2026年2月27日、春の気配が深まる群馬県桐生市にて、厚生労働省委託事業「林業就業支援講習」の一環として、林業キャリア体験ツアー「林業就業支援講習(1日コース)」が開催されました。首都圏をはじめ、群馬、新潟、栃木などから16名が参加。林業の現場でチェーンソーや重機による伐倒作業を見学し、さらに副業としても注目されている原木シイタケ栽培について学びました。当日の体験の様子をレポートします!

日本の林業が今、熱い!「緑の雇用」と機械化が呼ぶ新たな風
「林業」と聞くとどんなイメージが浮かぶでしょうか?
「輸入材に押されている」「高齢化で衰退している」「人手不足のきつい仕事」――。そんなひと昔前のイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、日本の林業は今、少しずつ変わり始めています。
林野庁が2003年に開始した「緑の雇用」は、未経験者がフォレストワーカーとして林業の現場に入り、森林組合など林業経営体の安定した雇用の下で、知識や技術を体系的に学びながらキャリアアップできる制度。かつては日雇い中心で不安定だった労働環境の改善を図り、日本の国土の約7割を占める森林を守る林業の担い手を育てることを目的としています。
これまでに約2万人がこの制度を通じて林業界へ就職。単なる転職に留まらず、林業への従事をきっかけに地方へ移住し、新しいライフスタイルを実現する人も増えています。
現在では、「緑の雇用」制度の新規就業者の平均年齢は31歳。林業は若い世代が活躍する産業へと変わりつつあります。
同時に、木の伐採や枝払い、玉切り(丸太を一定の長さにカットする作業)などの力仕事の機械化も進み、肉体的な負荷は大きく軽減されました。現場では女性のフォレストワーカーが第一線で活躍する姿も見られるようになっています。

2000年代後半以降、人工林資源の充実や合板原料などとしての利用拡大、輸入材の減少などにより、国産材の需要は緩やかに増えています。さらに、2010年代半ば以降は燃料材としての利用も進み、国産材活用の幅が広がりました。脱炭素社会への関心の高まりを背景に、森林によるCO2吸収量などを評価する「J-クレジット」市場の拡大も見込まれており、日本の林業は今後ますます注目を集めていきそうです。
こうした流れの中、全国森林組合連合会(以下、全森連)とTURNSが共同で開催したのが、林業の現場をリアルに体感できる今回の「林業就業支援講習(1日コース)」です。JR高崎駅に集合した参加者を乗せたバスが桐生広域森林組合に到着し、いよいよプログラムがスタートしました。

10:00|桐生広域森林組合でオリエンテーション
桐生広域森林組合は、桐生市(黒保根町を除く)とみどり市大間々町にまたがる森林(民有林)を管轄し、900名を超える組合員が所属。山主と相談しながら伐採や植付、下刈り、枝打ちなどの森林整備を行っており、若手の活躍も目立ちます。また、群馬県と連携し、林業を通じた移住促進にも力を入れています。
代表理事組合長の村上利朗さんから「林業の現場で、ぜひうちのスタッフの活動ぶりを見て、実りある1日にしてください」とご挨拶があった後、今日1日の流れについての説明が行われました。

今回のツアーには10代〜60代までの男性13名、女性3名が参加。30代・40代が中心でしたが、10代の若者やセカンドキャリアを考える60代の方々も加わり、多彩な顔ぶれとなりました。
参加の動機も実にさまざま。
「企業で20年以上働いてきたが、朝から晩まで建物の中にいる仕事に限界を感じ、自然の中で働きたいと思った」
「リモートワークと両立しながら自由度の高い働き方ができないかと模索している中で林業に興味を持った」
「すでに群馬に移住し山の遊び場を運営しているが、山の管理も自分でもできるようになりたい」
「今は東京に住んでいるが、実家が山を所有しており、将来のために勉強したい」
「大学院で安全管理を研究しており、就職先として林業を視野に入れている」
「現在大学で森の生態系保全を学んでいて現場を見てみたかった」
などなど。

中には、2025年夏と2026年冬に有楽町で開催した林業就業相談会(全森連×TURNSのコラボイベント)に参加していた方も複数。「林業を現場で体感してみたい!」というみなさんの期待の高さがうかがえました。
自己紹介の後、参加者は白いヘルメットを手にバスへ乗り込み、早速、現場見学へ!
11:00|林業の現場を見学。迫力の伐採作業を間近で体感
本日の現場は市街地から近く、大型重機も入りやすい幅の広い林道が整備されています。伐採から丸太にして運び出すまでの一連の作業が行いやすく、作業の様子もとても見やすい現場です。
私たちを迎えてくれたのは、冬のイベントでゲスト出演いただいた桐生広域森林組合に所属する鈴木さん、髙谷さんと同じ班員である浅野さん、霞さん。そして、3台の巨大な重機!

