群馬とつながる。わがまちのキーパーソン
【VOL.3 桐生市|星野麻実さん】
「やってみたい」が風景になる場所、桐生
“世界一ごきげんなまち”を、みんなで形に

群馬県東部、栃木県足利市に隣接する桐生市。江戸期より「西の西陣、東の桐生」と謳われたこのまちは、織物とともに発展を遂げてきた。産業隆盛の面影を残す街並みはいまも健在で、歩けば往時の空気を感じ取ることができる。

絹市を起源とする「買場紗綾市(かいばさやいち)」や「桐生八木節まつり」、「桐生ファッションウィーク」、「えびす講」など、年間を通して催しが絶えない桐生。この地を舞台に、世代を超えて人々が幸せに暮らし、働き、関わるためのプラットフォームを築いているのが、NPO法人キッズバレイの星野麻実さんだ。

お話を伺いました。

星野麻実さ

群馬県桐生市出身。高校卒業後、都内の大学へ進学。不動産デベロッパー勤務を経て、キャリア教育コーディネーターとして全国各地の学校と関わる。同時に社会起業家を育成する私塾に3年間通い、2012年にUターン。2013年、NPO法人キッズバレイの創業メンバーとして事務局長に就任し、翌2014年より代表理事を務めている。

 

子どもからシニアまで、多様な世代が交差する居場所づくり

星野さんが代表理事を務めるキッズバレイは、コワーキング&コミュニティスペース「COCOTOMO」や、市と連携した移住相談窓口「むすびすむ桐生」、桐生の暮らしを体験する親子向けのワーケーションプログラム「GROWCATION」など、これまで多岐にわたる事業を展開してきた。

「私たちの事業の軸は、居場所づくりや孤独・孤立といった課題へのアプローチです。最近では、65歳以上の方がメイドを務める喫茶店『冥土喫茶』の運営も始めました。多くの求人が若い世代を対象とする中で、シニア世代は『自分にはもう社会的な役割がない』と感じてしまいがちです。そこで、シニアの方々が活躍できる機会をつくると同時に、高齢者の居場所や交流の拠点をつくろうと考えました。実際に運営してみると、思いのほか若い世代にも来店いただき、メディアでも取り上げられるなど世代を超えた広がりを感じています」


「冥土喫茶」には、本場・秋葉原のメイドカフェで働くメイドさんも来店するほど注目を集めている。

毎週月曜日の夜には、中学生から大学生を対象にした居場所として「COCOTOMO」を開放し、「夜☆ココ」を営業。そこには、地元の学生たちが勉強したり、語り合ったりと、思い思いの時間を過ごす姿がある。また、月に一度、大切な人を亡くした方の心のサポートを行うグリーフケアを実施しており、「誰かに話したい」「同じ境遇の人の考えを聞きたい」という思いを抱える人たちが、安心して心の内を分かち合える機会を設けている。

「COCOTOMO」では、マルシェやチャレンジキッチンなどのイベントも開催される。

 

「子どもの成長」を旅の中心に据えたワーケーション

キッズバレイは設立当初、桐生で暮らす若者や子育て世代を主な対象として活動してきた。近年ではその射程を広げ、市外の人々と桐生をつなぎ、継続的な関係を育む取り組みにも力を入れている。その一例が、桐生市との協働事業である親子ワーケーションプログラム「GROWCATION」(グロウケーション)だ。


2023年6月に開催した「GROWCATION」では、酒米の田植えやナスの収穫体験をはじめ、地元の銭湯やパン屋を巡るまち歩き、地元野菜をふんだんに使った食事など、桐生の暮らしと魅力を五感で味わうプログラムを実施。東京、埼玉、長野など各地から参加者が集い、地域に深く触れる時間を共有した。

GROW(成長)とWORKCATION(ワーケーション)を掛け合わせた名前の通り、単なる仕事と休暇の両立にとどまらず、「子どもの成長」を旅の中心に据えている点が大きな特徴だ。

「田植えや山登り、保育園の見学、地域交流会などを通して、桐生の暮らしや子育ての魅力を肌で感じてもらえる内容になっています。日帰りプランなので、気軽に参加して桐生という場所を知ってもらえたら嬉しいですね」


「これからもやりたいことがいっぱい」と笑顔で話してくれた星野さん。

 

課題が山積みだからこそ、できることがある

中学生の頃から、途上国支援や子どもたちの教育に関心を抱いてきた星野さん。「より良い社会をつくれる人になりたい」という想いを胸に東京の大学に進学し、ビジネスの力を身に付けようと新卒で不動産会社に就職。その後、教育関係の会社へ転職した。さらにスキルを磨くべくビジネススクールに通うなかで、桐生を舞台にしたプロジェクトを立ち上げた。

そこで目にしたのは、かつて活気のあった商店街が静まり返り、レストランや洋品店など馴染みの店が姿を消していく地元の風景だった。

「高校生の頃は、桐生にいても成長できる余地はないのかなと感じていました。けれど、地域の現状を知るうちに視点が変わっていきました。海外の貧困地域や他の地方と同じように、桐生にも課題がたくさんあるからこそ、それだけ自分にできることがあるはず。少しでもまちの役に立ちたいと思い、戻る決意をしました」

