“いわて暮らし”を学び、“自分だけのほんとうの幸せ”を探るプログラム「“いわて暮らし”を学ぶ学校」。7月から月に1回、有楽町にあるTURNSコミュニティスペースで、岩手で暮らすゲストを迎えて講義を行ってきました。
そして、いよいよ10月は東京を離れ、岩手でフィールドワークを実施!これまで東京に来てくださったゲストのもとを今度はこちらから訪れたり、新たな人や場との出会いがあったりと、岩手の空気を肌で感じた2日間となりました。
今回はその様子をレポートします。
【1日目】一関市〜奥州市〜遠野市
集合場所は、東北新幹線「一ノ関」駅。ほとんどの参加者が「盛岡は行ったことがあるけれど一ノ関は初めて」という方ばかりのなか、フィールドワークが始まりました。
講義に引き続き案内役を務めてくださったのは、一般社団法人「いわて圏」代表理事の佐藤柊平さんです。
まずは、第3回ゲストの蜂谷淳平さんが手がける「縁日」を訪れ、ランチをいただきました。
「縁日」は築200年の古民家を再生し、岩手が持つ自然や地域文化の美しさを再編集し、現代に伝えることを目的としたショップ兼カフェ。周囲にはのどかな里山の景観が残り、心がほっと落ち着くのを感じます。
山に囲まれたのどかな場所にある「縁日」。「すごく素敵な場所ですね」と参加者たちの足取りも軽やか
ショップには蜂谷さんが代表を務める「株式会社京屋染物店」のプロダクトをはじめ、“地域文化”をキーワードにセレクトしたアイテムがずらり。カフェでは岩手産食材を使用したランチメニューが人気で、この日のラインナップは「鹿肉カレー」と「短角牛ハンバーグ」でした。
ヘルシーなジビエとして近年人気が高まっている鹿肉を使ったカレー
短角牛は脂肪分が少なく旨味が強い赤身肉。岩手県は短角牛の生産シェアが国内トップクラスなのだそう
ランチが出来上がるまではフリータイム。それぞれが店内を見て回ったり、外に出て周囲の景観を楽しんだりと、ゆったりした時間を過ごしました。
途中で、蜂谷さんの実兄である京屋染物店代表取締役・蜂谷悠介さんと、東京からUターンし京屋染物店に入社した庄子さおりさんも来てくださり、さっそくお話を伺うことに。
まずはこの「縁日」の建物の由来から、さまざまな空き家活用の可能性などについて説明をいただきました。今も新しく活用したいと思っている空き家があり、いろいろと計画されているそうです。
その後、参加者と会話形式で交流がスタート。
「岩手で住むときに家はどんな選択肢がある?」「どんな家に住みたい?」「もし岩手に住むとしたら、借りたい?買いたい?」
という蜂谷さんからの質問に対し、
「まずは賃貸から…」
「賃貸からはじめて、でもDIYにも興味がある」
など、自分の中にある思いを言葉にしていく参加者たち。「理想の暮らし」の形を現実的な形でイメージできるよう、蜂谷さんがそこに「岩手でのリアル」を補足していきます。
暮らしだけでなく起業のことまで話が広がり、それぞれに事例を挙げながら丁寧に答えていただきました。
続いて、岩手が誇る伝統工芸「南部鉄器」を製造する及源鋳造の工場を訪れました。
奥州市水沢地区は、南部鉄器製造の中心地。「及源鋳造株式会社」は、1852年の創業からこの地で鉄器の鋳造を行ってきた老舗です。
今回は貴重な工房の様子を見学させていただくことができました。内部には鉄を溶かす大掛かりな機械などもありますが、ほとんどが人の手による作業。それぞれに熟練の技術を持つ職人が携わっています。参加者も真剣な表情で、その手仕事を見つめていました。
併設のショップには、鉄瓶や鍋、フライパンなどの調理器具を中心に、さまざまなアイテムが並びます。使い込むほどに自分らしく育っていく鉄器は、手入れも楽しみのひとつ。
「ちょっと丁寧な暮らしができそうな気がしますよね」と、購入した鍋を大切そうに抱える参加者の姿も見られました。
続いて向かったのは、内陸部にある遠野市です。
民話の里として有名な遠野市。遠野市立博物館では、民話を切り口に遠野の歴史民俗についてさまざまな展示が行われています。カッパやオシラサマなどの有名なエピソードに触れるだけでなく、それらの民話を生んだ遠野という土地の風土や文化についても学ぶことができました。
民話を通して遠野をみると、土地の風土や暮らす人の姿が、生き生きとリアルに伝わってくる
