東京から群馬に移住。
女性ハンターが語る、狩猟の楽しさ、やりがい、可能性

狩猟に興味を持つ若い世代が増えてきている。全国的なハンター不足と高齢化、野生鳥獣による農林業被害などが問題視される一方で、ジビエ料理が普及し、メディアで「狩りガール」という言葉が使われることもそれほど珍しくなくなってきた。なかには本格的に狩猟に取り組む若者も、少しずつではあるが増えてきているという。

本間優美(ほんま・ゆうみ)さんは、東京の大手IT会社で9年ほど営業職を経験したあと、狩猟のある暮らしを求めて地域おこし協力隊として群馬県に移住。任期後も狩猟をしながら群馬で生活している。いったい、狩猟の何がそれほど彼女を魅了したのだろうか? 狩猟の面白さや重要性、あるいは女性として狩猟に関わることのリアルについて、話を伺った。

【本間優美さんプロフィール】

東京都出身。国際基督教大学(ICU)卒業後、会社員勤務を経て、狩猟のできる暮 らしを求めて群馬県片品村に「地域おこし協力隊」として移住。捕獲した野生鳥 獣の命の尊さとシカ皮の有効活用のため獣革雑貨製品を製作・販売する「尾瀬鹿 工房かたしな」を立ち上げ。任期後は隣のみなかみ町に住み、東京のウェブマー ケティング会社でSNS広告運用などのリモートワークを行うかたわら、春から秋 は酒米づくり、冬場には狩猟など地域を楽しむ暮らしを続けています。

 

山ガール、狩猟に惹かれ、移住する

東京生まれ、東京育ち。都会暮らしだった本間さんは、子どもの頃から家族でキャンプに行くことが多く、自然が大好きで、自給自足の生活に憧れていた。学生時代には環境系NPOで音楽フェスの環境対策活動に取り組み、新卒で入社した会社員時代は山登りを趣味としていた。

といっても、ガチガチのアウトドア系だったわけではない。本間さんが山登りを始めたのは「山ガール」という言葉が世間に浸透し始めた頃。流行りに乗って、リフレッシュのために同僚や先輩たちと週末にちょっと足を伸ばしてみる、最初はそれくらいの感覚だったという。しかし続けるうちに興味が広がり、静岡県にある「ホールアース自然学校」の年間講座に通うことになった。

「富士山に登ったり、気球を飛ばしたり、大人の週末アクティビティを楽しむようなことを経験しました。その中に、狩猟体験があったんです。動物の解体も体験させてもらって、狩猟って面白そうだなと感じました。群馬県で狩猟ができることもその時に初めて知りました」

実は本間さんは、子どもの頃から、東京にしか頼る先がないことに漠然とした不安を抱いていたという。

「野菜を送ってくれる親戚が田舎にいるわけでもないし、疎開先になりうる縁のある土地もない。何かあった時に自分で食べ物を調達できるようになりたい、そんな気持ちがずっとあったんです。東日本大震災の時に改めてそうしたことをより考えるようになって、ちょうどその頃から山登りを好きになり、狩猟にも出会ったことで、山に登って自分で肉を取れるっていいな、と思うようになったんです」

そんな折、学生時代に活動していたNPOの友人を通して、群馬県で地域おこし協力隊の募集があることを知った。年齢は30歳を過ぎ、新卒で入社した会社は9年目。営業職として順調にキャリアを築いていたが、今後の人生で何がやりたいのかを真剣に検討した結果、「やめるなら今」と決意し、狩猟免許を取得。地域おこし協力隊の隊員として、2014年に群馬県利根郡の片品村に移住した。

 

平日会社員、週末ハンターという生き方

片品村は群馬県の東北端に位置する人口4,000人ほどの小さな村。東京からは約180キロ離れており、尾瀬や武尊山、白根山などの山々に囲まれた関東唯一の特別豪雪地帯で、丸沼・菅沼などの湖沼や尾瀬国立公園など、美しい自然が魅力の村だ。

それまでまったく縁のなかった土地だから、知り合いはいなかった。だったら自分で飛び込むしかない。この点において、前職で培った営業の感覚が活きたかもしれないと本間さんは言う。

「たまたま環境省の片品自然保護官事務所にあいさつに行ったとき、狩猟をやっている期間雇用の若い女の子を紹介してもらって、その子が入っていた狩猟チームに入れてもらいました。他にも、役場の若い職員さんや移住者さんづてに友達ができたり、夏祭りに参加して地域の人たちと知り合ったり、そんなふうに草の根的な感じで知り合いを増やしていきました」

協力隊員としては移住サイトの作成、空き家バンクの改善、移住者へのインタビューなどを行いながら、片品村の狩猟チームで狩猟を行い、空いた時間では余った鹿の皮で雑貨を作る工房「尾瀬鹿工房 かたしな」もオープン。充実した3年間の任期が過ぎると、今度は隣のみなかみ町に移住した。

