TURNS×LOCAL LETTER 対談
「コロナ禍後のローカルメディア」

長いコロナ禍で変化した私たちの生活。行動制限を受ける傍ら、オンラインコミュニケーションの輪は広がり、働き方、働く場所に対する意識も変わって、地域と人の関わり方にも影響を与えています。そんな中で、ローカルメディアは今後、何を発信していくべきか?
LOCAL LETTERを配信するWHERE代表の平林和樹さんと、TURNSプロデューサーの堀口正裕が、これからのローカルメディアのあり方について語りました。

堀口 Withコロナ、アフターコロナといわれ、移動や行動が規制されてきなかで、私たちローカルメディアもいろいろな試行錯誤を続けています。今日はそんななかで、平林さんがどのようなチャレンジを進めているか、おうかがいしたいと思います。まず、LOCAL LETTERを始めたきっかけからお聞かせください。

平林 法人としてLOCAL LETTERの運営会社である「株式会社WHERE」を立ち上げて2021年10月に6周年を迎えたんですが、創業当初は会社のビジョン「誰もが心に豊かさを持つ世界を」しかなくて、このビジョンを事業としてどう実現していくかを1年半模索しました。その間は、とにかく周りの人に自分の目指す世界をひたすら話して、ご紹介いただける人がいれば日本全国どこにでも足を運んでましたね。せっかく日本全国に行くのだからと、各地のことをFacebookやInstagramに投稿していたら、それを見た都内の友人らから「今度旅行したいんだけど、どこに行ったらいい?」「移住したいんだけど、どこかオススメはある?」「二拠点生活したいけど、どうしたらいいだろう」といった相談をもらうようになって。

 

ローカルの雰囲気が掴める情報を、必要としている人に届けたい。

平林 そんな経験から、「まだまだ都心の人たちにはローカルの情報が届いてないんだな」と感じたんです。もちろん、当時からローカル側は情報発信を頑張っていて、自治体のウェブサイトやパンフレットもあって、本当は探せばいくらでも情報はあったんです。でも必要とする人の手元に情報が届いていなかった。だったら、こういう人たちのために情報を伝えるメディアを作れないかなと思い、LOCAL LETTERを立ち上げました。

堀口 地方創生とか、地域課題を解決するとか、そういう大きな枠組みではなくて、必要な人のところに情報を届けたいという思いがあった。それが原点なんですね。

平林 そうですね。さらにお伝えすると、当時ローカル側が発信していた情報は、機能的な情報が多いと感じていました。例えば、移住するときの補助金額とか、移住先の住宅のこととか、「役に立つ情報」ばかりで、地域の雰囲気や温度感、住んでいる人が見えてくる情報が少なかった。移住をするときって、もちろん機能的な情報も大事なんですが、最終的には移住者と地域の相性だと思っているんです。だからこそ、機能的な情報だけでなく、その地域ならではのカラーが伝わるメディアを作りたい、そんな気持ちは強かったですね。

堀口 雑誌などの紙媒体ではなく、ウェブメディアを選んだ理由はありますか。

平林 僕自身は紙媒体もすごく好きで、本もたくさん買うんですが、出版のノウハウはありませんでしたし、僕のファーストキャリアがヤフーなので、その経験を生かそうとも考えました。スタート当初は、Wordpressの無料テンプレートデザインを使って手作りでした。

堀口 立ち上げからここまでの、手ごたえはどうですか。コロナ禍を経て、地域との向き合い方が変わったりとかしました?

平林 コロナ禍は僕らにとってはむしろ〝追い風〟でしたね。これまで僕たちが蓄えてきたものの中には、情報だけではなく「信頼」もありました。これはローカルメディアだけのことではありませんが、コロナ禍でメディアに対する不信感を持った人たちは多いと思っていて。コロナを通じて、信頼をしっかり貯めてきたメディアと、バズること狙いで瞬間最大風速を追い求めてきたメディアの違いが出たと感じました。

堀口 それはよくわかります。ただ、信頼を積み重ねるといっても簡単にできることではないですよね。一番大事なポイントは何だと思いますか。

平林 実際に地域に足を運ぶことですね。それと、僕ら側で考えた企画を押しつけるのではなく、とにかく聞くことに徹する。ビジネス的な発想だと、メディアに取り上げられるっていいことしかないように思えますよね? でも、地域の人たちは、必ずしも取り上げられたいって思っているわけではない。むしろ活動を実直にやってきているからこそ、露出を好まない方もいる。そこで僕らは「なぜ今この企画を考え、何を大切に取材をしたいのか」をきちんと説明して、取材から記事に落とし込むようにしています。

 

コロナ禍を経てローカルの距離が近くなった

堀口 コロナ禍での、読者側の変化はありますか?

