【新潟県十日町市 コミュニティ型 地域おこし協力隊】
新規就農者を育て、地域をつなぐ。
隊員とサポート団体との二人三脚

新潟県十日町市は地域おこし協力隊制度が創設された2009年当初から、積極的な導入と運用を行ってきた先進地域の一つだ。特に地域密着型(コミュニティ型)による導入を大切にしてきた。

集落単位で隊員が入り、地域住民との交流や集落維持活動の中で地域課題を見つけ、地域とともに活動を具体化していく。隊員が関係性を深め、地域に馴染んでいけるようなプロセスを重視した活動方針とサポート体制によって、近年の定住率は14年間で7割以上、直近3年では88.2%となっている。

どのような地域性が地域おこし協力隊の心を掴み、移住者は地域住民となっていくのか。地域おこし協力隊制度の導入から15年目を迎える地域と隊員の関係性を取材した。

地域おこし協力隊に関わる全ての人に届いてほしい。

 

里山で農業がしたい

棚田や里山を地域資源に持つ十日町市では、「就農」を志す若者も多く着任している。雪国の中山間地の暮らしは過酷な側面もあるが、集落の維持や災害リスクの低減、環境保全の点で人の暮らしが続いていくことには大きな価値がある。

吉田地域の中手・鉢集落は、市街地から車で10分ほどでありながら、里山らしいだんだん畑や棚田の風景を臨むことができる中山間地。ここを拠点にする原拓矢さんは「農業」を主軸において活動をする地域おこし協力隊だ。

十日町市 地域おこし協力隊
原拓矢さん
(プロフィール)
埼玉県川越市出身。大学卒業後は米を販売する専門商社に勤務。全国の米を取り扱う中で産地に赴く機会が多く、将来的に就農をしたいという気持ちが高まり、おためし地域おこし協力隊に参加。2022年4月から十日町市の地域おこし協力隊に着任。

「初めて十日町市を訪れたとき、この集落での生活にどっぷりと浸かって農業がしたいと思いました。農業法人や広大な面積を取り扱う農業ではなく、棚田やだんだん畑を地域で暮らす住民の共同体で管理しながら生計を成り立たせていく、そんな農業をすることが理想です」

原さんは米の専門商社で働いていた。地方の生産者の高齢化や担い手不足という問題意識を現場で聞く機会も多く、原さんの心は就農へと向かっていった。挑戦するならば、若いうちの方がいいだろうと移住の方法を探し始めた。

「地域おこし協力隊の制度は知っていましたが、私が理想とする『里山の中で共同体の一員として行う農業』ができそうな募集は、なかなか見つけることができませんでした。地元の人たちと一緒に暮らしながら農業をするという点については、十日町市の募集が抜き出て魅力的に思えましたね」

 

十日町市では、地域と希望者のマッチングによって着任先が決まる。ミスマッチを失くすための取り組みだ。応募するためには、おためし地域おこし協力隊の制度を活用して、事前に地域住民との顔合わせや活動を行うことが必須であり、原さんも事前に吉田地域を訪れたという。

「地域おこし協力隊がどんな制度でどんな立場なのか、地域のお爺ちゃんお婆ちゃんまで、理解してくれていて、地域全体で歓迎をしてくれているように感じました。ここに移住をしたいと決めることができるくらいに、たった一日で心を掴まれたのです」

長年の積み重ねとは偉大だ。人口5万人の地域で、累計90名以上の地域おこし協力隊が活躍してきた十日町市では、よそ者に対する偏見がないのだという。

お隣から野菜をもらい、買うことはほぼない

「これまで活動してきた地域おこし協力隊の皆さんの賜物です。この村の人たちと一緒なら安心して活動できる。そんな安心感がありました。里山での農業がしたいと言うと、とても喜んでくれて、ここで自分の人生の時間を使って、役に立ちたいと心から思いましたね」

原さんのように関東から移住をしてきた地域おこし協力隊であっても、地域との信頼関係の中で安心感を持って活動ができるようになったのは、十日町市で地域おこし協力隊をサポートする中間支援組織の力が大きい。

 

元協力隊による隊員サポート

地域おこし協力隊の卒業生が中間支援組織を立ち上げ、地域おこし協力隊のサポートや研修を行うという事例は全国的にも増えている。その走りとも言えるのが、一般社団法人里山プロジェクトだ。

