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Update on 2017.03.29

三条の「ものづくり」を受け継ぐ【池田鑿製作所編】

新潟県三条市は、古くから鍛治職人が腕を振るう金物の町として栄えてきました。和釘づくりから発展し、現在は刃物や利器工匠具をはじめとする優れた金属製品が生み出されています。400年以上も受け継がれる鍛治の技は、ものづくりに対する高い志とたゆまぬ努力によって支えられています。
今回、三条のものづくりの技を受け継ぐ、若き職人を訪ねました。




やりがいはまだ分からないけど、「使う人」のことは忘れずにいたい。


地金(じがね)に、鋼(はがね)を打ち付ける工程。鉄の色を頼りに、温度をコントロールする。

池田のみ製作所 竹村 徳和さん

高校卒業と同時に池田のみ製作所に入門した竹村さんは現在28歳。仕事については「目の前にあることをやるだけです」と語るが、師匠からの評価は高い。


光を最小限に抑えた工房。ほのかに油の匂いがする空間に、鉄を打つ音がこだまする。

外光の侵入を抑えた薄暗い工房に、「カーンカーン」と規則的な金属音が響く。飛び散る赤い火花が美しい。鉄の温度は、およそ1000度。窓からの光を遮るのは、鉄の赤さで温度を確かめるのに邪魔になるためだ。

「自分と同レベルじゃ話にならない。もっと上をめざしてほしい」と師は弟子を激励する。

池田鑿製作所の職人は、竹村さんと、師匠の池田慶郎さんの二人。つい最近、屋号を継ぐことが許され、竹村さんは「四代國慶」となった。職人になって10年。工程は一通り覚えたが、やればやるほど次の課題が見えてくる。そんな世界だ。

「やりがいについてよく聞かれるんですが、いまいち感じてないんですよ。注文が入るから、目の前の仕事をやってきただけ。義務感が大きいですね」 

鍛冶道具はすべて手作り。竹村さんは包丁を作って、友人にプレゼントしたこともある。

竹村さんが師匠の元を初めて訪れたのは、高校2年生の夏のこと。意外なことがきっかけだった。
「母親が新聞の切り抜きを持ってきて、『この人のところに行ってきな、電話しといたから』と言うんです。その新聞に出ていたのが師匠でした」 もともと手を動かすことは好きだったが、鍛冶に興味があったわけではない。会いに行くのも渋々だった。ところが論理的な池田さんと会話をして、「職人=口下手」というイメージがいい意味で崩れた。

「仕事に興味が湧いたというより、師匠に興味が湧いたという方が正しいですね。最初は入門を断られましたが、3〜4回通ってOKをもらいました」 

師匠の池田さん。2016年には「現代の名工」として、厚生労働大臣から表彰された。

左右対称でなければ、のみは使い物にならない。肉眼で確認しながら微調整を加えていく。

のみは叩いて使う道具のため、左右対称でなければならない。それが他の刃物と違う点だ。職人は己の目を頼りに1/100ミリ単位で形を調整していく。
「品質が格段に落ちてしまうので、機械化はできません。師匠と二人で月に100本作るのが限度。全国から注文があり、待ってもらっている状態です」

全国の大工職人から絶大な支持を得る國慶ののみ。注文待ちが出るほどの人気だという。

 古くから職人の町である三条市。職人になった今、竹村さんはその凄さを日常的に実感している。 

「普通に近所を歩いているおじいちゃんが、レジェンド級の技術だったりします。技術のレベルが高いし、とにかく手が速い。びっくりしますね」 20代ののみ職人は全国で竹村さんしかいない。職人の高齢化が進む中で、後継者不足が業界全体の長年の課題だ。

「だいぶ慣れてきたな」。その油断がミスを呼ぶ。一瞬たりとも気の抜けない作業だ。

「職人は手を動かしたぶんが収入になります。弟子に仕事を教えている時間は収入が発生しません。自分の食い扶持を稼ぐのに精一杯では、後継者を育てることは難しい。その状況を改善するためにはお金が必要だし、きちんとお金を稼ぐためには経営ができなければいけない」 

後継者の前に、経営者。若き職人が語ったのは、ものづくりの未来を冷静に見つめた言葉だった。

池田鑿製作所
創業はおそらく大正時代の初頭だが、資料が残っていないため正確な年は不明。「いい物しか売らない」をモットーに、300年間受け継がれる伝統的な製法を守り続けている。その使い勝手の良さへの信頼は厚く、屋号の「國慶」を指名して注文する大工も少なくない。また近年では、アメリカ・ドイツ・オーストラリアなどの海外からも注文が寄せられている。代表の池田慶郎さんは、三条市の体験施設「三条鍛冶道場」を拠点とする越後三条鍛冶集団に所属している。



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(写真:川俣 敦史  文:横田 孝優)

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