島の交流拠点をめざして、今日も焼きたてのパンを提供する

中谷志帆さんは偶然の出会いに導かれて、
関西から鹿児島県の甑島に移住。
多くの島民に親しまれている
カフェ「コシキテラス」の店長として奮闘中。

島への一人旅。それがきっかけで関西から甑島へ”引越し”

鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきしま)列島は、北から上甑島、中甑島、下甑島の有人三島と無数の無人島からなる。県内の有人離島で高齢化率トップをほこる地域だが、近年はU・Iターンした若い世代の活躍も目立つ。そんな甑島に単身移住し、持ち前の適応力で島に溶け込もうとしている女性がいる。
中谷志帆さん、現在25歳。上甑島の上甑町中甑に、2016年4月にオープンした「コシキテラス」の店長を務める。コシキテラスは、定期船の航路廃止にともない4年前から使われなくなったフェリー待合所をリノベーションして生まれた。カフェスペース、パンやみやげ物などの販売スペース、バス待合所などを備え、新しい地域活性化の拠点として期待される。
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中谷さんは、オープンのわずか半月前に大阪から単身、甑島に移住してきた。さぞかしアグレッシブな女性なのだろうという先入観があったのだが、実際にお会いするととてもおだやかでゆったりとした雰囲気を漂わせている。しかもなぜ甑島に移住したの?という問いかけに、少し困ったように考え込んで出てきた言葉は「移住というより、引っ越し、という感覚です」。続いて、「挑戦してみたいと思った仕事が甑島にあったから」という答えが返ってきた。
中谷さんと甑島をつないだのは、学生時代、東日本大震災後の石巻で知り合った薩摩川内市の住人で、その人にすすめられて甑島に一人旅をしたのだという。
甑島でいまもっとも注目を集めている「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」。代表の山下賢太さんは生まれ育った甑島を15歳でいったん離れたが、6年前にUターンして農業や豆腐づくりをはじめた。現在はコシキテラスや、豆腐の販売だけでなくカフェとしても利用される「山下商店」など島内外に4つの拠点を持ち、甑島を盛り上げる中心人物として知られている。
中谷さんが宿泊したのが、その山下さんの会社が運営する旅館「島宿 藤や」だったのだ。
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【写真注釈:「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」代表の山下賢太さん。「山下商店」は上甑島の里集落にあり、里港は高速船やフェリーが発着する島のターミナル。】
甑島で女性の一人旅はめずらしい。しかも悪天候で海の便が欠航して、予定していた観光もろくにできない状況だったが、そのアクシデントさえも楽しんでいるような中谷さんを見た山下さんは、「いい意味で普通じゃない、と直感した」という。やがて山下さんは中谷さんにコシキテラスで働いてみない?ともちかけた。
「初めは冗談だと思ったんですけど、現実になってしまって」と、中谷さんはにっこりほほ笑む。見知らぬ土地、初めて携わる業種にもかかわらず、エイッと飛び込んでしまえるこの強さとしなやかさ。山下さんの直感が見事に当たったというしかない。
文:おばらけいこ  写真:菊野輝之
全文は本誌(vol.19 2016年10月号)に掲載

                   

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