新潟県・刈羽村の『砂丘桃』。江戸時代から続く、砂地で育ち、糖度20度以上にもなる村を代表する特産品だ。その味わいと希少性から、最高品質の砂丘桃は「1キロ8,000円」という価格でも数時間で完売するという。
しかし、市場にほぼ出回っておらず、認知度がまだ高くないこと。そして、わずか16戸の生産者が桃の栽培を支えているという課題がある。
一度食べたら忘れられない、「幻の桃」。この桃のブランド化と生産の担い手を育てるため、シニア世代と農業系学生をターゲットとした「滞在型インターンシップ」が実施されることになった。
砂丘桃の栽培技術を学ぶ研修から、認知拡大のためのPR、商品開発やイベント企画まで、幅広く「地域の特産品のブランド化」に関わることができる年間を通じたプログラムの魅力を紹介しよう。
砂丘桃を未来に繋げ!令和8年度インターン生を募集!
今回のインターンシップの大きな特徴は、学生からシニア世代まで多世代の参加者を受け入れているという点だ。拠点となるのは、刈羽村宿泊交流センター「ピーチビレッジ」。宿泊施設と温浴施設、農産品販売所と砂丘桃農園が一体となった施設である。
新潟県刈羽村。砂丘地と丘陵地のはざまに、のどかな田園風景が広がる
インターンシップのプログラムは年4回、各回5日間の日程で行われる。
4月から10月まで2ヶ月ごとに実施され、砂丘桃の農作業だけでなく、砂丘桃のプロモーションや6次産業化などのマーケティング、小学校への出前授業のサポートやイベント出展など体験できる学びの幅が広いのが特徴だ。
\シニア向けインターンシップ(ベーシックコース)概要/
◼️概要
年間を通じて春、初夏、夏、秋に5日間ずつ参加するプログラム。農作業(剪定・袋掛け・収穫など)に加え、長年培った職業経験や知識を活かし、販路開拓やイベント企画にも関わる。孫に食べさせたい桃を自分で育てる喜びや、人生経験を地域に還元するやりがいが大きな特徴。セカンドキャリアとして農業を志すシニア世代におすすめ。
◼️募集期間
2026年11月上旬〜12月上旬(予定)
◼️定員
3~5名(両コースの合計)
◼️応募条件
将来的に砂丘桃の生産者になることに興味がある方
※少しでも可能性があればOK、刈羽村に移住しなくてもOK
◼️実施時期
(1)春期:2026年4月中旬
(2)夏期(前半):2026年6月上旬
(3)夏期(後半):2026年8月上旬
(4)冬期:2026年10月上旬
※令和8年度受講者を対象に、令和9年度には本格的な就農に向けたインターンシップを実施予定。
◼️学べること・体験内容
・「幻の桃」砂丘桃について知る
・桃の栽培技術、農作業
・ブランディング、マーケティング、プロモーション
・イベント企画、運営
・加工品開発
・副業・兼業先候補企業とのマッチング
◼️お申込み
別途開設する申し込みフォームよりお申込みください。(11月初旬開設予定)
▼coming soon
\学生向けインターンシップ(ライトコース)概要/
◼️概要
農業系学生や地域ビジネスに関心のある若者を対象とした、短期型プログラム。桃の栽培や収穫などの農作業に加え、SNS発信や商品開発、ブランド戦略の立案といった実践的な活動に挑戦できる。まだ答えの決まっていない砂丘桃ブランドを一緒につくり上げる経験ができる点が特徴。農業経営や地域マーケティングを学び、将来のキャリア形成やガクチカづくりにもおすすめ。
◼️募集期間
2026年11月上旬〜12月上旬(予定)
◼️定員
3~5名(両コースの合計)
◼️応募条件
将来的に砂丘桃の生産者になることに興味がある方
※少しでも可能性があればOK、刈羽村に移住しなくてもOK
◼️実施時期
(1)春期:2026年4月中旬
(2)夏期(前半):2026年6月上旬
(3)夏期(後半):2026年8月上旬
(4)冬期:2026年10月上旬
※ライトコース(学生向け)では、ベーシックコースの中から希望する日程のみ参加することができます。例)第3回のみ、第2回と第4回のみ 等
※1日だけ参加、2日間だけ参加など日数も柔軟に調整可能です。
◼️学べること・体験内容
・「幻の桃」砂丘桃について知る
・桃の栽培技術、農作業
・ブランディング、マーケティング、プロモーション
・イベント企画、運営
