【移住者インタビュー】
南島原でチャレンジ!
エンジニアからみかん農家へ。
「モノづくりを仕事に」という思いが原動力に

雲仙岳のふもとに広がる赤土の段々畑。土壌を守るように積まれた石垣に沿って山道を登ると、有明海をのぞむ斜面に緑豊かなみかんの木々が広がる。

長崎県南部に位置する南島原市

県内有数のみかんの産地として知られるこの地域で、新たな一歩を踏み出した百田貴大さん。「自分の手でモノづくりをしたい」という思いを軸に、エンジニアからみかん農家へ。その選択の背景には、南島原という土地が持つ魅力と、未経験からでも挑戦できる環境があった。

 

ひとりで挑む農業。その最適解は日本人に愛される「みかん」だった

「もともとモノづくりが好きで、自分ひとりで何かを成し遂げたかったんです」と語る百田さんは、熊本県芦北町出身。前職は機械設計のエンジニアで、横浜、関西、四国など大手メーカーからベンチャーまで経験を重ねてきた。独立したい気持ちはあったが、設備や人材、資金が必要となる機械分野での起業は容易ではなく、ひとりで背負うには大きすぎる。そこで、百田さんは“分野を変える”という思い切った選択をする。

「機械じゃなくてもいい。何かをつくる仕事がしたいと思ったときに、農業に行き着きました」

就農するなら九州がいいと考え、生まれ故郷に戻った百田さん。地元熊本の農業研修で最初に挑んだのは、高単価が期待できるアスパラガスやミニトマトだった。しかし、これらの作物は成長が早く、収穫のタイミングがわずかに遅れるだけで品質が落ち、収益にも大きく影響してしまう。

「自分ひとりで農業をしたかったので、体調を崩したら成り立たなくなると思いました」

日本の農業の9割以上が家族経営といわれる中、単身で独立するには不安定な要素をなるべく取り除きたい。そう考えた百田さんは、野菜ではなく果樹、その中でもみかんの可能性に目を向けた。

「みかんは日本人にとって身近な果物で、需要も安定していますよね。特に温州みかんはほとんどが国産で、輸入品と競争しなくて済むんです。それに、ある程度育てば、木に成ったままでも規格外になりにくく、むしろ酸味が抜けて美味しくなる。だから、たとえ自分が1週間寝込んでも大丈夫かなと思えたんです」

収穫サイクルに過度に左右されず、育った木は資産にもなる。“ひとり農家”のさまざまなリスクを冷静に見極めた上で、むりなく続けられ、安定した需要が見込める。百田さんにとっての最適解となる作物が、みかんだった。

 

自然環境と行政のサポートがそろう南島原だからできる農業がある

みかん栽培に適した条件がそろう南島原の自然環境。晴れの日が多く、日照時間は県内でもトップクラスだという。

「畑はなだらかな傾斜地で日当たりがよく、土は水はけのいい雲仙の火山灰土壌。しかも、有明海に近いので、潮風に含まれるミネラルの影響から、水分が適度に抜けて糖度が上がりやすくなるんです」と、百田さんは話す。

愛媛や和歌山など、みかんの名だたる産地は他にもあるが、百田さんが南島原を選んだ理由のひとつが、みかん農家研修制度だった。令和4年、南島原果樹フロンティア協議会が運営するトレーニングファーム(農業研修)の1期生となった百田さん。

「この研修には4つの農業団体が参加していて、週替わりでいろいろな農家さんのやり方を学べました。また、就農してからは自分に合う組合を選ぶことができたのも良かったです」

研修や組合を通して、地域のみかん農家とのつながりも広がっていく。研修期間は2年と、通常より長く感じられるかもしれないが、その分、年ごとに収穫量が変わるみかんの隔年結果、いわゆる表年と裏年のいずれも体験できる。

また、研修期間中は国や自治体から補助金などの支援を受けられるのも特長だ。南島原市ではみかん研修生として移住した場合、家賃補助などの独自支援も用意されている。個人でゼロから農業を始めるのではなく、行政の伴走を得ながらスタートできる点は、大きな安心材料となる。

「研修期間は、自分が農業を続けていけるかを見極める時間でもあります。就農や移住に不安がある気持ちはよくわかりますし、私も失敗してもしょうがないくらいの気持ちで始めました。まずは動いてみることが大事だと思います」

 

