よんでみる{ magazine Vol.16 }
Update on 2016.03.03
陶器のまちで、文化の発信拠点をつくる。
特集レポート[モンネ・ルギ・ムック 岡田浩典さん]長崎県東彼杵郡波佐見町
旅の途中に訪れた廃墟に強烈に惹きつけられた。
ここに人の集まる拠点をつくりたい。
夢はそこから始まった。
移住が目的だったわけじゃない 建物との出会いがすべてを変えた
人生を大きく変えるような出会いは、ある日突然訪れる。岡田浩典さんの場合もそうだった。
遡ること十年前。長崎県波佐見町で、もと製陶所だった廃墟同然の建物を見て、岡田さんは一目で心を奪われた。
それから数か月のうちに仲間とともに東京から移住して建物を改築し、カフェレストラン「モンネ・ルギ・ムック」(通称ムック)をオープン。十年かけて大切に育ててきた。
訪れた日、店の前に出ていた岡田さんは、通りかかった女性を見かけるとぱっと声をかけた。
「しのぶさん、どうぞどうぞ!いま開けるから入って入って」
毎月必ず一度は訪れるというその常連さん(ムックにはそんなお客さんが多い)を、岡田さんは大切な友人を迎えるように招き入れる。
奥は思っていたよりずっと広く、ゆったりとしたあたたかな空気が広がっている。
築90年の建物の威風、石畳のフロア、ガラス窓から差す柔らかな光。不思議な安心感があった。
そろそろお昼どきでもあり、ぞくぞくとお客さんが入ってくる。
長崎県東彼杵郡波佐見町。世界的な陶器の産地、有田や伊万里に近く、波佐見もまた焼き物の町だ。
ムックのある「西の原」地区は江戸時代から2011年まで続いた製陶所の跡地で、
いまも細工場、絵付け場、釉薬精製所、登り窯といった、陶器づくりの工程を物語る建造物が残っている。
おもしろい物件があるから来てみないか、と声をかえられた岡田さんがこの場所を訪れたとき、
建物の中にはまだ素焼きの器が散乱しているような状態だった。
「なんてかっこいい建物なんだろうって。こんな物件なかなか出会えない。
ここに全国から人が集まるおもしろい拠点をつくれたらいいなと思ったのが始まりです」
岡田さんは、東京の下高井戸に生まれ育った、生粋の都会っ子。20代で赤坂の某有名フレンチカフェレストランで働くギャルソンになる。
カフェブームの先駆けともなったこの店は、どこもかしこもマニュアルサービス一辺倒の当時、独自のサービスを提供する定評ある店だった。
ここで学んだ接客やサービスの多くが、いまのムックの土台となっている。
文:甲斐かおり 写真:高巣秀幸
全文は本誌(vol.16 2016年4月号)に掲載
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