アートで別府市の新たな観光の魅力を創る。オンラインイベント「〝住み心地〟の良いまちで見つける穏やかな暮らし」 2023年2月11日(土)開催

地方に移住すると「これまでのキャリアが活かせないのでは?」と不安に思っている人も多いかもしれません。移住を機にキャリアチェンジする人が多いのも事実です。
豊かな自然が残り複数の温泉地があるおんせん県おおいたは、観光業が盛んな自治体でもあります。観光業も、選択肢の一つに考えてみませんか? イベントを前に、新たな観光業を目指し先進的な宿泊施設の運営を行い、業界未経験者の採用を積極的に実践されている別府の『関屋リゾート』、林太一郎社長へプレインタビューを行いました。

 

■株式会社 関屋リゾート
林太一郎 代表取締役

■関屋リゾート

江戸時代から温泉地観光地として栄えてきた別府市で、明治時代後期に『関屋旅館』として創業。温泉旅館として120年の歴史を紡いできました。2005年には、純和風のデザイナーズ旅館『別邸はる樹』を、2015年には各部屋に絶景のテラスと半露天風呂を備えたリゾートホテル『テラス御堂原』を、そして2020年には、アートに囲まれた新しい宿泊体験に出会える滞在型リゾートホテル『ガレリア御堂原』をオープン。現在は3つの宿泊施設を運営しています。

これまで別府になかった新たな宿泊体験を作り出しており、最も新しい『ガレリア御堂原』ではアートに特化。アーティストが実際に別府に滞在し、別府のまちや温泉を体感しながら制作した作品が館内のあちこちに飾られ、まるでホテル全体が美術館のようです。

 

■これまでの別府にない新たな宿泊施設を

現在は美術館のようなリゾートホテルが国内外からの観光客に好評な『関屋リゾート』だが、温泉旅館を家族で営んでいる時代に離職者が続いた時期を経験。「普通に経営をしていてはダメだ」と感じ、自身も経営者として育て直しながら、さまざまなやり方を試したという。

 

Q_「別府にないホテルを」と、新たな宿泊施設をオープンさせてきたと伺いました。

A_林社長
私たちはあまり特徴のない旅館からスタートしているのですが、ある時期からお客様を集めるのが大変でした。特色がなければどうしても価格競争になってしまい、適正な利益が得られないということを経験したんですね。そこで、どうせやるなら「他社がやってないようなこと」や「地域にないこと」を作ろう、と。そうすることで、オンリーワンの存在にもなれますし、新たなものができれば地域にも多様性が生まれます。多様性があることで、いろんな人のニーズに答えられる観光地になっていくっていうこともあると思うんですよ。

温泉は大切な魅力の1つですが、日本では各県にありますから。温泉プラスアルファをいかに作れるのかだと思うので、宿を作るごとに毎回コンセプトを変えて。異なる人たちのニーズに刺さるようにと考えています。

 

 

Q_『ガレリア御堂原』をオープンされたきっかけは?

A_林社長
すぐ隣に『テラス御堂原』がありますが、そこを作った後にインバウンドの急増がありました。そこで、「日本ってこんなに魅力的で、海外からもたくさんの人がいらっしゃるポテンシャルがあるんだな」っていうことに気づいて。もちろん、これまで別府に来ていただいている方は非常にありがたいのですが、今後は「今別府に来ていない人をターゲットにしなければ」と思ったんです。

図らずも、『テラス御堂原』は海外からのお客様がすごく増えました。特に香港の方。お友達や職場でのリアルな口コミで増えた印象で、個人でいらしていた方が、2回目は社員旅行でいらっしゃったり。そうした時に2泊されると、「毎食懐石料理を食べるのか」っていうことになるんですね。これまで別府では、1泊2食で比較的豪華な料理を食べて、1日を満喫して帰るというニーズがすごく高かった。そうすると、高級旅館であればあるほどお食事に力入れて、しかもお食事付きの宿泊しか用意していない。でもそれは、「いいホテル泊まりたいけど、食事は自由に選びたい」という方には向いてないんですよね。

でも、それができるようになるにはある程度の部屋数と独立したレストランが必要です。しかも、コースもアカルトも食べられるようにしないといけない。そんな宿泊施設を作ろうと思ったのが、『ガレリア御堂原』を構想した最初のきっかけなんです。

 

 

■アートとの出会いは新たな発見の連続

林さんが社長を引き継いでから建てた3つ目のホテル『ガレリア御堂原』は、別府温泉とアーティストを出会わせ、そこで生まれた作品を館内に散りばめるという、これまで以上に斬新な取り組みとなった。オープン後は、海外からの観光客はもちろん、「新たな宿泊体験」を求める若い世代も多く訪れているという。

 

Q_なぜ、アートにスポットを当てたのですか?

