【体験レポート】
旅するように働き、地域とつながる。
「高松ワークステイ」に行ってきました!

香川県高松市が開催する「高松ワークステイ」は、“働く×旅する×地域とつながる”をテーマにした短期のローカル就労体験プログラム。参加者は数日から2週間、高松市内の企業でのインターンシップやアルバイトを通して地元の人たちと交流し、地域の魅力や課題を体感します。

旅するように働きながら人と出会い、まちの風土に触れ、自分自身の新たな可能性をひらいていく。

観光でも移住でもない、新しい地域とのつながり方。それが「高松ワークステイ」です。今回は男木島と東植田町・瓦町で行われた高松ワークステイをレポートします。

 

Episode 1_瀬戸内海に浮かぶ、男木島へ

高松港からフェリーに揺られること、およそ40分。今回のワークステイの舞台となる男木島は、香川県と岡山県の間に広がる備讃瀬戸に浮かぶ、総面積1.34㎢、全周7kmほどの小さな島です。

船が島に近付くにつれ、急斜面に沿って家々が折り重なるように建ち並ぶ男木島の風景が、ゆっくり浮かび上がってきました。島内は細い路地が迷路のように続き、島猫たちがのんびりと日向ぼっこをする姿も。初めての訪問ながら、ノスタルジックな空気と穏やかな時の流れに、不思議と心がほどけていきます。

そんな男木島は、2010年から3年に1度開催されている「瀬戸内国際芸術祭」をきっかけに国内外から来訪者が増え、若い世代の移住者も増加中。今では人口135人(2026年2月現在)のうち、3人に1人が移住者となり、新たな活気も生まれつつあります。

その一方で高齢化が進み、空き家をどう扱うか悩むオーナーが増える中、これからの男木島には、単なる移住支援ではない、“地域の中で価値を生み出す”ことが求められています。今回のワークステイでは、島での共同生活を通して今ある資源を観察しながら、島の中で持続していく小さな事業の可能性を考えることもテーマになっています。

 

ゲストハウス「くわと本」でワークステイ

今回3日間実施されたワークステイで訪れたのは、島の玄関口である「男木港」から徒歩3分ほどのところにあるゲストハウス「鍬と本」。

オーナーの福井大和さんは、男木島出身。大学進学を機に島を離れ、その後、大阪でIT関連会社を起業し、20年近く県外で暮らしていました。


「鍬と本」の福井大和さんと順子さん

Uターンのきっかけは、2013年に男木島で開催された「瀬戸内国際芸術祭」。男木島のホームページ制作を手伝うため3週間ほど滞在した際、「ここならITの仕事をしながら、家族とゆっくり暮らしていける!」と確信し、2014年にUターンしました。

現在は、ゲストハウス兼カフェ兼コワーキングスペース「鍬と本」を経営する傍ら、奥さまと一緒に民設の図書館「男木島図書館」を運営。そのほか、「男木島地域のコミュニティ協議会」の会長や「NPO法人男木島生活研究所」の代表を務めるなど、まちづくりのキーパーソンとして活躍しています。

 

【ワークステイ1日目】

今回はインターンとして、高校生から社会人までの計6名の女性が参加。東京から3名、愛知から2名、大阪から1名と、年齢も居住地もさまざまです。

参加者は午後2時に男木島に到着し、「鍬と本」へ。オリエンテーションのあとは福井さんに男木島の歴史や、地域づくりについてお話を伺いました。人口が減りつつある島で、図書館やゲストハウスを通してコミュニティをつくり、いかに内部と外部の交流を生み出していくか。参加者は初めて耳にする島の課題に聞き入り、気づきをメモしていました。

お話のあとは、地元の氏神様を祀る「豊玉姫神社」へ。

潮風に吹かれながら、瀬戸内の島々のあいだにゆっくりと沈んでいく夕日を眺め、それぞれが今日1日の出来事を静かに心に刻みます。

夕食は、地域との交流会でした。食事は参加者みんなで手分けして準備し、台所に立ちながら自然と会話が生まれます。穏やかな雰囲気のなかで、ゆっくりと食卓が整っていきました。

交流会に招かれていたのは、移住して男木島で暮らしているお二人。島に来たきっかけや日々の営みについて語られ、その一つひとつに耳を傾ける時間が流れます。こうして1日目の夜は更けていきました。

 

【ワークステイ2日目】

朝、参加者は福井さんのもとへ。福井さんは、この日も「鍬と本」の掃除・洗濯・買い出し・調理をこなしながら、建物や敷地内の整備、料理に添える野菜を育てる畑仕事まで、休む間もなく動き続けています。

「鍬と本」で働くスタッフの1日は、出勤するとまず福井さんに「今日は何をしたらいいですか?」と声を掛けるところから始まります。その日の天候や予約状況などに合わせ、「じゃあ今日はこれをやろうか」と仕事が決まっていくのだそうです。

