コロナ禍におけるワークスタイルの多様化にともない、人々の視線は都市から地方へ注がれるようになった。その中で、今、注目を集めるのが「地方ビジネスの可能性」だ。そこにある可能性とは何か、どのようなチャンスがあるのか。すでに宮崎県新富町を拠点に多様なビジネスを展開している斎藤さんに話を聞いた。
Windows発売から約30年。
ようやく地方にデジタル化の波が来た
堀口:斎藤さんは、2017年4月から宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」で、代表理事として地域経済の発展や起業家育成に力を注ぎ、まちづくりに携わってきました。そこから4年。今、日本における「地方ビジネスの可能性」について、どのような考えを持たれていますか?
齋藤:当時よりももっと、地方ビジネスにチャンスがある時代が来ていると感じています。
堀口:それはなぜですか?
齋藤:まず第一に、地方には「変化を余儀なくされている第一次産業」があるからです。印刷技術の発展を経てWindowsが登場し、ビジネスはデジタル化とともに、これまで大きく進化してきました。しかし第一次産業は、これまでこの影響をほぼ受けることなく続いてきたわけです。そこで生じた課題が、「事業者の高齢化と担い手不足」。課題解決のために、今まさに変化をせざるを得ない状況なんです。
堀口:なるほど。そこにチャンスがあるというわけですね。
齋藤:他の業界ではすでに画期的なイノベーションが起きています。例えば「ラクスル株式会社」は、印刷のデジタル化により業界に大きな変化をもたらしましたし、「Sansan株式会社」も名刺のデジタル化によって大きく業績を伸ばしています。これと同様に、第一次産業でもデジタル化による大きな革命が起こるはずです。
堀口:近年では、コロナ禍で働き方が大きく変化し、リモートワークや副業が定着したことで地方ビジネスへの参入を考える人が多くなりましたね。
齋藤:そうですね。それが地方ビジネスのチャンスを広げている第二のポイントです。社会の変化により、地方ビジネスに着手しやすくなりました。今、地方で活躍している人たちを見渡しても、地域との関わり方は多種多様です。地域に移住する地域密着型、企業に属しながらの副業型など、それぞれが自分でスタイルを決めて、自らのやりたいことを実現しています。
堀口:数年前までは、人材確保が地方ビジネスの課題のひとつでしたが、今やその課題は解決しつつあるのでしょうか。
齋藤:そう感じます。私は宮崎県内で、農業用収穫ロボット開発などを手掛けるAGRISTという会社も経営しているのですが、この人材募集に3カ月で20名ほどの社員が集まってくれました。当初、人材確保には苦労するだろうと思っていたのですが、杞憂でしたね。
堀口:AGRISTに入社した方たちは、仕事を辞めて、都市部から移住してこられるんですか? そこに不安はなかったのでしょうか。
齋藤:仕事を辞めて移住した人が多かったですね。これも新型コロナの流行を経験して、「自分らしい生き方をしたい」と思う人が増えた結果だと思います。以前は大企業を辞めて地方ベンチャーに就職して、「もし上手くいかなかったら、やり直しがきかない」という考えがありました。でもニューノーマルの時代では、「いいチャレンジをしたね」と評価されるようになったりして。価値観が確実に変化してきていますよね。
堀口:確かに。新型コロナがこれまでの社会常識を壊し、「やってみたい」という思いが叶えやすい社会になりましたね。
ビジネスの仕組みを知っていなければ、
「地方ビジネス」は成功しない
堀口:しかしながら、地方ビジネスを成功させるには、ただ「やってみたい」という思いだけでは難しいのではないでしょうか。
齋藤:おっしゃる通りです。ただ、「やりたい」だけでは、その仕事で稼げるようになるのは難しい。地方に行けば、海や森や土地はあるのでそこに飛び込むことはできます。でも、そこで「ビジネスを成功させる」ためには、お金を稼ぐ方法を知っていなくてはいけません。
堀口:今は様々な助成金や支援制度があり、事業に着手しやすくなっているものの、持続可能なビジネスを展開できるかどうかは、自分次第ですよね。
齋藤:そうなんです。自分の売りたいものを売っているだけでは、なかなか売れない。ビジネスの仕組みはとてもシンプルで、お客様の声を聞いて課題を見つけ、その課題に対してサービスを提供して対価を得るというもの。こういった知識を身に付けたうえで、自分のやりたいビジネスを作っていくことができるかどうかが、地方ビジネスの成功の鍵になります。
堀口:だからこそ、これまでも「こゆ財団」で起業家育成をしてきたんですね。
齋藤:地方創生において重要なのは、それぞれの事業者が稼ぐ人になっていくことです。その先に地域経済の発展がありますから。
堀口:「TURNSビジネススクール」でも地方ビジネスのつくり方を伝えていきます。そこでは何を重視しますか?