代表を務める小山友誉さんも元地域おこし協力隊。現在、22名の隊員が活動する十日町市において、地域と隊員がともに成長していけるような支援を行っている。

一般社団法人里山プロジェクト
代表理事 小山友誉さん
(プロフィール)
2010年から3年間、十日町市地域おこし協力隊として活動。農業・除雪といった地域活動と深く関わり、里山での「本物の生きる力」を学ぶ。任期終了後、地域おこし協力隊のサポートを行う一般社団法人里山プロジェクトを設立。長年の地域おこし協力隊の支援活動が評価され、2022年度に「ふるさとづくり大賞」を受賞。

十日町市では、地域おこし協力隊の制度が創設された2009年から隊員の受入れを開始し、当初から続く地域とともに汗を流す地域密着型のスタイルで、里山プロジェクトと連携し、隊員や受入地域を総合的に支援している。

その内容は実にきめ細かい。隊員を募集する際は、協力隊を受け入れたい地域から、その目的や期待する活動をとことん聴き取り、地域の想いを募集内容に落とし込む。希望者がいれば、おためし地域おこし協力隊地域おこし協力隊インターン制度を活用して、地域をよりよく知ってもらい、本人と地域が双方納得した上で、里山プロジェクトが雇用し隊員となる。

着任後も、活動についてはもちろん、日々の暮らし、そして退任後の定住までをもサポートする。まさに隊員人生の入口から出口まで寄り添うかたちだ。

「里山プロジェクトはこれまで、地域おこし協力隊の募集からおためし地域おこし協力隊、雇用から任期終了後のサポートまで全部やってきた。最初は『雇用まで民間組織でやるの?』と言われていたけど、これまでの成果が認められて、2022年度に総務省から表彰され、2023年度はこれまで積み上げたノウハウを全県に広める事業を新潟県と取り組んでいる


地域おこし協力隊の希望者と面談する小山さん


普段から隊員とのコミュニケーションを大事にしている

 

「受入体制、日本一」を目指す、新潟県

新潟県は、里山プロジェクトと連携しながら、十日町市をモデルに、県内の協力隊のサポート体制の充実に取り組みはじめた。小山さんは期待を膨らませながら笑顔で語った。

「地域おこし協力隊を受け入れる団体や市町村向けの支援を今年から本腰を入れてやっている。先進地域の視察ツアーを組んでいるので、地域おこし協力隊だけではなく、受け入れる側にも参加してもらって、学んでいってもらいたい」

本連載のvol.2で取り上げた起業研修Jobインターンも里山プロジェクトが中心となってコーディネートしている隊員向けの支援策だ。活動する隊員と彼らを受け入れる受け皿。その両方を磨いていくことが、小山さんが目指していることだという。

新潟で暮らすための第一歩目が地域おこし協力隊で良かった。そう思ってもらえるようになりたい。定住率という数字はあるけど、経験したことを活かして、最初に着任した地域から出ても県内や市内の別の場所で活躍してくれたら、それもまた意味がある。地域おこし協力隊の人生の一部として、任期があって、活動があって、集落がある。そういう考え方が大事」

そうした考え方が共通の土台となった新潟県全体のサポートネットワークができることで、地域おこし協力隊の受け皿が広がり、活動の幅も広くなる。人や地域とのつながりにより任期終了後の選択肢が広がる。これが魅力となり、県内で活躍する地域おこし協力隊が増えれば、新潟は地域おこし協力隊の受入体制で日本一になれるだろうと話す。

「地域おこし協力隊という肩書きはあれど、その立場に立つのは『人』なのでね。受け入れる側は人生を背負うので、1人1人と膝をつきあわせて、問題があっても協力隊活動の1日1日を大切にし、確実に解決していけるようにサポートする。それが何よりも重要なこと。そういう視点で考えていけば、地域おこし協力隊のために何をしたら良いか、受入団体をどう育てたら良いかも見えてくる」

 

全国各地で地域おこし協力隊の募集が増える中、新潟県は2026年度までに地域おこし協力隊の人数を今の約250人から500人に増やす目標を掲げている。その実現のためには、地域側は受入体制を磨き、切磋琢磨して人材を確保していかなければならない。地域おこし協力隊が活躍する未来のために、オール新潟で、受入体制を作っていくことが求められるだろう。

 

地域とともに成長する。これが地域おこし協力隊と彼らを受け入れる受け皿が目指すべき、理想の関係性だ。地域おこし協力隊に関わる全ての人に、この言葉が届いてほしい。

 

文/大塚眞
撮影/ほんまさゆり

                   

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