早速山に入り、林業の基本であるチェーンソーでの伐木を間近で見学。まずは鈴木さんが伐倒の基礎知識を解説しながら、林業に携わって約6年という髙谷さんがデモンストレーションをしてくださいました。

鈴木幸宏さん|桐生広域森林組合 林産課 林産係長
1990年生まれ。群馬県桐生市出身。工業高校を卒業後、埼玉県のハウスメーカーに就職。夜遅くまで続くデスクワークに疑問を感じていた折、森林組合で働く父の勧めを受けて林業の道へ。桐生広域森林組合林産課に所属し、皆伐・間伐事業をはじめ、林業機械のオペレーター、伐採士、作業道開設など幅広い業務に従事。新人育成に携わるほか、緑の雇用集合研修の講師も務める。チェーンソー技術を競う日本伐木チャンピオンシップに挑戦し技術向上に努め、全国大会で総合6位を獲得。日本トップレベルの技術を持つ林業技術者として活躍。

髙谷宏志さん|桐生広域森林組合 業務部 主任
1976年生まれ。群馬県太田市出身。ラーメン屋の店主や自動車工場の期間工として働く中で、偶然ホームページ上で目にした林業就業ガイダンスに参加したことをきっかけに林業に興味を抱く。実際に林業に携わりたいとの思いから桐生市へ移住し、桐生広域森林組合へ就職。今年で6年目を迎え、これまで主に下刈や植付といった造林事業に従事してきた。現在は伐採や木材搬出などの業務を担当。
チェーンソーの重さは約6〜7kg。エンジンは60cc〜70ccで、原付一種のスクーターよりパワーがあるから驚きです。カンナのような小さな刃が並んだチェーンをエンジンで高速回転させ、木を削り取るように切り進んでいきます。その強大なパワーゆえに危険を伴う道具ですが、安全装置が何重にも備えられているのだとか。
また、作業着や靴にも安全対策が施されており、万が一チェーンソーの刃が接触しても、内部から繊維が飛び出して刃に絡み付き、瞬時に回転が停止するようになっています。さらに、ヘルメット、木屑を防ぐフェイスガード、防音のイヤーマフ、通信のためのインカムを装着。現場では常に仲間と連絡を取り合いながら、安全第一で作業を行っています。

伐木では、木の状態や周辺の状況をよく観察し、レーザーポインターを使って倒す方向を正確に見定めてからチェーンソーを入れていきます。まず、倒す方向を定め、その方向に受け口を作ります。次に、受け口の反対側からチェーンソーを木の内部に差し込むようにして突っ込み切りを行い、受け口と追い口の間に「ツル」を残しながら内部を切り進めます。

このツルは蝶番のような役割を果たし、木を狙った方向へ導く重要な部分です。さらに、木の後方には「追いヅル」を残しておきます。追いヅルは、木が倒れ始めるタイミングを調整し、安全に伐倒するために最後まで切り残しておく部分です。
そして、山肌に張り付くような姿勢で慎重に作業を進めます。参加者が固唾をのんで見守る中、最後に追いヅルを切り離すと、木は自重でゆっくりと傾き始め、狙った方向へ倒れていきました。
ドォン!バキバキッ!
大きな音と共に、狙い通りの方向へきれいに倒れていきました。「おお〜っ!」と参加者から思わず感嘆の声が上がります。

続いてデモンストレーションを行ったのは、入社1年目の霞さん。
霞さんも同様にまず受け口を作り、木の太さを見て両端にチェーンソーを入れました。倒れるときに幹が裂けないよう、樹種や状況に応じて行う作業だといいます。
そして山の斜面に這いつくばるようにしてチェーンソーを木の中心へ入れ、最後に受け口の反対側から切り始めると木は静かに傾き、髙谷さんが倒した木の上に被さるように、ドサァッ!と空気を震わせながら倒れました。
辺りには、伐りたての切り株からヒノキの清々しい香りが立ち込め、参加者たちはその香りを肺いっぱいに吸い込んでいました。
「未経験者でも、しっかり努力すれば1年ほどでこのレベルまで技術を身に付け、伐採作業をこなせるようになりますよ」と鈴木さん。
デモンストレーション後の質疑応答では、装備や安全対策、木の切り方などについて参加者から次々と質問が飛び交いました。現場を目の当たりにしたことで、林業への関心がいっそう高まった様子がうかがえました。