齋藤:やはり実践者から学ぶ場所にしたいですね。そして、ただ地域に飛び込むだけではなく、ビジネスの仕組みを知った上で、戦略を立てて臨むことの重要性を伝えたいと考えています。
堀口:その点で「こゆ財団」の戦略は素晴らしいものがありましたね。地域農家と連携して1粒1000円のライチを開発し、特産品として地域に利益をもたらしました。
齋藤:でも、「こゆ財団」が成功したと言われる所以は、それだけではないんですよ。本当の凄みは、開発したライチを「ふるさと納税」という伸びゆく市場の中で販売し、そこで得た利益を「起業家育成事業に投資する」という仕組みを作ったことなんです。これにより、持続的に地域創生に貢献できました。
堀口:なるほど。重要なのは、「どこを目指すか」を明確に描くということなんですね。
齋藤:そうです。地域ビジネスにとって、「その地域が何を求めているか」を的確に捉え、それに対してMUST・WILL・CANで、「ビジネスの仕組み」を考えていくことが重要です。スクールでは、様々なフィールドで活躍をしている講師陣の経験、実践からその部分をしっかり学んでほしいと思っています。
堀口:多彩な講師陣から、どのようなお話が飛び出すか、私自身とても楽しみにしています。
齋藤:冒頭にもお話しましたが、地域との関わり方はどんどん多様化しています。様々な関わり方で地方ビジネスを展開している講師陣の話を聞き、「自分に合うスタイル」を見つけてもらいたいですね。
堀口:地方ビジネスに興味のある人が集まることで、非常にモチベーションの高いコミュニティができあがりそうです。
齋藤:「自分たちならできる」と思えるコミュニティに属することで、開けてくる未来があると思います。この講座がそういった場になればうれしいです。
堀口:このビジネススクールから、たくさんの挑戦やイノベーションが生まれてほしいですね。今日はありがとうございました。
\TURNS BUSINESS SCHOOL 第2期スタート!/
TURNS×こゆ財団が共同運営する「TURNS BUSINESS SCHOOL」。好評につき、2021年11月から第2期が開講します!!
受講生は9月中旬より下記ページにて募集開始予定です。募集ページ公開まで少々お待ちください。
【プロフィール】
齋藤潤一
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事
米国シリコンバレーの音楽配信会社でクリエイティブディレクターとして従事。帰国後、2011年の東日本大震災を機に「ソーシャルビジネスで地域課題を解決する」を使命に全国各地の地方自治体と連携して地域プロジェクトを創出。 これらの実績が評価され、2017年4月新富町役場が設立した地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任。1粒1000円ライチの開発やふるさと納税で寄付金を累計50億円以上を集める。 移住者や起業家が集まる街になり、2018年12月国の地方創生の優良事例に選定される。農業の人手不足の課題を解決するために、農業の自動収穫ロボットAGRIST株式会社を2019年設立。2021年までに国内10以上のビジネスプランコンテストで受賞。 メディア掲載:テレビ東京「ガイアの夜明け」、NHK WORLD世界17か国で放送、日経MJ(1面全面)、ワールドビジネスサテライト、他多数。 MBA(経営学修士)スタンフォード大学Innovation Master Series修了
(文:笠井美春)