住友重機械イオンテクノロジー株式会社(以下SMIT)は、半導体製造のための「イオン注入装置」を開発・製造する日本のトップメーカー。 また先進的かつユニークなCSR活動でも注目の企業だ。穏やかな瀬戸内海と四国山地の急峻な山々に囲まれた、美しい自然環境で知られる愛媛県西条市とともに歩む同社を、TURNS編集部が訪ねた。
(前編)
住友重機械イオンテクノロジー 企画管理部 人事総務グループ 廣瀬 恭文 さん
“経済優先”の視点ではなく未来の暮らしでカタチを考える
地域と企業が密接に絡み合いながらコミュニティの理想像を模索
SMIT愛媛事業所がある西条市。同社は自社製品の製造以外にも地元でのCSR活動に特に注力している。その背景には、地元発祥のグループ企業体が辿った歴史と、その教訓から得たコミュニティとの共生を目指す独自の企業哲学がある。
愛媛県西条市に製造拠点を置く、住友重機械イオンテクノロジー株式会社。1983年に創業、半導体製造用「イオン注入装置」の専業メーカーにして国内トップの売上げを誇る先端企業だ。しかしSMITがユニークな点はここで生み出される製品だけではない。地元西条市の行政や地域団体との協業による独自のリーダーシップ開発とCSR活動を掛け合わせた「DAIS(ダイス)プロジェクト」を提案、定期的に実施するなど、地域と企業の関わり方における先進的な取り組みでも話題を集めている。企業と地域との関わり方、考え方や具体的な方策について、人事総務グループの廣瀬さんに話を伺った。
「DAISとはD=Diversity(多様性)、A=Authentic(本物の)、I=私、S=Social(社会の)の4文字を語源とした造語。今年10月に第3回目の実施を予定しているこのプロジェクトは、地域につながりを持つ異業種の人々が意見を交換しあい、地域の課題解決のためのアイデアを実現しようという試みです。フィールドワークに基づいて検討を重ねられた案は、最終的に地域課題を提供してくれた答申先への提言としてまとめられます。優秀な提案に対しては実際に地域課題を解決する施策に採用される可能性があります」
以前、廣瀬さんが勤めていた人材関連企業の先輩、巴山雄史さん(合同会社こっから代表)が運営者窓口、そしてSMITが発起人となって2018年に第1回目のプロジェクトを実施。以来、年1回のペースで実行されている同プロジェクトに対し、廣瀬さんは着実な成果を実感しているという。
「社会問題の解決には、地元に暮らし働く人たちが誰よりも先に手を挙げて行動を始めることが先決。幸いなことに弊社には、全国から非常に優秀なレベルの人材が集まってくるのですが、昨今のソーシャル・ビジネスへの関心の高まりもあり、特に20代~30代の若手世代の感覚として会社=人生という従来の価値観が崩れてきている。
もっと社会に価値をもたらしたい、自分が住む地域に貢献したいなど、会社での仕事の枠を飛び越えた創造的な生き方を選択する人たちが増えていると感じます。DAISの活動を通し、社会問題への直接的なアプローチを行いつつ、この地で働く人々の潜在的な地域再生への情熱やモチベーションを触発、活性化させると同時に、ソーシャルな視点や、不確実性の高い事業環境の中で事業をけん引していける人材の育成に繋げる狙いもあるのです」
(左)右手の白い建物が愛媛事業所の建屋。左隣敷地には住友重機械工業の工場がある。正面の大型クレーンに描かれたSUMITOMOのロゴが地元発祥のグループ企業としての歴史を物語る (右)事業所エントランス風景
半導体製造に欠かせない「イオン注 入装置」。現在は 国内だけでなく海外にも積極的に事業拡大を行っているとのこと。この製造所で研究から開発、製造までの全工程が行われる
住友の事業精神が導く本質的な企業の在り方
