地域おこし協力隊リレーTALK Vol.31
​「北海道の自然に魅せられ、帯広を経て弟子屈に」

北海道 弟子屈町 現役隊員
井出千種さん 

活動内容:観光プロモーション、観光協会公式サイトやSNSによる情報発信 

大学を卒業して出版社に就職し、編集者として女性雑誌「an・an」などを手がけてきた井出千種さん。40代に入った頃から登山を趣味として山歩きを楽しむうちに北海道の大雪山に大いに魅了された。 

「その時の感動が忘れられずに、休みのたびに北海道に通うようになりました。道内の名山に登り、ふもとの町なども散策して北海道全体が好きになって、いつしか北海道で暮らしたいという思いが強くなっていきました。その後2018年に勤務先の早期退職制度を利用して会社を辞め、帯広市の印刷会社に転職し北海道に移住しました。」 

雑誌編集の経験が活かせる仕事を道内で探した結果、見つけた仕事だった。以降は帯広市に拠点を置いて印刷会社が発行する雑誌の編集者として道内各地の生産者やクリエイターを取材して回る日々を送っていた。 

「帯広市はとても暮らしやすい街でしたが、いずれは道内で自然を感じられる土地に定住したいと考えていました。結果、弟子屈町に気に入った家が見つかったので2020年の春に購入したのですが、帯広市までは車で3時間ほどかかるため通うのは困難でした。それで弟子屈町での仕事を探し始めたところ、2021年の2月に北海道新聞で弟子屈町の地域おこし協力隊の募集記事を見つけました。」 

地域おこし協力隊の制度は、東京にいた頃から知っていたという井出さん。50代でもできる、北海道での仕事の選択肢として、当時から視野に入れていた。 

「協力隊のサイトなどもよく見ていたので、道内で活躍している人の情報も目にしていました。弟子屈町で仕事を探し始めた時にも、地域おこし協力隊の募集があればいいのにと思っていたところだったので、募集を知った時はもう飛びつくような感じでした。」 

無事に採用が決まり、2021年5月に地域おこし協力隊として着任。念願の弟子屈町での生活がスタートした。 

井出さんたちが作成した川湯温泉散策ルートの手ぬぐいマップ 

 

地元の小学生に活動を取材されて大いに感激した

着任した井出さんに課せられた役割は弟子屈町の観光プロモーションとマーケティング支援活動だった。 

「摩周湖観光協会で公式ホームページやSNSでの情報発信を行っています。それと並行して、アウトドアガイドの人たちのフィールドワークに同行して弟子屈町の自然を学んだり、地元の観光関連の方などにお会いしてお話を伺ったりして情報収集や交流に努めています。さらに力を入れているのが、町内にある川湯温泉のブランド化事業です。温泉の効能を確かめる実験や温泉街の散策ルート作りなどに取り組みました。散策ルートを提案して実際にガイドの方に歩いてもらって感想を伺ったり、散策ルートの手ぬぐいマップを作成したりしました。」 

また、地元の小学生が授業で地域おこし協力隊を取材して、小冊子を作ってくれたことが印象深いと話す。 

「弟子屈町が地域おこし協力隊に力を入れていることもあり、町の人が関心をもってくださいます。それで私も子どもたちに取材されたのですが、彼らが作った小冊子が本当に素晴らしくて感動しました。これまでは取材する立場でしたが、小学生がこんなに素敵な記事を作ってくれたので、これはメディアにプロモーションしようと、道内の新聞社などに送ったところ、北海道新聞のこども新聞『週刊まなぶん』が大きく取り上げてくれました。その時は本当に嬉しかったです。」 

自分たちの活動が地元の子供たちに好意的に受け入れられていることを実感し、さらに小学生たちの仕事ぶりの素晴らしさと、メディアに働きかけて実際に掲載されたこと。そうした喜びを感じられたことから、特に印象深い出来事になったそうだ。 

湯量が豊富な川湯温泉。温泉街には約40度の『温泉川』が流れる

 

