韮崎名物「アメリカヤ」でのトークイベント
15時すぎ、すべての店舗見学を終えた参加者たちは「アメリカヤ」へ。本日のツアーの締め、「アメリカヤ・トーク」が始まります。
イロハクラフト代表・千葉さん
「2018年にアメリカヤをリノベーションさせていただいてから6年。空き店舗が目立っていた駅前商店街にどんどん新しいお店が入り、とても嬉しく思っています。アメリカヤは僕らの世代にとって高校時代にずっと目にしていた建物で、町のシンボル的存在。空き家になってしまったことを「どうにかしたい」という思いでリノベーションを行いましたが、想像以上の反響をいただき、雑誌などにも何度も取り上げていただきました。今思うと夢を見ているようでしたね。こんなに喜んでもらえるなら、リノベーションでもっとできることをやっていこう、と今日見学した『アメリカヤ横丁』につなげ、商店街の空き店舗リノベーションにつながっています。実は、今日紹介した空き店舗は、不動産情報を検索しても出てこないところばかり。市役所と商工会、そして僕らのような民間企業が密に連携をとっている韮崎市ならではの特徴ですね」
先輩移住者である井上さんからは、移住に関するリアルな声を聞くことができました。
おけたく指圧院・井上さん
「東京・品川から5年前に移住しました。古民家を改装して、カフェ兼整体を営んでいます。移住のきっかけは、古民家暮らしに憧れていたことと、東日本大震災で都会のリスクを感じたこと。と、言いつつ「なんとなく」という部分も大きいです(笑)。山梨に縁もゆかりもない家族の移住でしたので、なるべく計画的に。とても助かったのは、韮崎市の人たちがとてもいい人で、人と人をどんどん繋いで移住・開業をとてもスムースにしてくれたことですね」
その後も市役所のプレゼンターが町のことを聞かせてくれたり、観光について教えてくれたり、商工会スタッフからは起業支援や新規事業サポートなど、補助金周りの説明が続き、参加者たちは熱心に耳を傾けていました。
ツアーを終えて
ツアーの開催日は、ちょうど「アメリカヤ横丁」5周年の日ということで、横丁で乾杯!アメリカヤ・トークのあとに5周年記念イベントとして交流会が行われました。
第三回目となった今回も大盛況。毎年恒例となった「空き店舗ツアー」は、市役所の観光課や移住支援センター、そして商工会と地元企業・イロハクラフトの三者連携があってこそ。他県の自治体職員が企画の見学に訪れていることや、学生の参加があることがイベントの完成度の高さを物語っているのではないでしょうか。
韮崎市の魅力に触れた参加者からは以下のような感想が寄せられました。
・「行政や商工会、民間企業など、商店街全体でもっと良くしていこうと、皆さんが同じ方向を向いて力を合わせているのがとても良く伝わって、他の市町村にはない魅力を感じました」
・「起業を検討していましたが、今回のツアーを通じて、より前向きな気持ちになれました」
・「多くの方が夢を実現している、官民のサポート体制が素晴らしい街だと思いました」
これらの言葉から、「韮崎市なら夢を実現できるかもしれない」、そんな思いが感じられました。
参加者と空き店舗のマッチングもさっそく生まれていた様子。韮崎市に、次はどんな新しいコトが生まれるのか。リノベーションタウン・韮崎からまだまだ目が離せません。
韮崎市商工会やアメリカヤでは、今後さらなる地域活性化に繋げるため、空き店舗情報の調査を進めているそうです。市内空き店舗の活用を検討 している方は、ぜひ相談してみてはいかがでしょうか。
【韮崎市の支援制度については下記をご覧ください】
⚫︎韮崎市起業支援補助金
https://www.city.nirasaki.lg.jp/soshikiichiran/shoukoukankouka/shokoroseitanto/7/1670.html
⚫︎にらさき移住定住ポータルサイト
http://nirasaki-iju.com/
【お問い合せ先】
韮崎市商工会 経営支援課
TEL:0551-22-2204
Mail:info@nirasaki.or.jp
https://nirasaki.or.jp/