都会の「食」は、バラエティに富んでいる。
好きな時に好きなものが食べられる。
でも、ちょっと地方に目を向けてみてください。
新鮮な食材が日常的に手に入り、
その土地ならではの旬の味覚が味わえる。
独自の食文化が根付き、「食」を通じて、
「人と人」「人と地域」が強く結びついている。
地方には、人とのつながりのなかで味わう、
都会にはない“おいしさ”があります。
地方で「食」の輪を広げて、豊かに生きている人たちを紹介します。
写真:柳大輔
今号の特集は、食でつながる人とまち。
一体どのような内容なのか、ちょっぴりご紹介します!
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【TURNSな人々】
料理家 細川亜衣
熊本市のへそにある立田山の麓。もとは、肥後藩主・細川家の菩提寺であった泰勝寺の跡地で、食にまつわるさまざまなイベントが行われている。主宰は、料理家の細川亜衣さんだ。
料理家・細川亜衣のルーツはイタリアにある。大学卒業後、20代から30代の多くをイタリアで過ごし、食材や料理に魅了され、情熱を注いだ。「ずいぶん長く過ごしたので、そのままイタリアで暮らすことも考えました。でも、外国だし、それなりのさびしさや苦労もあるだろうと思うと、踏み切れなかった」長い旅のような時代を終え、自身の料理教室を持つなど活動の拠点といて定めたのは、幼少期から親しんだ東京。しかし、次第に違和感を覚えるようになる。
「東京がどんどんのっぺりした街になっていく感じがしたんです。東京と自分が合わなくなったと感じるようになっていました」
胸に色濃く焼きつくイタリアの記憶と比較して、その思いは日に日に増していった。細川さんが熊本へやってきたのは、2009年のこと。なぜ熊本だったのかと問われれば、それは、夫であり陶芸家である細川護光さんとの出会いにほかならない。
「一時は、東京を離れられればどこでもいいとさえ思っていたので、そんな状況から誘い出してくれたことも、結婚の決め手でした」
細川さんの場合、「どこで暮らす」の答えは、「だれと暮らす」とセットになっていたようだ。九州は、それまで足を運んだこともなく、どちらかというと縁遠いと感じていた場所。それでも、信頼できるパートナーと一緒なら、不安は微塵もなかった。
熊本に来てからは、素材の味に感動する場面が増えた。
「もともとシンプルな調理を大切にしていますが、より一層その部分を意識するようになりました。下手な手間や味付けを加えないように、素材の味が生きるように。食材へのアプローチも少しづつ変化してきたと感じますね」
熊本での暮らしに慣れて、教室やイベントも回数を重ねると、これまでの活動を集約できるような場所がほしいという思いが募っていった。料理仲間や生産者と、もっと心地よく集まれる場所。食を通して、ゆるやかにつながることができる場所…。
「長年イメージしていたのは、さまざまなものが混在し、それでいてどこか居心地のよい空間」
2016年春、食堂の完成を機に活動の屋号を「taishoji」とし、熊本でのリスタートを切る。
「越してきた当時は、ホームシックならぬ友人シックだった」と話す細川さんだが、熊本へ来て8年がたついま、彼女のまわりには仲間がたくさんいる。
「毎日のように食卓をともにする友人や、信頼できる仕事のパートナーもできました。だから、全然寂しくない」
基本的には静かな泰勝寺での暮らし。来客による慌ただしさは、うれしさ以外の何ものでもない。
「熊本の食を広く伝える架け橋になれたら。taishojiの活動はそんな思いで始めました。料理家として人に喜ばれるような“いいこと”を提供していきたい。熊本地震を経験して、この場所や活動を、地域や地域の方々に役立てていただきたいという思いもより一層強まりました」
庭園を散歩しながら、「春って嬉しいですね」と話しかけると、「嬉しいですね」と顔をほころばせた。泰勝寺での営みについて、「“いいこと”をしていきたい」と繰り返した細川さんの気持ちは、「春が来たからうれしい」-それと同じくらい自然なことなのかもしれない。