山に囲まれた遠野での暮らしを知る日用品の数々
案内してくださった多田陽香さんは、2018年に遠野市へUターン。現在は地域コーディネーターとして遠野市の魅力を発信したり、地域おこし協力隊のサポートなども行なっている
参加者からは
「遠野のことはカッパくらいしか知らなかったけれど、民話が生活にとても結びついたものであることを知って興味深かったです」
「人の歴史がとても詰まった場所なんだと感じました」
との声が聞かれ、印象に残る経験となったようです。
北国の秋は夜の訪れも早く、あっという間に日が落ち、肌寒くなってきました。
遠野博物館を出て、市街地へ向かう参加者たち
軽くまちを散策したあとは、地元のブルワリー「遠野醸造」併設のレストランで交流会を行いました。
「遠野醸造」は醸造家と生産者、地域住民が一体となって知識やアイデアを共有し、開かれたビールづくりを行うことがコンセプト。レストランでは、誰もが楽しめるようさまざまな種類のビールを提供しています。
豊富なメニューから最初の1杯をチョイスし、まずは乾杯!盛りだくさんのプログラムを終えたあとのビールに「おいしい!」と歓声があがります。
改めて自己紹介を行なったあと、今日の感想や普段の仕事や暮らしの話、実際に触れた岩手の姿についてなど、さまざまな話で盛り上がりました。
途中で第3回ゲストのタナカミキさんが遊びに来てくれたり、たまたま来ていた遠野の飲み歩き名人に出会ったりと、遠野“ならでは”の人の繋がりも存分に堪能。
終電ギリギリまで楽しんだ参加者たちは、名残惜しさを抱えながら早足で遠野駅へ。ここから宿泊する花巻までは、のんびりとローカル線の旅です。
いつか、普段の生活のなかでこんな場面が訪れるかもしれない。そんな想像を広げながら、楽しい夜が更けていきました。
【2日目】花巻市〜盛岡市
花巻で迎えた2日目の朝。まず最初に向かったのは、宮沢賢治記念館です。
岩手を代表する作家、宮沢賢治が生まれたのは花巻市。街並みは変わっても、遠く平野越しに望む山の稜線や、穏やかな川の流れは賢治が愛した当時の姿を偲ばせます。
館内では賢治の生涯と生まれた作品、その時代背景を丁寧に追いながら、彼の宗教観や哲学など、内面に深く迫る展示が行われていました。
展示室の中心には、賢治を語る上で重要なキーワードをビジュアルで見せるコーナーが
賢治の生涯を、時代背景やか周囲の環境を通して紐解いていく
賢治の言葉を写真に残す参加者も
「賢治の作品は読んだことがあったけど、背景を知るとより深みが増しますね」
「花巻に来てみて、これが賢治が見ていた景色なんだな、と思うと感慨深かったです」
と、岩手が宮沢賢治の人生に与えた影響を感じることができたようです。
続いては、花巻駅前にある「マルカン百貨店」を訪れました。
「マルカン百貨店」は花巻市のランドマークとして長年愛されてきた場所です。最上階にある大食堂はいつも多くの人で賑わい、市民の憩いの場となっていました。
しかし、建物の老朽化や維持管理の問題から2016年に廃業することとなり、地域住民たちからは復活を望む声が多く挙がりました。そして、クラファンなどを経て、花巻駅前エリアのリノベまちづくりを手がける(株)上町家守舎が運営を引き継ぎ、翌年には大食堂が復活。耐震工事を行い、他のフロアも順次新たな活用が始まっています。
2階にある「花巻おもちゃ美術館」は0歳から100歳までが楽しめる施設をコンセプトにした木育施設で、2020年のオープン以来、家族連れを中心にたくさんの人で賑わっています。手掛けているのは、地元で110年以上続く老舗企業の(株)小友木材店です。
一歩中に足を踏み入れると、そこは木の温もりでいっぱい。元気いっぱいに動き回る子や、興味津々でおもちゃに向き合う子、真剣な顔でゲームに興じる大人の姿もあり、年代を問わずさまざまな人に開かれた場所であることがわかります。
「誰が」「どこで」「何を」「どうした」の4つのサイコロを振り、出た絵柄をもとに自分でお話を組み立てる「木の絵本」
マルカン大食堂のソフトクリームをモチーフにした積み木。どこまで積めるか挑戦中!
岩手名物「わんこそば」をモチーフにしたオセロもユニークです
お腹も空いてきたところで、6階の大食堂へ!
