地面に寝そべって雲を眺める。流れる水の音を聞く。
澄んだ水。静かな夜に響く祭囃子。
そして、そこに暮らす人々…
郡上に流れる空気に身を任せて過ごす3日間は、素朴で飾らない郡上の魅力が詰まったとても贅沢な時間でした。
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「郡上のタカラを東京へ届ける」という想いのもと、東京の南青山で開催されてきた郡上藩江戸蔵屋敷。
2017年9月8日(金)〜10日(日)、ついに実際に郡上の地を訪れる「郡上藩江戸蔵屋敷vol.3郡上へ行こう!郡上の例祭フィールドワーク」が開催されました。
このツアーの指揮をとるのが、“こばけん”こと小林謙一さんとNPO法人ななしんぼの由留木正之さん。
最初の目的地は地元の主婦で運営されている「くくりひめカフェ」。
地域の女性で立ち上げた「くくりひめカフェ」は、
料理に使われている食材はもちろん、郡上でとれたものばかり。
おいしい料理のおかげで、一気に参加者同士も打ち解けることができました。
そして、くくりひめカフェを出てすぐ目の前にあるのが、「白山中居神社」。
郡上藩江戸蔵屋敷vol.2のゲスト石徹白隼人さんが禰宜(ねぎ)を務める神社です。
なんと、今回は特別に正式参拝させていただけることに。
生えている木の大きさやこの土地の雰囲気、流れる川の音。
不思議ですが、神社の敷地に入った途端、漂う空気が変わったように感じます。このツアーでは都会の喧騒を忘れて、郡上の空気に包まれる時間がよくあるんですが、ここで過ごした時間は、まさに別格です。
続いては、平野彰秀さんに案内していただき、小水力発電の現場視察。
水力発電と聞くと、ダムのような大型の施設を想像してしまいますが、この設備で石徹白の集落全体の電力使用量以上の電力をまかなうことができるというから驚きです。
その後は、平野さんの奥さん馨生里さんが営む「石徹白洋品店」を見学。
石徹白に残っていた手績み、手織り、藍染のたつけを復活させてみたい、という想いで営まれています。
想いのこもった洋服は、伝統的な技法を用いつつも、普段着ている洋服と比べても高いそのデザイン性を持ち合わせています。
参加者一同買い物気分で楽しんでしまいました。
夜には、地域の人を交えての懇親会。
地域の人と、膝を付き合わせて交流する時間は、そこにどのような人が暮らしているのか直に感じることができるとても貴重な時間です。郡上について熱く語るその姿に、話は尽きず夜遅くまで盛り上がりました。
2日目は、近藤佳奈さんに案内していただき、石徹白多大杉の見学へ。
見学…と言ってしまうと簡単ですが、大杉までの山道は加賀白山の登山道を兼ねているということで、普段運動不足な人にとっては軽い登山のような道のりです。
それでも登りきって見る大杉は圧巻でした。
本来、杉は紅葉しないんですが、ここの大杉は秋になると紅葉するんだとか。
なぜかというと、大杉に寄生している他の木が紅葉することで大杉が紅葉しているように見えるということです。確かによくみてみると太い幹には、杉以外の木が生えているのが確認できます。
その後、阿弥陀ヶ滝を見学して、お昼にいただいたのが、流しそうめん。阿弥陀ヶ滝の流しそうめんは、竹ではなく石を組んだレーンに水が流れて、そこにそうめんを流します。流れているそうめんがなくなると係の人が入れに来てくれる仕組み。
正直、そうめんはどこで食べても同じだろう…と軽く考えていたのですが、本当に美味しかったです。
まず、この開放感溢れるロケーション。そして、この場所にたどり着くまでの道のり。大杉まで登って一汗かいたから…というのもあると思いますが、やはり郡上の綺麗な水があるからこそ、そうめんもこれほど美味しく感じることができたのだと思います。
続いては、かつて「上り千人、下り千人」と呼ばれるほど繁栄した白山信仰の地の一つ、長滝白山神社を訪ねます。
長滝白山神社の宮司である若宮多門さんから、この地で続く自然と人の営み、そして白山信仰について伺いました。
白山信仰のお話だけではなく、郡上と水・山・自然との関わり、そして今人はどのように自然と関わるべきなのか、わずかな時間の中で貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。
その後長良川鉄道に揺られながら、郡上八幡駅へ。
二日目の宿は、民宿しもだ。
囲炉裏のある素敵な宿です。
ご飯を食べ終わった後は、寒水白山神社で寒水踊り体験。
静かな明宝の夜に響く祭囃子、そして参加する人の熱気からは、普段体験することのできない特別な雰囲気が漂っていました。
踊り方を知らない地域の外の人でも輪に入って一緒に踊ることができます。
横の人の踊りをみながら、ようやく覚えてきたと思ったら、別の踊りに…
そんな風に踊りに夢中になっていると、自然と歌に合わせて足を動かすことができるように。中心になって声をあげているのは、大人ではなく地域の子たち。話を聞いて見ると、この地域が好きだと口を揃えて話してくれました。明宝では、こうして長く続く地域の伝統が継承され、後世に受け継がれていくのだと感じることができました。
いよいよ、ツアーも最終日。最終日は、明宝の一大祭り「寒水の掛踊」を見学します。
その前に、お昼は明宝の郷土食「朴葉寿司」と「つぎ汁」作りを体験しました。
つぎ汁には、唐辛子をフライパンで炒ったもの使うんですが、唐辛子の辛味成分が空気中に散って、キッチンにいる人たちは咳が止まらなく。お豆腐は、少し硬めの明宝豆腐を使用し、5mm角に切ってから調理します。
朴葉寿司も好きな具材を入れて、好きな大きさのものを各々作ります。
ただ伝統料理を食べるだけではなく、実際に作り方を教えてもらうことで、楽しみながらよりその味を楽しむことができました。
寒水の掛踊は、村人総出で行われるお祭り。
様々な役割があり面白い風貌の役から、子供が怖がりそうな風貌の役と様々です。
村の中を行列で歩き、そして最終的には寒水白山神社へとたどり着きます。
約300年前から伝わる寒水の掛踊をみて感じたことは、地域の人のお祭りにかける思いだけでなく、見学している人のお祭りへの情熱です。300年も前の文化がこうしてたくさんの人に愛されているということを、実際にお祭りに参加することで感じることができました。
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最後に、参加してくれた大学生3人のレポートをご紹介!