続いて一行は山の下に戻り、重機による作業を見学。鈴木さんが乗り込んだのは「ハーベスタ」と呼ばれる高性能林業機械。従来はチェーンソーで行っていた木の伐倒や枝払い、玉切りに加え、切り分けた木材の集積作業までを一貫して行える重機です。
鈴木さんはハーベスタをまるで自分の手足のように自在に操ります。一瞬にして木が切り倒され、枝が払われ、ボタン一つで規定の長さにカットされて積まれていく様子は圧巻。参加者一同、驚きのあまり言葉が出ません。

ハーベスタの後ろに控えたもう1台の重機「フォワーダ」は、林業歴20年以上のベテラン・浅野さんが操縦します。伐採した木材を集めて荷台に積み、運搬用トラックやストックヤードまで運ぶ作業が専門。切り出した一本の丸太の長さは3〜4m、重さは杉の場合で100〜200kgほどにもなります。こうした重量物を人の力だけで扱うのは大変な重労働ですが、高性能林業機械を使うことで作業効率は大きく向上し、作業者の負担も大幅に軽減されます。
一方で、こうした重機は1台数千万円と非常に高額で、個人で所有するのは難しいのが現実。森林組合などの林業経営体に所属すれば、働きながら重機の免許も取得でき、仲間と共に長く林業の仕事に携わることができます。また、女性は機械の扱いが丁寧で故障させにくいと評価されることもあり、林業の現場で活躍する女性も増えているそうです。
重機のコックピットも間近で見学させていただき、参加者たちは興味津々で中を覗き込んでいました。

鈴木さんがいとも簡単に動かしているこうした特殊な重機も、精度の高い操作ができるようになるには高度なセンスと熟練の技が必要なのだそうです。斜面の角度や周囲の状況を見極める現場での判断力も求められます。
「林業の現場ではベテランが乗ることが多いのですが、僕はむしろ若い人たちに積極的に乗ってほしいと思っています。若い人の方がゲーム感覚で操縦のコツをつかむのが早く、作業効率が上がる場合もありますから」と鈴木さん。
桐生広域森林組合では、さまざまな業務をローテーションしながら個々の適性を見極め、重機操作も含む技術指導や資格取得の支援を行っているそうです。

また、桐生広域森林組合では持続可能な林業の実現に向けて、環境負荷を最小限に抑える伐採方法を大切にしています。
山の木の伐採適期は約50年〜70年。それを超えると太くなりすぎて材木としての活用が難しくなり、CO2の吸収量も落ちてしまいます。だからこそ計画的に木を切り、端材はチップ材やバイオマス燃料にするなど余すところなく利用。新たに苗木を植えて山を更新していくことで、森林の健全性を維持し、生態系にも配慮しながら長期的な視点で森林管理に取り組んでいます。
現場見学を終えたところで、参加者に感想を尋ねてみると、
「やっぱり太陽の下で仕事ができるのはいいですね。木の匂いや地響きなどを感じ、迫力に圧倒されました」
「オンラインや座学では分からなかった現場のリアリティが分かって、すごくワクワクしました」
「チェーンソーや大型重機の実践を見て、怖くなるどころか自分もやってみたくなりました」
など、五感で林業の魅力を感じている様子が伝わってきました。

12:30|「秀吉」にてランチ交流会
現場見学を終えた一行は、バスで地元のレストラン「秀吉」へ。ここで鈴木さん・髙谷さんを含む桐生広域森林組合の皆さんと全国森林組合連合会の職員を交え、交流ランチ。

彩り豊かな山のごはん「釜飯」を頬張りながら、参加者たちは林業の仕事や桐生での暮らし、フォレストワーカーたちのチェーンソー技術を競う競技会のことなどについて質問を投げかけていました。