眼の前の自社の利益や経済活動だけでなく、地域の未来にも目を向ける。同社のこうしたソーシャルな発想の源はどこにあるのだろうか。 住友グループ発祥の地である愛媛県東予地区。この地で約3世紀前、現在の住友グループ隆盛の基礎を築いた産業が別子銅山での採掘事業だ。
しかし銅鉱石を精錬する際に排出される大量の亜硫酸ガスにより、近隣の農作物や森林に深刻なダメージが発生。精錬所の移転を試みるも事態は好転しなかった。当時の経営陣は「煙害の賠償」というお金による解決では世間の信用は得られないと判断。技術的なアイデアにより解決する方法を粘り強く探り、創業から約30年の時を経て「回収した亜硫酸ガスから農業用肥料を製造する」技術の開発に成功した。
「住友の事業精神を表す言葉の一つに、自利利他公私一如があります。これは自社だけでなく、地域を含む世の中に価値を提供して共に成長していくことを目指すという意味であり、物事の本質や事業体としての正しい在り方を追求する長期的な視点は、住友の事業精神に由来するものなのかもしれません」
高知県で生まれ、18歳まで地元で過ごし関西の大学へ進学。
「正直、社会人になるまでは地方ではクリエイティブな仕事はできないと思っていた」という廣瀬さんは卒業後、上京し大企業の経営企画部に2年半勤務。その後、大手人材系企業へ転職し、大阪で6年間、製造業中心に採用業務に携わった。
「ほとんどの製造業の拠点は自然豊かな地方にある。製造業が発展していくには、地方との共生は不可欠であり、そこにはまだまだイノベーションが生まれる白地がある。不思議なことにそれまで閉塞的に感じていた地方が、豊かで新鮮に思えてきた」
2018年3月にSMITに入社。社内外の人的リソースを活用し、数々のプロジェクトを通して、ソーシャルな視点から地域社会との密な連携を模索する。
「SMITの企業風土は、とにかく自由で先進的。新しいことにチャレンジするのに障壁が全く無い。自分自身、好きなことをやらせてもらっています」
「リフレッシュルーム」と名付けられ一新された休憩室。〝住友=古い会社〟のイメージを打破すべく「キャンピングオフィス」の要素を取り入れた。テントやフォールディングチェアなどスノーピーク社製のアウトドア製品が所狭しと配置される
キャンプファイアをイメージしたコーナー。社員からも「リラックスできるし良いアイデアも浮かぶ」と好評だ。右側の女性が導入を手掛けた人事総務グループの松本さん
人事を担当する廣瀬さんに同社が求める人材像を聞いた。
「弊社の取り扱う半導体製造用イオン注入装置はありとあらゆる技術の集合体であり、開発系の職種であれば機械系、物理系、電気系、ソフト系、プロセス系と幅広い工学系の知識や経験を持つ技術者の方にとって活躍の場がございます。また現在装置の製造やメンテナンスを行う部門でも積極的に採用をしています。
スキル以外の部分で弊社にフィットしている人物タイプとしては、日進月歩の世界において過去の成功体験に囚われず、柔軟な発想ができる人。未知な物事に対する知的好奇心が旺盛で、地方から本気で世界を舞台として挑戦をしていくことを楽しめる人材。それらを総合的に判断し、本人のポテンシャルをみて採用します。
あと、この西条市でソーシャルな活動に参加したいという社会意識の高い人は大いに歓迎です」
長期的視野で社員と地域住民とが共に繁栄し、誰もが豊かな人生を送れるよう考え、行動する住友の企業DNA。優れた製品を生み出しグローバルに活躍するSMITは同時に、ローカルに対しても温かな眼差しを向ける、ソーシャル志向の強い企業だ。
《インタビュー・起業家に聞く西条市の可能性》
全国から集った起業家たちが未来を創造する西条市
行政ぐるみで地域おこしに積極的な西条市。その力強い味方となる存在が〝地域再生の請負人〟、そして起業家集団でもある株式会社ネクストコモンズラボ(NCL)だ。チーフディレクターの安形さんに話を聞く。
NCL西条の活動拠点としてみずから立ち上げた紺屋町dein(デイン)。活動について語る安形さん