「東京に戻る選択肢はなかったんです。東京以外に頼る土地が欲しいという当初の目的がリセットされてしまうから。知らない土地の狩猟コミュニティにまたゼロから入れてもらうのも大変だし、すでにこっちが第2のふるさとになっています。できれば今後も長く住み続けたいですね。群馬県は東京から移住するにはちょうどいい距離です。それほど遠くないから帰省する際の交通費がそれほど嵩まない。いきなり遠くに移住するよりも、やめようと思った時に戻れる距離に移住した方がリスクは少ないですよね。それでいて、場所によってはものすごく自然が豊か。近い距離で田舎暮らしができるのは移住における重要なポイントだと思います」

現在はSNSの広告や運用代行などを行う東京のウェブマーケティング会社に所属し、みなかみの家からフルリモートで業務にあたっている。

「協力隊を経験したことで、これからはウェブがわかる人が地方には絶対に必要だという思いが強くなったんです。そういった会社は東京に集中しています。地方や中小企業をウェブマーケティングで支援することがコンセプトの会社を探して、今の会社に転職しました」

 

「逆に、家畜ってすごい」狩猟を通して広がる世界

現在の本間さんの活動を整理すると、平日は会社員として働き、冬なら週末は山へ出て狩猟をする。捕らえた野生動物の皮は捨てずに雑貨作りの材料にし、町内のアウトドアショップなどに卸す。春から秋には友人の田んぼで酒米づくりを手伝うこともある。狩猟や工房を、あくまでも趣味程度にするバランスが心地よいのだという。

「安定的に供給できるだけの皮を確保しようとすると、狩猟のスタンスが変わってしまうんです。わたしは、自分が食べる分だけを取りたいのであって、お金のために取りたくはないんです。この皮が1枚いくらで……という感覚にしたくない。工房をはじめたのはビジネスのためではなく、あくまでも、動物の皮を捨てずに有効利用したいから。シンプルな形の雑貨ばかり作るのも、できるだけ無駄なく皮を使いたいからです」

会社員としての仕事は、ある程度結果を予測しながら動くことができるし、短期間で成果を出すこともできる。だが狩猟はそんなふうにはいかない。寒い山の中を一日歩き続けてもまったく野生動物に会えない日があるかと思えば、一度に10頭も獲れてしまい、その量の多さに困る日もある。自然相手には思うようにはいかない、それが狩猟の面白さのひとつだと本間さんは言う。

「でも、いちばん楽しいのは、食べることなんです」と続ける。

「鹿や猪が取れた時、どこをどうやって食べようかと考えたり、おいしい食べ方を見つけたりするのが楽しくて。今夜は鹿肉のボルシチを食べます。鹿のすじ肉は、圧力鍋で煮るとコラーゲンがとろとろになっておいしいんです。熊の脂肉なんかも、焼くととろけるような食感になって最高。お店で買うとすごく高いし、自分で取った達成感も伴って、ものすごくおいしく感じます。毎日ジビエ料理を食べていますね。漫画『ゴールデンカムイ』に出てくるものを自分でつくるのも楽しいです(※)

※令和4年1月現在、群馬県を含む10県に対し、原子力災害特別措置法に基づく野生鳥獣肉の出荷制限が指示されています。ご自身で楽しむ場合は、自己の責任において安全性を判断していただくようお願いします。また、食用とする場合は、十分に加熱して食べましょう。

また、狩猟のおかげで地元の人々との交流が円滑になった実感もあるという。

「お肉を渡して野菜をいただくなど、近所の方々と自然に物々交換できるのが嬉しいです。生活の中に狩猟がある感じがすごくいい。狩猟チームのみなさんはだいたい60歳前後で、それまでの生活では接点がなかった人たち。今まで知らなかった人間関係を築けるのは楽しいです」

さらには、狩猟を経験したことで、家畜のすごさにも気付いた。

「いつ、どれくらいの量が獲れるかわからないのが狩猟です。サイズも年齢も、オスかメスかも違うし、硬さや臭みの程度など、全部質が違っていて個性が豊かすぎる。それに対して家畜は、同じ質のお肉を同じ量で安定的に出荷できるように、いろんなものをコントロールしますよね。いつ何頭産ませるかまで計算する。だからこそみんなが安定してスーパーでお肉を買うことができる。この仕組みのすごさがわかるようになり、これなしには人類はこれほど繁栄していないかったんじゃないかとさえ思うようになりました」

と同時に、その不自然さやいびつさにも思い至る。食べ物がどのように作られているか、その仕組みを自然と考えるようになったのだという。

「狩猟は学びが多いです。近年の気候の変化もリアルに感じ取ることができて、地球の変化に敏感になります。世界の法律は、都会でお金を持っている人がつくっています。でも都会から外に出てみると、世界はそうした法律の前提通りになっていないのだと気付かされます。そのギャップを解消するために、狩猟はとても有効なツールだという気がしています」

 

狩猟が「若い女性に向いている」理由とは?