A_林社長
『ガレリア御堂原』は滞在型のリゾートホテルです。別府の温泉は1つのコンテンツにはなるのですが、より多くの方に振り向いてもらうためにはプラスアルファが必要だと思いました。そこで、アートを発想したんです。以前から知っていた『ベッププロジェクト』の山出プロデュサーからアーティストをご紹介いただき、隣の『テラス御堂原』に滞在をしていただいて。別府市やこの周辺を理解していただいた上で、皆さんに作品を作ってもらいました。

アーティストにとっては「ここにずっと常設される。ここにあり続ける」ということがとても重要で、価値あることだったようです。展覧会だと、終わったら撤去されてしまいますから。「自分のキャリアの通過点として、ガレリア御堂原がある」という捉え方をしてくださったような気がしています。

『ガレリア御堂原』を作る中で、私自身も「いろんな見方を楽しむのがアートなんだ」ということに気づきました。目線の面白さや、価値観の違い、私が想像もしないような別府の見方が作品に表れていて。「すごい。これがアートっていうものなのか」みたいな感動がありましたね。

 


3週間かけて別府市内を撮影して歩き、その写真をコラージュした西野壮平さんの作品。圧倒的な迫力がありながら、細部には住む人の生活まで感じ取ることができる。フロントのある1階ホールに飾られており、作品の正面にはリアルな別府の絶景が広がっている。

 

Q_これまでの施設と客層も異なりますか?

A_林社長
純和風旅館の『別邸はる樹』とは全く客層が違いますね。アートはもちろんですが、世界観のようなところも影響しているのでしょうか。「未知なるものへの体験」みたいなのを求めていらっしゃる方が多いなという印象です。特に、20代の方など若い方が多いですね。

今、『ガレリア御堂原』を目指して来てくださる方は、これまで別府には来なかったような方だと思うんですよ。そういう方々を呼べているというのは、間接的に別府のためになってると思うんですよね。魅力は人が作っていくもの。新たな魅力を作り続けることで、結果的に別府に色んな人が来てくれるっていうことに繋がっていくんじゃないかな、と思っています。

 

■アーティストも暮らしやすいまちに

別府市は、令和4年に「クリエイター補助金」を制定し、アーティストの移住を促進している。『ガレリア御堂原』には、実際に別府市や竹田市に移住し制作を続けるアーティストの作品も。温泉観光地とクリエイターがいい関係を築くには?

 

Q_実際にアーティストや、アートに関わりたい方も働いているのですか?

A_林社長
アーティストはいませんが、アートに興味があるとか、「アートにかかわる仕事をしたい」という人はいます。

 


レストランに飾られた鉛筆素描は、別府に根を下ろした活動を行う勝正光(かつまさみつ)さんの作品。別府市のアート版トキワ壮「清島アパート」の立ち上げをきっかけに別府市に移住したアーティストで、ホテルオープン後も時々立ち寄り、作品を成長させ続けていたというエピソードも。

 

Q_アーティストの移住にどんな可能性があるとお考えですか?

A_林社長
すごくいいことだと思います。ただ、アーティストさんが「いかに暮らしていけるか」ということを、我々は考えなければいけません。作品の販売をする場所や、発表する場がなければ生活をしていけませんから。

例えば、ホテルにギャラリーを併設すれば、旅行に訪れた人が気に入った作品を買って帰ることもできます。そういう場所も、作っていかなければいけないと思っています。

 

 

■観光業は、今後の日本の大きな柱になる

Q_観光業、宿泊業の魅力とは?

