【とやまWEST 移住者インタビュー】
このまちで描く、私らしく自分らしい暮らし
〈砺波市/射水市編〉

「とやまWEST」は、富山県西部に広がる個性豊かな6つの市が集まるエリアです。山から海へと続く豊かな自然や、長い歴史の中で育まれてきた伝統・文化、そしてさまざまな観光スポットが、日々の暮らしのすぐそばにあります。この地域に魅せられて、移住を選んだ6組のストーリーを、〈砺波市/射水市編〉〈小矢部市/南砺市編〉〈氷見市/高岡市編〉の全3回にわたってお届けします。

 

移住者インタビューPart.1【砺波市に移住】

散居村の大きな古民家で叶えた、
小さなスコーン屋さん

渡辺 千恵わたなべ ちえさん

富山県砺波(となみ)市で、洋菓子店を営む渡辺千恵さん。千葉県市川市出身で、都内での会社勤めを経て、2016年5月に夫と愛犬とともに砺波市に移住。同市の地域おこし協力隊として3年間活動した後、念願だった古民家で、「散居のちいさなスコーン屋さん”そらもよう”」をオープンした。

 

仕事に追われる日々から、“自分たちの時間”を取り戻すために

「夫婦ともに忙しく働いていて、ある時、私が体調を崩して入院することに。回復しても、このまま同じ生活を続けることに不安を感じました。同じ時間を過ごすなら、自分たちのペースで好きなことをして暮らしたいと思ったんです」

以前から古民家での暮らしに憧れていた渡辺さん。テレビで古民家特集を見るたび、趣のある佇まいに心惹かれていたという。

そんな中、東京・有楽町の「ふるさと回帰センター」を訪れた際、たまたま開かれていた富山県の移住セミナーに参加。初めて見た立山連峰の風景から暮らしのイメージが膨らみ、その場で移住体験ツアーに申し込んだ。訪れたのは秋の収穫時期。山の美しい景色とおいしい食べ物に魅力を感じ、移住が現実味を帯びていった。

移住先に砺波市を選んだ決め手は、散居村の風景だった。田畑の中にぽつりぽつりと佇む大きな古民家とそれを囲む屋敷林(カイニョ)。その景色に出合った瞬間、「ここだ」と運命的なものを感じたと渡辺さんは振り返る。とはいえ、仕事や住まい、冬の暮らしなど不安も多かった。そこで季節ごとに砺波を訪れ、少しずつ暮らしを体験。移住の足がかりとして地域おこし協力隊に応募し、2017年から3年間、観光協会で活動した。

 

築100年を超える古民家との出合い

協力隊に就いた当初は、市が用意した住居に住みながら、理想の古民家を探していた。そして3年目、空き家バンクで現在の家と出会う。黒瓦の大きな屋根と漆喰の白壁が印象的な「アズマダチ」と呼ばれる伝統家屋。築100年を超える趣ある建物を内見した瞬間、渡辺さんはひと目ぼれしたという。居間や寝室、水回りはリフォーム済みで、すぐに暮らし始められることも後押しになった。

「古民家の寒さは覚悟していましたが、それも含めて田舎暮らしの醍醐味ですね」と笑う。

移住前は不安もあったが、実際に暮らしてみると、玄関先に野菜が置かれていたり、庭の雪かきを手伝ってもらったり、人の温かさを感じる日々。地域のコミュニティの結び付きが強く、お祭りなどの行事に、住民が一つになって取り組む姿が新鮮に感じられたという。また、移住者だからといって距離を置かれることもなく、ちょうどいい距離感で接してくれるのが心地いいと渡辺さんはいう。移住しての心境の変化を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「都会にいた頃と同じ時間が流れているはずなのに、今ではゆっくりと感じられます。時間に追われることもなく、気持ちに余裕を持てるようになりました。夫の通勤も15分ほどで、無理なく働けています。時間に余裕ができた分、夫婦の会話も増えました」

 

古民家でスコーンのお店を開くという挑戦

協力隊の任期後、再び都会のような働き方に戻る気持ちはなかったと話す渡辺さん。

「暮らしを変える覚悟で移住してきて、素敵な古民家にも出会えました。それなら、やりたいことに挑戦したいと思ったんです」

2020年に協力隊を退任すると、自宅の一部を店舗スペースとして改修。当初は紅茶を提供するカフェを開こうと考えていたが、コロナ禍でカフェ営業は見送り、まずはスコーンのテイクアウト販売からスタートした。隊員3年目にいろいろなマルシェに出店し、手作りのスコーンを販売したところ好評で、手応えを感じていたという。地元の素材をできるだけ使い、定番と季節限定のスコーンを手作りしている。開店当初は近隣からの来店が中心だったが、ここ数年は遠方からの来店も増えている。渡辺さんは委託販売をせずに、店頭での販売にこだわっている。