こうした流れで、ハッサクの収穫とジャムづくりが2日目の仕事となりました。朝食を終えた参加者は、まず「鍬と本」から徒歩約3分の場所にある男木島図書館へと向かいました。男木島図書館は、地域住民やボランティアの手によって運営されている小さな図書館。「本を通じて人が集まる場所」をコンセプトに掲げ、世代を超えた交流が生まれる拠点となっています。


図書館の裏庭には開館記念樹として10年前に植えたハッサクやレモンの木があり、2月はちょうど収穫の時期。ここから、ハッサクの収穫体験が始まりました。黄色く実った果実を、少しひねりながら丁寧にもぎ取っていきます。


爽やかな柑橘の香りがふわりと漂います

収穫体験の後は、柑橘ジャムに挑戦することに。収穫したての果実を「鍬と本」に持ち帰り、いよいよジャムづくりがスタートしました。

まずは福井さんが作業のお手本を見せます。採れたてのハッサクを手に取り、包丁でヘタと反対側を切り落として大きく4等分にカット。爪をたてて外皮を剥き、薄皮を丁寧に取り除いて、果実を取り出していきます。外皮は苦みのあるワタの部分と黄色い表皮に分け、表皮は細かく刻んでジャムに加えます。

参加者も見よう見まねで作業スタート。包丁を使って切り分ける人、外皮を剥く人、薄皮を剥いて果実を取り出す人と自然に役割分担し、黙々と手を動かします。

30分ほどで果実の山ができあがり。福井さんは「いつもは一人でやっているから、『むいてもむいても全然終わらん!』ってなるけど、みんなでやるとやっぱり早いね」とにっこり。

その後、果実を寸胴鍋に入れ、てんさい糖ときび糖を加え、火にかけてじっくり煮込んでいきます。

午前中の作業はここまで。近所の飲食店に移動してランチです。

芸術祭が開催されるようになってから島への来訪者は増え、冬期も海外からのお客様が絶えません。

島には個性豊かな飲食店が点在し、何を食べようか、なかなか決められないほど。


福井さんがスパイスから手作りする、「鍬と本」の牛すじカレーも絶品!

昼食後は、それぞれフリータイム。

写真を撮る人、猫たちと遊ぶ人、海を眺めて過ごす人。思い思いの時間を過ごしながら、島の風土を味わっていました。

午後は、「鍬と本」から徒歩6分ほどのところにある小学校近くの畑へ。こちらは昨日交流会に参加してくれた移住者の方が管理しています。

かつては辺り一面に畑が広がっていたそうですが、今ではほとんどが耕作放棄地となっています。長年放置されているうちに雑草だけでなく木まで生い茂り、イノシシが堂々と出没するように。残された畑もイノシシに荒らされるという悪循環に陥っていました。福井さんや島の有志が少しずつ整備するうちに、獣害も徐々に減ってきているといいます。

畑では無農薬で大麦を栽培しています。大麦は島に伝わる「男木みそ」の原料。ひと昔前は各家庭で作られていましたが、今では大麦を栽培する人も味噌をつくる人もほとんどいなくなってしまいました。

貴重な島の食文化を未来につなぐため、昨年から有志による大麦の栽培や味噌づくりの継承プロジェクトが始まっています。

10cmほどに伸びた大麦の周囲の雑草を、1本ずつ手で抜いていきます。農作業に慣れていない参加者にとっては、しゃがんだ姿勢で移動するだけでも一苦労。時々立ち上がって一息つきながら、「これ、雑草かな?大麦かな?」と声をかけ合いながらの作業が続きます。

1時間ほどできれいにできたのは、畑全体の5分の1ほど。普段は毎日30分ずつの手入れを重ね、1か月ほどかけて少しずつ畑全体を整えていくとのことでした。

参加者はその後「鍬と本」へ戻り、夕食をとりながら、男木島での今日の学びをシェアしました。

 

【ワークステイ3日目】

ワークステイ最終日。

朝食後は、福井さんご夫妻にお別れのご挨拶をし、参加者はそれぞれ、島での最後のひとときを自由に楽しみました。

島での時間を楽しんだ参加者は午後のフェリーに乗り込み、男木島を旅立って高松港へ。3日間のワークステイは幕を閉じました。

島での暮らしは、スーパーやコンビニが近くにあるわけでもなく、大工さんや郵便局員が常駐しているわけでもありません。その分、自分たちで野菜を育て、ジャムや味噌などの加工品をつくる。建物の修理はDIYで、手紙や宅配便は近所のおばちゃんが家事の合間に届けてくれることもあります。

