【北海道東川町】適疎てきその町の若者が描く、“ふるさと住民”を増やすこれからのまちづくり

北海道第2の都市・旭川市と、2,000m級の峰々から成る大雪山の間に広がる東川町。過疎でも過密でもないほど良い暮らし「適疎」を掲げ、地域資源を丁寧に磨く独自のまちづくりで等身大の自立経済圏を構築。地方創生の先進地として、全国から注目を集めてきた。

そんな東川町では今、町役場の若手職員と地域おこし協力隊が「ひがしかわ若者ふるさと住民制度」を立ち上げ、”ふるさと”をキーワードに地域内外の若者をつなぐ新プロジェクトに挑んでいる。地域の未来を担う若者が描く、豊かな町とはどんな姿なのか。その問いの先に、これからのまちづくり の可能性が見えてきた。

東川町って、どんな町?

大雪山の恵みが満ちる、水の町


道内最高峰の「旭岳」を頂とする、大雪山の雪解け水が注ぐ東川町。町内すべての家庭で、清冽な天然水を生活用水として使える環境が整う。ミネラル豊富な水はブランド米「東川米」をはじめ、農・醸造・飲食・観光業など多彩な地場産業を支え、町の豊かさの源になっている。

“日常の美”に出会える、写真の町

1985年に「写真文化によるまちづくり」を掲げてから40年。写真をまちの核に据え、自然・文化・人が調和する景観を守り育ててきた。四季の光、澄んだ水と空気、ゆとりある暮らし。その重なりに宿る“日常の美”に心を動かされこの地へ移り住む人も多く、人口約8,700人のうちおよそ6割を移住者が占める。

多文化・多世代が学び合う教育体系

「子どもは地域の財産」という理念のもと、保育・義務教育・高校・留学生までを一体的につなぐ独自の教育モデルを確立。日本初・全国唯一の町立日本語学校や、企業版ふるさと納税を活用した給付型の奨学金「東川町大学進学奨学助成金」の創設など、若者の挑戦を支える公的支援制度も充実している。


次世代型まちづくりのプラットフォーム
「ひがしかわ若者ふるさと住民制度」とは?

2025年6月にスタートした「ひがしかわ若者ふるさと住民制度」は、若い世代が自分らしい距離感で東川町とつながれる、コミュニティプラットフォーム。U40のすべての若者を対象とし、登録すると「ふるさと住民」として迎えられ、さまざまな特典を受けながら町と人との関係を深めていくことができる。

今後、東川町は町を挙げてふるさと住民に向けた特典をさらに拡充し、コミュニティの輪を広げていく。特に、第2のふるさとに出会いたい方、ふるさとを思う同世代や地域の人とつながりたい方は、ぜひご登録を。

対象
東川町と共に「ふるさとを育む」U40のすべての若者
東川町の出身者や友人 東川町とつながりたい方 まちづくり活動に参加したい方 など

特典
1.デジタル住民証「ひがしかわ若者ふるさと住民証」の発行
ふるさと住民として町から公式認定された証になるほか、町内で様々な優遇が受けられる。

2.「ひがしかわ2291プログラム」への参加
地域活動(ボランティア、イベントなど)に参加するたび、地域通貨として利用できるポイントを付与。

3.「ひがしかわ若者ふるさと住民メディア」の作成・提供
TikTokアカウント(@higashikawakamono)を中心に、若者視点の情報発信に携われる。

—今後—
4.「若者ふるさと掲示板」の利用
LINEのオープンチャット機能を活用した、双方向型の交流の場。

5.「若者ふるさと住民バスツアー」へのご参加
若者が町を案内する、ふるさと住民向けのバスツアー。

ひがしかわ若者ふるさと住民制度へのご登録はこちら!
https://liff-gateway.lineml.jp/landing?follow=%40nqj6009r&lp=yiguOT&liff_id=2008022903-1Ma9Kro9


ふるさとを思うコミュニティがある豊かさへ

ふるさと住民制度の最大の特徴は、”ふるさと”を「出身地」だけに限定せず、「また帰ってきたいと思える町」と広く定義していること。その背景にはどのような思いがあるのだろうか。
制度の企画・運営を担う「ひがしかわ若者ふるさと住民部」の中心メンバーに、プロジェクトに込める思いと描く未来像を聞いた。

「ひがしかわ若者ふるさと住民部」の中心メンバー

TURNS 人口減少問題に取り組む多くの自治体が若者向けの移住・定住政策を展開する中、東川町は町内への居住を問わずコミュニティの拡大を図る独自路線を採っています。その背景にはどのような考えがあるのでしょうか?

