ずっとここに住んでいたような。
そんな懐かしい気持ちにさせるまち“南島原”

長崎市内から車で約1時間30分、北に雲仙普賢岳、南に有明海と海と山の雄大な自然に抱かれたまち、長崎県南島原市。

天草一揆後の移住者をルーツとする南島原市は、移り住む人をあたたかく、ここちよく「おかえりなさい」と迎え入れてくれるまちでもあります。そんな南島原市の“空き家”に惹かれて、移り住んできた、すてきな2組に出会いました。

穏やかで暖かい空気に包まれ、心落ち着く南島原の市内の風景(写真:南島原市提供)

世界遺産「原城跡」から望む朝陽。幻想的で静かな時間が流れる(写真:南島原市提供)

 

快適な終の住処を求めて

早期退職した約9年前、熊本からマレーシアへと移住したMさんご夫妻。

移住先のマレーシアはとても住み心地がよく、永住してもいいと考えていた矢先にコロナが発生。厳しいロックダウンが始まるなど一気に落ち着かない情勢となり、不安を覚え、日本に帰ろうとインターネットで物件探しをしていたときに出合ったのが、南島原市の空き家バンクで紹介されていた物件でした。

「もともと私が南島原市の出身で。南島原市の住み心地とまちの良さは分かっていたのと、もう次に移り住むところがきっと終の住処となるだろうから、親戚など知り合いのいるところがいいなと思っていたんです」と奥さま。

「日本への帰国を本格的に考えるようになった昨年4月頃、インターネットを通じて、いろいろな自治体の空き家バンク物件を探していたのですが、南島原市の空き家バンクにピンとくる物件があって。補修不要、広さも間取りも思い描いていた通りで金額も良心的。すぐ南島原市のご担当者とメールで相談し、現場を見ることもなく(笑)マレーシアにいる間に契約しました」
それからすぐの8月に帰国したお二人。
いざ物件を見てみると想像以上に庭が広く、大きな納屋までついていたのにびっくりしたそう。

母屋と同じくらいの広さの納屋がついていた。今は車庫として利用。

補修不要物件でしたが、シロアリにやられていた梁の修理と自分たちがより心地よく住まうために内装や水回りを改修。「シロアリにやられていた土台の改修は想定外でしたが、改修を担当してくださった建築会社の方がとても親切で、良心的に改修していただくなど南島原に来て出会う人出会う人、本当によくしてくださる方ばかり。本当に人に恵まれ、幸せを感じています」

改修期間はお試し住宅とアパートを借りて、自宅に行っては庭や畑、外回りを自分たちで整える日々。畑は地下茎が多かったので、少しずつ土をふるいにかけて地下茎を取り除く作業をしていたそう。

「ある朝、自宅に行くと畑に大きな手作りのふるいが置いてあって。私たちが小さなふるいを使っていたのを見かねて、大工さんが作って、プレゼントしてくれたんです。本当にうれしくて、ありがたくて!」ご近所の方も、畑仕事を教えてくれたり、おすそ分けしてくれたり、いつも何かと気にかけてくれてあたたかい。
「地域になじめるかも私たちにとって重要なポイントだったのですが、あたたかい人に恵まれて本当にありがたい限りです」

あまりに広い畑だったので、枠で区切ってキッチンガーデンへと作り変えた。自分たちで育てた採れたての野菜をいただく幸せな日々。

 

飼っている2匹の愛犬のためにドッグランを手作りしたり、広すぎる畑をキッチンガーデンに作り変えたり、砂利を敷いたりと庭まわりを自分たちの生活にあった過ごし方ができるよう、少しずつ作り変えてきたのは、旦那さま。

(左)芝生が気持ちいい、広々としたドッグラン。(右)落ち着く空間に生まれ変わった庭。晴れた日は庭で朝食をとるそう。

 

庭から見える海。晴れた日は、美しい青の世界が眼前に広がる。

 

写真中央は火鉢付きテーブル。鉄瓶でお湯を沸かしてお茶を飲んだりと癒しの空間に。

調度品は、長年お二人が丁寧に使い続けてきた大切なものばかり。
改修をお願いした建設会社にあらかじめ調度品の写真を見せて、床材の色合いなど決めただけあって、家と家具とが調和する落ち着いた“和”の空間が広がっていました。

 

(左)開放的で使い勝手のよいキッチン。(右)手作りのスイーツやお料理には、とれたてのミントを添えて。

水まわりはすべて新調。丁寧に手入れし、なじんだ道具が並ぶ心地よい空間に。
「主人が毎朝入れてくれる水出しコーヒーと、ガーデンキッチンからとれたての野菜で作ったサラダ、晴れた日は庭のテラスで海を眺めながらのんびりと朝食をとったり、海まで犬の散歩にいったり。南島原にきて本当に豊かで、おだやかで、まさに自分たちが思い描いていたような最高の生活をしています」

