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Update on 2017.03.28

喜界島で旅と漁【前編】

ブルー・ツーリズム体験レポート

青い海と珊瑚礁に囲まれた、鹿児島県奄美群島。
奄美群島は、奄美大島,加計呂麻島かけろまじま請島うけしま与路島よろじま喜界島きかいじま徳之島とくのしま沖永良部島おきのえらぶじま与論島よろんじまの8つの有人島からなる島々です。
現在、奄美群島では「奄美群島包括ブルー・ツーリズム促進事業」の一環として、「ブルー・ツーリズム」を推し進めています。
今回、喜界島を舞台にブルー・ツーリズムのモニターツアーに参加してきました。

ブルー・ツーリズムとは
漁村などに滞在し、漁業体験をはじめ水産業にかかわる体験やその地域の自然、文化、人との交流を楽しむ旅のことを指す。



珊瑚の島、喜界島で過ごす旅



まずは「喜界島きかいじま」ってどんなとこ? という所から知って頂きたい。
喜界島は奄美大島から東へ25kmのところに位置する、周囲48kmほどの小さな島だ。珊瑚が隆起して出来た島で、今も毎年2mmづつ隆起し続けているというから驚きだ。島が生まれてからおよそ12万年と、地質学的に見てとても若い島になる。

巨大ガジュマル

島のいたるところにソテツやガジュマル、バナナやハイビスカスなど南国の植物が生えている。珊瑚でできているという石灰質の地質のせいか、喜界島には猛毒をもつハブは生息していないので、自然の中で安心して過ごすことができる。
そんな喜界島は、のんびりと過ごすにはうってつけの場所だった。

着陸前、空の上から見た喜界島

島へのアクセスは飛行機・フェリーの二択だが、私は前者を薦めたい。国内ではあまり乗る機会の少ないプロペラ機に乗ることができるし、何より空から島を眺めてみてほしい。飛行機から見下ろすと、平たい大地にさとうきび畑が美しく並ぶ、のどかな風景が迎えてくれる。

ブルー・ツーリズムということで、「漁業」に触れるのがメインイベントになるが、正直なところ海と魚の入り具合はその日にならないと分からないもの。
自然相手なのでそれはどうしても致し方ない部分だと思う。当日は海が荒れて漁に出られない!なんてことも大いにあり得る。そのため漁業体験をするなら余裕を持って数日間の滞在をするのがオススメ。その中で喜界島全体を楽しみながら、天候を見ながらベストなタイミングを見計らって漁業体験するくらいの、時間的余裕があるといいだろう。
ということで、海以外の島旅の魅力も併せてお伝えしたい。


喜界島を走る・歩く・立ち止まる


阿伝集落。馬が通れれば十分だった頃の、昔ながらの細い道幅

喜界島は道路が島中に網羅されているので、空港から車で30分前後でほとんどの場所へアクセスできる。車を走らせればサトウキビ畑が次々に通り過ぎ、その隙間からは青い海が垣間見える。高い建物や山がないため、何にも遮られない広々とした空が続く。なだらかに続く高低差がある丘陵地域なので遠くまで見渡すことができる。そんな風景がいたるところにあり、窓を開けて風を感じながら走るのが心地良い。

中でも「サトウキビの一本道」が見どころ。サトウキビ畑の中に、長い一本道がまっすぐに伸びている。ここを自転車で下ったらどんなに気持ちがいいだろう。


「サトウキビの一本道」前後どちらを見ても長い。

2017年3月7日には喜界島を含む奄美群島が国立公園に指定されたばかり。喜界島では「トンビ崎海岸」「志戸桶海岸しとおけかいがん」「荒木海岸周辺あらきかいがんしゅうへん」「百之台ひゃくのだい」「阿伝集落・嘉鈍集落あびしゅうらく・かどんしゅうらく」が指定された。
その一つ、百之台へ向かった。隆起珊瑚礁でできた高台からは、同じく国立公園に指定された「阿伝集落・嘉鈍集落」を眺めることができる。

百之台からの見晴らし

国立公園というと自然遺産に登録された地域が指定されることが多いが、人の住んでいる集落が指定されるのは稀なケースだそう。人と自然が共生しながら育まれてきた生活文化や景観も評価されているからだろう。
そんな阿伝集落を歩くと、昔ながらの石垣を見ることができる。車の普及による道路拡張工事に伴い、その多くがブロック塀に変わっている中で、ここには昔の風景が残されている。民家が減り少し寂しい印象もあるが、大きな南国植物が咲き乱れ、まるで植物園のよう。散歩に楽しいコースだ。