昔懐かしい“昭和レトロ”な雰囲気が楽しめると、市民はもちろん、観光スポットとしても人気の「マルカンビル大食堂」。オムライスやナポリタン、カレーにラーメンと、心くすぐる王道メニューが揃っています。
〆には、大食堂名物の「ソフトクリーム」をいただきました!10段巻きのソフトクリームは、誰もが最初は驚くビッグサイズ。メディアでもしばしば取り上げられているそうです。
存在感抜群の名物ソフトクリームは、お箸で食べるのが主流なのだとか
その後は花巻駅前エリアにある「小友ビル」に向かい、(株)上町家守舎の伊藤直樹さんにお話を伺いました。
(株)上町家守舎は、花巻駅前エリアのリノベーションまちづくりを手がける会社です。
「リノベーションまちづくり」とは、空き家や空き店舗を再生しながらエリアの価値を高め、まちを再生していく取り組みのこと。「小友ビル」は同社が最初に手がけた物件で、現在は4階建てのビルに飲食店やラウンジ・ロッカーなどを備えたコワーキングスペースなどが入居。その後は、先ほど訪れたマルカン百貨店の再生・運営を手掛けたり、人気餃子店の事業承継を行ったりと、花巻駅前エリアに人を呼び込む事業を積極的に進めています。
伊藤さんからは、花巻でリノベまちづくりが始まった経緯をはじめ、なぜ花巻でリノベまちづくりが進んでいるのか、取り巻く環境やこれまでの事例などについて、実際に動いている人ならではの肌感でリアルなお話を伺う貴重な機会となりました。
上町家守舎の活動に興味津々の参加者たち。まちづくりのことから花巻市の人や暮らし、新しいことを始める際のまちの空気感まで、さまざまな質問が飛んでいました
たっぷりと花巻を堪能したあとは、いよいよ岩手最大の都市、盛岡へと向かいます。
盛岡市は江戸時代に南部藩の城下町として大きく発展し、明治以降は県都としてまちづくりが進んだ場所。東北地方においても、5本の指に入る大都市です。豊かな自然と歴史の香りを残しながらも現代的な都市機能を十分に備えており、東北地方の住みたい街ランキングでも上位にランクインしています。
今回はまちの雰囲気をより身近に感じてもらうため、市街地を散策することに。
まずは、盛岡市内各地へのアクセス拠点である盛岡バスセンンターから。長年、重要なインフラとして機能してきた場所で、現在はフードホールやホテル、スパなどを併設し、地域のハブとして新しい形で市民に親しまれています。
続いて訪れたのは、夏にオープンしたばかりの商業施設「monaka」。盛岡の新たな賑わい拠点として期待が高まっています。
肴町は市街地中心部にあるアーケード街で、約80ものお店が並んでいます。
「岩手銀行赤レンガ館」は、明治時代に盛岡銀行本店として建てられ、2012年まで銀行として使われていた建物です。国の重要文化財にも指定されています。
途中の川辺ではのんびりとくつろぐ人の姿が。水と緑が近くにあるのも、盛岡市の魅力のひとつです。
櫻山神社を通り過ぎ、盛岡城址を横に見ながら街歩きは続きます。この辺りは道もきれいに整備されており、犬の散歩をする市民の姿も。
「いいお散歩コースになりそうだね」と、参加者たちも笑顔で見送っていました。
大通りに沿ってしばらく歩くと、「開運橋」が。ここまで来ると、盛岡駅はもうすぐです。
「開運橋」には「二度泣き橋」の別名があり、盛岡に働きに来た人が「こんなに遠くまで来てしまった」と泣きながら渡り、帰る頃には「離れたくない」と再び泣くことが由来なのだそう。
短い時間ではありましたが、2日間岩手に滞在した参加者たち。自分たちと重ねて「わかるー!」という声もあがり、その魅力の一端を感じることができたようです。
最後に
今回の旅は盛岡駅で解散です。最後に参加者のみなさんから感想をいただきました。
「もともと岩手が好きで遊びに来ていたけど、花巻や遠野など、これまで行ったことのない地域を知ることができたのがとてもよかったです」
「2日間で岩手の魅力をたくさん知ることができました。なかでも、やっぱり出会う人出会う人、素敵な人が多かったのが印象的でした」
「自分だけでは出会えないものや人と出会う経験がとても貴重だと思っているので、この2日間は本当に価値あるものだったと思います」
「またすぐにでも遊びに来たい!」
岩手にはたくさんの魅力的な人や文化があり、2日間では到底伝えきれません。
このツアーをきっかけに岩手と繋がり、岩手の暮らしのなかにある「自分だけのほんとうの幸せ」のヒントを見つけてもらいたいと思います。