農業で独立するには、経営者としての視点も大事

就農2年目の現在、百田さんは自分のみかん畑のほか、みかん研修生の後輩となる2期生の佐々木輔さん・七海さん夫妻のサポートや、人手が足りない畑の手伝いにも携わっている。高齢化による離農が進む中、雑草が生い茂る耕作放棄地も少なくない。そんな畑を引き継ぎ、再び活かしていくことも、新規就農者の役割として期待されている。

農業は栽培から収穫まで時間を要し、季節や天候も大きく影響するため、収入面への不安は否めない。だからこそ、事前の準備や見通しがカギとなる。百田さんも、農業を生業とする際にその点を強く意識していた。

「農業で独立するには、経営者の視点や長期的なプランも大切になってきます。やりがいだけでは続かないし、経営として成り立たせる必要があります。自分もまだ経験不足ですが、いかに効率よく高品質なものをつくって、適正な価格で提供できるか。組合や他の農家さんからいろいろなやり方を学んで、少しずつ自分の糧にしていければと思っています」

そんな百田さんが教えてくれたのが、実業家・稲盛和夫氏の「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という言葉だ。最悪のケースを想定しながら準備を整え、実際の行動は前向きに進めていく姿勢は、まさに百田さんのスタンスそのもの。

「農業は、10年、20年と、この土地でずっと続けるものですからね。自分にとって、南島原で農業を選んだことは一生ものの選択です」

 

仕事も暮らしも自分らしく。より良いモノづくりを目指して

百田さんの住まいは、納屋付きの一軒家。収穫したみかんの保管や選果作業ができるスペースがあることを第一条件に、空き家バンクを活用して探した古民家だ。もともと農耕牛が飼われていたという納屋は天井が高く、コンテナを積み重ねる広さも確保。仕事と暮らしを一体で整えることができた。

「研修生の時は賃貸アパートでしたが、今は8部屋もある家に住んでいます。ここも賃貸で、家賃は3万3千円。大家さんのご厚意で、大掛かりでなければ自由に改修して良いと言っていただいています。実は、南島原に移住する前から空き家バンクをチェックしていたのですが、いい物件はやはりタイミングが大事ですね」

普段は畑と自宅を往復する日々だが、時にはイベントに参加することも。忙しさや疲れはあるものの、その質は移住前とは大きく異なるという。「都会で働いた頃よりもストレスは減りました」と、仕事も暮らしも自らの裁量で営める自由さが、働く実感にもつながっている。

百田さんの現在のみかんの収穫量は約20トン。経営の安定化を見据え、今後は規模拡大も視野に入れている。南島原市が持つ自然条件や果樹産地としての基盤、そして手厚い支援体制は、新たな地で研鑽を積む百田さんにとって大きな支えだ。

機械を設計していた頃も、みかんを育てている今も、「より良いモノをつくる」という姿勢は変わらない。南島原みかんの未来を担うひとりとして、百田さんは今日も畑で汗を流す。

 

豊かな自然に囲まれた南島原で、みかんづくりに挑戦しませんか? 

南島原果樹フロンティア協議会トレーニングファーム(農業研修)事業について

南島原市では、果樹生産者団体や行政機関と連携し、みかんづくりをはじめとした農業に挑戦したい方を支援する研修プログラムを実施しています。栽培管理技術から農業経営、販売まで、実践的に学ぶことができます。研修期間は2年間、研修費は無料。複数の農家のもとで経験を積みながら、未経験からでも南島原でみかん栽培を始められる体制が整っています。

詳しくは、公式サイト「南島原みかん」やInstagram(@minamikan.373)をぜひチェックしてみてください。

【お問い合わせ】
南島原市役所 農林水産部 農林課
電話番号:0957-73-6661/Fax:0957-82-0217
メール:nourin@city.minamishimabara.lg.jp

 

住まい探しは「空き家」バンクで

南島原市の住まい探しならまずは「空き家バンク」をチェック。移住検討者を対象に、賃貸・売買物件とも充実の空き家情報が公開されています。また、南島原の空き家と暮らしを体験できる「お試し住宅」や「移住体験ツアー」も随時開催。移住にまつわる相談も気軽にお問い合わせください。

【お問い合わせ】
南島原市役所 地域振興部 地域づくり課
電話番号:0957-73-6631/Fax:0957-82-3086
メール:chiikidukuri@city.minamishimabara.lg.jp

 

取材・文:山田美穂 撮影:内藤正美

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