経験ゼロから林業のプロフェッショナルへ
豊かな自然と共に、自分らしい生き方を

児湯広域森林組合「緑の雇用」研修生 就業現場リポート

装備の点検を終えると、2人は「じゃあ、行きましょう」と声を掛け合い、森の中に入っていった。湿った土の匂い、肌を刺す冷気。
ここは宮崎県山間部の西米良村。慣れた手つきでチェーンソーを手にする彼らだが、以前は林業と無縁の暮らしを送っていた。自然と共にある生き方を求めて移住してきたのは2年前のこと。
資格取得などの費用を国が負担し、安定した研修プログラムを提供する「緑の雇用」事業が、彼らの成長を後押ししている。


生きている手応えのある日々

「ここに移住してくる前は、新潟大学で哲学を学んでいたんです」。そう話すのは緑の雇用研修生の福田泰葉さん。静かな語り口はたしかに文学青年といった雰囲気で、一般的にイメージされる林業従事者とは印象が少し異なる。

「ずっと机に向かっていた日々の反動もあったのかもしれません。生活は乱れがちでしたし、精神状態もいいとは言えませんでした。自然の中で、開放的な環境で仕事をしたいと思い、林業の仕事を検討するようになりました」

林業に興味を持つ人向けに開催されている相談会「森林の仕事ガイダンス」にも参加。ある時、実家のある栃木県小山市のハローワークで児湯広域森林組合西米良支所の募集を見つけ、自然豊かな環境に惹かれて移住と就職を決めた。児湯広域森林組合の関係市町村は西米良村を含めた一市五町一村。宮崎県のほぼ中央に位置し、総面積の約七三%に当たる八万四千ヘクタールの森林の中で整備などを担っている。

「朝七時頃に事務所に集合して、八時ぐらいから仕事を始めて。一日が終わって帰ると疲れてはいるけれど、それが心地よくもあるんです。仕事した分だけちゃんと結果も出るのも嬉しい。何と言うか、生きている手応えがあります」

一人前のフォレストワーカーになるための三年間の研修期間のうち、間もなく二年目が終わる。「資格は着実に取得できています。今は造林の仕事が多いのですが、三年目は伐採がもっと上手くなれたらいいですね」

 

伐採の後に残った枝葉を片づけ、雑草などを除去する「下刈り」、植樹しやすいように土地を整える「地ごしらえ」が、児湯広域森組合所属の福田さんの普段の主な業務。その他、苗木の植付け、害獣対策の防護ネット張りなども担う。「夏場は雑草がどんどん生えてくるので、本当に大変です。日光を遮るものがない環境での作業なので、水分、塩分、あとファンの付いた空調服が必須ですね」と福田さん

 

仕事が終わった山の中、落ち葉を敷物にしてあぐらをかき、もくもくとチェンソーの歯を研ぐ。誰に見せるでもないこの時間に、山で生きる人の手仕事がある

 

地域とのつながりを楽しみながら

もう一人の永井智さんは岩手県出身の三十八歳。早稲田大学を中退した後、自分の道が定まらないまま、職も住む場所も転々としてきたそうだ。

「ここに来る前は西東京市にいたのですが、コロナもあり、人が多い場所での生活に息苦しさを感じるようになって。僕の両親は山歩きが趣味で、子どもの頃よく一緒に行きました。その思い出があって、自然の中で働きたいという気持ちが強くなっていったんです」

もともと社交的な方ではなかったという永井さん。しかし、今は進んで地域の人たちと交流している。

「歓迎会を開いてくれたり、催しに誘ってくれたり、遠すぎず近すぎず、良い距離感で迎えて入れてもらいました。今は地区の消防団と猟友会に入り、地域で受け継がれてきた神楽も学んでいます。地域とのつながりをこんなに楽しめるなんて、自分でも驚いています」

もちろん仕事も充実していると話す。

「集合研修では他の森林組合や企業の研修生が集まり、とても刺激を受けます。成長をサポートしてもらえることの安心感はやはり大きいですね。森が整備されれば川がきれいになり、そして海が豊かになる。そういう大事な循環を支えているというやりがいが、この仕事ならではの魅力だと感じています」

西米良村での暮らしを謳歌している永井さん。実はこの地で生涯の伴侶にも出会った。「つい先日入籍したばかりなんです。僕はこっちに来てから本当に良いことばかりで、例えば学生時代から不眠の悩みがあったのですが、ほぼ解消しました。自然のリズムの中で働き、四季の移ろい、寒さ暑さを肌で感じる。そんな暮らしが僕には合っていたようです」

 

児湯広域森林組合西米良支所長の那須浩さん

「緑の雇用」事業を活用することで未経験者が免許や技術習得ができ、組合として大変助かっています。福田くんには、緑の雇用事業研修以外にドローン免許を取得してもらいました。今の時代、林業においてもドローンの活用は重要ですから。現在、村内の林業従事者は三十人から四十人程度で、まだまだ足りていません。そういう中で二人の存在は本当に貴重。すごく真面目ですし、勉強熱心です。最初はどこまで続くか心配していたのですが、積極的に学び、自分で考えて行動するようになってきました。若い人たちが成長していく姿を目の当たりにできるのは楽しいですね。

 


「緑の雇用」事業とは?

林業未経験者が働きながら技術を学べるよう支援する林野庁の補助制度です。審査で認められた森林組合や林業会社に採用された方を対象に、講習や研修を通じてキャリアアップをサポートします。

研修生は最初の3年間、年間30日程度の「集合研修」や「安全講習」、さらに140日の「OJT研修」を受けます。働きながら研修を受けるため、収入を得ながら技術を身に付けられるのが大きなメリット。その後も段階的にステップアップし、林業試験5年以上で「フォレストリーダー」、10年以上で「フォレストマネージャー」の研修を受けることができます。特に小規模な林業会社では、体系的な研修制度を持たないケースも少なくありません。就業先を選ぶ際は一つの判断材料として、「緑の雇用」事業に参画しているかどうかを確認してみてください。
(全国森林組合連合会担い手雇用対策部長の淡田和宏さん)


「緑の雇用」4つのおすすめポイント

 

「緑の雇用」事業についてもっと詳しく知りたい方、実際に相談してみたい方は、下のリンクから公式サイトをご覧ください。研修制度の詳細、就業までの流れ、全国各地で開催される相談会の最新日程などをご覧いただけます。オンライン相談では専門の相談員が、あなたの一歩を丁寧にサポートします。


緑の雇用公式サイト

 


JForest 全国森林組合連合会
(撮影協力)児湯広域森林組合

 

取材・文瀬木 広哉 写真上野 加代子 イラスト伊藤 健介

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