・加工品開発
・副業・兼業先候補企業とのマッチング
◼️お申込み
別途開設する申し込みフォームよりお申込みください。(11月初旬開設予定)
▼coming soon
担い手不足のなかで、砂丘桃を守る
新潟県のほぼ中央、日本海の沿岸地域にある刈羽村は、人口約4,000人の小さな村である。のどかな農村環境に恵まれつつ、原子力発電所を抱える全国有数のエネルギー拠点としても知られる。健全な財政に恵まれる一方で、他の市町村に漏れず人口減少・少子高齢化に直面している。平坦地での稲作を中心とする農業が村の基盤であり、近年では枝豆などの園芸作物も栽培されている。
その中でひときわ存在感を放つのが「砂丘桃」。海岸沿いに広がる砂丘地は、かつて農地として活用されていなかったが、江戸時代末期に行商兼業農家の塚田源太夫が桃畑を開墾すると、大正期には200軒もの農家が桃を育て、春には桃の花見を目当てに観光客が集まり、当時の越後鉄道(JR越後線の前身)に臨時停車場まで設けられるほどの賑わいを見せた。
しかし、現在では16戸のみが桃の栽培を続けており、生産者の平均年齢は70代後半。高齢化による担い手不足は深刻で、このままでは地域の誇りとも言える砂丘桃が途絶えてしまう危機にある。
こうした状況を変えようと立ち上がったのが、『ピーチビレッジファーム株式会社』である。前身は2012年に設立された『ピーチビレッジ刈羽株式会社』。当時から地域資源である砂丘桃の栽培・販売を担っていたが、2021年に農業部門を分社化し、現在の体制となった。
飯田裕樹さん
1985年新潟県柏崎市生まれ。日本大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、県内のゼネコンに勤務し、工場やマンション建設の現場監督を務める。32歳のとき、父から「砂丘桃の担い手がいない」と呼び戻され就農。ピーチビレッジファーム株式会社代表取締役として、砂丘桃の栽培とブランド化を推進。「砂丘桃を100年後に残す」を掲げ、ゼネコン時代に培った企画力やマネジメント力を農業に注ぐ。
「建築の仕事に不満はありませんでした。建物をつくる現場監督として、工期を守るために日々全力で取り組んでいましたし、そのままその仕事を続けていくつもりでいました」
そう振り返るのは、ピーチビレッジファーム株式会社代表の飯田裕樹さん。県内のゼネコンに就職後、新潟市や東京で工場、マンション、テナントビルなどの建設を手がけてきた。
転機は32歳の時に訪れる。
「父から突然電話があったんです。『砂丘桃の担い手がいないから戻ってきてくれ』と。今まで頼まれごとなんてほとんどなかったので、よっぽど深刻なんだと感じました」
実家は代々桃づくりを続ける農家。刈羽村の正明寺地区で砂丘桃の栽培をしていた。だが高齢化により生産者は減少の一途をたどり、地域の特産である砂丘桃が途絶えてしまうのではないかという危機感が生産者の間に広がっていたという。
「このまま放っておけばなくなるだろう、と。悲観的な話ですが、私はそれが逆に面白いと思ったんです。砂丘桃は“負の要素”が多い果実です。砂地だから木が育つのに時間がかかり、収穫までに5年。傾斜地だから機械化も難しく、人の手で一つひとつ収穫しなければならない。収量も少なく、労力もかかります。でも、だからこそ可能性がある。手間がかかる分、甘みは濃厚になる。量が少ないからこそ希少価値が高まる。担い手が減って危機にあるからこそ、新しい仕組みを導入できる余地がある」
就農当初は桃の育て方も知らなかった。現場でひたすら技術を学び、次第に「100年後に残す特産品」として砂丘桃を守る道を模索し始めた。
「敷かれた線路がない状況だからこそ、やれることがたくさんあります。PRも、6次産業化の商品開発も、販路拡大も、全てがこれから。答えは決まっていないからこそ、面白い」
ハネだし(C品)の桃の活用方法も考えたいと話す飯田さん
飯田さんの視線の先には、農業経営を超えた未来像がある。砂丘桃をツールとして地域の人がつながり、刈羽村全体の活性化につながること。そして外に出ていった子どもたちが、大人になって「自分の村にはこんな誇れる特産がある」と語れる未来である。