文:藤井優子 写真:戸倉江里
全文は本誌(vol.23 2017年6月号)に掲載
FOOD INNOVATION
「食」で日本を変えるイノベーション15選
いま、日本の「食」のシーンを変えるプロジェクトや商品が次々に生まれています。なかでも、思わず「会いたい!欲しい!知りたい!」と、とくに気になる、全国のヒト・モノ・コトをご紹介します。
【おやさいクレヨン】
廃棄されるはずの野菜を「おやさいクレヨン」に生まれ変わらせたのは、muzuiro株式会社代表で青森県出身の木村尚子さん。ほぼ青森県産の野菜を粉末加工し、米油を配合した安心安全なクレヨンは、子どもへのギフトに最適だ。台湾、韓国など海外との取引もある。「ねぎ色」「ながいも色」「とうもろこし色」など野菜に見立てたやさしい色彩、素材感、香りなど、五感で楽しめる。
「同じ色を再現しずらいという弱みを、逆に強みに変えているんです」と木村さん。自然素材によるクレヨンづくりには、熟練の職人技と独特の勘がかかせない。その日の温度や湿度、野菜の部位によって微妙な調整が必要だ。「今後は子ども向けに野菜入りお菓子をシリーズ化したい。もちろん青森産の野菜で!」と、木村さんはあくまでも青森にこだわる。
【warmerwarmer】
「先人から受け継がれている野菜の種を未来につなげる八百屋です」と話してくれたのは、「warmerwarmer」の代表・高橋一也さん。在来野菜の保存、普及、販売に奔走する。在来野菜とは、先祖代々の種を継ぎながら集落内でひっそりとつくられてきた多種多様な野菜のこと。地域の伝統行事や食文化とともに育まれてきた。「自分たちの代で絶やすわけにはいかない」と在来野菜の流通をめざして奮戦している。
すべては前職でのバイヤー時代に魅せられたひとつの野菜から始まった。そこに東日本大震災での経験があと押し。地方に支えられている東京の現実や、種や畑を失った福島の農家の痛みを思い知った。「いつか先祖になる僕らが次にできることは何か考え、在来野菜を未来へつなぐため、種の大切さを伝えています」。その取り組みが実を結び、いまや伊勢丹新宿本店に並ぶまでになった。
「形がバラバラで個性豊かな在来野菜たちは、見ているだけで美しい。とにかく知ってもらいたいんです」と、わが子のように話す高橋さん。在来野菜たちは、えぐみや苦味があり味も濃い。そんな味覚の多様さも子どもたちに知ってほしいと話す。「地域に埋もれた宝物を発掘できるのは移住をした方々だと思います。地元の人はなかなか価値に気付けないんです。何かおもしろい野菜があったら教えてください」と移住者の役割に期待する。
全文は本誌(vol.23 2017年6月号)に掲載
移住のイロハ教えます
マルシェに出店してみよう!
生産者が集まって出店し、手渡しで商品を販売する※「マルシェ」。生産者の声から、出店のヒントをつかもう!
※「市」「マーケット」と呼ばれることもあるが、ここではフランス語で「市場」を意味する「マルシェ」で統一した。
いまや毎週末、全国各地で開催されている「マルシェ」。会場では、生産者自らが店頭に立ち、お客さんとの会話を楽しみながら自慢の商品を販売する。
食文化の継承、地域の魅力発信など、マルシェには社会的意義がある。しかし、一番の魅力は、人と人とのつながりだ。だから、多くのマルシェが出店者とお客さんとの交流を全面に打ち出す。もはや、買い物だけの場ではないのだ。マルシェにハマった人なら、一度は出店にあこがれるもの。では、実践者たちはどのように出店に至ったのか。利点、苦労、気になる売り上げまで、現場ではなかなか聞けないノウハウをご紹介しています。
文:編集部 写真:EAT LOCAL KOBE
全文は本誌(vol.23 2017年6月号)に掲載
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