【福島県飯館村】「誰かの生活を少しだけ豊かにしたい」フリーランスのバリスタが提案する、人生の楽しみ方

福島県飯館村は、阿武隈山系北部の高原に開けた、豊かな自然に恵まれた村。東京電力福島第一原子力発電所の事故にともなう避難指示等の対象になった「福島12市町村」の最北に位置し、居住人口は約1,500人。総面積の約75%を山林が占め、「日本で最も美しい村」のひとつに認定されている。

この飯館村で、フリーランスのバリスタとして活躍しているのが横山梨沙(よこやま・りさ)さんだ。地域おこし協力隊として福島市からやってきた彼女は、つい最近まで、飯館村がどこにあるのかさえ覚束なかったという。しかし飯館村の「非日常感」に惹かれ、現在は村のPRに励んでいる。

なぜ彼女は飯館村を選び、どんな方法で村をPRしているのか。その想いを聞いた。

バリスタは、誰かの人生の一部になれる

福島市出身の横山さんは、大学入学を機に上京し、学生時代は英文科で学んでいた。昔から海外で暮らしたい気持ちが強く、大学2年時にはカナダに3週間、大学4年の卒業直前にはオーストラリアに1ヶ月間の短期留学をした。そのオーストラリアの短期留学プランの中に「バリスタコース」があったことがきっかけで、バリスタへの道を進むことになった。

とはいえ、最初からバリスタに興味を持っていたわけでも、特別コーヒーが好きだったわけでもなかった。「勉強が嫌いだったし、机に座らない何かがしたかったから」バリスタコースを選んだのだという。

いざコースを受けてみると、バリスタがものすごく楽しく感じられた。短期留学の1ヶ月が過ぎ、就職してからもその楽しさが忘れられず、人生のどこかのタイミングで海外に長期滞在したいという以前からの希望もあり、3年間会社勤めをしたあとで、再びオーストラリアに渡った。

滞在先に選んだのはメルボルン。オーストラリアはカフェ文化が盛んで、なかでもメルボルンは「カフェ激戦区」と呼ばれるほどカフェの数が多く、人々の生活にコーヒーやカフェが浸透している。独自のカフェ文化が根付いているため、アメリカの大手コーヒーチェーンですら撤退してしまったほどだ。


オーストラリア・メルボルンのボヘミアン文化発祥の地・フィッツロイのカフェで働いていた時の横山さん(横山梨沙さん提供)

そんなカフェ激戦区で、横山さんはバリスタとして3年間働いた。バリスタの魅力を、横山さんはこんなふうに表現する。

「メルボルンの場合、他の飲食店と違って、お客さんは毎日カフェにコーヒーを買いに来ます。そこが魅力だったんです。バリスタは、誰かの生活の一部になれるんです

飯館村の「非日常感」に惹かれて

メルボルンでバリスタをやりきったのち、帰国。それからは日本のカフェを知るため、東京・蔵前のカフェで経験を積んだ。その後、コロナ禍になったこともあり、お店をやめて福島市の実家に戻ることに。そうしてすぐにエスプレッソマシンを購入し、自宅でラテアート教室を始めた。フリーランス・バリスタの誕生である。

「最初はInstagramで集客して、小さく始めました。でも、知らない人の自宅って行きづらいし、自分としても家まで来てもらうのが申し訳なくなってきて。途中からはレンタルスペースを借りることにしました」

そのラテアート教室の中に、飯館村の地域おこし協力隊員がいた。すぐに仲良くなり、協力隊員が主催する飯館村のマルシェに参加したことで、初めて飯館村に足を踏み入れたのだった。

「そのマルシェがすごく洗練されていたのと、飯館村の自然の非日常感がとっても素敵だと感じたんです」

横山さんが育った福島市は、福島県の県庁所在地であり、都市機能が充実しているため、いわゆる「田舎」というよりはむしろ「都会」という言葉の方が似合う。都会育ちの横山さんにとって、手付かずの自然が残る飯館村は新鮮だった。

「もし仮にオーストラリアや東京の友達が福島に来てくれるとしたら、非日常的な空間のあるところに連れて行きたいと思っていたんです。福島市は都会なので、東京に住んでいた身からすると、それほど新鮮味がないかもしれない。その点、飯館村は呼び甲斐があります。胸を張って『ここには非日常があるよ!』と言えます。それが移住の大きな決め手になりました」

そうしてすぐに、自分も協力隊になることを決めた。

「即決でした。迷いはなかったです」

誰でも気軽にラテアートが学べるように

協力隊になってからは、これまで行ってきたバリスタとしての活動を中心に、飯館村のPRに関わっている。具体的には、不定期ではあるが、レンタルスペースや間借りで『coffee pour house』(コーヒー・ポアハウス:「コーヒーを注ぐ場所」を意味する)の営業を行う。


『coffee pour house』のロゴ

カフェの主力商品はもちろん、オーストラリアスタイルのコーヒーや、エスプレッソマシンを使ったラテ。近年は都市部の一部でエスプレッソマシンを使ったカフェも出店するようになったが、福島にはまだそれほど多くない。そもそも福島のカフェはハンドドリップを使った店が主流だった。その中でエスプレッソマシンを中心に据え、他との差別化をする。

