受け継ぐものと、生み出すもの
農業を生業にする移住者たちが集まる村
【里山暮らし体験募集】

人の流れが生み出すエネルギーが都会にあるなら
里山には自然が生み出すエネルギーがある。

目に見えない力が生業の源泉になる。

それが中山間地で暮らすことの魅力の一つだ。
自分にも何か出来るのではないか。そんな希望を与えてくれる。

わずか23世帯のこの集落には、5世帯の移住者が住む。
集落の技術と文化を受け継ぎ、変化を生み出す。

中心にあるのは『農業を中心とした移住のかたち』だ。

 

人がいないと歴史も伝統も生まれない

新潟県十日町市の松之山黒倉は、中心市街地から車で40分ほどかかる中山間地。
この日、稲刈りを終えた節目となる収穫祭が行われていた。

広場では、青空市が催され地産品が並び、のぼり旗が揺れる。
若い夫婦が何組も行き交い、子供たちが駆け回り、活気が溢れていた。

山々に囲まれた谷のような盆地に、こうして人が集まっているのは、なんとも不思議な感覚だ。
移住者が増えていくと共に、こうして人が集まるようになってきたのだという。

広場に隣接する施設の二階では、そば打ち体験をしていた。これも毎年、この地域で採れた新蕎麦を使っている。

村の人に混じって、蕎麦打ちを教えるのが黒倉集落に住む移住者の1人、横山仁志さんだ。

「この収穫祭も蕎麦打ちも、農業の技術も誰かが引き継いでいかないとなくなってしまう。今、ようやく新しい人の流れが出来て、世代交代をしている最中なんです。特に農業技術は、中山間地域ならではで、誰かが残していかないと、この場所での米づくりができなくなってしまう」

横山さんは大手企業に務めたのちに、故郷の広島に帰り、自営業を経て農業を志す。奥さんが転勤で新潟に住んでいたことがあり、県内各地を1年かけてまわって、最後に見つけたのが松之山黒倉だった。2015年10月、ここ黒倉集落へ地域おこし協力隊として移住した。

「最後は『この場所がいいな』という土地との出会いでした。地域おこし協力隊として3年間、農家の支援をして、任期後に就農したんです。この場所での水稲は天水田で、川の水や農業用水を使わずに、雨や雪解け水だけを使う農業なんです。非合理かもしれませんけど、村を受け継ぎながら農業をするには、天水田での米づくりの技術を継承しなくてはなりません」

中山間地域での農業技術を継承していくために、横山さんを含む10名で『縄文ノ和 黒倉』を立ち上げた。10名のうち、半分は移住者が占める。黒倉集落は縄文土器が出土した歴史のある集落で、世代を越えた結束を表すため、縄をモチーフとした。


のぼり旗に掲げられるロゴは縄(和)がモチーフ

「集落の住人のほとんどが60代から80代以上でした。しかし、地域おこし協力隊や移住者が根づいていったことで受け継いでいきながら、新しい村づくりをしていこうという機運が高まっていったんです」


縄文ノ和 黒倉』のメンバー

横山さんが天水田での米づくりの技術を継承していこうとするのは、高齢化で次々と辞めていってしまう農家が増えていくからだ。現在、中山間地の環境で3.5haの天水田で稲作をしている。

「水の管理は大変だけど、この場所では良質な魚沼産コシヒカリが出来るんです。近隣の若手農業者とも連携をして、施設や設備、機械をシェアして少しでも効率的に中山間地域での米づくりができれば、移住者や新規就農者を受け入れる地盤ができると思っています」

人が減っていく中で、新しい人の流れを生み出すことは必要不可欠だという。そのために、この地域で続いてきた生業を絶やす訳にはいかない。


受け継いだものを次へ繋げていく役割も担う

 

人がいれば、失われた技術を蘇らせることもできる

横山さんのように村の文化や技術を絶やさぬように受け継ぐ移住者もいれば、新たな生業を生み出す移住者もいる。嶋村彰さんは黒倉集落に移住して10年になる。

「元々は農家になるつもりはなくて、結果的に農家になってしまったというか。今はホーリーバジルっていうインドのアーユルヴェーダでは最高峰と言われているハーブを育てています。越後三山を背景に紫色の花が一面に咲く景色を見たくて植えたのが始まりでした」