サンゴを使った石垣。接着などせず、ただ積んでいるだけというから驚き。

国立公園以外にも、海を見渡せるスポットが島中にたくさんある。
北西部一帯を一望できるトゥヌムトゥ公園には、最高な位置にブランコが設置されていた。一人用というのがまた良い。ここではただぼーっと海を眺めたり、読書したり、自分の時間をゆっくりと過ごしたい。

乗らずにはいられないブランコ

こんな風景を見ながらブランコに乗れるなんて、とても贅沢

こうしたのどやかな地上の風景と打って変わって、喜界島には無機質な地下空間も存在している。地下ダム建設の際に掘られたトンネルだ。地上はオオゴマダラという蝶の生息地になっていて、そのギャップも面白い。全長366mのトンネル内は歩くことができ、異空間を楽しめる。
地下ダムは河川の無い喜界島の貯水を支えている重要な構造物で、サトウキビ畑で見られるスプリンクラーは、地下ダムに繋がっているのだ。

夏でもひんやりとした空間。音がものすごく反響する。


喜界島で食べる


特産ではないが実はソウルフード。中里集落ではそうめんを投げて奪い合う「ソーメンガブー」という奇祭も行われている。

旅の楽しみといえばやはり郷土料理。喜界島ならではの食を楽しんできた。
島では一年中食べるというそうめん。「油そうめん」という温かい出汁と油に絡めた家庭料理を頂いた。素朴でほっとする味で、毎日でも食べられそう。

「食べれるアイドル」と揶揄されていた。可愛いだけに、ちょっと切ない…

昼間は至る所でヤギを見かけたのだが、夜は皿の上で見ることになった。
島ではヤギが食用として育てられており、祝い事の際などに頂く習慣がある。野草だけを餌にしているので、他の地域で育てられるヤギに比べて臭みが少ないそう。血と煮込んだカラジュウリはスタミナ満点で癖になる美味しさ。血の一滴も無駄にせずに頂ける料理だ。「いただきます」にいつも以上に気持ちがこもる。昼間見たヤギたちに感謝しながら、美味しく頂いた。

ヤギ刺し。臭みがなくラム肉より鴨に近い印象。

喜界島の海岸に自生する薬草、サクナー(長命草)も美味しい。海岸へ行けばそこら中に生えている雑草のような植物だけど、食べたら絶品。香りが高く、たらの芽など山菜が好きな方は絶対好きな味だと思う。天ぷらを頂いたのだが、これがお酒にもよく合うのだ。

そう、これを忘れてはいけない。お酒といえば黒糖焼酎である。黒糖焼酎は奄美群島でのみ製造許可が降りており、喜界島では「喜界島酒造」と「朝日酒造」の2社で製造されている。喜界島酒造の酒蔵を見学させてもらったのだが、黒糖の甘い香りが漂う中、様々な種類の黒糖焼酎が造られていた。外部貯蔵タンクは海の目の前にある。波の音を聞かせながら寝かせる黒糖焼酎、なんとも贅沢だ。

ぶくぶく元気に発酵中。酒蔵の中は甘くていい香りがする。

黒糖というと糖分があるもの考えがちだが、蒸留酒である本格焼酎は糖質ゼロ。糖質を気にされている方も、安心して味わって頂きたい。なんでも黒糖焼酎から長寿に効果のある成分が発見されたそうで、健康飲料としてもこれから注目を浴びそうだ。(ちなみに現在日本一のご長寿・田島ナビさんは喜界島在住)

島の食べ物というと海産物のイメージが強かったのだが、喜界島は農作物も豊富。というのも海底から生まれた島だけあって、土壌に海のミネラルがたっぷり含まれているからだ。マンゴーやパッションフルーツなどの南国フルーツはもちろん、白ゴマやソラマメも名産。
喜界島には伝統的な白ゴマの生産量日本一を誇り、収穫時期になるとゴマの日干しが並ぶセサミストリートが出現するそうだ。

在来種のソラマメと白ゴマを育てている田向さんのソラマメ畑にお邪魔した


【後編】を読む >>

喜界島観光物産協会HP http://kikaijima-kankou.com

(写真・文 伊藤春華)

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