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Update on 2017.05.09

神山町の新たな動き!民間と行政がタッグを組んだ新プロジェクトとは!?

【取材レポート】神山町のいまを探る

徳島県の北東部、鮎喰川上流域に位置する神山町。

光ファイバーが町中に網羅されていたり、アーティスト・イン・レジデンスや東京にあるIT企業などのサテライトオフィスを積極的に受け入れるなど、田舎町でありながら新しい取り組みを行ってきた全国的にも有名な町です。そんな神山町で、行政と民間が協力した新しい動きが始まっているのはご存知でしたか?


これまでの神山町は、NPO法人グリーンバレーなど民間の団体や個人が、まちに新たな動きを起こしてきていて、行政はそれをサポートする、いわば黒子的な立場でした。しかし、2015年に創生戦略として「まちを将来世代につなぐプロジェクト」=通称“つなぷろ”が策定され、それを機に、民間と行政が共同していく様々な取り組みが始まっています。そんな“つなぷろ”の活動の一環として、新しい集合住宅の建設や、神山産の食材を使った“地産地食”をモットーにした食堂がオープンしているという噂を聞き、この最先端の町でどんなことが起こっているのか確かめてきました。



神山町の未来を想う、行政と民間の新しい“つなぷろ”の連携


そもそも、創生戦略として始まった「まちを将来世代につなぐプロジェクト」=通称“つなぷろ”は、地域の将来を担う若い世代が希望を持つことができるように、地域の環境を整え、神山町に可能性を感じてもらえるようなまちづくりが大きな目標として掲げられています。これは、2015年の発足時に、40歳以下の若手の町役場職員や住民など約30名のワーキンググループが半年間かけてじっくりと話し合い、策定されてきました。

神山町内を東西に流れる鮎喰川

神山町は、全国的に見ても移住者が増えていると言われる地域。移住者が増えているなら、人口も増えているのでは?と思ってしまいますが、そこは例に漏れず高齢化が進む田舎町。現在の人口は5,300人ほどですが、2060年には1,140人ほどになると予想されています。そのため、神山町は人口減少の最低ラインを3,200人までに食い止めようと、子供の数を維持し、若い世代を中心に転入者を増やそうと考えているのです。


そんな“つなぷろ”を推進する組織として、2016年4月に一般社団法人「神山つなぐ公社」が誕生しました。代表理事には、神山町役場から出向中の杼谷学さん、業務執行理事にはNPO法人グリーンバレーの大南信也さんなど、役場のメンバーと、これまで神山で活動してきた民間のメンバーが集まって結成されています。また、メンバーには町内外出身の若いスタッフも多く活躍しており、その一人が、今回インタビューに答えてくれた“つたえる”ことを担当している、友川綾子さんです。元々は都内でアートやソーシャル・プロジェクトのライターや編集、イベントプロデュースをしていましたが、神山つなぐ公社の人材募集の話を聞き、『楽しそう!』と思い神山町へやってきたそうです。

「神山つなぐ公社」で、”つたえる担当”として働く、友川綾子さん。アートギャラリー勤務や3331Arts Chiyoda設立時のPRスタッフとしての経験を持ち、アートに精通している

一体、“つなぷろ”では、どんなプロジェクトが動きだしているのでしょうか。

「プロジェクト全体としては、すまいづくり・ひとづくり・しごとづくり・循環の仕組みづくり・安心な暮らしづくり・環境づくり・見える化という7つの領域に分かれていて。それぞれの領域で、大小様々なプロジェクトが同時に動いています。

その中の“すまいづくりの領域”で、今、進めているプロジェクトが、子育て世帯向けの集合住宅の建設です。耐震基準を満たしていなかった『旧神山中学校寄宿舎・青雲寮』を解体して、新しく集合住宅を建設し、来春頃の入居を目指して進めています。一気に全戸をつくるのではなく、地元の大工さんと一緒に、1棟ずつ建設していく予定で、最初の入居者は今年の夏頃から募集を始める予定なんです」(友川さん)



子育て世帯をターゲットとする、神山町の新しい集合住宅


神山町には転入を希望する家族は多いものの、それを受け入れるための物件が不足している状況がありました。それを改善すべく、かねてより再開発の計画があった『青雲寮』の跡地に、子育て中の家族が集って暮らせる住宅地づくりを進めています。

解体前の青雲寮

青雲寮は、1969年の開寮から閉寮した2005年まで、30年以上にわたり利用されてきた、町の人にとって大切な思い出の場所です。しかし、耐震基準に満たないため利用することができず、解体が決まりました。話を聞いた元寮生たちの思いから、2016年8月には『さよなら青雲寮』というお別れイベントも開催され、町の人々に見守られながら解体は始まりました。