毎日を丁寧に暮らすお二人が、異国の地からたどりついた終の住処。そこには、お二人の丁寧な手仕事が光る、静かで美しい空間がありました。

 

山に抱かれた趣ある佇まいを創作の場に

続いて伺ったのは、今年の1月に移住してきた廣瀬寛子さん。
もともと長崎市の出身だった廣瀬さんは、沖縄に移住して陶芸家として活躍されていたのですが、体調を崩し、長崎にUターン。長崎に戻ってきてからは、体力を使う陶芸をやめて染物の創作活動をするように。

「もともと絵が好きで、焼き物のときも絵付けなどで描いていたので、その流れで。」と廣瀬さん。作業ができる広いものづくりの工房を作るため、長崎県内にある自治体の空き家バンク物件を探していたそう。

廣瀬さんの手から、次々と作品が生み出されていく。

「親戚がいる長崎市から近いところが希望でしたので、長崎県内に絞って検索していました。まちの喧騒があまり好きではないので、田舎で海や山のあるところを条件に空き家バンクを探していたところ、南島原市の空き家バンク物件がとても多く、金額も良心的で。その中で出合ったのがこの物件です。」

 

豊かな自然に囲まれてどっしりと佇む。眼前には美しい海が広がる。

物件が補修不要だったこと、海に近く、背面が山という自然豊かな立地環境に惹かれたこと、建物のどっしりとした外観、広さも良かったこと、そしてやってみたかった農作業ができそうな広さの畑が決め手となり、とんとん拍子に移住が決まったそう。

「いざ、住んでみると残っていた家財道具の整理から始めました」

家財道具を整理しながら、農作業を営むための畑の整備を行うという忙しい日々が始まった。
「畑には竹がはびこり、その地下茎を取り除くために少しずつ耕して、土をふるって、天地返しして…気の遠くなる作業でしたが、半年以上たち、やっと野菜が植えられて収穫ができるようになってきました」

畑に植えた大根や葉物、玉ねぎなど。だんだん収穫できるように。

 

毎日の癒しは、長年の相棒、愛犬・オハナ(9歳)との朝、夕2回のお散歩。
「山に抱かれた場所に家があるので、空気も澄んでいて、夏も涼しく、歩いていて本当に気持ちがいい。車に乗って山を降りれば、すぐに海があるので、海でのお散歩も楽しんでいます」

愛犬・オハナと散歩。澄んだ山の空気に癒される。

住んでみて気づいたのは、庭からの眺めが本当に雄大で美しいこと。
「晴れていたら、熊本の海もきれいに見えるんですよ。眺めがとても美しくて。ここに住んでよかった、そう思える景色なんです」

 

椅子をおいてのんびりくつろげる時間が至福の幸せ。

椅子の横にあるのはお手製のかまど。ここで染料を作ったり、パンやピザを焼いたり、お茶を沸かしてホッとひと息ついたり。ほっとリラックスできる、お気に入りの場所。

 

畑作りと並行して、工房も整えている最中。

「今年一年は、畑の開墾と片付け作業に時間をかけてしまったけれど、今後は工房まわりも徐々に整えて、より一層作品作りに取り組んでいきたいですね。」
今は沖縄に商品を卸しているため、モチーフは沖縄の動物や植物といったものが多いそうですが、「今後は南島原でもいろいろと展開していきたい」と廣瀬さん。

広い窓から見える自然に癒され、心落ち着く工房。ここから作品が生み出されていく。

見ているだけで幸せな気分にしてくれる、そんな廣瀬さんの作品たち。

近い将来、自分で育てた藍で藍染に挑戦したいと考えている廣瀬さん。来年は、今年とれた藍の種をまいて、生葉染めをしたいそう。ほかにもこの場所でワークショップなどを開き、人が集う家になればと夢は広がります。空き家バンクで出合った自然豊かなこの地で、実現できるものはまだまだたくさんありそうです。

 

南島原市空き家バンクの魅力

今回の2組から出てきたキーワードは“空き家バンク”。

南島原市の空き家バンクは登録物件数が多く、補修不要物件や価格が良心的な物件などうれしい掘り出しモノ物件が多いと定評がある。また、細やかに撮影された内観や物件から見える景色など物件詳細がわかる写真や間取りなどの多さも分かりやすさのひとつ。

南島原市地域づくり課ご担当の松本美里さん。

「補修不要物件から思う存分DIYの腕をふるっていただける物件まで、幅広い物件を幅広い年齢層にご利用いただいております。また、空き家情報を検索する際、1つ1つの物件をクリックして閲覧するスタイルではなく、スクロールするだけで一度に全部の物件を閲覧できる形式もご好評いただいております。」と南島原市地域づくり課の松本さん。

南島原市の細やかであたたかい心遣いが伝わる“空き家バンク”。今日もだれかを「おかえりなさい」と迎え入れてくれています。

「南島原市田舎暮らし情報」 から移住、空き家バンクに関する情報も確認できます!

文・西郡幸子 写真・樋渡新一

                   

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