離れたことで気がついた、地域の豊かさ 落花生発祥の地、旭市で一粒の落花生がつなぐ地域の未来とは

落花生の国内シェアNo.1を誇る千葉県。そんな千葉県の旭市で株式会社セガワの三代目である加瀬宏行さんが2015年にスタートしたピーナッツブランド『Bocchi』。加瀬さんがつなげていきたいと熱く語る地元旭市の未来とは――。

TURNSプロデューサーの堀口と共に現地へと向かいました。

自然豊かな旭市から生まれたピーナッツブランド『Bocchi』

「とにかくね、旭市は米も野菜も肉も魚もなんでもうまいんですよ」そう話すのは株式会社セガワの三代目である加瀬宏行さんです。九十九里浜の自然の恩恵を受ける飯岡漁港ではとびきり新鮮な海の幸がいただけます。また、穏やかな気候で農作業にも適しており、農作物の産出額は千葉県内でトップクラス、畜産業も盛んです。加瀬さんは就職を機に一度旭市を出た際に自分の生まれ育った環境がいかに食に恵まれていたかを身にしみて実感しました。

「学生時代は何も感じていなかったんですが、旭市って実はすごいじゃんって。地域を出たから気づけたことでしたね」

加瀬さんは、結婚を機に旭市に戻り落花生の卸問屋を営む実家を継ぐこととなります。

「小さい頃から軽トラの助手席で親父の仕事を見ていました。いざ自分が継いでみると、その時と比べて明らかに生産者が高齢化になっていたり、そもそも生産自体を辞めてしまっている人もいました。思った以上に現状は深刻だと感じたんです」

落花生の国内シェアNo.1といっても、実際には国内流通量のほとんどは輸入品と言われています。また、気候変動の影響もあり収穫量も不安定で卸価格もその質や量によって変動します。

卸問屋として販売しているだけだと、この危機的状況を打破することはできない。どうにかこの構造自体を変えなければと思った加瀬さんは2015年、自社ブランド『Bocchi』を立ち上げました。

「加工することで安定的に農家さんから落花生を買い取ることができます。何より、千葉の美味しい落花生の”新しい接点”を自分の手でつくりたいなと思ったんです」

同時期には自ら耕作放棄地を購入、農薬や化学肥料を使用しない落花生栽培を始めます。今まで仕入れて卸すことを専門にしてきたため、加工業も農業も最初は挑戦の連続でした。

「やったことないからといってやらないのではなくて、まずはなんでもやってみようという精神ではじめました。もちろん簡単なことではなく日々難しさを実感しています。わからないことは周りに意見を聞きながら毎日挑戦している気持ちで向き合っています。ただ、挑戦すればするほど壁の高さに途方に暮れることも。だけど芽がでた時の喜びや、こだわり抜いた商品が評価された時の喜びは何ものにも変えられません。何より、この活動がちゃんと農家さんへも還元されることを考えると、もっとがんばろうと思えるんです」

挑戦の数と比例し商品のラインナップは増え、コラボレーションも多数生まれています。畑では新規就農者支援も開始し、人と自然に優しい農業を実践しています。

旭市の魅力と恵みを丸ごと『Bocchi』に込めて

「とってもいい天気ですね。ちょっと海にいきませんか?」という加瀬さんの提案から、急遽取材の途中で九十九里浜へ。

「小さい頃はちょっとでも時間があれば海で遊んでいました。当たり前に自然と共に育ったんですよね」

この浜は2011年の大地震でも津波の被害があった場所です。加瀬さんにとっては自然の美しさと恐ろしさ、全てを教えてくれる場所でした。

『Bocchi』の商品にはこの九十九里沖の塩を使用しています。海水を汲み上げて釜で炊き上げる昔ながらの伝統的な「揚げ浜式製塩」で塩をつくるのは石橋水産の内山さん。海水を凝縮し、まき火と平窯でじっくりと丁寧に炊き上げた塩は、トゲのない自然の旨みでピーナッツの甘さをより引き立ててくれます。

「手間暇もかかるし天候にも左右される。家族で経営しているし資源とのバランスを考えて生産しているので会社の規模を大きくすることは考えていないです。生産量を増やすことができないからこそ、本当に価値がわかる人に使ってほしい」

加瀬さんは「内山さんの塩以外を使う選択肢はない」と話します。

「自分の育った自然そのものの味や素晴らしい技術はもちろん、内山さんの自然への想いが詰まったこのお塩は特別です」

次に向かったのは10年以上『Bocchi』で使用する落花生の選定をしている秀子さん。現在『Bocchi』では地元旭市にいる高齢者さんと福祉作業所のみなさんに手剥き作業や落花生の選定などでご協力いただいています。

「ブランドを立ち上げたことで、多くの方の手を介してようやく商品が完成するんだということを改めて実感しています。その上で、もっともっと色んな人たちを巻き込んで人と人をつないで、落花生の未来も紡いでいきたいと思います」

自然体で地域内外の人と人を繋ぐ

ミシュランの星を獲得しており、世界中の美食家が訪れるレストランともいわれるL’Effervescence(レフェルべソンス)。日本発のラグジュアリーホテル、星のや。そしてアマン東京。名だたるシェフや料理長がここ数年立て続けに『Bocchi』の畑に足を運んでいます。

「本当にいろんなご縁が重なって『Bocchi』の落花生をつかっていただいて、ありがたいことに継続的に仲良くさせてもらっています。畑って不思議で一足踏み入れると肩書きとかそんなのお互いどうでもよくなるんです。ただただ一緒に土に触れ、汗をかき、同じ飯を食う。それだけで通じ合える気がしています」

加瀬さんの素直で飾らない姿勢が多くの人を魅了しています。

2021年からは旭市付近の地域の方々の交流の場でもあるマルシェ「Bocchi ツキ市」の開催や、落花生の種を植えたり収穫する「野積祭」などの自社イベントも精力的に行っています。また、今年2月にはコンセプトショップもOPENし、『Bocchi』を起点とした輪はますます広がっています。

「Bocchi ツキ市はとにかく旭市やそのまわりの素晴らしい人や食を知ってもらいたいという想いから、野積祭は落花生を通して自然に触れてほしいという想いからそれぞれ生まれました」

その想いが通じてか、最初は手探りではじめたイベントやコンセプトショップも、噂が噂を呼び、今では老若男女が楽しむ場として地域内外から多くの方が足を運んでくれるようになりました。

「僕は自然豊かな旭市の恵みを受けて育ってきた。その恵みを凝縮した美味しい商品をつくり続けることで地域に恩返しができたらなと思っています。ひとりでは決してここまでできなかった。しっかりとブランドを育てて、スタッフをはじめ、契約農家さんや高齢者、福祉事業者の方々など『Bocchi』に関わる全ての人たちにちゃんと貢献していきたい。まだまだやることはいっぱいです」

そう笑顔で話す加瀬さんは、これからも豊かな地域のため、人と人をつなぎながら挑戦し続けます。

Bocchi ウェブサイト

文・写真 おおもりあい

                   

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