実際に地元で活動を始めると、自分の取り組みが地域にどのような影響を与え、変化を生んでいるのかを日々の暮らしの中で実感することができた。その手応えこそが、今の何よりのやりがいだという。加えて、都会に比べて少ない資金でスモールスタートを切れる点も、ローカルならではの大きな魅力だと星野さんは感じている。

星野さんは地域の魅力を掘り起こす取り組みにも注力。その一つが結婚式などのお返しや贈り物として重宝されるカタログギフト「桐生物語」。桐生が誇る逸品がずらりと並び、それぞれのつくり手の想いまでもが丁寧に綴られている。

 

なぜ、桐生には「面白い人」が集まるのか?
昭和から続くまちづくりのDNA

近年では、星野さんのようにこのまちの可能性に惹かれ、「何かを始めてみたい」と考える人たちが集まってきている。たとえば本町通りでは、ファッションデザイナーがアトリエ兼ボードゲームカフェを営んでいたり、IT企業を立ち上げた起業家が拠点を構えたりと、新たな風が吹き込まれている。そのほかにも、革職人や桐生横振り刺繍の伝統工芸士、重要伝統的建造物保存地区にある1912年創業の薪銭湯「一の湯」を継承した移住者など、外からの視点を持つ担い手が加わることで、桐生独自のクラフト文化が育まれている。

星野さんによれば、桐生には昭和の時代から民間のプレイヤーが一堂に集まり、まちづくりについて語り合う文化があったという。かつて桐生出身でダイエー元副社長の大川栄二氏が、若手を集めて朝食会を開いていたという逸話も残っており、世代を超えてこのまちをこれからどうしていくのかを議論していたそうだ。そうした姿勢は、今の担い手たちにも受け継がれている。


「桐生には語れる歴史があるし、語る人が多いんです。そこに、このまちの歴史の厚みを感じます」と星野さん。

「桐生の特徴は、それぞれのプレイヤーが『こんなまちにしたい』という思いを持って自由に動いているところだと思います。すべてを一緒にやるわけではありませんが、思いが重なる場面では自然と協力し合います。そんな関係性の中で、それぞれの主体性をもっと高めていきたいねと、同世代の仲間たちでよく話しています」

そうしたつながりの輪の中で歩みを重ねてきたキッズバレイは、設立から13年目を迎えた。星野さんは今を「次なるフェーズへの転換期」だと捉えている。

「これまで地域の中で積み重ねてきた実践を糧に、桐生の魅力をさらに自信をもって発信していきたいと思っています。目指すのは“世界がマネしたくなるような、ごきげんなまち”。そんな未来を一緒に面白がってくれる仲間を増やしてきたいですね」と晴れやかな笑顔で語ってくれた。

 

桐生には、関わる入り口があちこちにある

「COCOTOMO」でも、30代の男性がシェアキッチンでコーヒー販売に挑戦したり、重度の身体障がいのあるアーティストが作品を販売したり、地元・市外の人を問わず、それぞれが自分らしい形でこのまちとのつながりを育んでいる。さらに、まち全体に目を向けると、織物産地のライフスタイルを体感できるイベント「桐生ファッションウィーク」や、市内の工場を巡って製造現場を見学できるオープンファクトリー「KIRYU FOCUS」が開催されるなど、桐生が培ってきたものづくりの歴史や技術、つくり手の思いに直接触れられる機会も広がっている。

「桐生では毎週のようにどこかでイベントが開催されています。まずは、まちの空気を感じに遊びに来てほしいですね。個性的で引力のある人が多いので、そこでの出会いをきっかけに、思いがけない関わりが生まれるかもしれません」

一人ひとりの「やってみたい」という思いが、そのまままちの魅力になっていく。そんな桐生の物語の「次の1ページ」を担うのは、あなたかもしれない。


「COCOTOMO」の一角に、新たに「きりゅうZINEベース」を設ける予定。桐生の人たちがつくったオリジナルZINE(小冊子)を並べ、この地域にどんな人がいるのか知ってもらうきっかけの場にする。

桐生市に興味を持つ方へのメッセージ

星野さん もし、桐生で何かをやってみたいと考えているなら、まずはその思いを口に出して小さな一歩を踏み出してほしいですね。私自身、大胆な行動ができるタイプではありませんが、「気になっている人に連絡してみる」といった小さな行動の積み重ねが、今の実現したいことへとつながっています。桐生にはまだ余白が多く、挑戦を試してみる場としても最適です。不安や困りごとがあれば、一人で抱え込まず、ぜひキッズバレイへ相談に来てください。


COCOTOMO

桐生市の中心市街地にある空き店舗をリノベーションして生まれたコワーキング&コミュニティスペース。Wi-Fiや電源を自由に使えるオープンな作業スペースに加え、会議や打ち合わせに使える個室、子ども連れでも利用しやすいフローリングスペースを備えている。学生の学習やリモートワーク、地域活動、イベント開催など幅広い用途に対応し、世代や立場を超えた交流と新しい挑戦が生まれる拠点となっている。また、起業支援や子育て支援などもNPO法人キッズバレイを通じて提供している。

群馬県桐生市本町5-51 東武桐生ビル1階
電話:0277-46-7486/FAX:0277-46-7487
営業時間:10時〜17時
定休日:無休(年末年始を除く)
ホームページ:https://kids-valley.org/


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