「古民家や周りの風景も含めて、商品の魅力だと思っています。スコーンを見た時に、砺波の景色を思い出してもらえたらうれしいですね。また、来店をきっかけにこの地域への往来が増えるといいなと思っています」

地域の寄合でスコーンの注文が入ることもあり、すっかり地域に根付いた存在になっている。

 

砺波で過ごす“何気ない時間”の豊かさ

移住して10年。渡辺さんは砺波のどんなところに魅力を感じているのだろうか。

「山も田園も市街地も、コンパクトにまとまっていて暮らしやすいまちです。毎日の犬の散歩で見る田んぼ越しの山の景色は、ここだけのもの。『今日もきれいだな~』と感じる瞬間がぜいたくなんです」

日々の暮らしの中で、もうひとつ実感しているのが水の豊かさだ。家のまわりには水路がめぐり、いつも静かに水をたたえている。市内には飛騨高地の烏帽子岳を源に持つ庄川が流れ、その水が田畑を潤し、地域の農産物を育んでいる。さらに、赤岩川の上流には環境庁の「平成の名水百選」に選ばれた「不動滝の霊水」があり、渡辺さんも時折、その水を汲みに訪れるという。

こうして砺波での暮らしを楽しむ中で、渡辺さんには新たな目標も生まれた。それは、紅茶アドバイザーの資格を生かしたこだわりの紅茶とスコーンを楽しめるティールームを開くこと。

「今は家具や備品を揃えるなど、少しずつ準備をしています。オープンはまだ先になるかもしれませんが、自分のペースで楽しみながら進めていきたいです」と笑顔で話してくれた。

 

砺波市ってどんなところ?

商業施設や医療機関がそろう利便性の高い市街地と、自然豊かな農村や里山が隣り合う、暮らしやすく穏やかな環境を兼ね備えた「便利な田舎」です。農村の原風景である散居村には今も伝統家屋が残り、地域行事や祭りも活発に行われています。人と人とのつながりが温かく、心豊かな日常を実感できるまちです。

【人口】46,342人
【世帯数】18,010世帯
【主な移住・定住支援制度】
となみ暮らし応援プロジェクトお試し住宅 他
【移住に関するお問い合わせ先】
砺波市役所 市民生活課 TEL:0763-33-1172
【砺波市ホームページ】
https://www.tonami-life.net/

 

移住者インタビューPart.2【射水市に移住】

2年半かけて古民家をDIY。
湊町「内川」でビストロ&雑貨店を開業

齋藤さいとう まゆみさん

富山県射水(いみず)市へ移り住み、古民家を自らの手で改修して新たな暮らしを始めた齋藤まゆみさん。湊町ならではの風情とユニークな造りの建物に魅了され、飲食店と雑貨店をオープンした。移住をきっかけに見つけた“自分らしい生き方”について話を聞いた。

「埼玉県でパートナーと一緒に長年飲食店を営業していました。それがコロナ禍で人がぱったり来なくなって、つまらないな~と。思い切って別の場所で新しいことに挑戦してみようと思ったんです」

新しい暮らしを考えた時、古い家を自分たちの手で直して、好きなものを詰め込んだ店をつくりたいという思いが芽生えた。そして、「500万円以内で購入できる物件」という条件で絞り込み、全国の不動産サイトで検索。その時点で移住先はまったくの白紙だったが、それまで住んでいた場所とは違う雰囲気の街で店を開きたいという思いがあった。物件ありきで移住先を探す中、ある時目に留まったのが、射水市にある一軒の古い住宅。間口が狭く奥行きが長い独特の造りで、調べると箱庭まで付いている。しかし、お風呂がない。

「まるで違う星のようでした。お風呂なしでどうやって暮らしているんだろう、と逆に興味が湧いてきたんです」

 

湊町の風情に心を奪われ、移住を決意

気になったら行動あるのみ。不動産会社に連絡し、2020年10月に射水市・新湊地区を訪れた。内川沿いには漁船が係留し、町屋風の建物が軒を連ねる。映画やドラマのロケ地にも選ばれる、湊町ならではの暮らしと生業が醸し出すユニークな街並みが広がっていた。

「こんな生活があるんだ!」と齋藤さんは驚き、そのユニークな街の雰囲気に心をつかまれたという。内見した物件は想像以上に老朽化していたが、隣りに状態の良い空き家があると聞き、そちらに方向転換。「ここなら自分たちのお店ができる」と直感し、購入を決めた。近くに電車が通り、買い物環境も整っていたことも後押しとなった。

ちょうど同じ時期に射水市の地域おこし協力隊の募集に出会った。地域を盛り上げる活動内容に興味を持ち、その取り組みを通して地域に溶け込めることにも魅力を感じた。協力隊として新湊地区のにぎわいづくりに尽力しながら、近くの借家に身を置き、時間をかけて自身の物件をリノベーションすることに。2021年3月に齋藤さんが先に移住し、数カ月後にパートナーも合流した。

