地域おこし協力隊リレーTALK Vol.03
​「大学新卒で地域おこし協力隊を働く場として選ぶ」

福島県矢吹町地域おこし協力隊現役隊員
飯塚智崇さん 

活動内容:仕事・学校帰りに立ち寄れる第三の居場所の運営学生向け学習・キャリア支援塾の運営、小学生向け自然体験活動の開催  

 

地域おこし協力隊のなかには、大学新卒で着任するという人もいる。岩手大学を卒業後、福島県矢吹町の地域おこし協力隊第1号として着任することを選んだのが、飯塚智崇さんだ。 

「農学部共生環境課程で地域おこしのことも学んでいたので、協力隊のことはよく知っていました。県内で活動する隊員の方と知り合う機会もありましたが、新卒で協力隊になるというイメージがなかったので普通に就職活動を始め、福島県内の会社から内定をもらい、大学4年の12月まで研修を受けていました。しかし、このまま就職すべきかどうか迷っていたとき、以前からいろいろと相談に乗っていただいていた恩師と慕う人が、自分の故郷である矢吹町で協力隊を募集しているから話を聞いてみないかと声をかけてくれました。」 

初めて矢吹町を訪れてみて、人と自然環境とのバランスがとてもいい町だと感じたという。 

「矢吹町は人口もそれなりにいるものの、決して都会ではない。車を数分走らせれば自然もたくさんありますが、かといって山奥という立地でもない。ここには自分がやっていきたいことを実現できる環境があると感じて、協力隊に応募しました。実は大学時代から交際していた相手が矢吹町から近い郡山市の出身ということもあり、福島県内で働きたいと考えていたので、ちょうどよかったという気持ちもありました。」 

矢吹町で彼女と結婚するという前提のもと、3年間の協力隊の活動を通じて仕事と暮らしをつくっていこう。そんな覚悟を胸に秘めて、飯塚さんは2019年4月に矢吹町へ協力隊として着任した。 

 

誰でも気軽にひとりで訪れることができる「セルフスペースしおりば」 

 

高校生がひとりでも立ち寄れるセルフスペースを駅前につくる 

飯塚さんが採用されたときの協力隊の活動内容は、やりたいことに自由に取り組める〝フリーミッション型〟と呼ばれるものだったため、どこで何をやるかはすべて自分次第。とはいえ、まったく知らない土地で何をやればいいのかを考えるのは簡単ではなかった。 

「最初の3カ月間は地元のことを知るために自転車でひたすら地域を回りましたが、これといったあてもないし知り合いもいない。精神的にしんどくて辞めたいと思ったこともありましたが、夏になって各地で夏祭りの準備が始まると、それを手伝うためにいろいろな集まりに顔を出すようになり、少しずつ地域の人たちとのつながりも増えていきました。なんとかして人と話をするきっかけをつくりたかったので、駅前や公園に自分の持っている本を並べて貸し出す『青空図書館』を個人的に始めたりもしました。」 

こうした地道な取り組みを続けて地元に溶け込んでいった飯塚さんだが、協力隊の2年目を迎えるときにちょっとした変化があった。 

「着任1年目は非常勤職員という形で町から雇用されていましたが、2年目からは個人事業主として委嘱を受けて協力隊の活動をすることになりました。事業計画書に収支や活動報告などの詳細な記載が必要になりますが、副業もできるので任期終了後もこの地に残って起業などを考えるには、ありがたい仕組みだと感じました。」 

個人事業主となったことで、飯塚さんは頭の中にあった事業プランを少しずつ具体化させていった。そのひとつが、JR矢吹駅近くにつくった「セルフスペースしおりば」だ。 

「もともとコミュニティスペースのような場所をつくりたいと考えていたのですが、最近増えている単なるコミュニティの場にはしたくありませんでした。ひとりでもふらっと立ち寄れるということで、〝セルフスペース〟と名づけました。駅の構内で電車を待つ高校生が、本を読んだり、勉強したり、物思いにふけたりできて、何かを話したいときは聞いてくれる大人がいる。そんな場所にしたいと考えました。」 

