長崎県のほぼ中央部に位置する諫早市。大村湾の南端に面した多良見町大草地区は、穏やかな海岸線と緑豊かな里山の風景が広がるのどかで美しいまちです。子どもの保育園探しをきっかけに、2024年に大草地区へ移り住んだ今田拓郎さん・愛さん夫妻。田んぼやみかんの木々を眺めながら坂道を登っていくと、今田さん家族が出迎えてくれました。
「大草で子育てをして良かった!」
自然も人も見守ってくれる里山のまち
熊本地震のボランティア活動で出会った今田さん夫妻。福岡県出身の愛さんは、支援活動のため熊本で暮らしていたが、結婚を機に拓郎さんの実家に近い長崎県大村市へ。そして、子育て環境を考えた結果、諫早市大草地区への移住を決めた。
「子どもの保育園や小学校のことを考えると、児童数が多いところよりも一人ひとりの友達とのつながりが深まる方が良いかなって。いろいろ見た中で、大草の保育園は価値観や方針が私たちに合っていると感じたんです」と愛さんは語ります。
子どもたち一人ひとりを丁寧に見てもらえるのは小規模の保育園ならでは。先生方もおおらかで、先生と保護者というよりは、同じ地区の住民として親しみをもって接してくれるところにも魅力を感じたという。また、すぐ隣の伊木力地区に拓郎さんの実家があり、家業のみかん農家や建設業の手伝いがしやすくなることも決め手となった。
大草で出会いに恵まれたという愛さん。
「保育園に入る1週間ほど前に、公園でうちと同じ年頃のお子さんを連れた移住者の方と出会ったんです。しかも、同じ保育園に入ると聞いて、親も子も意気投合しました。今ではすっかり仲良しで、ここでの子育てを選んで良かったと思っています」
移住仲間はもちろん、ご近所さんも頼もしい存在だ。
「以前はアパート暮らしだったので、ご近所さんとの関わりは少なかったけど、大草は近所づきあいや地域のつながりがあって、すごく楽しいです。近所の子が『あそぼ〜!』とうちの子を誘いに来てくれるし、地域のおじいちゃんやおばあちゃんもいるから安心。まわりに育ててもらっているような感じです」
自然豊かな里山は、子どもたちのかっこうの遊び場。夏は蝶をつかまえたり、草花を摘んだり。
「子どもはいつもその辺を走り回っています(笑)。我が家はテレビゲームをしないので家に置いていません。子どもたちは近所を走って遊ぶだけで十分なのかな」と、拓郎さん。
「摘んできた花は家に飾り、子どもと一緒に名前を調べるのも楽しみのひとつです。また、保育園まで歩いていく道すがら、田んぼの季節の移り変わりを子どもと一緒に眺めていると癒されますね」と、愛さんも顔をほころばせる。大草の人と自然が、のびのびと育つ子どもたちをやさしく見守ってくれる。
DIYスキルとこだわりで「THE 昭和」の家をリフォーム!
保育園が決まったものの、なかなか住まいが見つからなかったという夫妻。
「自分たちで古い家をリフォームしたくて、中古を探していました」と、愛さん。拓郎さんも「この辺りは、空き家を手離されない方が多いようです。住んでいた方が亡くなって家は空いていても、畑があるためご家族が時々訪れたり、お仏壇が置かれていたりするんですよ」と教えてくれた。
「空き家バンク」の登録情報などもチェックしながら物件を探していたとき、拓郎さんが知り合いから紹介してもらったのが現在の住まい。以前は賃貸物件だったが、大家さんが貸し出すのをやめると聞いて譲り受けたという。築43年の一軒家は、「田舎暮らしを謳歌したい」という夫婦の希望にぴったりだった。
「我が家は毎週のように人が集まって、いつも賑やかです。薪ストーブを焚いたり、庭でBBQもするので、近所に迷惑がかからない家を探していました」と、拓郎さんは笑う。
レトロな住居の玄関を開けると、広い土間と薪ストーブの先に、2階まで吹き抜けになった空間が広がる。リフォーム作業は、仲間の手を借りながら夫婦でDIY。自営で建設業を営む拓郎さんのスキルとこだわりが詰まっている。
「最初は、THE 昭和の家という感じで、天井から床、壁を全部はがすことから始めました。薪ストーブを置きたかったので、玄関を広げて土間もつくりました」と拓郎さん。
お子さんのお気に入りは、リビングの一角に設置されたクライミングウォールとポール。もちろん拓郎さんのお手製だ。
「テレビ番組で登り降りできるポールを設置した家が紹介されていたんです。それを見た子どもが『これで遊びたい』と言うので、最初はポールを立てて、クライミング用のハーネスを付けて。いっそ子どもが登れる壁も作ろうって」と、完成したクライミングウォールは近所の子どもたちにも大人気。
クロスを剥がした壁はいつのまにかお絵描きスペースに。
「壁紙を貼る前に子どもが絵を描いたので、これも思い出だと思って消せずに作業が止まっています(笑)。暇を見つけては進めていますが、やりたいことが多すぎて、終わりがないです」と拓郎さん。