 

築80年の古民家をDIYで理想の空間に

購入した物件は、築80年の古民家。奥に長い建物は3つの空間に分かれ、前面の内蔵部分を飲食店、中央を住居、奥を齋藤さんの雑貨店にすることに決めた。改修は残置物の片付けから始まり、漆喰塗り、キッチンづくり、棚の設置、トイレの改修など、できる限り自分たちで手を動かした。分からない部分は地元の工務店に相談し、電気や水道など専門的な工事は業者を紹介してもらった。

開業資金には、地域おこし協力隊の起業支援補助金や射水市の新規出店補助金を活用。内蔵の1階は客席スペースとし、憧れのまきストーブを設置。冬には火のゆらぎを眺めながら食事を楽しめる、温もりのある空間に仕上がった。2階はソファーを置いてラウンジ風のくつろぎスペースに。

「2年半かけて改修したので、愛着がすごいんです。すばらしい出来ばえに、二人で自画自賛しています(笑)」

 

海の恵みを味わうビストロと、ハンドメイドの雑貨店をオープン

2023年秋、「喰べものや 世楽美(セラビ)」と「布ものや c’est la vie(セラビ)」がついにオープン。「世楽美」はパートナーがシェフを務めるフレンチベースのビストロ。新湊漁港で水揚げされた魚を使った料理が評判で、「こんなにいい魚は見たことがない…」とシェフがうなるほどの新鮮さだという。

「c’est la vie」では、齋藤さんが手がけるビンテージ布の洋服や小物、世界中で買い付けた布・雑貨が並ぶ。食事の帰りに立ち寄る人も多いそうだ。

「開店前は本当にやっていけるのか不安もありました。でも地域の人が総出で応援してくれて、すぐに食べに来てくれたり、宣伝してくれたり。細々と営業できればいいかなと思っていたのですが、『新しい店ができたぞ!』と地域の反応が大きくて、びっくりしました(笑)」

 

距離の近さ”が心地いい。移住者として伝えたい射水の暮らし

射水市が開催する移住体験ツアーでは、参加者が齋藤さんの店を訪れることもあり、先輩移住者として自身の経験を伝えている。海が近く、朝には舟が出る音が聞こえること。冬の雪道運転にドキドキすること。銭湯が生活の一部になっていること。

「移住して間もない頃、銭湯で『あら~引っ越してきたの?』と声をかけられて驚きました。移住前は知らない人に話しかけられることなんてなかったので、それが新鮮で面白くて。そんな距離の近さが心地いいんです」

開店から2年半が経ち、ようやく気持ちに余裕が出てきた今、齋藤さんは「そろそろ新しいことを始めたい」と話す。最近では、「今度は別の家を直したい」と、DIY熱が再燃しているそう。また、もっと人とのつながる機会を増やしていきたいとも考えている。

「お店の近くに赤い屋根のステキな橋があって、協力隊の時にそこでマルシェを企画したんです。今も年1回は開催していて、川沿いに飲食や雑貨などの出店が並んで、いろんな人が集まって楽しんでくれる。その風景が大好きで。今年はもう少し回数を増やしたいなと思っています」

新しい土地で店を構え、自分たちの手で暮らしを形づくってきた齋藤さん。湊町のゆるやかな時間、人とのあたたかなつながり、そして自分の手でつくる楽しさ。射水には、肩の力を抜いて自分らしく暮らせるヒントがたくさん転がっているのかもしれない。

 

射水市ってどんなところ?

富山県の中央に位置し、県内各地へのアクセスに恵まれた立地。企業就職や起業はもちろん、農業・漁業といった分野まで多様な産業が集積しており、「自分らしい働き方」を選びやすい環境が整っています。また、コンパクトな市域の中にスーパーや医療機関などの生活便利施設がそろい、「県民公園太閤山ランド」をはじめとした都市公園も身近にあります。仕事もプライベートも大切にしたい方にぴったりの暮らしがここにあります。

【人口】89,340人
【世帯数】37,629世帯
【主な移住・定住支援制度】
いみず住まいづくり支援補助金【新築等取得事業】
いみず住まいづくり支援補助金【中古住宅利活用事業】
若者世帯定住促進家賃補助事業 他
【移住に関するお問い合わせ先】
移住と空き家利活用の相談窓口「♯みらいシテン射水」 TEL:070-9345-1346
射水市役所 観光まちづくり課 TEL: 0766-51-6676
【射水市移住支援サイト】https://imizu-ijyu.com/
【射水市ホームページ】https://www.city.imizu.toyama.jp/

文・鈴木俊輔 写真・中西 優

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