北海道南西部に位置する厚真町は、北海道の中でも積雪量が少なく、過ごしやすい気候の土地です。
新千歳空港からは車で約30分、札幌までは約80分でアクセスでき、苫小牧市や千歳市のベッドタウンとしても人気の地域で、日本一の栽培面積を誇る厚真産ハスカップが特産品です。
厚真町は人口約4,700人という小さな規模の町ですが、とても活気のある町役場で、若手職員が部署を横断してプロジェクトを立ち上げ、新しいこども園づくりやサーフィンを活かした町の活性化などに取り組んできました。厚真町には、そんな新たなチャレンジを応援する気風があります。
地域おこし協力隊の独立サポートに力を入れているのも特徴で、協力隊を経て独立した方も多数いらっしゃいます。
2013年に「小林農園」を開業した小林廉さんもその一人。
小林農園は平飼いで鶏を育てる養鶏場。鶏たちは狭いゲージに押し込まれることなく、美味しい空気をいっぱいに吸いながら地面の上を自由に動き回ることができ、健康に育てられています。元気な鶏たち、犬3頭、猫1匹と賑やかに暮らす小林さん夫婦。養鶏とデザインという、お互いの技術を生かしながら仕事をされています。
敷地に小川の流れる山の中で、そんな生活を手に入れたお二人を尋ねました。
役場が開業をサポート 理想の土地で養鶏家に
鶏を平飼いできる場所があること。そして札幌まで卵を配達できる距離にあること。この条件に合う土地を求めて、小林廉さんは厚真町にたどりついた。
2011年に地域おこし協力隊として町へ。農業支援員としての活動の合間を縫って地図を片手に町内をくまなくまわり、山に囲まれたこの場所を見つけた。
「知り合いのいない土地だったが、役場の人が地主さんとつないでくれました。ゼロから開業まで面倒を見てもらいすごく感謝しています」
札幌市でシステムエンジニアとして働いていた路子さんは、廉さんより2年遅れて厚真町へ。
終電帰りもしばしばだった札幌時代は「山の中でのんびりマウスを操作するような生活をしたいなぁ」と思っていたという。気がつけば、今まさにその理想の生活に。仕事の気分転換は家の前の小川でのニジマス釣りという日々だ。
養鶏家 小林廉さん
10年以上空き地になっていた場所を借りて2013年に小林農園を開園。「牛舎だけで家がなかったので悩みましたが、ロケーションはお金を積んで買えるものではないのでこの場所に決めました」初めの3年間は自分で改装した牛舎で暮らし、鶏の世話をした。昨春、念願の新居が完成。札幌〜厚真町は70キロ。「宅配するにはちょっと遠いかなと思ったんですが、実際住んでみるとどこに行くにも便利です」。鶏に与える自家配合飼料のうち、もっとも量の多い米ぬかと麦は町内産のものを使用。
小林農園http://kobatama.com/farm/location
デザイナー小林路子さん
2013年に厚真町へ。札幌ではシステム開発会社でエンジニアとして働いていたが厚真町に来てからはパンフレットやHPのデザインなどの仕事が中心に。「仕事のウエイトを変えた、という感じですね。地方だと都会ほど需要はありませんが、デザイナーが少ないのでその分なんでもやらせてもらえます。新しい仕事にも挑戦しやすいかもしれません。えり好みしなければ、仕事はけっこうあると感じています」。携帯がつながりづらいこともあるが、町内でいちばん好きな場所は自宅の敷地。
文:市村雅代 写真:川村勲
全文は本誌(vol.22 2017年4月号)に掲載