移住とは、住む場所を変えるだけではない。
仕事や暮らしなどのライフスタイル、人とのつながり、考え方や価値観……新しい土地への移住は、多くの新しい出会いをも与えてくれる。
では、倉敷に移り住んできた人たちは、ここでどんな出会いや変化があったのだろうか。
第2回は、倉敷発のアパレルブランド「くらしきぬ」で広報を務める佐藤 文子さんにお話を伺った。
〜佐藤さんにQ&A〜
Q.「倉敷に来て、知ったことは?」
A.「自分で生み出す楽しみを知りました!」
与えられたものを消費する暮らしから、好きなものや場所を生み出す暮らしに
「ここからの景色、すごくきれいだと思いませんか?」
普段からよく訪れているという、児島の宿泊施設「DENIM HOSTEL float」でのインタビュー。見慣れているはずなのに、児島の景色はいつも新鮮な感動をくれる、と佐藤さんは言う。
「瀬戸内の海って毎日色が変わるから、本当に見ていて飽きないんです。特に王子が岳山頂から見る景色が絶景で、モヤモヤすることがあっても、自然のなかを登っていってその景色を目にした瞬間、心がスーッと晴れていくんです。この海に一目惚れして、倉敷への移住を決めました」
「ずっと見てきた日本海や関東の海とは、色が全然違う!」と佐藤さんが衝撃を受けた児島の海
もともとは都心にある大手のPR会社でバリバリと仕事をこなしていた佐藤さん。最新のトレンドを消費し、有名人が使っているコスメを真似して買い、新しいお店ができれば欠かさずチェック。週末は銀座でウインドウショッピングをして、映画を見て、夜は友人と飲みに行く……当時はそれが当たり前の遊び方だと思っていた。
「本当は何が欲しいのかなんてわかっていなかったので、楽しそうだと感じたものにはすぐに飛びついていました。刺激に溢れた東京を満喫できて、あの頃はあの頃で最高に楽しかったなと思います。」
そんな彼女が今、倉敷でどんな暮らしを送っているのかというと。
「休みになると家にこもって本を読んだり、児島に来て自然のど真ん中に入り込んだり。ここ(DENIM HOSTEL float)に来ると友達が集まってることも多いんで、お喋りしながらランチをしたり。昔みたいな『あれもこれも欲しい!』っていう物欲はなくなって、心から気に入ったものだけを選んで大事に使う幸せを知りました」
与えられるものを消費することに精一杯だった東京での暮らしより、自分で楽しいことや好きなものを選び取る今の生活は、等身大でとても心地いいそうだ。
「とはいえ、もちろんすべてがいいことばかりじゃないですよ。倉敷って東京に比べるとどうしても流行が入ってくるタイミングが遅いので、PRという仕事柄、自分はそれでいいのかな、と不安に思うこともあります。街で目にする広告の量も全然違うから、久しぶりに東京に行ったら大量の車内広告にクラクラしちゃったり(笑)。
でも周りを見てみると、倉敷ではそういう環境が当たり前なんですよね。流行に振り回されず、地に足をつけて、自分と周りの人たちの幸せを1番に考えて暮らしている。どちらがいいとかではないんですが、どちらの価値観も知って、自分の中でのバランスを探っているところです」
「倉敷に住みたい!」からスタートした移住で、求めていた仕事と出会う
美観地区にある「くらしきぬ」本店にて、商品をチェックする佐藤さん
佐藤さんが初めて倉敷を訪れたのは、2020年3月。
「きっかけは、コロナ禍で前職がリモートワークになったこと。環境がガラリと変わり仕事量が増え、心身ともに疲弊しきっていました。同僚とする何気ない雑談が大好きだったので、人と会わない生活スタイルも私にとってはかなりしんどかった。
瀬戸内は以前旅行で来たときに『こんなに美しい海が日本にもあるんだ』ってすごく印象に残っていたんです。それで、あの海に癒されよう!と」
そうしてたまたま訪れたのが、このDENIM HOSTEL float。児島の景色とここに集う人たちにすっかり魅せられた佐藤さんは、約1週間の滞在中に移住を決意し、就職活動まで始めてしまう。
