DENIM HOSTEL float 岡山県倉敷市
まさにデニム色をした鮮やかな瀬戸内海を見渡せる高台。47都道府県旅の終着、デニム兄弟『エブリデニム』が泊まれるデニム屋をオープンした。これまでの旅での出会いとこの拠点がつながり、ここ児島の新たな地域経済圏の扉が開く予感がする。
文・編集:田中佑典 写真:ミネシンゴ
※本記事は、本誌(vol.39 2020年2月号)に掲載したものです
自分たちの誇りある場所に 拠点をつくり、根ざす決意
瀬戸内発のデニム兄弟。生まれは兵庫県加古川市。弟の島田舜介さんが大学進学で岡山へ。大学ではベンチャー研究会サークルに入部。そこで日本で最初のデニムブランド『BIG JOHN』と出会う。子供の頃から親の影響もありアメカジやデニムに対しても興味があった彼。そして初めてデニム加工工場を見学し、デニムの魅力に惹かれる。
だが同時にそんなデニム業界も海外との価格競争や下請業の課題を目の当たりにして、彼自身デニムがどこで誰がどうやって作っているかを知るため、そして一般の人たちにもこの問題を知ってもらいたいと思い、ウェブメディア『EVERY DENIM』を始める。
その頃兄の山脇耀平さんは茨城の大学を休学していた。
「当時自分もこれからの生き方や働き方をもう一度見つめ直したいと、休学して東京のベンチャー企業でインターンをしていました。弟から岡山・児島のことやデニム産業についてのこと色々聞いて僕自身も興味を持ち始めました。明確に兄弟で一緒にやろうという感じではなかったですが、弟が工場で取材してきたものを僕がまとめて記事し発信と、いつの間にかデニム兄弟として活動を始めました」
float は宿泊利用以外に、美しい海を望むオーシャンビューのカフェ&バーとしても利用可
メディアとして発信している一方で、産地やデニム業界の課題を目の当たりにした二人。情報発信以上にその課題の解決に対して自分たちがもう一歩深く入り込み、何かアクションを起こせないかと考えた。もっと工場や作り手の存在が見えて、そのアイディアや考え、想いをダイレクトに表現したいと考え、自分たちで製品を作ろうと二〇一五年『EVERY DENIM』は新たにデニムブランドとして誕生した。
これまでリリースした製品には同じ岡山の高梁市で生産が盛んな弁柄(一般的には建物の屋根瓦の着色の使用)で加工した『Bengala』や、ナイロン素材のデニム『Pride』などこれまでのデニム業界の常識を覆した作り手のアイディアと熱い気持ちを表現した。
転換期を迎えた47都道府県の旅とその答え
ブランド『EVERY DENIM』がスタートしたが、彼らは敢えて店舗を持たずに、各地のゲストハウスやコミュニティースペースで週末だけ販売会を行った。
47都道府県旅の軌跡を知れる「えぶり号」現在は廃車となり、今後はブックライブラリーにする予定とか
「岡山と他県ではデニムに対しての評価が違って来て、むしろ他県の方が興味を持ってくれる人も多く、自分たちから気に入ってもらえそうな人がいる場所にどんどん出向いていました。しかしだんだんとせっかく他県に行って知り合いが増えるのに、週末だけだとその地域の地場産業やまちのことを全然知らずに終わっていました。
ということで毎月一週間平日も含めて47都道府県をキャンピングカーで巡る企画を立てました。サブタイトルは“心を満たす旅”。どういうものの作られ方、届け方をすれば買ってくれる人の心を満たされるか、同じ価値観を持った人たちとの出会いの旅にもなりました。この頃から自分たちもホームを作ってその地域に貢献したいと考えるようになりました」
スパイスの効いた本格的な味付けのfloat特製あいがけカレー(¥1,000)
この一年三ヶ月に及ぶ47都道府県をキャンピングカーで巡る旅はテレビやメディアでも注目され、『EVERY DENIM』としてここが大きな転換期だったと二人は振り返る。
産業の誇りと想いを軸に 心も満たされる経済圏