友川さんにその現場に連れていってもらうと、ちょうど解体の真っ只中で、現場はコンクリートを細かく砕いて、再生処理したガラの山。長い間、町の人にとって親しまれた場所だからこそ少し寂しい気もしましたが、このガラも敷地内で再利用されることが決まっているそう。この集合住宅は「地域のもので、地域の人たちとつくる」ということがベースになっていて、ガラの再利用だけでなく、神山町の木材を使用し、地域の大工さんとともに、じっくりと時間をかけてつくり上げていくようです。

解体中の青雲寮

また、この集合住宅の大きな特徴は、住民との時間をかけた対話の中で育まれているということ。敷地内にできる、住民以外も利用可能なまちの文化交流施設についても、話し合いがもたれています。

「共用部分の役割は、地元に元々あるコミュニティとどう接点をつくっていくかだと思うんです。この場所が、地域のおじいちゃんやおばあちゃん、こどもたちの放課後の居場所になって、地域の人同士の交流の場になってくれたらいいと思っています」(友川さん)

こういったことをみんなで考えていくことにより、地域のつながりの中で、100年後やその先も、大切にされるような息の長い住宅づくりを目指しています。


集合住宅プロジェクトチーム。左から、北山敬典さん、赤尾苑香さん、馬場達郎さん、高田友美さん

お話していると、友川さんがせっかくだからと、この集合住宅プロジェクトに関わっている中心メンバーを、お昼休みに集めてくれました。

神山町役場からは、総務課地方創生担当・馬場達郎さん、集合住宅プロジェクト担当の北山敬典さん。北山さんは、実家が集合住宅の近くにあるということで日々プレッシャーを感じながらこのプロジェクトに挑んでいます。

神山つなぐ公社からは、神山町出身で、神山への愛がとっても強い一級建築士・赤尾苑香さん。民家の改修や集合住宅プロジェクトのマネジメントを担当しています。さらに、スウェーデン留学で持続可能な開発について学び、神山へ来る前は滋賀県でエコ村作りに関わっていた高田友美さんが集合住宅のコミュニティづくりなどを任されています。

普段はそれぞれで忙しく仕事を回しているメンバーなので、全員がこうして現場に集まるのも貴重なようで、皆さんの思いも感じられる時間となりました。



“地産地食”を目指す食堂「かま屋」


住まいづくりとは別に、2017年3月にオープンした、“地産地食”をモットーとする食堂『かま屋』にもお伺いしました。こちらは“つなぷろ”の循環の仕組みづくりを担う『株式会社フードハブ・プロジェクト』が、神山の農業を食べることを通して支えていく仕組みとして始めたお店です。

神領にある食堂『かま屋』。向かいにはパンと食料雑貨の店『かまパン&ストア』も。

「“フードハブ・プロジェクト”は、神山の農業を次の世代につないでいくために誕生した会社です。神山の農家さんの平均年齢は72歳。このままでは、5年後に神山の農業がどうなっているのかさえ分かりません。そこで、小さなコミュニティの中で、どうすれば農作物の少量生産と少量消費をつなげられるのかと考えたんです。神山町の人々は自分で野菜を育てているので、あまり野菜をよそで買いません。それなら、その野菜で料理を作って食べてもらえればいいのでは、と食堂をオープンしました。消費ではなく、食べることで循環をつくる。だから“地産地食”なんです」(友川さん)

『かま屋』は、地域の人々をつなぐ直接的な“場”ですが、他にも農業者の育成、学校での食育など、幅広い活動に取り組んでいます。

昼食のおばんざい型式のワンプレートランチ

今回ご紹介したプロジェクトは、“つなぷろ”の活動のほんの一部です。お話を聞いていると、壮大なプロジェクトの構想と、その活動に携わる人たちの志の高さに驚かされました。

最後に、神山が目指す未来について、友川さんに伺いました。

「大南さんは、『その土からちゃんと自生してくるものは育ち方が健やか』とよくお話されているんです。これからの神山が目指しているところも同じで、神山から生まれたものが花開くことができるような土壌作りが大切なのかなって。土壌を整えていれば、きっと何かが起こるし、その起こることも楽しんでいける状況をつくっていきたいですね」(友川さん)

新しい人が次々とやってきて、新しいプロジェクトもどんどん増えていくなかで、あくまでも大切なのは土壌を作ること。足元をしっかりと見つめて、前に進んでいく神山町の今後にも目が離せないです。


文・写真:上浦未来

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