ふるさと住民部 「ふるさとは自ら選び育む時代だ」という認識があります。近年は、ふるさと納税や二拠点居住に象徴されるように、出生地や居住地でなくても自分の意思で好きな地域とつながり、“ふるさと”を持てる時代になりました。特に東川町は、外部からの企業誘致等に頼らず、地域固有の資源を磨いて地場産業を育ててきた町。無理に人口増を目指さなくても、観光で訪れる、イベントに参加する、特産品を買う、ふるさと納税をするなど、様々な関わり方ができ、その一つひとつが地域貢献につながる土壌があります。「町を応援したい」「関わりたい」という若者と長く続く関係性を育てていくことこそが、これからの豊かなまちづくりに欠かせない力になると考えています。

TURNS これまでにどのような成果が出ていますか?

ふるさと住民部 今年6月にスタートしたばかりの制度ですが、登録者数は62名を超えました。地域活動に継続的に関わる学生が増えたり、地域内外の若者が出会いつながるきっかけになったり、世代や分野を超えたコミュニティ基盤が育ちつつあります。中でも「Hometown Friendship Program」では、これまでに国内外から12組28名が東川町を訪れ、参加者全員が「また訪れたい」と回答するなど、関係・交流人口が着実に広がり始めています。

TURNS 今後、どのようにコミュニティを広げていくのでしょうか?
ふるさと住民部 若者視点による町の魅力発信を強化し、ふるさと住民向けの特典も拡充させていきます。今は特にTikTok(@higashikawakamono)での情報発信に力を入れていて、私たち自身が若者目線で切り取った日常の魅力を発信しています。今後はL I N Eオープンチャット機能を活用して立ち上げた「若者ふるさと掲示板」を活かし、若者同士が気軽につながり、「町のことをもっと知りたい」という声にリアルな情報で応えられる場をつくることで、より活発なコミュニケーションを促進していきます。さらに、地域住民と協働で企画・運営する「若者ふるさと住民バスツアー」も準備中です。世代や立場を越えた交流を深めながら、寒中ジンギスカンなど若者ならではの企画で、町の魅力を存分に体感してもらえるツアーにしたいと考えています。

TURNS これらの取り組みを通して、東川町をどんな町にしていきたいですか?
ふるさと住民部 東川町はこれまで、地域資源を丁寧に磨いて豊かさの輪を少しずつ広げる“等身大のまちづくり”により、ゆるやかな成長を遂げてきました。私たちの活動はその姿勢を受け継ぎながら、「ふるさとを思うコミュニティがある豊かさ」という新しい価値を町に根づかせる試みでもあります。東川町を、人と人とのつながりが見え、一人ひとりのふるさとを思う気持ちが循環する、さらに豊かな町にしていきたいです。

地域との関わり方が多様化する今、「どう暮らせるか」だけではなく、「どんな関わり方ができるか」が町の未来を形づくる重要な要素になりつつある。ふるさと住民部の挑戦は、そうした時代の変化の中で地域が向き合う「関わり方の多様化」と「豊かさの再定義」という課題に、一つの答えを見出しつつある。


町役場職員、地域おこし協力隊、インターン学生、移住者など、多様なバックグラウンドを持つ若者から構成される、ふるさと住民部。町の文化の発信地「せんとぴゅあ」にて

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余白とゆとりが育む、
自分らしいワークライフスタイル

中島幸乃さん
2002年、千葉県生まれ。慶応義塾大学在学中に東川町へ移住し、本年度から地域おこし協力隊に着任。ふるさと住民制度の企画・運営を担う中心メンバー。また、探究学習を支援する『一般社団法人アンカー』の理事として全国で活動し、地方を中心に全国3,000人以上の中高大学生にキャリア教育を実施してきた。

協力隊と会社員。2つの肩書きを持ち、東川町を拠点に自分らしいワークライフスタイルを築いている中島幸乃さん。初めて町を訪れたのは大学3年生の時。町と包括連携協定を結ぶアンカーの教育事業を担当したことがきっかけだった。そこで適疎の町ならではのゆとりある日常に出会い、心を奪われたという。


中島さんが町で一番好きなスポットだという「大雪旭岳源水公園」は、旭岳の雪解け水を源とする湧水を、誰もが自由に汲むことができる名所

「都会の密度に息苦しさを感じていた私にとって、適度な余白がある暮らしが本当に心地良くて。蛇口から出る水のおいしさにも感動して、ここで暮らしてみたいと思ったんです」。