自然が相手だから、ハッサクの収穫時期もあらかじめ決められるものではありません。麦畑の雑草が伸びてきたら、「今日は天気もいいし、時間もあるから草抜きしておくか」となる。

誰かに急かされて仕事をするのではなく、自然の移ろいと自分たちの暮らしを見つめながら、その日その日の仕事を丁寧に重ねていく。

その日の仕事がその日に決まるという、ゆるやかな働き方に参加者は少し戸惑いました。でも次第に、これが大自然とともに生きる男木島の“当たり前”の働き方なのだと気付かされた3日間でした。

ワークステイを終えた参加者からは、こんな感想が聞かれました。

参加者の声

Aさん(大阪府から参加)
なかなか行く機会がないような場所に行って、その地域の空気を感じてみたいと思って応募しました。一人で旅に出るのはこれが初めてで不安もありましたが、このワークステイプログラムならスタッフさんが丁寧にサポートしてくださるので、安心して参加できました。

Bさん(東京都から参加)
ちょっと前に大きな病気をしたのをきっかけに、生き方、働き方を見つめ直したいと参加しました。福井さんご夫妻の暮らしぶりや生き方がとても素敵で、こんな風になりたいと新しい目標ができました。

Cさん(愛知県から参加)
島の人と近い距離で交流でき、ここで暮らすイメージが自然に湧きました。男木島には初めて来たのですが、広島で暮らす祖母の家と島の集落や畑の雰囲気がとても似ていて。子どもの頃に畑仕事を手伝ったこともあったので、とても懐かしかったです。

Dさん(愛知県から参加)
ハッサクをむきながら、子どもの頃、ハッサクが大好きでいっぺんに3個も平らげてしまい、おばあちゃんに驚かれた懐かしい記憶がよみがえりました。これまで“移住”は、大きな覚悟が必要な人生の決断だと思っていたのですが、こうしてみなさんと話しているうちに、もっと肩の力を抜いて考えてもいいのかもしれない、と思うようになりました。

Eさん(東京都から参加)
自然豊かでのどかな環境のなかで過ごすうち、日に日に心が穏やかになっていくのを感じました。移住を考えるとき「地域の人に受け入れてもらえなかったらどうしよう?」とか、踏み出すのに勇気がいると思い込んでいたんです。でも、あたたかく迎えてくれる人がいるこの島なら、思い切って飛び込んでみてもきっと大丈夫だと思うようになりました。

Fさん(東京都から参加)
初対面の参加者のみんなと仲良くなれたことが、とても嬉しかったです。みんな年齢も違うし考え方もそれぞれだからこそ、自分一人では気付かなかったことや、得られなかった経験ができたと思っています。せっかくできた男木島とのつながりを大切にして、いつかまたこの島に戻ってきたいです。

観光でも移住でもない、「地域とゆるやかにつながる」という選択肢。

男木島でのワークステイは、特別なことをする三日間ではなく、島の日常に身を置き、その営みを一緒に重ねる時間でした。ハッサクをむき、畑で草を抜き、夕日を眺める。そんな一つひとつの体験を通して、参加者それぞれが「自分らしい働き方」や「これからの暮らし方」にそっと向き合う。

地域と関わる方法は、移住だけではありません。まずは訪れ、働き、出会い、感じることから始めてみる。「高松ワークステイ」は、そんな一歩を後押ししてくれる、新しい地域との出会いのかたちとなったようです。

 

Episode 2_懐かしい風景とカヌレの甘い香りに包まれた2日間

高松市中心部から車で約30分。東植田町(ひがしうえたちょう)は、どこか懐かしい田園風景と、ため池が点在する美しい水景に恵まれた地域です。

県内最大級のため池「公渕池(きんぶちいけ)」を中心に広がる公渕森林公園。そのほとりにある複合商業施設「むぎなわの里」は、飲食や買い物を楽しみながらリラックスできる場所として、市内外から多くの人が訪れます。

この「むぎなわの里」に店舗兼工房を構えるカヌレ専門店「As カヌレ」が、今回のワークステイの舞台です。

 

 

カヌレ専門店「Asカヌレ」でワークステイ

店主の寺井司さんがカヌレ作りを始めたのは、フランスで出会ったそのおいしさに心を動かされたことがきっかけでした。試作を重ねるうちに評判が広がり、「カヌレを日常に届けたい」という思いから店を開いたといいます。


店主の寺井司さん(右)と、高松ワークステイ参加者の米本妙子さん(左)

メニューには定番のプレーンに加え、あんバターや鳴門金時、高瀬茶など、地元食材を活かした個性豊かなラインナップが揃います。小ぶりで食べやすいサイズも魅力で、日々のおやつとして気軽に楽しめる一品です。

素材選びにもこだわり、平飼い卵や低温殺菌牛乳、きび砂糖などを使用。体にも環境にもやさしいお菓子づくりを大切にしています。

 