「滞在中に今の会社に応募して、東京に帰ってからオンラインで面接をして、2週間後には内定をもらって。その日のうちに前の会社に退職の連絡をしたら、あまりの思い切りのよさに、上司は怒るどころか爆笑してくれました(笑)ありがたいですよねぇ。」
さらに、転職先の社長が地元の不動産屋を紹介してくれたため、家探しもあっという間だったそうだ。当初は海の見える児島に住みたいと考えていたが、お酒を飲んで帰れないエリアだと友達が作りづらそうだと考え、会社にも近い倉敷駅周辺エリアに家を借りた。
佐藤さん自身も驚くほどすべてがスムーズに進み、旅行に来てから2ヶ月後には新しい暮らしを始めるスピード移住。現在は、素材にこだわった倉敷発のアパレルブランド「くらしきぬ」の広報を務めている。
佐藤さんが広報を務める「くらしきぬ」の店舗は、市内の美観地区にある
「移住を決めた頃、当時の仕事に違和感があって、転職するかすごく悩んでいました。というのも、代理店という立場では、どうしても自分がいいと思えないものも取り扱わなくてはいけない。私は全然いいと思っていないのに、それを人におすすめするのはどうなんだろう?って。ただ、会社のことは大好きだったのでなかなか踏み切れず、ずっと葛藤していました。
でも今の会社では生活や健康を大切にするアイテムを取り扱っていることもあって、お客様に対して誠実に向き合い“自分がいいと思えるものを届けたい”という気持ちで仕事をしている人が多いように感じます。私もそういう環境のなかで、心からお客様に自社の商品をおすすめできている。
もともとは倉敷に住みたいがために探した会社なのに、こんなにも自分にフィットした仕事に出会えて、すごくラッキーだなと思います」
自分がいいと思うものを信じ、心地よい場所をつくる。そんな友人たちのようになりたい
直感で決めた倉敷への移住は「今のところ大正解です!」と断言する佐藤さん。
「東京から何度か友達が遊びに来てくれたんですが、『岡山に来て、本当によかったねえ』としみじみ言ってくれる友達がちらほらいて。そのたび、離れていても幸せを願い合えている関係はかけがえないなと感じます。
今は、旅行で来て衝動的に移住を決めたときとは違う、住んでみて初めてわかるよさが倉敷にはあるな、と感じています。
まず、スーパーに並ぶお魚やお肉が東京で通っていたスーパーよりも新鮮な気がします(笑)。それに、美観地区や児島のような観光スポットもあれば、車をちょっと走らせれば自然もあって、街と自然のバランスがすごくいいんです。あと、数年前に真備という地区が大雨の災害に遭いましたが、基本的に災害は少なく、その安心感が暮らすうえでの心のゆとりにもつながっています。
直感で移住を決めて、結果、今すごくしっくりきているので、他のことに対しても自分の直感を信じていいんだ、という自信になりました」
そんな佐藤さんの後を追うように、ここ1年ほどで東京からの移住者もずいぶん増えたという。
「移住してきたばかりの頃は岡山に友達がいなかったので、寂しい思いをしていた時期もありました。でも今は、ここで出会った人も移住してきた人も、自然と価値観の合う人に囲まれているので、寂しさを感じることはずいぶん減りました」
同じ生き方、暮らし方を「心地いい」と感じる人が集う場所。そんな場所に出会って、佐藤さんの将来のビジョンも、少しずつ変わり始めたそうだ。
「私、ジャズ喫茶が好きで、大学のときにアルバイトしていたジャズバーのオーナーご夫婦がずっと憧れなんです。どんな形かはわからないけど、私も誰かの止まり木になれるような場所を作れたら・・・と想像したりします。
というのも、倉敷に来てから、規模の大小関係なく自分がいいと思うものを信じて、心地よい場所を生み出している友人がたくさんできました。ゼロから価値あるものを作ってしまう姿は本当にかっこよくて、尊敬しています。そして、そういう場所には自然と共鳴する人が惹かれて集まってくる。このfloatもそう。
私自身、今までそうした場所に何度も救われてきたなと自覚しているので、いつか自分もそんなやさしさを与えられる場所を作れたら、すごく楽しそうだなと思っています。」
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