地域資源を活用した起業のヒントを学ぶ温泉津視察ツアー

2025年1月26日、「温泉津で起業した方に話を聞きに行こう」というテーマで、長門市が実施する「チャレンジ長門アントレプレナー事業」の一環として視察ツアーが開催されました。この事業は、創業希望者や地域資源を活用した事業に関心のある人々を対象に、行動のきっかけを提供することを目的としています。また、長門市が掲げる「ながと6G構想」の一環として、特有の地域資源を活かした新しいビジネスモデルの創出を目指しています(詳しくはながと6G構想をご覧ください)。

今回訪れたのは、島根県大田市温泉津町。歴史ある温泉地でありながら、人口減少や空き家問題など長門市と同じような課題を抱えています。そんな温泉津で新たな風を起こしている2名の起業家の話を通じて、参加者は地域再生や起業のリアルを体感しました。

期待と高まる興奮

朝早く、バスに乗り込んだ参加者たちは、期待と興奮に包まれていました。高校生や地域事業者、行政関係者など多様な背景を持つ人々が一堂に会し、互いに自己紹介を交えながら話が弾んでいきます。「どんな話が聞けるのだろう」「長門と似た課題を抱える地域で、どんな取り組みがあるのか」——そんな期待の声が飛び交い、すでに活発な交流が生まれていました。

到着した温泉津町は、潮の香りが漂う静かな町。車窓から見えるのは、歴史ある石畳の通りや古い町並みの中に、リノベーションされた建物が点在する風景。「思っていたよりも風情がある」「懐かしい感じがする」そんな声が聞こえてきました。観光地というより、生活が息づく町並み。その雰囲気に、参加者たちは自然と期待を膨らませていました。


近江雅子さんの挑戦:温泉津を“暮らしたい町”にする

「温泉津で生まれた息子に、この町を残せるだろうか」。

この問いから、近江雅子さん(株式会社WATOWA 代表取締役社長)の挑戦が始まりました。移住当初、息子さんの保育園の同級生はわずか4名。「このままでは町が消えてしまう」——そんな危機感が、彼女を地域づくりへと突き動かしました。

温泉津温泉は2008年に世界遺産登録されたものの、観光インフラの未整備によって「がっかり世界遺産」とまで言われる状態に。オーバーツーリズムが進み、これまで「湯治」を目的としていたリピーターは激減。旅館は14軒から4軒にまで減少しました。「島根だから人が来ないのではなく、温泉津のブランド力が足りなかった」——近江さんはそう分析し、次のアクションを起こします。

「暮らしたいと思えるような滞在」をテーマに、ゲストハウスや飲食店を開業。

  • 2017年:「湯るり」 温泉まで徒歩30秒のゲストハウス
  • 2019年:「HÏSOM」 何もしない贅沢を味わう一棟貸し宿泊施設
  • 2021年:「燈(ともる)」 地域住民との対話を重視した滞在型宿泊施設
  • 2021年:「WATOWA」 コインランドリー、ドミトリー、旅するキッチンを備えた複合施設

「暮らすように滞在する」。このコンセプトは、観光のあり方を見直し、移住者の増加にもつながりました。バーテンダー、デザイナー、カレー店のオーナー

——彼らが新たな文化を持ち込み、町の魅力をさらに引き上げていきます。

参加者たちは、近江さんの話に引き込まれ、圧倒されていました。「自分たちの町にも共通する課題だ」「この行動力、すごい」と、彼女の熱量に触発されるような空気が漂っていました。


ランチでの交流と地域散策

WATOWA KITCHENでのランチタイムでは、参加者たちがイタリア修行帰りのシェフの料理を楽しみながら、近江さんとさらに交流を深めました。「移住者がすぐに活躍できる環境が整っていることに驚いた」「町の人々の温かさが伝わってくる」との声も。

その後の散策では、ゲストハウスの見学や温泉体験を実施。温泉に入った参加者からは、「50度の源泉はすごい!」「地元の人が10分以上浸かっていたのに驚いた」との感想が聞かれました。町の人々と交わることで、観光ではない“暮らしの場”としての温泉津を実感する時間となりました。


小川知興さんの視点:高齢者雇用と地域経済の活性化

1688年創業の小川商店。12代目の小川知興さん(有限会社小川商店 代表取締役)は、家業を継ぐ中で「地域とともにやりたいことをやる」という視点を持つようになりました。

彼が最初に手がけたのは、飲食店「路庵」の開業。当初、旅館で過ごすのが当たり前だった温泉津では、「カフェは必要ない」と反対意見も。しかし、小川さんは年間6回のカフェイベントを実施し、地域住民や観光客の声を拾い、9割以上の賛同を得て開業に成功しました。

さらに、小川さんは 高齢者雇用 にも力を入れ、スクールバス運転手などの職を創出。「高齢者にもキャリアアップの機会がある」と語る姿に、参加者からは「まちづくりは若者だけじゃない」「地域を支える方法として高齢者雇用は重要だ」との声が聞かれました。


参加者の気づきと帰路

帰りのバスでは、参加者たちがそれぞれの思いを語り合いました。

  • 「自分はまだまだ甘いな、と感じた」
  • 「この町の人たちの信念に圧倒された」
  • 「まちづくりに関わる仕事がしたい」

温泉津での学びは、彼らの心に強く刻まれたようでした。


主催団体:NPO法人つなぐについて

NPO法人つなぐは、行政や地域に根差した企業が協力し、「地域の未来に必要な行動を起こそう」という理念のもと結成された団体です。若者が主体的に地域で働く・学ぶ環境を整えることを目的に、「まち」「ひと」「しごと」をつなぐハブ機能を担いながら活動を展開しています。

主な活動として、地域企業と若者をつなぐ合同企業ガイダンスの開催、キャリア教育や創業支援のためのプログラム運営、子どもたちと学び合うプログラミング道場の実施など、多様なプロジェクトを通じて地域の未来づくりを支えています。

詳しくは、NPO法人つなぐ公式サイトをご覧ください。

 

\この記事の執筆者/

渡邉涼太 さん(株式会社ミライクルラボ代表取締役)

神奈川県出身。2020年 「宮崎県 都農町」に移住し町内のデジタル推進、キャリア教育推進の準備段階から携わったことをきっかけに持続する地域作りには「教育」と「創業支援」が必要と実感し2021年株式会社ツクリエに入社。関東の起業支援施設でコミュニティマネージャーとしてイベントの企画やコミュニティ運営などを担当。同社内で小学生からの起業家教育事業を立ち上げ、2024年5月に分社化、株式会社ミライクルラボ代表取締役に就任。

                   

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