旅の延長にある“暮らし”との出会いを求めて

今回アルバイトとして参加したのは、米本妙子さん。旅行が好きで、これまでさまざまな地域を訪れてきました。

「新しい景色に出会い、その土地に暮らす人たちと交流する中で、自分の知らなかった価値観や考え方に触れられる。それが旅の魅力だと思っています」と語ります。

現在、神奈川県で暮らす米本さんは、将来的な地方移住も視野に入れながら各地を訪れているそうです。高松ワークステイに参加したのも、そんな思いからでした。

「観光として訪れるだけではなく、働くことを通してその土地の空気を知り、自分に合う環境かどうかを感じてみたかったんです」

穏やかな笑顔が印象的な米本さんの、高松での2日間が始まりました。

 

【ワークステイ1日目】

店内に足を踏み入れると、ふわりと甘い香りが広がります。工房ではカヌレの製造が進み、焼き菓子の香ばしさに、いちごやピスタチオの甘い香りが重なり合っていました。

米本さんはスタッフのゆうじろうさん、ひなさん、ぼんぼんさんに挨拶を済ませた後、エプロンを身につけて作業をスタート。

最初に取り組んだのは、いちごカヌレとあんバターカヌレの仕上げ作業です。ジャムをのせたり、あんを塗ったり、カヌレを挟んだり…。一つひとつ、細やかな手仕事が求められます。

「こういうコツコツとした作業、実は好きなんです」と米本さん。

その言葉通り、手際よく楽しそうに作業を進めていきました。

この日はホワイトデーを控え、オンライン注文が多く入っていたため、段ボールの組み立てや梱包、発送準備も担当。忙しい中でもスタッフとの会話が自然に生まれ、工房には終始穏やかな空気が流れていました。

休憩時間には、自分が仕上げたカヌレを実食。

「なんだか特別な感じがしますね」

そう話す表情には、嬉しさがにじんでいました。

 

【ワークステイ2日目】

2日目は高松市の中心部、瓦町にある「As カヌレ」のテイクアウト専門店へ。瓦町は商業施設や飲食店が集まり、電車やバスの乗り換え拠点にもなっている人の行き交いが絶えないエリアです。前日に過ごした東植田町ののんびりとした空気とは対照的に、街の賑わいが感じられます。

こぢんまりとした可愛らしい店内には、定番から季節限定品まで色とりどりのカヌレが美しく並んでいます。この日はスタッフのゆいさんとともに梱包用の箱づくりや箱詰めの作業を行いました。

ショーケースの中には、前日に東植田町の工房で作られたばかりのカヌレの姿も。

「昨日自分が作っていたものが、こうして店頭に並んでいるのを見ると、ちょっと感動しますね」と米本さんは目を細めます。自分が携わった商品が誰かの手に渡っていく。そんな「ものづくり」の醍醐味を肌で感じたひとときでした。

仕事帰りに立ち寄る人や、手土産を探す人など、日常の風景にカヌレが溶け込んでいる様子も印象的でした。

自然に囲まれた東植田町の工房と、街の中心にある瓦町の店舗。2つの場所で体験することで、製造から販売までのプロセスだけでなく、高松という街の多面的な魅力を立体的に感じることができた2日間となりました。

翌日、米本さんは高松港からフェリーに乗り、瀬戸内海に浮かぶ小さな島、男木島へ向かいました。ゆったりとした時間の中で、海を眺めながらのんびり過ごしたそうです。

参加者・米本さんの声

行く直前まで緊張していたのですが、現地のスタッフの方や、お店のスタッフの方が優しく受け入れてくださり、リラックスして楽しむことができました。現地の同年代や若い方々が活躍されているのを肌で感じ、とてもいい刺激になり、高松のことも好きになりました!

今回のワークステイを通じて心に残ったのは、高松の人々が持つ飾らないオープンな空気感です。 現場のスタッフの方々は自然に声をかけ、不慣れな作業も丁寧に手解きしてくれました。 そこには、訪れた人を歓迎するあたたかさがありました。

5月からは直島でのリゾートバイトを控えている米本さん。今回の滞在が、香川との継続的なつながりの第一歩になることを期待しています。

瀬戸内の穏やかな風景と、地域の人たちとの出会い。その時間は、きっと特別なものになったはずです。

 

新しい地域とのつながり方「高松ワークステイ」

瀬戸内の穏やかな海。ゆったりと流れる時間。そして、あたたかい人たち。高松には、観光だけでは見えない日常の魅力があります。

もし機会があれば、「働く」という形でこの土地に触れてみてください。観光客としてではなく、一人の生活者として街に身を置くことで、きっと旅とは少し違う、新しい出会いが待っているはずです。

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