東日本大震災と原発事故からの復興を目指し、新たなまちづくりが進む福島県大熊町に、2026年10月、待望の新しいスーパーマーケットが開店する。
出店を決めたのは、”地域のライフラインを守る”を使命に掲げ、福島県・茨城県で37店舗のスーパーを展開する『株式会社マルトグループホールディングス』。
今回の決断を「大きなチャレンジ」と語る代表取締役社長・安島浩さんに、新店舗の構想と大熊町に寄せる思いを聞いた。
震災を経て、進化する大熊町
双葉郡大熊町は福島県浜通り地方の中ほどに位置する、のどかな海沿いの町だ。夏は海風のおかげで涼しく、冬も比較的温暖で過ごしやすい気候に恵まれ、キウイや梨などフルーツの栽培が盛んな地域としても知られている。
しかし、2011年の震災と原発事故により町内全域に避難指示が出され、全住民が一時、町外での生活を余儀なくされた。その後、2019年から段階的に避難指示が解除されると、復興に向けた新しいまちづくりが本格化。2025年には復興拠点であるJR常磐線・大野駅周辺に「CREVAおおくま」や「クマSUNテラス」といった産業・交流・商業施設が相次いでオープン。
住宅地や教育・医療機関の再整備も進んでおり、かつての暮らしを取り戻しながら、未来を見据えた新しいまちづくりが着実に進んでいる。
町民念願のスーパーが開店

「マルト大熊店」の完成予想図。鉄骨平屋で売り場面積は約2040平方メートル。開業時間は9:00〜21:00までの予定
2024年、大熊町に待望の知らせが届いた。いわき市や茨城県北部を中心にスーパーマーケットチェーンを展開する『株式会社マルトグループホールディングス』(以下、マルト)が、新店舗の出店を決めたのだ。震災以降、町内にスーパーが立地するのはこれが初めて。またマルトにとっても、双葉郡内への進出は初の試みとなる。住民の生活インフラの要となるスーパー出店の経緯について、安島社長はこう語る。

『株式会社マルトグループホールディングス』の安島社長
「ご存知のように原発事故の影響は大きく、私たちに本当にできるのか、この間ずっと考え続けてきました。決め手となったのは、大熊町の復興が想像以上に早かったこと、そして『ぜひやりたい』という社員の熱意でした。震災で傷つき、これまでがんばってきた町をさらに幸せにできるなら、ぜひ挑戦したいと出店を決めました」
マルトは1964年の設立以来、”地元密着”を掲げて店舗数を伸ばしてきたスーパー。震災時も、発災翌日から駐車場を活用して営業を再開するなど、地域のライフラインとしての役目を果たしてきた。「お客様のニーズに応え、笑顔にするのがスーパーの仕事」と胸を張る安島社長にとって、大熊町への出店は必然的な流れだったのかもしれない。今回開業する『マルト大熊店』は、既存店と同様の設備を整え、鮮度が命の刺身や、各種コンクールで高い評価を受けている惣菜も店調理で提供する。

取材時、マグロの刺身や寿司、天ぷら、餃子など、自慢の惣菜を振る舞ってくれた安島社長。200キロ以下のマグロは使わないなどのこだわりが品質に表れている
「どうせやるなら、商品をただ並べるだけの店にはしたくありませんでした。私たちにしかできない本当においしいもの、お客様に『買ってよかった』と心から感じていただけるものをお届けしたいと思っています」
これまで町民は、近隣の相馬市まで生鮮食品や日用品の買い出しに行く必要があったが、新店舗の登場により利便性が飛躍的に向上することは明らか。さらに店舗にはドラッグストアや百円均一コーナーなども併設され、日常の用事が1カ所で完結するのも嬉しいポイントだ。「大熊町の皆さんはもちろん、周辺地域の方々にも満足していただける店舗にしていきたい」と安島社長。マルトの出店で大熊町は、より暮らしやすい町へとまた一歩近づくことだろう。
地域とともに”育つ”店作り
一方で課題もあった。マルトの持ち味でもあるフレッシュかつ出来立ての商品をコンスタントに供給していくためには、大熊町の現在の人口規模では需要がやや心許ないのだという。消費者がいなければ商売が成り立たない。しかし、商品に妥協はしたくない。
そこで同社が目をつけたのが日中の滞在人口。復興が進む大熊町には、他地域から働きに来ている人も多い。そこでマルトは、事前に注文を受けた商品を各事業所へ配送することで、売上を確保しようという大胆な戦略を打ち出した。マルトと提携する町内の事業所で働く人は、来店しなくても勤先で商品を受け取れるという仕組みだ。配送の対象は、店の全商品。
他店にはない新システムの構築について、安島社長は「私たちにとっても大きなチャレンジです」と覚悟をにじませる。「だからこそ、町で暮らす人、働く人にもぜひ協力していただきたい。一緒に店を育てていってほしいと願っています」
また、安島社長は「地域雇用の創出にも貢献したい」と話す。「大熊町には近年、若い移住ていると聞いています。そうした方々にぜひ当社で働いていただき、地域とつながるきっかけにしてほしいです」
現在『マルト大熊店』は建設の真っ中だ。店舗に隣接する原地区の宅地分譲地は、出店のニュースを受けて問合せが増えているとのことで、期待の大きさがうかがえる。さらに開業時期を約1年前倒しし、2026年10月2日(金)となることも発表され、相乗効果でまちづくりの機運も加速度的に進展していきそうな勢いだ。
それでも、「大事なのは地域に寄り添った店作りをすること」と、あくまで冷静に決意を語る安島社長。その真摯な思いが大熊町に新しい風を吹かせ、町民に愛され、町とともに成長する店舗へと育っていくだろう。
大熊町移住定住
ポータルサイトはこちら!おおくまStyle
https://okuma-style.com