リフォーム費用は諫早市の移住支援制度を活用。大草地区は諫早市外からの移住者を対象にした「新生活支援補助金」の指定地域で、子育て世帯は補助上限額が上乗せされる。また、トイレが汲み取り式だったため、同市の「高度処理型浄化槽設置費補助金」を活用して水洗トイレに改修。子どもの成長に合わせて少しずつ、拓郎さんと愛さんの自分たちらしい家づくりは進んでいく。
自然と共存しながら地域資源を活かす。移住仲間との新しい挑戦
「仲の良い移住仲間と地域の資源を活かして何かしたいねという話をよくするんですよ。地域に根付いて暮らしながら、私たちが還元できることをやろうって」と、愛さんは新しい取り組みにチャレンジしている。そのひとつが竹林の活用だ。
大草地区は傾斜地が多く、根が浅い竹を放っておくと、土砂災害などにもつながってしまう。しかし、住民の高齢化で人手が足りず、整備がままならない。愛さんたちは山の手入れをして、伐採した竹を使って竹炭やかごなどを作ろうというプランも。
「山の環境が荒れると、災害の一因にもなるし、イノシシなどの獣害の問題も出てきます。地域のおじちゃんやおばちゃんから学び、受け継いでいきたいと考えています」と、自然環境と共存できる形で、地域資源を掘り起こそうと動き出した。その一環として、愛さんは移住仲間と共に狩猟免許(わな猟)の取得を目指している。
「近所のおじいちゃんが師匠です。イノシシがくくり罠にかかったら、師匠が『行くぞ!』って。お肉としていのちをいただく方法もありますが、私はできれば山に棲む動物とも共存したい。単に動物を排除するよりは、山を再生して食べものが増えれば里に降りてこなくなると思います。動物とうまくやっていく方法はないか、山の手入れにも役立つのではないかと考えて、狩猟免許を取ろうと決めました」
「山と海はつながっていて、山の栄養が乏しくなると、海の生態系にも影響が出てしまいます。壮大な課題ですが、その一助として、私たちにできることから少しずつ取り組んでいきたいですね」と愛さんは続けます。
大草地区の環境や課題と一緒に向き合える仲間たちとのつながりが大きな励みに。「仲間がいるだけで一歩を踏み出せます。これからまた楽しみが増えました」と、愛さんの口調は穏やかながら力強い。移住者の小さな一歩が、山と海の環境を守る未来へと続いている。
「なんかいいな」という感覚が正解。
移住先にはいい出会いも暮らしもある
拓郎さんは建設業のかたわら、家族3人で「DRT JAPAN NAGASAKI」というチームを組み、技術系ボランティアで全国を駆け回っている。
「能登半島で地震が発生した時は、翌々日の朝に能登にいました。僕は重機やチェーンソーの技術支援で、道路啓開をしたり、ボランティアセンターの立ち上げをサポートしたりました」被災地では子どもの活躍も大きい。
「チームの代表はこの子です(笑)。誰とでも仲良くなるから全国に友達がいますよ」と愛さん。熊本県人吉の水害では、2歳の頃からジュースやかき氷を配る手伝いも。
「小さな子がいるだけで、被災地の住民の方も笑顔になってくれるし、大人が聞けないことまで聞き出してくれる。住民の方にゆっくり心を落ち着かせてもらう時間はとても大切なんです」と拓郎さん。
タイミングが合えば家族そろって北から南へ。「ボランティアや出張であちこち行くのが、家族旅行みたいなものですね」
公私ともアクティブな今田さん家族が、ほっと一息つけるのは、やはり大草での日常。家の裏手に借りた畑では、愛さんが家庭菜園を始め、にんにくや玉ねぎなどを育てているそう。
「いろいろなところに移り住んできましたが、いつも『なんかいいな』って感覚で決めたら正解が多くて。すごくいい出会いと暮らしがありました。ここもそうです」
近年、大草地区では青年団によって夏祭りが復活し、豆まきや鬼火焚きなど、昔ながらの行事も。また、地域住民の協力のもと、大手企業を招いてワーケーションが開催されるなど盛り上がりを見せている。
「今、大草に活気が出始めていると思います。まわりからも移住したいという声を聞くようになりました」(愛さん)
人とのつながりを大切に、自分たちらしく日々を楽しむ今田さん家族。子育て世代が増えると地域も元気を取り戻す。大人も子どもものびのびと暮らせるこのまちが、移住の新たな注目スポットになるかもしれない。
取材・文:山田美穂 写真:藤本 幸一郎
【いさはや暮らし】
長崎県の移住支援公式ホームページ「ながさき移住ナビ」では、仕事探しや住まい探し、子育てや教育など暮らしに関する情報を分かりやすく掲載しています。また、移住に関する相談窓口や各種支援制度、移住者の体験談なども紹介。長崎県へのUIターンを検討されている方は、ぜひ「ながさき移住ナビ」をご覧ください。
【いさはや暮らし】
「いさはや暮らし」は、長崎県諫早市の魅力を発信する移住支援情報サイトです。小長井町、高来町、森山町、飯盛町、多良見町、中心エリアの6つの地域の特徴や、充実した子育て支援、移住者向けの支援制度などを詳しく紹介。移住者の体験談も掲載されており、移住を考えている方に役立つ情報が満載です。