岡山県倉敷市児島。ここは国産デニムの一大産地。瀬戸内海を一望できる高台に彼らの新たな拠点『DENIM HOSTEL float』が2019年9月にオープンした。もともとは企業の保養所を泊まれるデニム屋としてリノベーション。拠点の場所探しの際、やはり交通の便も良い岡山駅近辺が良いのではとも考えたという二人。しかし、最終的にはこの児島を選んだ。
児島駅から車で約20分。交通の便が良いとは言えないが最高のロケーションはこの地だからこそ味わえる
「長崎の東彼杵郡という長崎で人口が下から二番目、7000人くらいのまちを訪れた時のことです。200名ほどのお客さんに来ていただき、渋谷の回を上回りました。会場のお店『Sorriso riso』もむしろ小さな地域のお店だからこそ面白い人やコトが内からも外からも集まる場所。そのときの考え方の転換は、人口や地域の規模感、交通の便という基準より自分たちが誇りを持てる場所や地域に拠点つくろうという決意にもつながっています」
個室/ドミトリーともに客室の畳の縁にデニム生地と細部までこだわる。
彼らの話の中からよく「誇り」という言葉が出てくる。そこにも旅のエピソードがあるようだ。
「青森県弘前市を訪れた時、みかみファームを営む三上さんと出会いました。彼は子供の時雪の降る中で食べたリンゴの美味しさが忘れられないと、普通だと雪が振り始める前の11月ころまでには収穫するが敢えて雪降る時期に育て他とは違う美味しさを見出したり、ある時台風災害で被災したりんごを買取り『Typhoon Apple』と名付けたジュースにしたりと常識を覆し逆転の発想で農業を営んでいます。周りの同じ業界の人たちからは煙たがられることも多かったそうですが、彼は自分のやってることに誇りを持ち、自分がやっていることは必ずこの地域のためになると確信しているということを聞きました」
個室 6,000円/部屋 ドミトリー 4,000円/人(4人部屋)。部屋の壁はデニム塗料でリノベーション。全室オーシャンビュー。晴れた日には、瀬戸大橋まで見渡せる。
旅の中で出会った彼らの生き方や価値観の近い全国の人たちとの関係は彼らの強みだ。『float』ができることで出会ってきた人たちが児島を訪れるきっかけとなり、お互いのホームを行き来し合い、心を満たし合い、経済も回していく。これこそが地域の枠を越えたEVERY DENIMの描く経済圏なのだ。
新作デニムに込めた“真ん中”の想いとは
拠点『float』のオープンと同時期にデニムの新作が発表された。名前は『SPOKE』。コンセプトは「真ん中デニム」。これまでの自分たちの製品の芯になってほしいと名付けたそうだ。同時に彼らを中心にEVERY DENIMに関わる全ての人たちとの形も見えてきた。
現在スタッフは5名。地域おこし協力隊やものづくりを志すメンバーは全員移住者
「一つの観覧車がイメージで、作り手やお客さんが次々と乗ってくる。そして順番に頂上の良い景色を見せたいんです。自分たちはそのために車輪の軸と輪とを放射状につなぐ“SPOKE”のように動き続けたい。
また今後ゆくゆくは、作り手側や工場とお客さんをつなげるツアーも地域横断で企画したいです。もともと2014年に業界の諸先輩たちが構想していた『BEAUTIFUL JAPAN DENIM EXHIBITION』は企画の段階で実現には至りませんでした。それほどまでに閉じた業界での横のつながりや外とのつながりを見出すのが難しいのが現状です。あの時の想いを継承し僕らがリベンジをしたいと思っています」
これまで固定店舗のなかったEVERY DENIMの初の常設ショップ『Show Room』。新作『Spoke』(¥26,400税込)など製造工程も見ながら購入することができる。
information
デニムブランド『EVERY DENIM』が泊まれるデニム屋を「ジーンズの街」岡山・ 児島に初の拠点をオープン
DENIM HOSTEL float
岡山県倉敷市児島唐琴町1421-26
11:30~22:30
定休日:火曜日定休
https://www.instagram.com/denimhostelfloat/