ランチ後は全員で記念撮影。森林のプロフェッショナルとして林業の道を歩むフォレストワーカーの皆さんの誇り高い仕事ぶりに、多くの感動をもらった現地見学となりました。

13:45|キノコ人工栽培のパイオニア「森産業」で現場体験
午後からは、桐生市内にあるキノコの人工栽培の先駆者、森産業株式会社を訪問しました。
キノコと言えば山の恵みの代表格。森産業はキノコを産業化した立役者であり、世界で初めてシイタケの人工栽培を成功させたパイオニアです。1942年、創業者の森喜作(もり・きさく)博士は、木の小片に菌を培養した「種駒」の発明に成功。戦後は農山村の現金収入源として全国の森林組合や農家へ種駒を普及させ、「林業の副業」としてのシイタケ栽培を日本中に広めました。

参加者はまず、研究開発部の後田さんから原木シイタケ栽培の方法やホダ木(シイタケ栽培用の原木)の作り方などについて講義を受けました。
林業において柱材に適さないクヌギやコナラなどの広葉樹は、かつては薪や炭にするしかありませんでしたが、森産業が発明した種駒(たねごま)による原木栽培によって、これらの木はホダ木という新たな資源として活用できるようになりました。
林業家は、林業の傍らでキノコ栽培による副収入を得ることができ、使い終わったホダ木は再び山の土へと還すこともできます。こうして森林資源を循環させながら利用する、持続可能な林業が可能になるのです。
現在、森産業では伝統的な原木栽培に加え、林業の現場で出るおが粉に栄養分を加えて固めた「菌床(きんしょう)」による栽培技術も確立し、全国の菌床栽培農家や事業所へ供給。最新のバイオテクノロジーを研究し、より良い新品種の開発にも力を入れています。

続いて一行は再びバスに乗り込み、森産業の研究用圃場へ。山の一角に整備された圃場にはたくさんの原木が置かれ、シイタケの新品種の研究が行われています。直射日光が当たらないように覆いがかけられ、キノコ栽培には欠かせない水管理が行き届いた圃場は、しっとりとした湿り気に包まれていました。


その後は、ホダ木に種駒を打ち込む「駒打ち」を体験。後田さんのデモンストレーションを見た後、参加者たちも一人ひとりドリルでホダ木に穴を開け、種駒を埋め込む作業を実践しました。


16:00|立派な干しシイタケをお土産に帰路へ
体験終了後には、森産業から大ぶりで肉厚な干しシイタケのお土産もいただきました。参加者の皆さんはマイクロバスに乗り込み、朝集合したJR高崎駅へ。午前中の伐採現場と合わせて、山や森林にまつわる仕事がより立体的に、匂いや手触りをもって実感できた1日となりました。
現場だからこそ感じられた迫力。林業への思いが高まった1日
今回は、林業の現場体験をメインにした初めてのツアーでしたが、五感をふるわせる体験とともに林業への関心がさらに高まった参加者も多かったようです。また、第一線で活躍するフォレストワーカーとの触れ合いを通して、林業の魅力やリアリティを感じ取ったという声もたくさん聞かれました。
その一部をご紹介します。
「林業従事者の方に直接会える貴重な機会でした。林業の実情や本音の話を聞くことができて非常に良かったです。チェーンソーの全国大会など面白い話も聞けて大変楽しめました」
「現場見学に加えて、現場で活躍しているフォレストワーカーとの交流ができ、大変満足しています。ツアー参加者の皆さんとも、同じ道を目指す者同士、気持ちを共有できました」
「森林組合の現場見学で実際の作業を肌で感じ、ますます林業への就業にチャレンジしたくなりました」
「興味からはじめの一歩を踏み出す良い機会になりました」

林業を仕事にする第一歩「林業就業支援講習」のご案内
全国森林組合連合会では、林業への就業を検討している方を対象に「林業就業支援講習」を全国各地で実施しています。
◼︎選べる3つのコース
1. 林業就業相談会(1日コース)
まずは林業の仕事について詳しく話を聞いてみたい方におすすめです。
2. 体験コース(3日間程度)
林業の仕事を実際に体験しながら、仕事内容の全体像を知りたい方へ。
3. 実践コース(2週間程度)
就業に役立つ資格の取得を目指し、より本格的に林業を学びたい方のためのコースです。
基礎的な安全知識に始まり、段階的に高度な技術を習得できるよう体系的なプログラムが組まれています。経験豊富な指導員による個別指導や現場体験を重視しており、定期的な研修・練習会で着実にスキルアップを目指せます。
林業に興味が湧いた方、本格的な一歩を踏み出したい方。あなたの状況に合わせた講習から、トライしてみませんか?
取材・文:角 舞子 撮影:狩野博賢
