2022年9月29日から10月1日に、福島県主催のワーケーションツアー「3DAYSワーケーションin福島」が開催されました。このツアーは「観光をしながら働く」という従来のワーケーションとは異なり、地域交流を通して、地域のヒト・モノ・コトに出会うことで、新しい発見やイノベーション、働き方・ライフスタイル等を体験できる、福島ならではのワーケーションツアーです。今回は、「地域×企業による持続可能な街づくりに出会う」がテーマ。会津若松市の中心部からスタートし、「スマートシティAiCT」などの施設を見学したのち、2~3日目には猪苗代湖畔の会津若松市湊町における企業と自治体、地域の連携による地域活性化の取り組みを視察。
参加者は地域交流をしながらリモートワークを行う「地域交流型ワーケーション」を通して、会津エリアの持つ文化や自然の豊かさ・可能性を実感し、今後の自身と会津との関わり方を考えていきました。
1日目
伝統と最新技術が融合する”スマートシティ会津若松”
福島県会津若松市は、福島県西部一帯を占める会津地方の中心都市。江戸時代には会津藩の城下町として栄えました。
鶴ヶ城や白虎隊関連史跡などの歴史的な観光資源のほか、郷土料理「こづゆ」などの独自の食文化、赤べこなどの民芸品に加え、会津漆器などの伝統工芸品も有名です。磐梯山などの山地に囲まれた会津盆地にあり、市の東側は猪苗代湖に面していることから、冬はスキーやスノーボード、夏は湖でのウォータースポーツを楽しむこともできます。
会津若松駅へは、東北新幹線が停車する郡山駅からJR磐越西線の快速を乗り継いで70分ほど。季節を問わず多くの観光客が訪れています。
「AiCT」の外観。右がオフィス棟、左が交流棟
ワーケーションツアー初日に視察したのは、市のシンボルである「鶴ヶ城」近くのICTオフィス「スマートシティAiCT」。会津若松市では2013年から「スマートシティ会津若松」を掲げ、ICT(Information and Communication Technology)を通じた地方創生・地域活性化の推進に取り組んでいます。その取組をさらに推進していくため2019年4月にオープンしたのが「AiCT」。主にICT関連企業が入居するオフィス棟と市民、大学、企業の接点となる交流棟で構成されています。
「AiCT」交流棟ホール
ツアーでは、会津若松市企画政策部スマートシティ推進室の高橋俊貴さんと、地域づくり課の桑野紘平さんに、会津若松市の紹介と「スマートシティ会津若松」の取組をご説明いただきました。
「スマートシティ会津若松」とは、健康や福祉、教育、防災、さらにはエネルギー、交通、環境といった市民生活を取り巻くさまざまな分野で、ICT(情報通信技術)や環境技術などを活用し、将来に向けて持続可能な強い地域社会と、安心して快適に暮らすことのできるまちづくりを進めていく取り組みだそうです。
「AiCT」オフィス棟の様子
その後は、オフィス棟に入居している「TIS株式会社」の岡山純也さんの案内のもと、「AiCT」のオフィス棟内を視察しました。
「TIS株式会社」は、クレジットカード会社の基幹システム開発に強みを持つ国内大手のシステムインテグレーターです。会津若松市でも、支払いや生活に便利なサービスを一つにまとめたスマートフォンアプリ「会津財布」を提供するなど、ICTを活用した地域貢献活動を行っています。
2022年10月1日現在、オフィス棟の入居企業は23社、棟内のコワーキングスペース入居企業は21社。オフィスのスペースは入居者によるカスタマイズが可能で、各階のサロンやラウンジは、企業間の共有の場として、来客の対応、打ち合わせ等に利用できます。
入居企業同士は積極的に交流を深めており、交流棟を会場に市民との交流イベントなども企画しているのだそうです。今後、各社の得意分野を生かした地域活性化の取り組みが期待されています。
移住・定住交流拠点「会津若松市コネクトスペース」
午後はテレワークもしくはまち歩きへ。
テレワークの拠点として利用したのは「会津若松市定住コネクトスペース」。市の歴史的景観指定建造物に指定された昭和11年建築の洋館をリフォームした施設で、一般向けのコワーキングスペースや交流スペースがあるほか、移住相談窓口も設置されています。