平林 ありました。これまでは、ローカル=旅行先として見ていた人たちが、コロナを通じて自分たちの暮らしを見直し、一年以内の移住を検討し始めたことでLOCAL LETTERの読者になった、というケースが増えたと感じています。イベントを実施しても、主体的にローカルに関わりたいから参加を決めたという人が増えています。例えば、高知県大月町では、過去2年間取組みを実施する中で、丁寧に参加者との関係性を作っていたこともあり、3年目の今年は、企画者側でのプロボノスタッフを募ったところ、即日満席・定員の倍以上の応募をいただきました。所々で変化を感じています。

堀口 我々は東日本大震災をきっかけにTURNSを作ったんですが、当時よりも一層ライフシフトを考える人が増えた印象があります。震災のあとのように、安心できるところにいこうという発想ではなくて、より本質的に「生き方ってなんなんだろう」「自分はこのままでいいのだろうか」ということを考える人が増えてきた。

平林 そうですね。僕自身は「メディアの価値そのもの」が問われていることも感じています。今は個人が簡単に情報発信できる時代のなかで、メディアとしてどんな価値を発揮していくのか? 僕らは「信頼性を貯めていく」ことを大切にしているという方向性なので、読者と交流する機会をたくさん作るために、有料の地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP  *1」の運営をスタートしました。はじめてまだ4ヶ月ですが、もうまもなくメンバーが100名を突破します。メンバーは大きく分けると、都内の企業に勤めながらも何かしら地域で挑戦をしたいと思っている、もしくは、すでに地域に根を下ろしていて、地域外の繋がりを欲している人たちが多いんですが、日々の学び・繋がり合いに加えて、ワーケーションやツアーも誕生しています。僕自身、距離が遠いウェブ上のメディアとしてではなく、身近に感じてもらい、気軽に僕らやコミュニティメンバー同士が繋がり、応援しあえる場所を作りたいので、試行錯誤しながらですが、はじめて良かったと思っています。

堀口 地域経済活性化カンファレンス「SHARE by WHERE」もその文脈でできたものですか?

平林 「SHARE by WHERE」もベースは同じですが、文脈は少し違います。そもそも僕自身、「この世の中の人たちが少しずつ力を合わせたら、お互いが豊かになれるのではないか?」という思いがあって。何か困ったことが起きても、人と人が繋がり、力を合わせることで、解決されることがある。例えば、コロナ禍で飲食店が営業できず困っていることは、皆さんにも目に見えますが、飲食店に食材を卸せない一次生産者さんたちにまではなかなか目が届かないですよね。個人的に影響力がある人であれば、自分自身のSNSで発信することで、行き場を失った食材を買ってもらえるかもしれませんが、誰もができることではありません。でも個人と個人でなくても何かしらの「つながり」があれば、世の中にある困りごとは解消できることかもしれないと思うんです。

この文脈で考えると、今ローカルを舞台にで熱き思いをもって活動しているプレイヤーが増えている一方で、プレイヤー同士の全国的なつながりはまだまだ少ないと感じていて。地域を飛び越え、プレイヤー同士が交われば、大きなシナジーが生まれるんじゃないかという発想で「SHARE by WHERE」を始めました。だから、僕たちがこだわっているのは登壇者数なんですよ。これまで2回開催し、それぞれ70名以上の方にご登壇いただきましたが、2022年2月に開催する際には100名の登壇者数を目指しています。

堀口 信用を得ること、謙虚であるということは、地方で何かをやろうというときには大切ですよね。仲間を集めるときに気にしていることはありますか?