大学では「地方創生×教育」をテーマに研究していた中島さん。机上だけではなく、実際のフィールドに入り込んで学びを深めたいと東川町に移住。
大学生としての研究、会社員としての仕事、協力隊としての地域活動。その3つを自由に行き来しながらキャリアを切り拓いてきた。

中島さんが地方で教育事業に携わる原点には、自身の経験がある。「受験や就活がすべてのように語られがちですが、実際はどちらも単なる通過点。それで人生の可能性が狭められてしまうのはもったいない。もっと多様な進路があっていいし、それを自ら示せる大人が必要だと思うんです」。

東川町で自由に暮らし働く姿を積極的に発信しているのも、「多様なキャリアは、多様性のある地域からこそ生まれる」と信じているから。その信念を体現する生き方そのものが、続く世代の選択肢をそっと広げている。

首都圏で生まれ育った中島さんに移住後の暮らしについて尋ねると、「全然、不便じゃないです」と笑う。
東川町は商業・娯楽・行政機能が中心部にギュッとまとまるコンパクトシティ。必要なものにすぐアクセスでき、日常の中に暮らしの幅を広げるゆとりがある。


温浴施設「キトウシの森きとろん」では、トロン温泉や町を一望できる展望露天風呂、本格フィンランド式サウナなどが楽しめる

「仕事終わりに職場から車で5分のところにある温泉に寄って、趣味のサウナを楽しみ、夕陽に染まる田園風景を眺めながら整う。『こんなにも自由に
生きていいんだ』と心の底から思えたことで、人生の可能性がさらに広がった気がします」。

好きな地域で自由に働き、生きる。その姿は、自律的なキャリアを築こうとする若者にとって心強いロールモデルになり得るだろう。彼女が東川町で
体現しているのは、場所に縛られず、肩書きを固定せず、仕事と暮らしをしなやかにデザインしてく、新しい時代の豊かさそのものだ。


誰もが「また帰ってきたい」と思える
ふるさとを目指して

柏倉佑哉さん
2002年、東川町生まれ。地元のまちづくりに携わりたいという思いから高校卒業後に札幌市内の専門学校で学び、卒業後にUターン。2023年に町役場へ入庁し、地域振興事業を担うなど、まちづくりの最前線で活躍中。趣味は地元の友人と過ごすこと。町の温
浴施設「キトウシの森 きとろん」に毎週通うサウナー。

「東川町で生まれ育った若者に、ふるさととのつながりを持ち続けてほしい」。
そう語るのは、町役場職員で、ふるさと住民部の部長を務める柏倉佑哉さん。入庁3年目、23歳という若さで、8000人超が来場する町の一大イベント『Higashikawa Christmas Market 2025』の責任者を務めるなど、まちづくりの最前線で活躍している。

柏倉さんが町の魅力として真っ先に挙げるのは、出身者が地元に誇りと愛着を持っていること。自身も「家族のような地域コミュニティに支えられて育ったという実感が、まちづくりへの思いを育んだ」と振り返る。その一方、進学先の選択肢が限られていることから、多くの子どもは中学卒業後に町外の高校へ進学し、その後も札幌や東京など都市部の学校へ進学、就職するケースがほとんど。地元に戻る若者は決して多くない。

「でも、」と柏倉さんは続ける。「都内で町のPRイベントを開催すると、関東の大学に進学した出身学生が手伝いに来てくれるんです。集まった子たちは、嬉しそうに地元の良さを語り合う。そんな姿を見るたびに、離れて暮らしていてもふるさとを思い続けられる仕組みをつくれないかと考えてきま
した」。

そんな時にふるさと住民部の構想を耳にし、柏倉さんは迷わず部長に立候補。「子どもたちがどこで暮らしていても地元愛を持ち続けられる町にした
い」という思いは、ふるさと住民部の責任者になったことでさらに深まり、出身地か否かに関わらず「また帰ってきたい」と思えるふるさとをつくるというビジョンへと発展していった。

休日は 、家族のように親しい仲だという地元の友人たちとサウナで整 い 、日々の疲れを癒す

ふるさと住民部の活動を通し、大学を休学して協力隊になりたいと町に飛び込んでくる学生や、まちづくりのイロハを学びたいというインターン生と関わる機会も増えた。同世代の彼らが全力で挑戦する姿は柏倉さん自身にとって新たな刺激になり、「自分ももっと町のために頑張りたい」と自然に背中を押されるのだという。

「『東川町をふるさとにしたい』と思ってくれる人なら、誰もがこの町をふるさとにしていい」。柏倉さんは、そんなメッセージを若い世代に伝えている。自分らしい距離感でゆるやかに、でも確実につながり続けられる町。それが柏倉さんが思い描く、豊かな町の未来像だ。