A_林社長
観光業はこれから可能性のある業種だと、私は思っているんですよ。今は盛んに言われるようになりましたよね。

例えば、これまでは自動車産業などが日本を引っ張ってきました。でもこれからは、観光が1つの大きな柱になっていくと思っています。観光って、それこそ持続可能なものだと思うんですよね。もちろん、移動で化石燃料は使いますが、基本的に地域を回ったりすることは、いろんなものを破壊しなくても楽しめますしね。アートも、まさにそうだと思うんですよ。

 


竹田市を拠点に活動する、加藤亮さんと児玉順平さんによる美術ユニット「オレクトロニカ」の作品は、各階のエレベーターホールなどホテルの至る所に。作品を探しながら館内を歩くのも楽しい。

 

■別府の住みやすさを実感した上で働いてほしい

これまで、業界経験者の採用をほとんどしてこなかった異業種人材受け入れてきたという林社長。新卒や中途採用にも積極的だ。選考する中で必ず行うのが、事前に別府市に滞在してもらうこと。別府の魅力や住みやすさを実感した上で働いてほしい、という強い思いがある。その結果、新卒採用を始めて3年。まだ離職者は1人も出ていない。

 

Q_観光業は、異業種からの転職でも経験を活かせるのでしょうか?

A_林社長
実は『テラス御堂原』や『ガレリア御堂原』は、新規オープンの時に経験者をほとんど採用していないんですよ。宿泊業って、施設が大きくなればなるほどオペレーションが難しくなります。普通は経験者を採用するのだと思いますが、私たちは自分たちで0からオペレーションを組み上げてきました。

「外から来た人たちが変えていく」と思っているので、意識して地元以外の人を採用しています。外から新しい人材を入れることが、大事だと思っています。

観光業で「異業種の経験が生かせるか」ということより、私たちの根底にあるのは「自己実現ができる」ということ。「仕事を通して実現したいこと」をサポートしたい。現在は観光業や宿泊業がメインですが、今後はいろんな事業を展開する予定もあります。

現在働いているスタッフも、建築業に携わっていた方や、医療事務だった方など様々。例えば調理など、ある程度のスキルがなければできない仕事もありますが、「0から始めたい」っていう方がいれば大歓迎。社内で育てる準備も整っています。

 

 

Q_どんな選考をしていらっしゃるのですか?

A_林社長
「住む場所として、いかに別府を選んでもらうか」ということがすごく大事なんですよね。これは、新卒でも中途採用でも同じです。新卒採用の場合は1週間、実際に別府に滞在しながらインターンを経験してもらいます。かつて『関屋旅館』だった建物が今は寮になっているので、そこに寝泊まりしてもらって、温泉にも入ってもらって。別府の住み心地も体験してもらうんですよ。中途採用の場合は、3日間。その時、別府は景色もいいし食べ物もおいしい、「住みやすいところだよ」ということを必ず伝えています。

その体験の後で、本人が働きたいと思うか、会社としても働いてほしいと思うかどうか。最終的なマッチングを図っていきます。今、採用のライバルは地元の同業者ではありません。他県の、全く違う異業がライバルだと思っています。

異業種を目指している方に観光業の魅力を伝えながら、いかに観光業に興味を持っていただくか。元々は広告代理店を志望していた学生がうちでアルバイトをした結果、新卒で弊社に入社したという例もあります。APUを卒業したインドネシア人の学生なのですが、「自分のしたいことをより実現できるところが、ここだった」という感じのようです。「別府が好き」ということも大きかったようですね。

 

チャレンジングな職場でありながら、個人の自己実現も応援したい、という林社長。2月11日のオンラインイベントでは、こうした林社長のお話しに加え、社員の方々とのトークセッションも予定しています。関屋リゾート、そして、大分県で働くことに関心のある方は、是非ご覧ください。

 

文・河野恵 写真・藤本幸一郎

                   
アートで別府市の新たな観光の魅力を創る。オンラインイベント「〝住み心地〟の良いまちで見つける穏やかな暮らし」
開催日 2023年2月11日(土) 〜2023年2月11日(土)
時間10:00-11:50  ※申し込み締め切り:2023年2月9日(木)
会場オンライン(Zoom)
受付終了
※TURNSでは紹介のみ行っています。お問い合わせ・ご連絡はイベント主催者さまへお願いします。

人気記事

新着記事