「今回募集をするインターンシップに参加する人に、後悔はさせません。歴史ある特産品がブランドになっていくまでを、一緒に作り上げることができる体験は、そんなに経験できるものではない。本気で就農を目指している人も、特産品づくりやってみたいと考えている人も歓迎です」
「砂丘桃百年プロジェクト」が未来へ繋げる鍵
飯田さんと肩を並べ、共に砂丘桃の未来を見据える女性がいる。ピーチビレッジファーム株式会社で砂丘桃を通じた教育・普及活動を担う遠藤京子さんだ。
「学生時代は特別な夢もなく、就職も氷河期でなかなか決まりませんでした。ようやく内定をもらったのが、刈羽村の生涯学習センター『ラピカ』。そこで図書館に勤めたのが社会人としてのスタートでした」
遠藤京子さん
1977年新潟県刈羽村生まれ。短大卒業後、司書資格を取得し、刈羽村の生涯学習センター「ラピカ」図書館に勤務。その後、新潟市で専業主婦を経て、2013年に設立間もないピーチビレッジ刈羽株式会社に入社。イチゴやトマトの選別から農業に携わり、2021年に農業部門の分社化に伴いピーチビレッジファーム株式会社へ。教育・普及活動を担当し、小学校での栽培体験や「砂丘桃百年プロジェクト」を推進。地域と次世代をつなぐ役割を担っている。
2013年、新潟市で専業主婦をしていた遠藤さんは、子育てをきっかけに刈羽村へ戻ってくる。ちょうどピーチビレッジ刈羽株式会社(後のピーチビレッジファーム)が立ち上ったばかりのタイミングで入社し、分社化したタイミングで、桃の栽培作業にも関わるようになった。飯田さんの指導の下で経験を積み、現在は「砂丘桃百年プロジェクト」において教育・普及活動を担っている。
「小学校の子どもたちに桃の栽培を体験してもらう授業を担当しています。農業の厳しさ、大変さを知ってもらうと同時に、果実が実った時の喜びを感じてほしい。砂丘桃を続けたいと思える人を、一人でも増やしたいんです」
ブランド化のため、最も糖度の高い砂丘桃には「百桃」と名をつけ販売している
遠藤さんが取り組んでいるのが「砂丘桃百年プロジェクト」である。地域の生産者と共に、教育活動やブランド化に着手し、子どもたちへの栽培体験、小学校での桃の植樹など、次の世代に砂丘桃をつなげる仕組みづくりを進めている。
「私はすごいところで働いているんだなと日々、感じます。この地域にとって砂丘桃は重要な果樹。ここで働くことで自分自身も成長できるし、地域にも貢献できる。そう実感できるのが一番のやりがいです」
刈羽村と自分の未来をつくるインターンシップ
刈羽村の砂丘桃は、170年以上にわたり地域の人々に守られてきた。
だが今、その未来は大きな転換点に立っている。
学生にとっては、農業と地域ビジネスを同時に学ぶフィールド。知識を実践に変え、自らの手で地域のブランドを形にする経験が待っている。
シニアにとっては、人生経験を活かし、地域に還元するセカンドキャリアの場。孫に語れる誇りを自らの手で築く時間となるだろう。
幻の果実を未来へ残す挑戦は、今ここから始まる。
小さな一歩が、やがて地域の大きな力へと変わる。
100年後も「誇れる桃」が実り続けるために、次の担い手となるのは、この記事を読んでいるあなたかもしれない。
そして、インターンシップに参加し、砂丘桃に関わることで得られるのは、ブランドを育てる経験だけではない。新潟で新しい暮らしを叶えるための一歩になり、もう一つのふるさとを探す人にとっても大きなきっかけになるはずだ。
文:大塚眞
写真:ほんまさゆり
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都道府県+市町村 新潟県刈羽村 募集状況 募集中 雇用形態 インターン 給与 無給 仕事内容 砂丘桃の栽培や収穫などの農作業、販路開拓、イベント企画 、SNS発信、商品開発、ブランド戦略の立案など 募集期間 2026年11月上旬〜12月上旬 選考プロセス 1次:書類審査 2次:面接 採用問い合わせ先 ピーチビレッジファーム株式会社
新潟県刈羽郡刈羽村刈羽4278番地5
TEL:0257-45-3211
https://odecafe.tohoku-epco.co.jp/lF2Ndkn8nsRREYmv
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