紫の花が特徴的なホーリーバジル

ホーリーバジル、日本名では神目箒(かみめぼうき)と呼ばれている。植えたハーブがお茶になると聞き、茶葉にして販売したことがきっかけで嶋村さんは農家になった。収穫する量が増えてくると黒倉集落に乾燥させるための倉をつくり、「まつのやま茶倉」と名づけた。


乾燥させてお茶にする


神目箒茶

「今年から、昔からの方法でつくる『塩づくり』も始めました。松之山には1200万年前の化石海水が源泉になって温泉が湧いています。いくつかの源泉を調べて黒倉の隣の集落から出ている源泉が一番塩に適していることが分かったんです。これは美味しい、商品になると思いました。地域から出る廃材を燃やして煮詰めて、海のない中山間地でつくる『山塩』を仲間たちとつくっています」


廃材と塩窯を使った山での塩づくり

物流が今ほど発達していない頃、この場所でも塩づくりは行われていたのだという。人口が減り、世の中が便利になっていったことで、山塩づくりの技術は失われたが、こうして新しい人の流れによって文化と技術は蘇ることもある。

「ホーリーバジルの栽培や山塩づくりがあることで、この集落に暮らせる人が増えたら、それは本当に嬉しいことだなと思います」

受け継ぐこと、生み出すこと、蘇らせること。移住者が担う役割はそれぞれの生業となって誰かの居場所をつくる。そこにまた、新しい人の流れもついてくるようになるのだ。


新しい変化と生業が生まれる瞬間

 

デュアルスクールの受け皿となる「まつのやま学園」

農業を生業とする移住者たちに続く人たちもいる。今年9月にお試し地域おこし協力隊として1週間、この集落で生活をした志水さんは、2021年4月からパートナーと共に地域おこし協力隊になる予定だ。

「子供が中学1年生なんですけど、集落の近くにある学校に通わせてもらいました」

黒倉集落から一番近い学校は、十日町市唯一の小中一貫校である「まつのやま学園」だ。小規模特認校として学区外からの入学・編入を受け入れている。この制度によって移住を考えている人に子供がいても、学校を休まずに家族で移住の準備や長期間の滞在ができる。

「デュアルスクール、デュアルライフなんて言われてもいますけど、二拠点居住や移住をしたいけどすぐには難しいという人の受け皿になれる地域だと思います」

仕事、住居、居場所だけではなく、教育機関の受け皿がある地域は多くはない。
地域が一体となって人を受け入れようとしているのが、松之山黒倉という地域だ。

 

都会には新しいものが生まれ、人の流れが大きなエネルギーを生み、経済を回している。地方には、田舎には、中山間地ではどうだろうか。太陽の光、土と水の循環、受け継がれてきた営みがエネルギーとなって価値を生み出している。

五感を全て使って生活をして、人と触れ合い、その土地の食材を食べる。
受け継がれた歴史と新しい変化を楽しみながら、自分の手で生み出す喜びを知る。

 

あなたにとっての「豊かさ」とは何か、もう一度考えてみよう。

 

文/大塚眞
写真/ほんまさゆり

 

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新潟県十日町市 黒倉集落
移住体験プログラム
開催日 2020年11月5日(木) 〜2021年2月28日(日)
地図
住所新潟県十日町市 黒倉集落
参加費大人1名(1泊2日):14,000円
大人1名(2泊3日):21,000円
参加費補足※費用に含まれるもの
滞在先での宿泊費用、移住者との懇談会、十日町市内で使用するレンタカー(必要な場合のみ)、十日町市内到着時・現地出発時の滞在場所までの送迎
※上記費用とは別に、参加者には十日町市内までの交通費と余暇の費用、ガソリン代金、飲食代金を負担していただきます。
※現地にて体験アクティビティに参加される場合は別途参加費が必要です。
※お子様も参加可能です。料金はお問い合わせください。
主催プログラム企画・運営:
新潟県十日町市
株式会社HOME away from HOME Niigata
参加方法体験プログラムへのお申込みは、以下の「詳細・問い合わせ」フォームよりお問い合わせください。
※お申込み締め切り:2021年1月31日
お問い合わせ先HOME HOME Niigata
https://forms.gle/NTE5YneDWCPhQqeRA
受付終了
※TURNSでは紹介のみ行っています。お問い合わせ・ご連絡はイベント主催者さまへお願いします。

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