平林 何事もスモールスタートではじめることは意識しています。最初は、通常の採用と同じフローとして、面接後にすぐ採用というスタイルを取っていましたが、僕らの仕事は泥臭いことが9割のはずなのに、キラキラ社会にいいことを楽しそうにやっている印象が強いようで、入社前と後でギャップが起こりやすいんです。なので、今は社会人インターンや業務委託など、お互いのことを理解した上で、入社をお互いに決めるようにしています。

 

コンセプト「前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。」を体現するメディアへ

堀口 今後、どんな発信をしていきたいですか。

平林 LOCAL LETTERは、9月1日にコンセプトリニューアルを行いました。新しいコンセプトは「前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。」どうしても人間は短期的なことを考えてしまいがちで、50年、100年後の未来を想像しながら日々生きている方は多くないと思います。会社の名前でもある「WHERE」には「僕らはどこへ向かっていくのか?」という問いかけを込めていて。自分の子どもや孫世代まで先のことを問いかけるメディアってまだ少ないかと思っています。例えば林業に携わられている方々って、考えの物差しがとっても長かったりするじゃないですか。

堀口 自分の人生に収まらないところまで考えますよね。それを黙々とやっている。

平林 僕が感動したのは、「今自分たちが林業で食べていけるのは、ひい祖父ちゃんのおかげだ」という言葉。自分たちは祖先の仕事に生かされているからこそ、自分たちのひ孫が生きる未来を考えて森を管理するし、木を植えている。自分たちの代が食べることだけを考えるのなら、管理する必要はない。純粋に、それがカッコいいなと思ったんですよ。

そういうことを、世の中に提示していけたらいいなと思っています。今を大切に生きるのはもちろんですが、今を大切に生きる生き方のなかに、次の世代を考える視点を含めていきたい。

堀口 「東京抜き」という動きも出てきていますよね。地方対地方でやっていくという。すべてが集中して、競争社会で、そこに行かないと仕事がないという悪しき意味での東京を「脱」とか「東京抜け」というのはあると思う。でもその一方で、「東京にこそ魅力を感じる」という人たちも出てきた。つまり、ひとつのローカルとして「東京」を捉えなおすという関係性も生まれてきましたね。

平林 「都市」と「田舎」という対立構造はやめた方がいいですよね。どこにいても、人と人との関係がすべてだと思います。

堀口 最後に、これを読まれている方々へのメッセージはありますか。

平林 居場所はひとつじゃなくていいと思いますし、価値観もそれぞれでいい。僕がコミュニティを運営する中で大事にしてることは、人の多面性が生きるようにすることなんです。僕は経営者なので厳しい判断もしますが、その一方で自然とキャンプが大好きだったりする。そのどちらも僕です。
大変なことも多いですけど、それをみんなで乗り越えられるコミュニティを作っていきたいと思っています。

 

 

*1  LOCAL LETTER MEMBERSHIP

「Co-Local Creation(ほしいまちを、自分たちでつくる)」を合言葉に、地域や社会へ主体的に関わり、変えていく人たちの学びと出会いの地域共創コミュニティ。

「偏愛ローカリズム」をコンセプトに、日本全国から “偏愛ビト” が集い、好きを深め、他者と繋がり、表現する勇気と挑戦のきっかけを得る場です。

<こんな人にオススメ!>

・本業をしながらも地元や地域に関わりたい

・地域で暮らしも仕事も探求したい

・人が好き、地域が好き、旅が好き

・地域を超えた価値観で繋がる仲間づくりがしたい

・社会性の高い仕事をしたい

・地域や社会課題を解決する事業を生み出したい

 

▼詳細&申込みはコチラ
https://localletter.jp/membership/

 

平林和樹(株式会社WHERE 代表取締役)


ヤフー株式会社/カナダ留学/株式会社CRAZYを経て、株式会社WHERE創業。約2万人の会員を持つ地域コミュニティメディア「LOCAL LETTER」、産学官民の起業家70名以上が登壇する地域経済活性化カンファレンス「SHARE by WHERE」など地域、産業を超えた共創を創出。さらに長野県根羽村で一棟貸し宿「まつや邸」を運営するなど独自の事業作りで活動中。2021年7月には地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」を開始し、4ヶ月で約100名の会員へ。

 

『スナック ほりぽぽ』12月1日開催
今回対談したLOCAL LETTER 平林和樹さん(ぽぽさん)と、TURNSプロデューサー 堀口正裕がローカルについてとことん語る『スナックほりぽぽ』開催します!
・日付:12/1(水)17:00-22:00
・場所:TURNSオフィス(東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館ビル9F)
・参加スタイル:特に定員等は設けませんので、立ち替わり入れ替わりでお入りいただけます
※ 満席だった場合はお待ちいただく場合がございますので予めご了承ください

▼参加希望者は下記LINEオープンチャットにご参加いただくと、参加申込みが確定します
参加申し込みLINEオープンチャット

 

 

 

 

                   

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