 

左)「学び舎しおりば塾」では中学生向けの学習・キャリア支援を行う 右)セルフスペースしおりばのDIYに協力してくれた日本大学工学部建築学科の学生たちと 

 

口コミで探した大学生たちの力を借りて学び舎をDIY 

セルフスペースしおりばはDIYで完成させたそうだが、そこで大きな力になってくれたのが、飯塚さんが口コミで探した郡山市にキャンパスを持つ日本大学工学部建築学科の学生たちだった。 

「地元にはポテンシャルの高い学生たちがたくさんいるので、彼らの力を地域おこしに積極的に活かしたいと考えました。大学の勉強は座学が中心ですから、学生にとっても実際にDIYを経験できる場になるので、お互いにWin-Winな関係を築けると思いました。」 

元塾だった空きスペースを改修してつくったセルフスペースしおりばの中には、「学び舎しおりば塾」という中学生対象の学習・キャリア支援の塾もあり、現在は4人の中学生が通っているという。 

「子どもにとって本当に大変なのは、高校に進学して学習面や人間関係の環境が変わってからだと思います。そこで、学習支援だけでなくキャリア支援の視点で悩み相談なども行える塾を立ち上げました。高校生や社会人になってからもセルフスペースしおりばを活用してくれれば、いつでも相談に乗ったり支援したりできますから、中学卒業後も子どもたちをずっと見守っていける仕組みがつくれると考えています。」 

 

飯塚さんが購入した牛舎だった建物が建つ広大な土地 

 

何かを行うことへの責任の持ち方と覚悟を地元の人に学ぶ 

2020年6月から飯塚さんは小学生を対象とした「こかげの学校」という自然体験活動にも取り組んできた。 

「『子どもが自然と遊ぶ楽校ネット』と連携し、『やぶき冒険ひろば』というイベントや自主事業として「夏のキャンプ」を行っています。このイベントを行っている牛舎のある広い土地を、2021年9月に購入しました。現在敷地内の中古物件を自宅としてリフォーム中ですが、今後はこの敷地内のスペースを使って、未就学児向けの自然体験活動などもやっていきたいと考えています。」 

私生活では2020年11月に結婚し、2021年11月には長女が誕生。協力隊の任期が後わったあとも矢吹町に定住する決意を固めた。そして、矢吹町の活性化と自身の将来を支えるための取り組みに、これまで以上に精力的に励んでいる。 

「緊急事態宣言中に、地元の食べものを集めてドライブスルー方式で販売するイベントを2回やりましたが、1回目は来訪者が多すぎてパンク状態になってしまいました。ご迷惑をおかけした方々には頭を下げて回りましたが、何かを行うことへの責任の持ち方と覚悟というものを、このときに一緒に取り組んだ地元の人たちから学ばせていただきましたし、自分の力量も知ることができた気がします。これからは自分の価値観や想いは大切にしつつもそれを押しつけるのではなく、地域や役場の声をしっかりと聞き、相手の立場で考えて動いていくつもりです。そうすれば相手も歩み寄ってくれるはずです。」 

協力隊として立ち上げた事業だけで生計を立てていくのは難し、現在は週に何回かアルバイトもしている飯塚さんだが、自身が掲げる「地域のなかで手を差し伸べ続ける」というテーマを実践するために、その視線はブレることなく前だけを見つめている。

 

小学生向けの自然体験プログラム「こかげの学校」で。教員免許のほか自然観察指導員やネイチャーゲームリーダーの資格も持っている飯塚さん 

福島県 矢吹町 地域おこし協力隊 現役隊員 
飯塚智崇さん

1995年生まれ。神奈川県出身。岩手大学農学部を卒業後、地域おこし協力隊として、矢吹町に着任。着任1年後に結婚し、その1年後には第一子が誕生。駅前でのセルフスペース「しおりば」の運営や、町内に購入した土地で小学生向けの自然体験活動なども行っている。 

矢吹町地域おこし協力隊:http://anima1trai1tomo-taka.com/yabukichiikiokoshikyouryokutai 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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