テレワークをするツアー参加者
交流スペースはテレワーク利用ができるほか、移住希望者・移住者と市民や企業などによる共同イベントが開催されることもあり、地域内外をつなぐ交流拠点としての役割も担っています。
ノスタルジックな風情が魅力の七日町通り
参加者のまち歩きで人気があったのは、「会津若松市定住コネクトスペース」の近くにある七日町エリア。藩政時代には城下の西の玄関口として、問屋や旅籠、料理屋が軒を連ねていた地域で、現在も蔵や木造家屋が建ち並ぶ、大正浪漫漂う雰囲気が観光客に人気です。
こうした伝統ある街並みや文化の豊かさも、会津若松市の魅力のひとつ。観光・交流やICTなど、ソトからの新しい刺激を受けることでさらなる発展が期待されます。
七日町通りの起点となるJR七日町駅
2日目
企業と自治体、地域がともに描く、湊町の未来
会津若松市の中で唯一「会津磐梯山と猪苗代湖を一望できる」湊町
ワーケーションツアー2日目の舞台は、会津若松市の東部、猪苗代湖の西岸に位置する湊町。夏場はウォータースポーツやサイクリングなどを楽しむ方が、冬場は白鳥の飛来地でもあるため多くの写真愛好家の方が訪れます。
市町村合併で会津若松市に編入された1955年の人口は 4,632 人でしたが、都市部などへの人口流出により、2016年の人口は1,848人にまで減少。地域行事の廃止や地域役員のなり手不足などで、地域活動の維持が困難になりつつあります。
そのような地域課題に対応するため、湊町では地区区長会を中心に、2015年3月に「湊地区地域活性化協議会」を設立。のちに「NPO法人 みんなと湊まちづくりネットワーク」(以下、「まちネット」)となりました。
高齢化、人口減少による空き家の増加も地域課題のひとつ
湊町を案内してくださったのは、「まちネット」の事務局長を務める鈴木隆良さん。鈴木さんは、2015年3月の湊地区地域活性化協議会設立時から活動されています。
「まちネット」は、「みんなと地域が輝き続けるまち」という将来像を実現させるため、地域自治・生活福祉・産業交流・教育環境など、分野ごとにさまざまな事業を展開していて、2017年からは、地域情報網「みなとチャンネル」、「みなとバス」の運行など、「ICTを活用した中山間地域づくり事業」に取り組んでおり、2019年には第10回EST交通環境大賞の環境大臣賞を受賞するなど、外部からも高い評価を受けています。
地域活動の拠点「HANGOUT」
そんな「まちネット」とともにまちづくりに携わっているのが、自動車部品メーカー「株式会社東海理化」に勤める下地修一郎さんと千田尚孝さん。2020年秋に千田さんが自転車でツーリングしている際に、たまたま湊町の公民館に立ち寄ったことがきっかけで、地域とのお付き合いが始まったそうです。
交流を深めていくうちに、2021年には「湊農産物直売所」で余った野菜を子ども食堂に無償で提供する子ども食堂支援事業を、「東海理化」と「まちネット」が共同実施。その後、介護老人施設が営まれていた建物の2階部分を改装し、地域活動の拠点「HANGOUT」を立ち上げました。
株式会社東海理化の下地さん
「HANGOUT」は、地域の方なら誰でも無料で利用することができます。「町に関わるみんなが集まれる場を用意したいと思いました」と下地さん。
千田さんは趣味の自転車を生かして、オフロードバイクのイベント「湊グラベルライド」の開催を企画。参加者とそのご家族、スタッフの皆さんの約30名で、猪苗代湖の田面浜周辺の草刈りと、雑木の伐採活動を行うなどの活動も取り組んでいます。
磐梯山を眺めながらの昼食。豊かな自然も湊町の財産です
お昼は湖を臨む崎川浜に移動し、地元野菜を使用したピザ作りを体験。午後は「HANGOUT」でテレワークを行いました。
夜は崎川浜でバーベキュー交流会が開催され、鈴木さん、下地さん、千田さんのほか、会津で300年以上続く「花春酒造」に勤める小檜山昌史さんと、湊町区長会長を務める佐藤美則さんをはじめとする地元の方にも遊びに来ていただき、ツアー参加者と交流を深めました。
