理想の居場所を探し 北海道を巡った日々
北海道のほぼ中央に位置し、大雪山国立公園の麓にある東川町。人口は約8000人の小さなまちだが、近年、個性的なカフェやショップが次々と誕生している注目のエリアだ。移住を希望する子育て世代の関心も高い。
この地に2015年の冬に移住をしたのが桐原紘太郎さん、まどかさん夫妻。
夫妻は、ここにたどり着くまでに、約2年間、国内外を旅していた。もとは東京在住で、夫の紘太郎さんは広告関係のデザイナー、妻のまどかさんはヘアメイクとして活躍していたが、3.11を機に暮らしかたを変えることを決断。
福岡県糸島市で自ら改装したカフェを2年間営み、その後、”旅する暮らし”へシフト。荷物のほとんどを手放し、2人の娘とともに各地を巡った。
「北海道を訪ねたとき、自分たちの理想としている場所が多いと感じました。道も空も広くて気持ちがのびのびしました」(紘太郎さん)
長女が小学校にあがるまでに定住しようと考えていた夫妻は、キャンピングカーで半年間かけて道内全域をまわった。旅をして本当に大切なものを見つめ直したことにより、場所選びでは生きることに欠かせない3つの要素を重視。
水と空気、そして子どもが育つ周辺環境だ。
東川町は大自然に囲まれ、空気は澄み渡り、水が格別に美味しいと評判の町。旭岳を有する大雪山系の雪解け水は豊富な地下水となり、これを生活水として利用しているのだ。
また、この地の気候にも夫妻は惹かれた。盆地のため四季の移り変わりがはっきりしており、冬はマイナス20度を切るほど寒いが、子どもたちは雪が大好き。夏と冬にはまったく違う遊びがあり、メリハリのある子育てにつながっているそうだ。
「土の上で遊べるのがいいですね。それに東京では、例えば公園にたくさんの親子が集まるので、どうしても口を出す場面が多くなってしまいます。でも、ここでは子どもたちのけんかを、じっと見守る余裕があります。子ども同士で解決することを学べる環境があると思いました」(紘太郎さん)
来年、長女が通うことになる東川町立東川小学校にも夫妻は期待を寄せている。
地熱ボイラーを利用した暖房設備やソーラーパネルが設置された校舎は、巨大な平屋づくり。壁はなく、異学年の交流が自然と図られるつくりになっている。全生徒が集まるオープンタイプのカフェテリアもあり、調理師が地元産の食材をつかった給食を提供しているそうだ。
東川町は教育にも熱心なまち。一部にフィンランド教育が取り入れられており、独自のプログラムが実施されている。
もっとシンプルに 試行錯誤は続く
理想とする暮らしを手に入れたかに見える桐原夫妻だが、やりたいことはまだまだこれから。
古家を直してはじめたカフェは軌道にのり、お客さんの絶え間がないのはうれしいが、一人ひとりとじっくり話せなかったり、忙しさゆえに余計なゴミが出たりするジレンマも。
何より家族と過ごす時間があまりとれないのが現状だ。「自分たちが目指しているのはシンプルな循環型の暮らし。それを楽しく実践して、子どもたちの世代に伝えていきたい」とおふたり。
今後は、カフェの運営はスローテンポにしつつ、東川町の環境にかかわるワークショップなどを増やしたいと考えている。
文:來嶋路子 写真:亀山ののこ
※記事全文は、本誌(vol.25 2017年10月号)に掲載