「住友重機械イオンテクノロジー(以下SMIT)の社員の方々とは、ネクストコモンズラボ西条(以下NCL西条)の活動を通じて出会いました」と語る安形さん。NCLは全国各地に眠る有望な資源を活かすためのヴィジョンを共有する起業家を集めてチームを編成。それぞれの地域で「新たな社会インフラ」の創造を目指す。 愛知県新城市出身の安形さんはSMITの理念に深く共感。
「魅力的な自然環境に惹かれた」という理由から、みずからの着任地に愛媛県西条市を選び2018年に移住。拠点として立ち上げた『紺屋町dein(デイン)』で3名のコーディネーター、10名の起業家たちと共にNCL西条のチーフディレクターとして事業アイデアの実現に向けて日々活動している。
「SMITは西条市でも指折りの規模の企業。一方で、社員の皆さんが地域と積極的にかかわっているのが印象的です。西条市のような小さなコミュニティでは人と人との距離が近く、誰とでもすぐに打ち解けられる自由な空気がある。都会では接点が無いような異分野の方々との出会いも多い。SMITの社員の方々とも普段の清掃などの地域活動で顔を合わせるうち、自然と親交が深まった感じですね」
両者がコラボレーションを行うきっかけとなったのは、SMITが発起人となって開始されたCSR活動「DAIS(ダイス)プロジェクト=正式名称:異業種混合×リーダーシッププロジェクト in 西条」。
2018年から実施されているこのプログラムは、地域が直面する課題やテーマを持つ自治体や、公共性の高い事業を行う団体から本当に困っている課題をお題として頂き、その地域につながりのある組織や団体から集まった人材からなる選抜チームで課題解決を目指す。その課題解決への提言を行う過程で、地域社会についての知見を深めていく。参加する企業にとってこの活動自体が、自社の人材育成に繋がるという利点もある。
「最初は、SMITさんのような大企業が自社主導で地域の課題解決へ向けた活動を既に展開していることに驚かされました」と安形さん。昨年末に実施された第2弾では、地元企業8社と共に参加。確かな手ごたえを得たという。
左)プレゼンボードを前に説明。西条市が持つ潜在的な地域資源を七つの事業分野に落とし込んだチャートだ (右)紺屋町deinはチャレンジする人を応援するためのコワーキング&イベント用スペースとして活用されている。これまでに異分野の人々同士の新たな交流が生まれた
「意外だったのは、参加した企業の地元社員の方々が地元をあまり知らない、ということ。でもプログラムが進むにつれてチームに連帯感が生まれ、眼の色が変わっていく。他人事が自分事になるワクワクする瞬間に立ち会えました」
現在、NCL西条では7つの事業分野を策定。西条市の魅力を伸ばせる領域での事業化プロジェクトを展開している。SMITとのコラボレーションによって今後、期待したいのが「地域課題にチャレンジする人を増やす」こと。
「解決すべき課題は沢山ありますが、実現のために必要なのは地域に暮らす人々を数多く巻き込むこと。チャレンジャーが増える分新たな仕組みやモノ、産業が生まれ、地域の持続可能性が高まる。
会社や仕事以外で皆がどれだけ地域と関われる機会や時間を持てるか? SMITさんのような大企業が自発的に行動を起こしていることを嬉しく思います」 NCL西条とSMITのコラボレーション。今後の展開に注目だ。
[Profile]
NCL西条 チーフディレクター 安形 真 さん愛知県新城市出身。大学卒業後、地元で「農」と「食」を軸に地域おこしの数々のアイデアを展開。2018年に西条市のチーフディレクターに赴任。昨年、別組織を設立するなど西条ローカルのために精力的に活動中だ。
後編はこちら
今あるべき企業×地域の姿とは? vol.2
文・木下博人 写真・丹生谷千聡
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