岩手から世界へ、明日へ
技術と伝統を生かし、”いま”を捉えた鉄器づくりに挑む「OIGEN」。
その企業姿勢に惹かれた4人の若者たちは、
それぞれのポジションで「南部鉄器の価値」を発信しはじめている。
伝統工芸の実直さと 斬新さを備えたOIGENの鉄器
岩手県奥州市水沢区羽田。北上川の東に位置するこの一帯は、南部鉄器の産地だ。古くから鋳物づくりで栄え、いまも20を超える鋳物工場が集まる。
県内にあるもう一つの南部鉄器産地・盛岡市は江戸期の茶釜づくりがルーツと伝わるが、
一方水沢区の鋳物製造は鍋や釜など生活道具から始まった。
老舗の一つである「OIGEN(及源鋳造株式会社)」は、創業163年目。
鍋や釜などにとどまらず、時代の波をとらえた商品開発に挑戦しつづける同社は、
早くも昭和30年代後半から海外輸出をスタートした。
その後、工場の機械化により量産化に成功。
商社経由でアメリカやヨーロッパをはじめとする海外への輸出を伸ばしてきたが、
ここ数年は自社によるマーケティングにもとづき、
現代の生活スタイルに見合った直接輸出に力を入れている。
また、全国メディアでたびたび紹介される「タミさんのパン焼器」は、
実用的ながらも懐かしい昭和のストーリーを持った商品として大ヒット。
さらには化学物質を使わず無塗装なのに錆びにくい「上等鍋」を開発し、特許を取得するなど
その姿勢はつねに果敢だ。
そこには、OIGENならではの社風があるようだ。
五代目社長の及川久仁子さんは、長年つちかった技術を生かす一方で顧客の声に耳を傾け、
新しいアイデアや手法を取り入れ、人材育成にも力を入れている。
「量産化にともなって工業化した自社の体制ですが、6年ほど前から、
伝統的な”焼型”による鉄器づくりをもう一度再現しようと若い職人を育てています」
同工場は、「生型」と呼ばれる砂型による生産方式が主体。
各工程も分業制で、着色などの仕上げ作業は地域の着色会社に外注をしている。
一方、江戸時代からつづく伝統的鉄瓶の技法は、
「焼型」とよばれる鋳型を用いており、各工程を手作業で進めていく。
昔ながらの製造方法は地域の職人たちが継承してきたものの、後継者不足に悩む工房も多い。
同社では、伝統の技が消えていく現状に危機感をおぼえ、自社内で伝統技法の伝承を行うことを決意した。
文:水野ひろ子 写真:奥山淳志
全文は本誌(vol.13 2015年夏号)に掲載
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