福島県の沿岸部に位置する小高区は、東日本大震災により全区民避難という苦難を経験。
故郷への思いを胸に帰還し、この地を再生すべく新たななりわいを創出した人々を訪ねた。
2020年、小高区片草で農業法人「大地のめぐみ」が設立された。震災後、離農する人が相次ぐ中、あえて専業農家という道を選び、小高の地を活かす農の再生に励んでいる。
小高区片草地区は代々続く水稲農家が多く、初夏には稲の緑、秋には黄金色の稲穂が揺れる、美しい田園風景を有する町。
その風光明媚な景色は、東日本大震災と原発事故で一変したが、震災後10年が過ぎた今、元の姿を取り戻そうとする動きが活発になっている。
「大地のめぐみ」は、そんな小高区で農の再興の一端を担うために生まれた農業法人。発起人の南原正大さん、南原裕之さん、原好光さんの3人は、それぞれ震災前は兼業農家としてサラリーマンと二足のわらじを履いていたが、震災後、地元の農地の担い手不足の現状を知り、一念発起。
来シーズンに向け農地を耕す南原正大さん(写真右)と南原裕之さん(写真左)
花卉野菜のスペシャリストである原好光さんとともに、農業法人「大地のめぐみ」を立ち上げた。
片草地区の基盤整備事業や地域の営農改善組合の補助などを受け、2020年から主食用・飼料用の米をはじめ、大豆、小麦、ブロッコリー、小菊の栽培を行っている。2021年度の作付面積は40ヘクタール(東京ドーム8・5個分)にも及ぶというから驚きだ。
昨年の水稲の苗。2022年は現在基盤整備事業を行っている地区に、作付面積を拡大する予定
「行政の補助もあり、震災前とは異なる大規模な営農ができるようになりました。今後は次の世代に農の技術を伝え継ぐという意味でも人を増やしていきたい」
そう話すのは代表の正大さん。片草で農業を続けることは、昔ながらの地域の繋がりを維持していくためにも大切な役割だと力強く語る。
「そのためには、若い世代が挑戦したいと思える〝稼げる農業〟を我々が実現しなければいけない。大地のめぐみを軌道に乗せることで、地域に働く場所が生まれ、片草の農に関わる人が増えていけばいいなと思っています」(裕之さん)
収穫されたブロッコリー。大きく見事な出来栄えはまさに大地の恵だ。
昨年は高校生やインターンの受け入れ、移住希望者の農業体験なども積極的に行い、片草の農業の復興をさまざまな手段で発信。そこで手応えを感じているのが小高では初となる小菊の栽培だ。
花卉担当の原さんは、「他の作物より一反あたりの収益が見込める小菊は、今後うちの柱になっていく存在。さらに栽培の精度を高めて将来は産地化を目指したい」と話す。
小高の土地を活かした栽培方法に挑戦し続けている小菊
農を起点に、町の景色と人々の繋がりを守ろうと汗を流す彼らの挑戦は再生の一端を担うだろう。
文・木下美和 写真・アラタケンジ
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