①花澤昴乃さん
最初に向かった石徹白で何よりも印象的だったのは、水でした。私が普段見る川は濁っており、底が見えないのが普通です。しかし、石徹白の水は側溝ですら透き通っており、生物の存在を確認できました。
至るところから聞こえる涼しげな水の音、そして質の美しさに、郡上にいる間どれほど癒やされたかわかりません。
郡上で様々な方にお会いする中で、一番多かったのは移住者の方です。
郡上の良さに魅せられ移住してきた方々が、今度はその良さを伝える側にまわっているのがなんだか不思議で、とても素敵なサイクルだと思いました。出身・移住関係なく、地域の人間として、オープンにお付き合いしている姿も垣間見、地域の持つ温かさを肌で感じました。
数年前に復活したという寒水の掛踊り。復活に大きく携わり、当日も中心で声を張り上げ先導していたのは、郡上で育った小中学生でした。郡上について聞くと、「この先も郡上に残るつもり」と話してくれました。それほどまでに地元を愛することができる風土や文化があることが、少し羨ましかったです。同じ若者でありながらも、彼らの持つ大きなエネルギーを前に、いまの郡上の良さを受け継ぎながら、もっと良いまちへ発展させてくれるのだろうと、勝手に期待を寄せてしまいました。
自然、食事、人、文化、本当に多くの素敵なものに囲まれ、私もすっかり郡上のファンになってしまいました。
今度は友だちを連れて遊びに行きたいと思います。
②松本涼平さん
白山中居神社では、初めて玉串体験をさせてもらいました。
禰宜の石徹白隼人さんが,玉串は型通りにするよりも気持ちを込めてすることの方が大切であることと,現在の医療や科学はとても発達していて素晴らしいものであるが信仰することは何年もの間受け継がれてきたものであるのでそれらでは解明できないものもあるとおっしゃっていました。今回,あまり上手にできなかった玉串にも作法にも1つ1つに意味があって,ただ観光しただけでは分からないことを知ることができました。
この地に惚れた移住者の方が自身の熱意のこもった話をしている姿はとてもかっこよく見え、これから働いていく中で,今回出会った人たちのようにいつか私も自分の仕事や自分の住む地域の良さを胸を張って人に話せるようになりたいと感じました。
この3日間で郡上のたくさんの自然に触れ、アツい方々とお話しすることができました。とても濃密なプログラムでしたが、それでも郡上の魅力は語り切れないものだと思います。
どこにいても水の流れる音が聞こえることは、とても新鮮なことでした。さらに、いただいた料理は全て美味しかったです。今回私が知ることができたのは郡上のほんの一部だと思うので、ぜひまた郡上を訪れたいです。
③徳竹千春さん
3日間のツアーの中で、心に残った部分をご紹介します
1つめは「石徹白洋品店」。2回目WSのゲストで来てくださった平野さんのお店です。
1階と2階に分かれており、1階は作業場、2階はお店になっていました。
1階の作業場に干してある草木染めの数々。近くに咲いている花でもこんなに色鮮やかになることに驚きました。定番の藍は、防虫効果や保温効果もあるなど注目されていますが、自然の法則に沿った暮らし方を今の生活に取り入れることも大切だな、と感じました。
そして2つめは長瀧白山神社・長瀧寺です。
ここでは白山信仰と古くから伝わる拝殿踊りの解説をしていただきました。
「私たちは大きな災害がない限り自然のありがたさにきがつかなくなってしまっている」と語ってくれたのは長瀧白山神社・長瀧寺の神主の若宮さんです。
しかし、現在、水道の蛇口をひねれば水は出てくるし、スーパーに行けば自分で育てなくても野菜を買うことができます。だけど、私たちは根源に自然のパワーがあることを忘れてはいけないし、感謝しながら生きて暮らすことができたらいいな、と強く思いました。
どれだけ時代が移り変わっても少しづつ変化させながら「たつけ」や「拝殿踊り」「寒水踊り」などを守ってきた郡上。次世代にこの価値観を伝えていくことは、これからの暮らしのヒントにきっとなっていくだろうと感じました。
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三日間かけて郡上を回ったツアーでしたが、全ての場所に共通していたことが地域の人たちの暮らしが、郡上の自然と深く繋がって共に暮らしているということ。
自然と共に暮らす…と言うことは、少し前までは当たり前のように行われていたことなのかもしれません。しかし、都会で暮らしているとついつい忘れてしまいがちなこのことに、郡上を訪れると、改めて気づかされます。
今度はもう少し長く、ゆっくり時間をかけてこの地を訪ねてみたいと思います。
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