協力隊に力を入れる町のサポートに助けられている

弟子屈町の担当者のサポートに大いに感謝していると、井出さんは話す。 

「担当係長が面接の時から親切で、コミュニケーションが本当に取りやすくて助かっています。何でも丁寧に説明してくれるし、常に的確なアドバイスもいただいています。特にありがたいのは、地域おこし協力隊の受入実績が豊富な自治体だからか、過去の事例をもとに私が悩みそうなことを先回りして助言してくれることです。現在、弟子屈町で活動している地域おこし協力隊は9名います。観光商工課だけでも私を含めて4名ですから、これだけの人数を受け入れていることも、地域おこし協力隊を積極的に受け入れたいという町の姿勢の表れだと感じます。」 

着任当初はデスクワークが多かったため、観光に訪れる旅行者とのダイレクトな接点を持ちたいと思ったと井出さん。 

「実際にどんな人が観光にきて、何を求めているのかを知りたかったのです。そこで、旅行者が足を運ぶ川湯エコミュージアムセンターという施設に、週に一度でいいので勤務することができないかと相談してみました。」 

担当者は、井出さんの相談に応じて即座に動いて希望を叶えてくれた。通常、役所の配置換えなどは手続きを要することから時間がかかると思われたが、じつにスピーディーに対応してくれた 

「アウトドアガイドの方から教わった自然の知識も役立つものばかりだし、知り合った人が別の誰かを紹介してくれるという形で、どんどん人の輪が広がっていくことも素晴らしいと感じます。人に出会うたびに、私がやりたいことのヒントが生まれていくので、皆さんに刺激をもらいながら楽しく活動をさせてもらっています。」 

 

川湯エコミュージアムセンターのスタッフと

 

「木育マイスター」の資格取得を目指して勉強中

帯広市にいた頃より生活が不便になったことは事実だが、その分地方暮らしの本当の魅力を感じている。 

「帯広市は楽しい街だと感じましたが、時折東京を懐かしむこともありました。弟子屈町に暮らすようになり、自然の厳しさも美しさも存分に実感できている現在は、北海道暮らしの醍醐味をしっかり味わえているように思えます。それに帯広市では編集の仕事に就いていたので、同業ならではのジレンマも抱えていました。都会と地方のギャップのようなものも実感し、少しストレスになっていたのかもしれません。今行っているプロモーションの業務などは、取材してもらうという逆の立場ですが、取材する側だったからこそわかる部分もあります。ほとんどゼロからのスタートである一方で、過去の経験を活かせることもあるので、ラッキーだったといえます。」 

今後は、川湯温泉ブランド化事業を継続し、よりバージョンアップさせる意向だ。 

「温泉街だけでなく、周囲の自然も満喫できるツアーコースを新たに確立したい。温泉プラス森林浴のようなプランを提案したいと考えています。弟子屈町の自然を守りながら、その魅力を新しい形で発信できるように努力したいです。そのためにも、北海道が認定する『木育マイスター』の資格取得も目指していて、森林や木工について学んでいるところです。地域おこし協力隊の任期終了までには資格を取得したいと思っています。」 

任期終了後のプランは模索中だというが、引き続き弟子屈町をはじめ、北海道の魅力を伝えたいと話す。 

「弟子屈町だけでなく広く道東エリア、あるいは北海道全体のつながりをもっとアピールする視点もあると思うので、これからじっくり考えていこうと思います。地域おこし協力隊の肩書があれば、町の人に受け入れられ、応援してもらえるという喜びを感じられます。やりたいことを明確にしていれば、フレキシブルに活動できるので、本当にありがたい制度だと思います。」 

左)弟子屈町の観光資源のひとつ。冬の摩周湖 右)樹木について学び、「木育マイスター」資格の取得を目指している

 

北海道 弟子屈町 現役隊員 
井出千種さん 

1963年生まれ。大学卒業後に出版社に入社。『an・an』、『GINZA』等の編集を手掛ける。2018年に北海道帯広市に移住、印刷会社に勤務して編集の仕事を開始。弟子屈町に家を購入したことを機に地域おこし協力隊に応募。2021年5月に着任した。 

弟子屈町地域おこし協力隊:https://www.facebook.com/teshikagachiikiokoshi/ 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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