首都圏へのアクセスが良く通勤も可能。新幹線駅や市街地からさほど遠くないところにある豊かな自然。自然と街がほどよくつながるバランスが魅力だ。
「地域をもっと知りたい」大学卒業後、地域おこし協力隊として小海町へ
埼玉で生まれ育った細谷貴史さんが、地域の魅力を知ったのは大学時代のこと。東日本大震災の復興ボランティアに参加したり、知人の研究の手伝いで屋久島の奥地で野生のカラスを探したりと全国を巡るなかで、「地域をもっと深く知りたい、役に立ちたい」と感じるようになった。
そんな折、授業で知ったのが「地域おこし協力隊」の存在だ。「こんなに面白い仕事があるのか」と感じるとともに、任期3年と期限つきなことも、「まずは経験を積みたい」と考えていた細谷さんにとって挑戦の後押しとなった。
「小海町に応募したのは、自分に縁のない場所の方が面白いと思ったから。それに、この辺りは標高が高いから星がきれいなんです。近くの野辺山や白駒の池も名所で、空気の澄んだ冬は友人を呼んで星空観察会を開くこともあります」
地域おこし協力隊時代から町の行事に多数参加。7月の「ふるさと祭りぎおん祭」では神輿も。
隊員時代は持ち前のフットワークの良さを生かし、魅力ある地元産品を探してSNSでPRしたり都内の物産展で販売したりと、自らアンテナを張り巡らせて仕事を作り出す日々。空き店舗を改装した自宅1階を活用し、近隣の人や学校帰りの子どもたちが気軽に集まれるコミュニティスペースを作ったこともある。そんな忙しい暮らしのなかでも、山の朝日をカメラにおさめてから出勤するなど、大自然に囲まれた暮らしを謳歌した。
「夢中で動き回っていたので、地域の人に顔を覚えていただくのも早かったです。このまちには、面倒見の良い人がたくさんいるのも大きかった。反面、人との距離の近さに疲れてしまって協力隊を続けるか迷った時期もありました」
「このキャンプ場をまちの顔にしたい」。アウトドアを通じて小海町の魅力を伝える
細谷さんが働く松原湖高原オートキャンプ場。夏は多くのキャンパーでにぎわう。東京近郊からの利用客も多い。
転機となったのは、現在働く「松原湖高原オートキャンプ場」との出会いだ。テントサイトだけで100区画、別荘も200区画を擁する規模の広さながらスタッフは少数精鋭で、個々のアイデアがすぐに形になる自由な環境。アウトドアが趣味で、人と話したり企画を考えるのも大好きな細谷さんはこの仕事にのめり込み、3年間の任期満了後も定住を決めた。
「好きなことが仕事になった感覚です。例えば白樺の皮は天然の着火剤であること、焚き火にはセラピー効果があることなど初めて知ることの連続で、もっと学びたいし、面白い企画につなげていきたい。立派な設備がそろったキャンプ場は他にもあるけれど、できるだけお客さんが自由に過ごせるキャンプ場にしたいから、ルールをガチガチに決めずスタッフもできるだけ手を貸すようにしています。 これから、このキャンプ場を町の観光の顔にしていけたら」
家の電気代を払い忘れたらキャンプ場の焚き火で過ごすなど、まさに自然と一体の生活だが、車を40分ほど走らせれば新幹線が使える佐久平駅や周辺のショッピングセンターに行くことができ、埼玉や東京の友人との行き来も多い。「今日は疲れてるな」と思ったら、温泉にふらりと立ち寄って帰れる環境も長野県ならでは。「若いうちに移住する選択肢があるということを体現したかった」という言葉を、肩肘張らずに実現している。
細谷貴史さん
埼玉県川越市出身。26歳。大学在学中から東日本大震災の復興ボランティアに参加したり知人の研究の手伝いで屋久島の奥地で野生のカラスを探したりと全国を巡り、地域の魅力を知ったことから「地域おこし協力隊」に応募。長野県南佐久郡小海町の隊員として観光情報のPR、イベント企画などを担当した。現在は小海町開発公社に所属し、「松原湖高原オートキャンプ場」の運営スタッフとして活躍中。
文:石井妙子 写真:阿部宣彦
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