学生の旅費・滞在費を町がサポート
ホームタウンフレンドシッププログラム

Hometown Friendship Programとは?
東川町出身の若者が、最大2名の友人を町に招待できる特別プログラム。本年度から運用を開始し、すでに国内外から12組28名が制度を利用して東川町を訪れるなど、関係・交流人口の拡大に寄与している。なお、本プログラムは『株式会社ホクリク』による企業版ふるさと納税を原資として運営されている。

本間雛子さん
2001年生まれ。東川町育ち。台湾の大学を卒業後、Uターンして2024年に地域おこし協力隊に着任。活動の一環として「Hometown Friendship Program」の運営や制度を利用する学生のサポートなど、若者と町をつなぐ役割を担っている

東川町出身の本間雛子さんは、「東川町大学進学奨学助成金」を受けて台湾の大学に進学。帰国のたびに同奨学金の出資者であるホクリクの野口研二
社長のもとを訪ねるなど交流を続けてきた。

卒業後に帰郷し、協力隊として活動し始めたことを伝えた際、野口社長から「東川町出身の学生が友人を町に招待できる仕組みを作れないか」と相談を受けたことが、本間さんがまちづくりに関わるきっかけになった。

「社会に出て働く中で、『学びたい』という気持ちを後押してくれた町と人の懐の深さを改めて実感しました。『恩返ししたい』という思いが自然と芽生えたんです」と本間さん。現在はHometown Friendship Programの担当者として、町と学生をつなぐ窓口を務めている。

同プログラムを利用して町を訪れた学生たちは、「水や野菜、お米のおいしさに驚いた」「公共施設や飲食店のデザイン性が高く洗練されている」など魅力に驚き、「また来たい」と口をそろえる。また本間さん自身も、「地元を誇りに思う」「町の魅力をもっと多くの人に伝えたい」「いつか町に貢献したい」と語る出身学生とつながり、地元を大切に思う仲間がこんなにもいるのだと気付かされたという。


今年6月のスタート以来、国内外から12組28名が「HometownFriendship Program」を利用して東川町を訪問。関係・交流人口の拡大に加え、出身者のシビックプライド醸成にもつながっている

「プログラムを利用した学生さんが、東川町で友達と良い思い出を作れたら、それだけで十分です。あたたかい人が多い町なので滞在中に町の人と出会い、大人になった時にふと思い出して『帰ってみよう』と思える。そんな心のふるさととして、永く愛される町にしていきたいです」。

「挑戦を支えてくれたふるさとに、恩返しを」。本間さんの思いは、町と若者をゆるやかな絆で結び始めている。

 

株式会社ホクリク │ 野口研二代表取締役より

東京で生まれ育ち、今も都内で暮らす私が東川町と関わり始めたのは、大雪山旭岳の帰り道に立ち寄った「大雪旭岳原水」の豊かな湧水と水の清らかさ、そして美しい町を守ろうと必死に努力する職員や住民の姿に魅了されたことがきっかけでした。

Hometown Friendship Programは、単に学生を町へ招くだけの取り組みではありません。地域の未来を担う若い世代が、自分のふるさとに誇りを抱くきっかけをつくるという大きな目的があります。ふるさとへの愛着は誰かに教えられて生まれるものではなく、町を知り、そこで暮らす人々と出会い触れ合う中で自然と芽生えるものです。進学などで町を離れる若者が増える中、町の魅力を友人に紹介するためには生まれ育った町のことをより改めて知る必要があります。この経験がふるさとを意識する大切なきっかけになるはずです。また、このプログラムで訪れた学生が町の姿勢や人の温かさに触れ、ファンになってくれることも期待できます。

感受性豊かな時期に抱いた町への思いは一生ものの財産です。出身者がふるさとへの誇りと愛着を持ち、その友人たちの中にも町を愛する人が増えれば、この事業は成功といえるでしょう。

東川町が、人と人との温かいつながりを礎に、より多くの人の“心のふるさと”となっていくことを願っています。


INFORMATION

【参加者募集中】ひがしかわ若者ふるさと住民 里帰りバスツアー開催!

「若者ふるさと住民」が一同に会する機会を作り、横でのつながり・価値創造活動を促進するバスツアーを開催します!

開催日:2026年2月28日(土)~3月1日(日)
対象者:U40(10~30代の)の若者で、町内出身者、又は東川町に来たことがある方
参加費:無料
定員:30名

ひがしかわ若者ふるさと住民制度へのご登録はこちら!
https://liff-gateway.lineml.jp/landing?follow=%40nqj6009r&lp=yiguOT&liff_id=2008022903-1Ma9Kro9

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