そんなに素晴らしいものなのに、近年、ハンターの減少や高齢化が全国的な問題になっている。群馬県の場合も6割以上のハンターが60歳以上で、ほとんどが男性が占めており、年々リタイアする人が増えている。本間さんのまわりでは、猟銃の所持許可を持つ30代は、片手で数えられるほどしかいないという。

狩猟は、免許を取得してもすぐに始められるものではない。その山の特性を知り、鹿の通る道や熊の入る穴、猪が泥浴びをした跡などを見極められるようにならなければならない。そうした知識は何年もその山で狩猟をしてきたベテランのハンターたちから学ぶしかないわけだが、学ぶ人が少ないがゆえに、知識の継承が危ぶまれている。

「ベテランのハンターさんたちの知識があるから、今こうして狩猟ができています。彼らがリタイアする前に少しでも多くの知識の技術を学ばせてもらい、わたしがその知識を伝えられるようになりたい。そうしないと、狩猟をやる人は本当にいなくなってしまいます」

ただ、見方を変えれば、狩猟は今がはじめ時だと考えることもできるかもしれない。

「ベテランのハンターさんたちが引退するまでが、いろんなことを学べるチャンスです。もしかすると、狩猟は若い女性に向いているかもしれません。というのも、この世界はまだまだ昭和の男社会で、女性は男性よりも大切に扱われる傾向にあるからです。女の子扱いされることが嫌な人でなければ、心地よく狩猟をはじめられると思います」

女性こそ狩猟に向いているかもしれないという、やや意外に感じられる、しかし実感に基づいた発想は、全国的なハンター不足に対する突破口になるかもしれない。山ガールのブームを経て登山をする女性がまったく珍しくなくなったように、今度は狩猟が大きなブームになり、週末のアクティビティとして定着する可能性は大いにある。そのなかから、やがて本間さんのように狩猟を生活の一部にする女性が増えるかもしれない。

「狩猟のある生活が、ほんと楽しくて」と話す本間さんの笑顔に、いくつもの可能性が見えた気がする。

 

文:山田宗太朗

 

INFORMATION

 

『ぐんま狩猟フェスティバル』開催!

群馬県の野生鳥獣による農林業被害は、令和2年度では5億6,152万円にも上り、特に、ニホンジカ及びイノシシによる被害額は全体の約57%を占め、その対策は喫緊の課題となっています。
また、県内5箇所の養豚場において豚熱が発生し甚大な被害が生じました。豚の飼養頭数が全国4位である本州最大の養豚業を守るために、群馬県ではあらゆる対策を講じることとしています。

一方で、狩猟者をはじめとする野生鳥獣の捕獲の担い手となる県内の狩猟免許取得者は、昭和56年の9,788人をピークに減少が続き、令和2年度では4,525人(昭和56年度比46.2%)となっています。
特に県内狩猟免許取得者の高齢化が著しく、60歳以上が全体の60.3%を占めており、豚熱対策をはじめとする鳥獣被害対策を継続して実施するためには、計画的に捕獲の担い手を確保していくことが重要です。

そこで、県では、これまで狩猟と関わりのなかった方や狩猟に興味がある方などを対象に、狩猟の魅力や情報を発信するイベントを通じて狩猟を始めるきっかけを提供し、捕獲の担い手を増やすことに加え、県外の狩猟者に対して本県での狩猟や狩猟をきっかけに本県への移住を促すことを目的とした『ぐんま狩猟フェスティバル2022』を開催することになりました!
これまでに狩猟に関わりの少ない県内外の20~40歳代の若年層や女性に狩猟の魅力を伝えるとともに、本県の狩猟に係る情報や豊かなハンターライフを発信することを目的としています。

\イベントの様子は県公式YouTubeチャンネル「tsulunos」から生配信!/
https://tsulunos.jp/single.cgi?id=2175

 

群馬県の狩猟に関するサポート制度

群馬県では、狩猟免許講習テキストの無償化、試験回数の増加、出前開催や休日開催のほか、18・19歳のわな猟免許試験の手数料免除など狩猟免許を取得しやすい環境づくりに取り組むとともに、狩猟免許の取得や猟銃の所持許可の取得に係る手続をわかりやすく解説した「狩猟スタートガイド」を作成し、情報発信に努めています。

リーフレット「狩猟スタートガイド~ハンターへの道~」

さらに、わな猟免許取得者等を対象とした初心者講習会実践者講習会を実施し、狩猟者の出猟等を支援しているほか、狩猟報告のデジタル化を試行し、DXによる狩猟者の負担軽減を進めています。加えて、捕獲に従事する方への技術的な研修会の開催捕獲奨励金の増額などを行っています。

また、若年層に狩猟への関心を持ってもらうため、県立農林大学校での出前講座に加え、令和3年度から新たに、県立高校4校において、狩猟の魅力や捕獲の社会的役割等に関する特別授業もおこなっています。

                   

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