ドリンクやデザート、サラダなどには飯館村の食材を使う。チアシードを使ったフルーツパフェの『チアプディング』には、飯館村のいちごをメインに添える。コーヒーが苦手な人には『いちごミルク』を。あんことクリームチーズをそば粉配合の生地で包んだ『そば粉スイーツ』や、そば粉を配合したラップでたっぷりの野菜をくるんだ『そば粉サラダラップ』など、飯館村のそば粉を使った商品にも大胆なアイデアが光る。こんなふうに『coffee pour house』のメニューを通して飯館村のPRを行う。


飯舘村のいちごを使ったチアプディング(横山梨沙さん提供)

また、ラテアート教室も継続しており、幅広い年代の受講者が集まるのだという。

「どんな人がどれくらい来てくれるのか、わからないままはじめたけれど、毎月通ってくれる方がいたり、年代も上の方が来てくれたりして、興味を持っている人が想像以上に多くて驚きました。茶道を習うような感覚で来ている人が多いと思います」

カフェ関係の人がスキルアップのために通うのではなく、これまでその業界に一度も関わったことのない人が、趣味の延長で気軽に来られるように――。これが横山さんが掲げる、ラテアート教室のコンセプトだ。

「オーストラリアに行く前、わたしが初めてラテアートに興味を持った頃、ラテアートのワークショップは周りにほとんどありませんでした。場所も情報もなかったんですね。かと言って未経験でいきなりエスプレッソマシンを買って家でやるわけにもいかないし。だから、誰もが気軽に受けられるようにしたくて」

ラテアートは、味覚だけでなく視覚で楽しむものでもある。「アート」というだけあって、絵を描く楽しさに近いようだ。そのアートができた時の感動が満足感につながるのだと横山さんは言う。

福島県内59市町村でラテアート教室をひらき、記憶に残るPRを

8月からは、福島県内59すべての市町村をまわる活動を始めた。訪れたそれぞれのまちでラテアート教室を開き、参加者たちとふれあいながら飯館村のPRを行う。背景には、県内でも飯館村のことが知られていないという思いがあるという。

「わたしも福島市出身なのに、マルシェに来るまで飯館村のことを全然知りませんでした。普通に生活していたらなかなかアクセスできないところだと思うんです。だから、こっちから外に出てPRしなければと思って。入口はラテアート教室だけれど、そのなかで飯館村の生活の様子や協力隊の活動内容を伝え、興味を持ってくれる人を増やせれば」

ラテアート教室は、参加者と一緒に過ごす時間が長いため、記憶にも残りやすい。だとしたら、村のPRにも有効な手法なのではないか。横山さんはそう考えた。

「たとえば、キッチンカーで飯館村のいちごを使った『いちごミルク』を売るという方法もあるけれど、買った人にとってはただのおいしい『いちごミルク』でしかないかもしれない。飯館村のことがどれだけ伝わるかわからないし、すぐに忘れてしまうのではないかと思ったんです。だったら、一緒にラテアートをやって時間を過ごすことで、ラテアートとセットで飯館村のことを覚えてもらえるんじゃないかと思って」

飯館村の内容をアピールするというより、自分が持っている得意分野を前面に押し出して回ることで自らが広告塔となり、ある種、二次的に飯館村を覚えてもらう。この方法は効果的かもしれない。というのも、飯館村にそれほど詳しくなくても飯館村のPRができるからだ。

第1回は8月29日にいわき市で開催した。初めての試みだったが、無事、盛況に終わったという。

「来てくださった方みんなすごく楽しんでくれたし、『飯館村にすごく行ってみたくなりました!』という感想もいただきました。やって良かったです。福島は場所によってコーヒー文化が微妙に違うみたいなので、そのあたりの反応の違いも楽しみだし、わたし自身、福島のことをもっと知ることができるようになるのでワクワクしています」


須賀川市で行ったラテアート教室の様子(横山梨沙さん提供)

大切なのは、+αの時間を自分で作って楽しむこと

日々を忙しく生きている現代人にとって、ゆっくりコーヒーを淹れたり、ラテアートを楽しんだりする時間はあまりないかもしれない。最近はコンビニでも安くおいしいコーヒーが買えるし、質の高いコーヒーを出すチェーン店も多い。

それでも横山さんは、自分で淹れるコーヒーやラテにこだわる。なぜならラテアートは、人生を少しだけ豊かにするひとつの手段だからだ。

「わざわざ時間を作って自分でコーヒーを淹れたり、ラテアートをしたりすることは、とても優雅な時間の使い方だと思います。そういった何らかの+αの時間を作って楽しむことが、人生の豊かさにつながるんじゃないかと思うんです」

人生は大きなイベントだけで構成されているわけではない。むしろ、日々の小さな出来事の積み重ねの連続だと言える。そうした毎日の営みに少しだけ何かを付け加えることで、総体としての人生が豊かになっていく。

「もちろん、コーヒーやラテではなく他のことでもいいんですが、わたしの場合はコーヒーからそういうものを垣間見ることができたので、コーヒーやラテアートを通して、誰かの生活や人生をちょっとだけ豊かにできたらいいなと思っています」


横山梨沙(よこやま・りさ)さんプロフィール

福島県福島市出身。都内の大学を卒業。飲食店へ正社員として就職した後、ワーキングホリデービザでカフェの聖地オーストラリアへバリスタ留学。帰国してからはフリーランスバリスタ「コーヒーポアハウス」として地元福島でラテアート教室を行ったりオンラインで接客英語を教えたりしている。

coffee pourhouseのInstagram
https://www.instagram.com/coffee_pourhouse/

文/山田宗太朗 写真/鈴木宇宙


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※受付期間や交付条件の詳細は、福島県避難地域復興課のHPをご覧ください。

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