地域の空白がナリワイの種。五城目町で創る働き方

温泉のまち湯沢市、食のまち鹿角市と巡り、ついに最後の目的地へとたどり着いた。「ナリワイをつくるまち五城目町」である。

五城目町は、秋田杉の繁る山の麓に位置する。日本海が近いということもあって、昔から物流拠点として栄えていた。 そのため、物資を加工する鍛冶や製材業の職人が多く、職人気質の地域性は今なお息づいている。

そんな町で今、ナリワイづくりを通して人も地域も活き活きとする様々な取り組みやプロジェクトが生まれている。
あなたは働きながら「自分の活躍できる場所は本当にここなのかな」なんて心の中でつぶやいたことはないだろうか。もしそうなら、これから伝える五城目町はあなたに何かをくれるはずだ。「創る」に呼応する町、五城目町の「イマ」をお届けしよう。

五城目町を上から見た景色

秋田を動かすローカルベンチャー「ドチャベン」

秋田市から北へ40分。人口9000人程の五城目町。この町を訪れる前は、規模も町並みも「普通の田舎町」であるように思えたのだが、現地を訪れると、良い意味で裏切られた。まず目に入ってきたのは、木の内装が美しい大きな建物。廃校をリノベーションして企業オフィスとして活用されている五城目町地域活性化支援センター、通称「BABAME BASE」だ。

教室ごとに入居している企業

この辺りではBABAME BASEに入居するような「地域」を動かす起業家やローカルベンチャーのことを「土着ベンチャー=ドチャベン」と呼んでいる。

「“土着”…つまり地域に密着して、新しく産業を作っていくベンチャー企業。最近だと“ローカルベンチャー”という言葉をよく聞きますが、五城目町ではドチャベンと呼んでいます。そんな企業や『五城目町で何かやってやるぞ!』という人が、このオフィスに入居して企業同士の繋がりを持ちながら事業をしています」

そんな説明してくれたのは、BABAME BASEにオフィスを構える企業で働く秋元悠史(あきもとゆうし)さんだ。

BABAME BASEについて話す秋元さん

秋元さんは高校卒業まで秋田県大仙市で育った。大学進学と同時に上京し、IT企業に勤めた後、教育に対する興味から「隠岐島前(どうぜん)高校魅力化プロジェクト」に参画。島根県海士町で教育事業に5年間従事していた。

「いつか生まれ育った秋田で何かをしたいという気持ちはありました。海士町でのプロジェクトも区切りがついて、そろそろ秋田に戻ろうかなと思ったタイミングで知ったのが、五城目町での『シェアビレッジプロジェクト』や廃校をインキュベーションオフィスにした『BABAME BASE』でした。面白い取り組みに移住者や地元の人が惹きつけられている五城目町が自分の次の舞台になるのではないかと思ったんです」

 

新しい働き方を五城目町につくる

秋元さんの働き方は、地方の田舎町ではかなり特殊だ。
BABAME BASEに入居しているIT企業の社員として、週20時間の契約で働く。収入のベースを確保しつつ、これまでの経歴を活かして五城目町を舞台に展開される多種多様な事業にフリーランスのプロジェクトマネージャーとして参画している。

「このBABAME BASEを中心に五城目町に広がる新しいプロジェクトが次々に生まれています。例えば、学生の多様な生き方を育てるキャリアプログラム「おこめつ部 農耕型スタートアップ・プロジェクト」や、合同会社G-experienceが展開する五城目発の新しい教育事業。これらのプロジェクトを進めていく“プロマネ”的な役割が僕の仕事になっています。」
秋元さん自身もまた、五城目町を舞台に縦横無尽に駆け回り、これまでの経歴やスキルを使って自分のナリワイを創るために奮闘している。

 

五城目町には「細マッチョ」な人材が合う

多種多様なプロジェクト運営を掛け持つ秋元さん。その中でも、とりわけ力を入れているのが、五城目町での新たな挑戦を支援する「ドチャベンジャーズ」という組織の事務局運営である。
2015年から「土着ベンチャー=ドチャベン」が増えてきた五城目町。会社の垣根を超えて、他分野へ挑戦することで起きる「化学反応」のような地域活性化はこれまで幾度となく成果をあげてきた。いずれのプロジェクトも「人」と「人」が呼応して、「よそ者」も「地元民」も目指すビジョンが共通していた。

例えば衰退しつつあった歴史ある「朝市」では、新たに「ごじょうめ朝市plus+」と命名され、若者の参加が増え、町全体がどんどん元気になった。空き家が活用されて人が集う場所になり、埋もれていた地域資源が商品となって販売された。
そんな「化学反応」を加速させていこうと2017年3月に結成されたのが「ドチャベンジャーズ」という組織である。

ドチャベンジャーズの代表竹内さん、事務局長秋元さん

「ドチャベンジャーズ」のミッションは、五城目町の移住者に「自分らしい」働き方を実現してもらうこと。地域に根ざした新しいチャレンジと、理想の働き方を探す人をサポートする団体であり、その舵取りは事務局長である秋元さんが担っている。