地酒を楽しみながら、地元の方々と交流
小檜山さんは湊町出身。銘酒「花春」をツアー参加者にふるまってくださいました。「花春酒造は100%会津産のお米と、良質な地下水を使用したこだわりの酒造りを続けている老舗です。湊町でつくっている酒米も使用しているんですよ」(小檜山さん)。
佐藤さんは「このあたりの標高は500mを超えるので、冬は雪がたくさん降ります。子どもの頃は冬はスキー、夏は猪苗代湖で泳ぐのが楽しみでした。自然しかないから、会津若松市の市街地のほうに移る人も多くて人口も減ってしまいました。私は一時期、仕事の都合で千葉県の浦安に住んでいたこともあるので町の暮らしも知っていますが、やっぱり湊町に戻ってきてよかったなあと思いますよ」と語り、参加者と交流。
地元産の食材や銘酒などに舌鼓を打ちながら、湊町での暮らしぶりや、地元の方の子どもの頃の思い出話、地域活性化に向けた取り組みや地域への思い入れなど、幅広い話題で盛り上がりました。
少子高齢化、人口減少という日本各地で直面する課題に、地域を挙げて企業とともに前向きに取り組む湊町。その姿勢は、今後の可能性を大いに感じさせました。
満天の星空のもと、地元の方との話も弾みました
3日目
廃校を地域交流の場として再活用。まちの未来を生み出す取り組み
小学校だった頃の面影が残る「はら笑楽交」。今は地域の交流の場として活用されています。
ツアー3日目は、湊町の「はら笑楽交」へ。
ここはもともと約125年の歴史を持つ「会津若松市立原小学校」でした。1999年に湊地区の4つの小学校の統合によって「会津若松市立湊小学校」ができたことに伴い閉校。長らく放置されていた校舎や校庭は荒れ放題となり、地域住民すら近づかない施設となってしまいました。そこで地元の原町内会と農業生産組織によって、地域の活性化に向けた拠点として改修。2017年7月29日に「はら笑楽交」として生まれ変わりました。
「【笑】笑顔で、【楽】楽しく、【交】交流」をスローガンに、原集落の「會津原宿保全会」や「原育成会」などと連携して定期的に地域の自然や文化を伝えるイベントを開催しています。
カフェはら笑
施設内の「カフェはら笑」では、湊町の郷土料理「豆腐もち」をメインに地元産の食材を取り入れた3種類のランチメニューを提供。また交流スペースは、カフェ開店日以外の平日に住民の憩いの場として開放されています。
ワークショップでは、地元住民とツアー参加者との意見交換が行われました
「はら笑楽交」を視察した後は、フリースペースでツアーをふり返るワークショップを実施。3日間のツアーで感じたことや、これから地域と関わっていきたいことなどを自治体の方も交えて語り合いました。
参加者のコメントの一部をご紹介します。
「福島のことを応援したいという気持ちで参加しました。とくに湊町の方々の『道なき道を開拓して地域の未来を切り開こう』という姿勢には感動しました。地域の方と語り合うこともできて、とてもよい体験ができました」
「3日間を通じて、地域の文化と人に関わることができて本当によかったです。会津への理解が深まり、これからどのような地域に発展していくのか見届けたいと思いました。今後も自分なりの方法で会津と関わり続けたいです」
今回のツアーでは、3日間で会津エリアの中心部と郊外の両方の地域を巡り、文化と自然に恵まれたワーケーションの場として、それぞれの魅力とポテンシャルの高さを実感しました。
福島県内には今回の訪問先以外にも、「Fukushima-BASE(福島市)」「小高パイオニアヴィレッジ(南相馬市)」「LivingAnywhere Commons会津磐梯(磐梯町)」などのコワーキングスペースがありますので、ぜひご利用いただきながら、福島の魅力と可能性をご体感ください。
※上記を含め、県内のテレワーク施設を次のページで紹介しています。
https://www.fukushima-iju.jp/shigoto/teleworkwosuru/teleworkshisetsushokai/index.html
文:渡辺圭彦 写真:内田麻美