よんでみる{ magazine Vol.19 }
Update on 2016.10.12
山海に囲まれた神秘の地で ものづくりと暮らしを楽しむ
【取材インタビュー】よつめ染布舎 小野豊一さん・美器 岡美希さん(大分県国東市)
大分県の北東部に位置する国東(くにさき)半島は、古来より六郷満山(ろくごうまんざん)文化という独自の歴史が栄えた地。神聖でおだやかな空気が、多くのアーティストを引き寄せています。
おごそかな空気をまとう 国東半島はアートの聖地
夏の木の濃密な香りに包まれた古民家で、目にとまるのは藍色の暖簾やカラフルなニワトリのオブジェ。ここを「すずめ草」と名づけ、ギャラリー兼工房、住居として暮らすのは、染め物作家の小野豊一さんと陶芸家である岡美希さん夫妻。2015年に広島県の北広島から大分県国東市へ家族3人で移住した。「北広島は雪深くて、多いときには60センチも積もります。染め物の制作には寒すぎてもいけないし、雪かきも大変で・・・。雪の少ない九州地方への移住を考えていました」と小野さんは振り返る。
小野さんの実家は広島で代々続く染め物屋。神社の幟(のぼり)や暖簾といった伝統的な仕事をおもに手がけていた。「最近は染め物の機械化も進んでいますし、もっと暮らしに寄り添う作品で、手仕事のよさを伝えたいと思っていました」
あるとき国東を訪れ、「ケベス祭」と呼ばれる地域の伝統的な火祭りを目にする。「地域資源と染め物を合わせた新しい仕事ができそうだ」と直感した。
小野さんがそう感じたのは、国東のもつ神秘的な空気が関係している。国東半島は、古くから神仏習合という独自の文化が根付いた霊験あらたかな地。瀬戸内海のおだやかな海と奇岩奇峰が連なる山々がおりなす土地には、神社仏閣や石仏といった歴史的建造物も少なくない。「創作意欲が刺激される」といって県外から移り住むアーティストも多く、そんな風土に惹かれたことも移住を決めた理由のひとつだった。
小野さんが作業するのは庭の一角で、岡さんは住宅の中の工房。小野さんは国東の風土や移住して知り合った人との交流から新しい作品づくりに挑戦する一方、岡さんは大分ならではの舞台幕を描くなど、器のみに留まらないアートへと領域を広げている。
また小さい頃からニワトリ好きだった岡さんは、移住して初めて卵から雛をかえすという経験をする。「娘はスーパーで卵を見ると”ニワトリ”と言います(笑)。家庭菜園も始めて、新鮮なキュウリにトゲがあることも覚えたし、これこそが食育ですね」と土のある暮らしの大切さを噛みしめる。
小野さんと岡さん、それぞれが国東の魅力を吸収して、アートと暮らしの新しい風を感じている。
そんなお二人のものづくりとは?
「よつめ染布舎 小野豊一さん」
2014年によつめ染布舎を立ち上げ、麻や綿の生地に型染(かたぞめ)と筒描(つつがき)という技法を用いて染めを行っている。手仕事で仕上げられた作品は、あたたかみとやさしさのある独特の風合いが魅力で、小野さんが好きな鮮やかな色のものが多い。
布だけではなくグッズや洋服、ロゴデザインなどの仕事も行っており、国東の遺跡や祭り、広島の宮島など風土をモチーフにした作品もつくっている。「デザインを考えるのがいちばん大変です。アイデアが煮詰まったら近くの温泉につかって考えることが多いですね」。現在の工房は、国東がアートに染まった2014年の国東半島芸術祭の時に展示会場としても使われていた。
「美器 岡美希さん」
「下絵も一切描かず、頭の中に思い浮かぶまま、手が動くままに描きます」という岡さん。器をまるでキャンバスのように、大胆な絵柄とカラフルな色付けを行い創作性豊かな作品を生み出している。また器に限らず壁絵や舞台幕など、アートの対象はさまざま。
北広島に住んでいたときは一時的に海外で暮らしていた経験をもち、新しい土地から受ける感覚や刺激を大切にしている。国東に移住してからは自然とともにある暮らしにもなじんでおり、”近所のおじさん”と仲良くなるのが得意。近海で捕れたタコやイカと器の物々交換をしたり、ニワトリの餌や飼育方法についての話をしたりと、田舎ならではの交流を楽しんでいる。
文:三浦翠 写真:衛藤克樹
全文は本誌(vol.19 2016年10月号)に掲載
歴史ある神秘的なまちで、新たな暮らしを楽しむ
■10/29(土)13時より「TURNSカフェ大分県国東市」開催!
こちらでご紹介した小野さん・岡さんご夫妻をゲストとしてお呼びして、国東を知れるトークイベントを有楽町にて行います!移住してものづくりをしたい方や歴史文化が根付いた地域に興味のある方など、ぜひお越しください。
まずは東京で、アーティストたちが集まる神秘的なまち・国東を体感しましょう!
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