「五城目町で多種多様なプロジェクトが形になり、事例として取り上げられるようになってから、求められる人材像に変化がありました。僕らは“細マッチョ”的な人材と呼んでいます。培った経験とスキルを活かして地方移住した後、自ら起業し、自ら暮らしを作っていくような人達を“太マッチョ”。他方、“細マッチョ”は、筋肉が少ないので『ドカーン』という瞬発力はないけれど、周囲のサポートと粘り強い継続力で自分のオンリーワンの生業や生存戦略を見つけていく人達です。彼らに必要なのは、周囲のサポート。ドチャベンジャーズでは“細マッチョ”のサポートができるよう、町内の企業への「就職」だけでない働き方の紹介や、希望する働き方と、地元企業の雇用のマッチングを手助けしています」

「移住する」という選択肢では「就職」か「起業」の二択がまず思い浮かぶ。しかし、自分のスキルが地域のどんな役に立つかわからない。そんな悩みをドチャベンジャーズでは一緒に考えてくれる。「地域で何かしてみたい」という漠然とした要望に寄り添ってくれる体制があるのだ。

 

地場産業とのクリエイションが新しい価値を

「ドチャベンジャーズ」のメンバーの中でも、「アートや、職人分野でのクリエイションにおいて、強力なサポーターがいる」ということで、秋元さんが案内してくれたのは、ギャラリー「ものかたり」だった。
ドチャベンジャーズが団体として発足する前から、「地域で何かしてみたい」という希望を持った移住者は多くいた。その1人がギャラリー「ものかたり」を主宰する小熊隆博(おぐまたかひろ)さんである。

まさに彼は、ドチャベンジャーズが目指す「五城目町での自分らしい生き方」を体現している。彼の生き方のキーワードは「地場産業とのコラボレーション」だ。

笑顔でものかたりや経緯を話してくれる小熊さん

「直島でアートの可能性に触れ、故郷の五城目町にもアートを取り入れて新しい価値をクリエイションできるのでないかと考えていた時に、おもしろい移住者が集まり始めているということを知りました。帰郷してからは彼らとの出逢いに始まり、地域おこし協力隊の制度に出逢い、いろんなご縁の先々に生み出せたのが、ギャラリー“ものかたり”です」

小熊さんは2008年から「ベネッセアート直島」で芸術祭の運営に関わった後に、2015年に故郷である五城目町にUターン。帰郷後は、地域おこし協力隊として「空き家」を活用するミッションを背負いながら、“ものかたり”というギャラリーを2016年4月にオープンさせた。
 2017年3月末に地域おこし協力隊を退任した小熊さんは、ギャラリー運営とともに「新たなクリエイションの形を探したい」と、クリエイターと地元企業を繋ぐ強力なパイプになっている。 
小熊さんは、Uターン直後、育ってきた地域で活動をしようと思った時には今までとは違う視点が必要だったと語る。

一つ一つのモノが、まるで語りかけるかのような空間“ものかたり”

「故郷ながらも地域おこし協力隊として、再び地域に入り込む必要がありました。その時に出会ったのが川村鉄工所の川村さんでした。『何か困ったことはないですか?』と尋ねたら、『この工場をでかくしたい』と返って来たんです(笑)鉄工所での新しい形を探していた川村さんに、家具の部品作りを提案しました。その提案は、川村さんにとって未知の領域だったのですが、お客様の要望に答えたいという想いから実現したのが、今の“ものかたり”のこのテーブルです」

川村さんに依頼したテーブルの脚

現在では川村さんの高い技術と姿勢が認められ、インテリア会社から直接依頼が来るようになったのだそう。その架け橋となった仕掛け人は紛れもなく小熊さんだった。
小熊さんは五城目町で地場産業との繋がりによって、一つの生業を生み出した。

2人のクリエイションの形は、今後も楽しみでならない。小熊さんの軌跡はこれから五城目町に移住したいと考える人の助けになるだろう。
ドチャベンジャーズには、五城目町で多種多様にナリワイをつくってきた先人達と、地元企業に所属するものの20名近くがメンバーとして名を連ねている。

信頼関係の見える川村さん、小熊さん

 

あと一歩。踏み出したい人に、秋田を教えたい。

秋田県を巡る旅路の中で多種多様な「創る人」を見てきたが、五城目町は「ナリワイを創ること」において、はっきりとした輪郭が見えた。
五城目町には「人を活かし、地域を活かす」ことに情熱を注ぐ人達、ドチャベンジャーズという体制、BABAMEBASEという拠点が揃っている。

人口が減れば、地域に誰も担う人のいない空白が生まれてくる。しかし、その空白は誰かにとっての居場所となるかもしれない。余白がなければ新しいものを入ることはできないのだ。
今、全国各地に「空白」が生まれている。それを活かすのも殺すのも「人次第」ではないか。
五城目町には、まだまだ空白がある。それは決してネガティブなことではなく、それだけ「誰かが入る場所」があるということだ。教育、農業アート、地場産業とのコラボレーション…あなたと五城目町がどんな「クリエイティビティ」を発揮するかが鍵である。

 

「アキタライフを巡る旅」をあなたにも

秋田県を縦横無尽に駆け回り、その道筋は気づけば300kmを超えていた。触れることのできたアキタライフはわずかな断片だったけれど、「アキタライフ」に思いを馳せる種としては十分だ。
新しいライフスタイルに飛び込むために、まず種を受け取るところから始めてみてはどうだろうか。あなたにとってアキタライフとの出会いは、ひとまずこの記事限りだが、どこかでふと再会した時に種は芽生えるかもしれない。
私も、この旅でたしかに種を受け取った。この種から芽が出た時、また秋田へ足を運ぶだろう。なぜか出会えなかった秋田美人に、次こそは会いたい。

 
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